第六話 お祭り騒ぎ
〜前回のあらすじ〜
魔王軍幹部、ミカエルを撃退しました。
◀ ◇ ▶
冒険者ギルドの酒場にて。
見事にミカエル戦を勝利した俺たち冒険者は、酒を呑んで、浮かれて騒いでいた。
ミカエル戦の報酬については、後々支払われるそうだ。
「あれ、ソラ君はお酒飲まないの?」
俺が酒場の端っこで料理を食べながら連中のどんちゃん騒ぎを眺めていると、俺を見つけて近づいてきたリュナがそう聞いてきた。
いくら年齢制限が無いとはいえ、酒を十四歳で飲むのは気が引ける。
俺は料理だけで十分。
目の前には、冒険者リーダーの奢りで注文したリザードのサーロインステーキがある。
結構なボリュームだが、命懸けの戦いの後なので余裕で食べられそうだ。
俺がナイフとフォークを握ったその時、ギルドの扉が大きな音を立てて開いた。
そこには冒険者らしき一人の男が、息を切らして立っていた。
「皆!今回の戦いで活躍した者は領主様のお屋敷に招待だってよ!」
―――何だって!?
どこまでが活躍の範囲なのかわからないが、今回の戦いで目立っていたものはそれ程多くは無いだろう。
……もしかしたら、俺も入ってるんじゃないか?
皆酒そっちのけでその男の話に釘付けになっている。
「今回招待させてもらえる人のリストを貰ってきたから読み上げるぞ。」
そう言って男は、名前を読み上げていく。
「――――、イノウエ・ソラ、リュナ・イヴ。
以上十八名だ。」
最後の二人に、なんと俺とリュナの名前があった。
俺はともかく、リュナは何をしたのだろう。
「ソラ君、私が何かやってたかと聞きたそうだね。
最初に言っていたはずだけど、私は治癒師も兼ねてるの。重症を負った人達のところを周って、治療してあげてたんだよ。」
どうやって俺の心の声を感じ取ったか不思議だが、それは素晴らしい裏方作業じゃないか。
『おいソラ、今回彼奴の魔法を無効化出来たのは我のお陰でもあるのだ。
ちゃんと感謝しろよ。』
と、セトが話しかけてくる。
ちょっと大袈裟な気もするが、一理あることではある。
セトの良いところはここであれこれ要求してこない事だよな。
「ん?誰かと話してるの?」
何でリュナは気づくんだ?
念話で話しているんだからわからないはずなのに。
なんでも心の声を読んできそうなリュナに受け流しは通用しなさそうなので、どう誤魔化そうか俺が考えていると、空気を読まずにセトが姿を現した。
「フハハハハ!我は闇の精霊神、セトである。貴様が――――」
セトが止まった。
その眼球の姿のセトを見て、リュナも止まった。
「「……ええ!?」」
セトとリュナがきれいにハモった。
「久しぶり!ヤミちゃん!まさかこんなところで出会うなんて!」
「久しぶりだな!リュナよ!もう目覚めているとは驚いた!」
………ん?待って待ってどういうこと?
セトは少なくとも二百年前には封印されているはずなのに、十六歳のリュナとこんなに親しいのはなんで?
そんなふうに俺が戸惑っている理由を理解したのか、セトが切り出してくれた。
「おっと、ソラには説明が必要か。
我とリュナは昔からの親友なのだ。それこそこの世界が創られたときからな。」
「私とヤミちゃんは【創世の七師】の仲間なの。
順番的にはヤミちゃんのほうが先なんだけど、天界にいたときから仲が良かったんだよ。
幼馴染みたいなものだね。」
………つまり?色々とややこしいから整理すると、リュナは神で、セトと友達ということになる。
……創世の七師って何?
「ああ、【創世の七師】って言うのは、この世界を創った神々の事。
まあ、色々複雑な事があるんだけど、それはまた今度説明するね。」
はい。今のでリュナは神だと断定されました。
そんな俺の驚きを差し置いて、二人(二柱?)は昔話に花を咲かせているようだ。
「ヤミちゃんはいつ頃目覚めたの?」
「三百年前くらいだな。
ちょっと色々やってしまい、二百年封印されていて、
そこをソラが助けてくれたという訳だ。
暇で暇で仕方がなかったぞ。」
「それは大変そうだったね。
私は十六年ぐらい前に目覚めたんだけど、
大陸のあまりの変わりようにびっくりしちゃって、慣れるのが大変だったよー。」
「十二万年もあったのだから、社会も変化するだろう。」
「まあ、そうだね〜。他の皆、元気してるかなぁ?」
頼むから俺をおいていかないでほしい。
会話から拾えたのは、この世界は十二万年前に創られ、創世の七師は眠りについたことぐらいだろうか。
先ほどリュナが「複雑な事」と言っていたが、詳しい話を聞きたい。
「ねぇセト、創世の七師の説明してよ。
全くわからないからついていけないんだけど。」
「おお、すまないすまない。ついつい盛り上がり過ぎた。
創世の七師というのはな、さっきリュナが言った通り、この世界を創造した神々の事だ。」
そこから、セトの説明が始まった。
◀ ◇ ▶
昔々、この世界は元は何も無い空間だった。
そこに我らが降り立ち、世界を作ったのだ。
ソラは、『世界樹』は知っているか?
この世界は世界樹の一端で、ソラがいた世界も世界樹の一端。
一番上を天界、根のところを冥界とする。そこから枝分かれして出来たのが世界だ。
その中でまだ完成していない世界があって、天界はそこに目をつけた。
イメージとしては、リンゴの木に実がなると考えてもらって大丈夫。
まず我が送り込まれ、我は空間、次元を創った。これが、世界のもととなるものだな。
その後リュナがやってきて、四季と時間の流れ、自然現象、世界の基盤となる地を創った。
こうして他の神が存在できるようになり、世界の創造が始まった。
龍が大陸と地形を創り、鮫が海と海底を創った。
その後、天使が生命を生み出し、悪魔がスキル、魔法、技術を創った。
人間が生まれた頃、天人が文明を創り、我と対をなす光の精霊神が知識を全ての生物に授けた。
そこからおよそ三百年が経過し、力を使い果たした我を含む神々は眠りについた。
その間、世界の調停者となるべく『魔王』という座についた龍が、この世界の安定を保っている。
やがて我々は眠りから覚め始め、今こうしてここにいるという訳だ。
◀ ◇ ▶
ふ~ん。結構スケールがデカい話なんだな。
ワンチャン旧約聖書の創世記より凄いと思う。
ん?待てよ、
闇の精霊神、女神、龍、鮫、天使、悪魔、天人、光の精霊神。
いちに、さんし、ご、ろく……八柱?
七師なのに?
「話の中に八柱神が出てきてるぞ。」
「ああ、それには色々理由があってだな……
実は、光の精霊神は創世の七師に数えられていないんだ。
それは我らにもどういう事かわからない。」
なるほど。最後の光の精霊神が数えられてないんだから、七師になったんだな。
「で、何の話だったかな。」
「今回の戦いの話。私とソラ君が功績を認められて、領主様のお屋敷に行くことになったんだ!」
「いいなー。我も行きたかった。」
子供か。
それに、一応は俺と一緒にいるわけだし、仲間か契約精霊って立場でセトもついていけるんだが。
「ヤミちゃんもついていけるんじゃない?
流石にその姿はどうにかしないといけないけど。」
「さっきから言おうと思っていたが、我はソラから“セト”という素晴らしい名前をもらったんだぞ。」
「セトか。いい名前だね。」
「それより、やっぱり二人から言われたとおり、この姿をどうにかするしかないか。」
そうして暫く悩んだような仕草を見せ、何か納得したのかセトの姿は紫煙に包まれた。
数十秒後、紫煙が晴れると、そこにはびっくりするほど美形のイケメン青年がいた。
宝石のような紫色の瞳に、薄灰色の長めの髪、スラッとした体型。その身に着用しているのは、薄灰色のフォーマルスーツ。
リュナは「スゴーイ!」と言っている。
「こんな感じでいいか?」
と、その人物が聞く。
やはりこの人物はセトで間違いないようだ。
「「滅茶苦茶良いよ!」」
思わず俺とリュナがハモってしまう。
一方、突然イケメンが現れた酒場は大混乱に陥っていた。
女性はキャーキャー言いながら騒ぎ、男性はポカンと口を開けてフリーズしていた。
するとリュナがゴホンと咳払いをし、口を開いた。
「こちらは私達のパーティメンバー、セトくんでーす!」
そのせいだろうか、ますます酒場は騒ぎ始めてしまった。
「あのイケメンがメンバー?」
「何かの間違いでは?」
「本人も戸惑っているし――」
などというヒソヒソ話も聞こえてくる。
俺たちのパーティ、結成早々散々だな。
リュナは薄い胸を張って自慢げだし、二百年ぶりに注目を浴びたセトは若干ビビってるし、これではお屋敷招待どころでは無い。
ひとまずこの騒ぎを鎮めないと。
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