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第五話 初めてのクエスト

〜前回のあらすじ〜


冒険者リュナとパーティを組んだら魔王軍が来ました。


◀ ◇ ▶


 『緊急!緊急!魔王軍がこの街に接近中!今すぐCランク以上の冒険者は東門に集まってください!

繰り返します!緊急!緊急!魔王軍が―――』


 突然、辺りの騒がしい空気をけたたましいほどのサイレンと緊迫した放送が包みこんだ。

 魔王軍。異世界だからそういうものもあるのかなと思っていたけど、どうやら意外にもこんなに早いお出ましとなるようだ。


「どうやらお呼び出しのようだね。」


 緊張感溢れる緊急放送とは裏腹に、相変わらずリュナは呑気だ。


 緊急放送に呼び出され、冒険者である俺とリュナは急いで東門に来た。

 そこにはまさに戦が始まる前の光景が広がっていた。

 敵の総大将は真っ黒な翼を背中から生やしている、堕天使っぽい姿のやつ。形容しづらい表情を模した仮面をかぶっている。

軍勢は小鬼(ゴブリン)大鬼(オーガ)といった亜人モンスターで構成されていた。

 一方冒険者は様々な職業が集まっていたが、相手の軍勢に怯えている様子。それでも立ち向かおうという姿勢は、この街を守りたいという一心だろうか、それとも手柄を挙げたいという魂胆だろうか。

どちらにしても、たくさんの数の冒険者が集まっている。

 俺たちが来てから(しばら)くして、冒険者達の隊形が整うと、敵の総大将らしき堕天使が前に出て言った。


「はじめましてですかね、冒険者の皆さん。

我は煩悩の仮面、ミカエル。東の魔王軍幹部の一人。

我はこの街を襲撃し、魔王軍の手中に収めるためにここに来た!

降伏すれば良し、抵抗しようものなら皆殺しだ!」


 …………え?

なんだコイツ。勝手にここに来て植民地宣言するとか、一体何がしたいんだ?

ただの無礼者なのか?馬鹿なのか?

 俺は思わずそう思ってしまったけれど、そんなことを思っているのは他の冒険者も同じようで、ミカエルの言葉を聞いてほとんどが苛立ちの表情を浮かべていた。

 するとミカエルに対抗するように冒険者のリーダー格らしき人物が前に出て、


「お前はなんのためにこの街を手に入れたいんだ!

大義名分もなく一方的な要求しかしてこないならば、

冒険者ギルドは断固、徹底抗戦の意を示す。

俺たちとて街を奪われたくはないのでな。

皆、戦の始まりだぁーーー!」


 それに呼応するように、冒険者側からは「うぉーー!」という雄叫びが一斉にあがった。

 だが、冒険者たちを焚き付けたリーダーの言葉を一蹴して、ミカエルは優越感に浸ったような態度で語り始めたのだ。


「フッ。愚かな。勿論、大義名分ならありますよ。

我らが魔王城は不毛の土地に囲まれている。

なので、領土拡大のためにこの街を攻めさせてもらいます。

ですので、あなたたちが抵抗するのであれば、こちらも戦闘態勢に入らせてもらいますよ。」


 ミカエルがそう言うと、亜人の軍勢は両翼に展開。

 対して冒険者側は左右と中央に別れ、防衛の体制に入っていた。

俺は左側にいる。

 体制が整うや否や、いきなり敵の右翼軍が突っ込んできた。

ミカエルが何もいっていないことを見ると、命令なしに突っ込んできたようだ。

こんな杜撰な指揮系統から、せいぜい寄せ集めの軍勢だと言うことが見て取れる。

 一方冒険者は連携が取れており、前衛と後衛に別れて戦っていた。

前衛が前線の武装部隊を抑え、その隙に後衛が魔法や弓矢などの飛び道具を撃ち込む。

 中でも特に目立っているのは、どういう原理か次々に武器を変えながら敵のど真ん中に切り込んでいく、青髪の人物。

武器を変えながらというのは、ただ単に説明を端折っているわけではない。剣を持って戦っていたかと思いきやいきなり斧になるし、投擲用のナイフや薙刀にも変化する。

一体なんなのだろう。

 そしてその人物の後方では、仲間と思わしきメイドの服装の女性二人が、弓と魔法で戦っていた。

茶髪の、子供っぽいメイドが弓。長身の緑色の髪の毛のメイドが、氷の魔法を使って応戦している。

 この世界でもメイドは戦闘職なんだな。

 際立って活躍していたこの三人におされたのか、勢いに乗っていた右翼軍は撤退していく。

 突撃前と比べ、目に見えて数が減っていた。


 「おい!命令なしに突撃するな!

チッ、いた仕方ない、右軍、突撃せよ!」


 その命令に応じ、今度はこちらの左翼軍が突撃してきた。

 左右違うのは見る向きが違うからだろう。

いいや、そんなのは今はどうでもいい。

 こちらはある程度作戦を立てているようで、

鋼鉄鎧(アイアンメイル)で完全武装している大鬼(オーガ)が前線部隊を担っている。

 そんなゴツい部隊が来たが、冒険者からは剣を構えたおっさんが出てきた。

 ヒョロヒョロで、正直相手にならないだろうと思っていたが、次の一瞬の光景を目の当たりにしてそれは完全なる見当違いだとわかった。

 おっさんが剣を三回振ったかと思ったら、敵の前線部隊は一瞬で肉片と化したのだ。

 そこにタイミングバッチリで突撃したのはおっさんの仲間と思わしき若者二人。

 前線が崩壊し、混乱している中での攻撃は効果バツグンだった。

 左翼はほぼ壊滅。右翼も殆ど戦えないようなもの。


「くっ、こうなれば、両軍固まって突撃せよ!」


 だが、この混乱の中でそんな事を言っても、軍には届かなかった。

 命令を聞かず両翼が最後の足掻きで突っ込んできたが、完全に波に乗った冒険者に通用するはずもなく、次々に倒されていく。

 数での優位性はとっくの前に崩壊し、もうすでに軍というものは成り立っていなかった。


「ええい、何をやっているのだ!

我の命令を聞かずに戦いおって!

仕方がない。こうなれば、冒険者(お前ら)だけでも道連れにしてやる!

くらえ!【爆炎熱球(フレイムノヴァ)】!」


 ミカエルはそう言って、巨大な火球を作り始めた。

マグマを固めてボールにした感じで、表面でも溶岩が燃えたぎっている。

 見るからにヤバそうな攻撃だ。


 『あれは爆撃魔法だな。我がかつて国の破壊に使った魔法の下位互換だ。

あの大きさだとかなりの威力だな。衝撃波も含めたら、優にこの街の四分の三は破壊出来るだろう。』


 解説ありがとう。

 ていうか、セト今までどこにいたんだよ。


 『それについてはあとだ。

貴様のユニークスキルを使え。』


 どうやら思ったことで会話出来るようだ。洞窟で使っていた念話だろうか。

 まあそんなことは置いといて、セトの発した言葉の意味を、俺は瞬時に瞬時に理解できた。


「ユニークスキル、【諸行無常】!」


 ミカエルが火球を完成させる直前、俺はスキルを使った。

 すると、火球はどんどん縮んでいき、ジュッと煙を立てて無くなった。


 「おいお前!ガキの分際で何をしたのだ!

攻撃を途中で無効化するなんて非道極まりないだろう!

普通皆で街の立て直しをするとか、街と運命を共にするとか、色々あるだろうが!

なんで人の見せ場無くすんだよ!

おい!聞いてるのか!」


 ……何か言っているようだが、聞こえない聞こえない。


 「クソが!我の莫大な魔力を費やして作ったと言うのに!

仕方ない。ここは撤退しよう。

者共、撤退の準備だ!」


そう言って、生き残っている者たちに撤退を命令した。

 これにて一見落着。


「おいお前!そうだそこの白髪のガキだ!

次こそは勝ってやるからな!覚えてろよ!」


 覚えてろよとか、どんな三流悪役の台詞だよ。

 ミカエルはそんな薄っぺらい捨て台詞を吐きながら撤退していき、なんやかんやで襲撃は終結した。

 初めての緊急クエストで、正直勝手がわからなかったけど、なんとか勝ったな。

良かった良かった。


 「おい、そこの君、今のはなんだ、すごいカッコ良かったぞ!」

「まさか爆撃魔法を消しちゃうなんて!」

「良かったら君、うちのパーティに入らないか?」

「いやいや、是非ともうちのパーティへ!」

「新顔なのに凄いな!」

「今何やったの?滅茶苦茶かっこよかった!」


そう言って冒険者たちが駆け寄ってくる。

 そこまで褒められると嬉しいなぁ。


 「ちょっと!この子は私のパーティメンバー!

勝手に勧誘しないで!」


パーティへの勧誘が気に入らなかったのか、リュナが声を荒げる。

 すると一瞬あたりが静まり返り、小声の話し合いが聞こえてきた。


「嘘だろ?あのリュナが?」

「最弱で有名の?」

「こんな強い子がパーティメンバー?」

「なんかの冗談だろ。」

「そうだな。」


どんだけ信用無いんだよ。

 リュナが可愛そうだからちょっとだけフォローしてあげよう。


「リュナとは本当にパーティを組んでるんですよ。」


「「「…………」」」

「「「!?!?」」」

 殆どの冒険者がマジかという顔で固まっている。

本当にリュナはどんだけ信用ないんだよ。


 「まあまあ、リュナがパーティメンバーを見つけたからってそんなに驚くことでもないだろう。

それよりも、幹部を撃退したんだ、皆で冒険者ギルドに行って、戦勝祝いに飲もう!

もちろん、今日は俺の奢りだ!」


 そう言って気まずい空気を切り裂いたのは、先程のリーダー格の冒険者だ。

 一斉に歓声をあげる冒険者たち。

俺もとりあえずノリで喜んでおく。

そう言っても勝ったことだし、皆と宴を楽しむことにしよう。 

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