第三話 外の世界
〜前回のあらすじ〜
スキルがほぼほぼチート級(戦闘手段なし)だと判明しました。
◀ ◇ ▶
スキルを無効化できるスキルか……
洞窟を出るのに使えるのか?
「なあ精霊、そもそもこの洞窟とかお前の封印ってどうなってんの?」
「この洞窟は我の封印とはまた別の結界が張られている。
我が本気を出せばなんとか破壊できるのだが、我の力は封印されているから思うように動けんのだ。
どうにかして封印が解ければ」
結界と封印は別なのか。
―――俺のスキルは結界に使えたりするのかな。
スキルも無効化できるんだし。
そんな仮説が浮かんだので、とりあえずやることもない今は実行に移すしかないだろう。
「その封印の場所に連れてってもらえる?」
◀ ◇ ▶
洞窟の奥深く。
ドーム状にできたその空間に、一つの石が置いてあった。
「あれが我を封印している、“要石”だ。」
いかにもな雰囲気を醸し出しているその石は、強力なオーラを放っていた。
感覚ではない。可視化されているのだ。
「じゃあスキル使ってみるよ。」
「貴様のスキルで結界まで無効化できるのか?」
それは実際やってみないとわからない。
俺は感覚を研ぎ澄ませ、結界を消すイメージを構築した。
同時に視界が暗くなる。
スキルを上手く扱えているというわけではないので、それはまたご愛嬌。
しばらく力を込めていると、俺の仮説は証明された。
「ピシピシッ、ゴトン」という音がした後、暗闇でもオーラが放出されるのを感じ取れた。
そのオーラは俺の左後ろにいる精霊に向かっていき、吸い込まれて精霊のオーラと一体化した。
本来の力が戻ったのだろう。
「おお、力が漲ってくる!」
精霊が喜々とした声でそう言った。
精霊の力が戻ったようなので、これで洞窟の結界が壊せる。
「良かったな精霊!あとは洞窟の結界よろしく。」
「何言ってるんだ貴様。
我は力が戻ったばかりなんだから貴様がスキルで破ればよかろう。」
さっきので味を締めたのか、俺に頼り始めた。
この精霊はどこまで人にやらせる気なんだろう。
多少の不満はあるが、まあこれも脱出するためだ。
そう自分に言い聞かせて強引に納得させ、洞窟の入り口に向かう。
洞窟の奥から戻る途中、水たまりがあったので一応自分の姿を確認した。
なぜかというと、この体は他人に造られたもののようだし、妙に視線が低い気がする。
水たまりを覗いてみると、そこには銀髪(白髪?)の紅い瞳の人物が映っていた。
顔つきは幼い感じになっている。
最初は正直『誰!?』って思ったが、これが俺の姿なのだろう。
大分、というか原型がなくなるほど前世よりデフォルメされているが、これはこれで異世界って感じがしてかっこいい。だからOK。
今更嫌だって言っても変えられないしな。
◀ ◇ ▶
洞窟の入り口には大きな扉があった。
その扉はシャボン玉の表面のような光で輝いていた。
俺はそこに向かってスキルを使う。
結界を破壊するイメージを構築し――――たところで思い留まった。
イメージした状態でスキルの名前を口に出したらどうなるのだろう。
「ユニークスキル【諸行無常】!」
するとなんと、前のように力を込めずに結界がガラスのように砕け散った。
今までの頑張りは何だったんだよ。
「これでやっと外に出られるぞ!」
精霊一人だけがはしゃいでいた。
後ろを振り向いて見ると、紫色の雲の姿はどこにもなかった。
あったのは、眼球。
ちょっとグロめの、紫の煙を纏った眼球が宙に浮いている。
「お前……その姿どうしたんだ!?」
「どうしたって、これが我の本来の姿だが?」
それが本来かよ。
若干かっこよくはあるが、グロさが勝ってしまう。
「ちょっとグロいからなんとかできない?」
「ある程度力が馴染んできたら姿とかはなんとかなるのだが、今の時点ではこれで我慢してくれ。」
変えられないのか……まあ、少しの辛抱だ。
それより、外の世界を楽しもうじゃないか。
◀ ◇ ▶
洞窟の外に出たは良いものの、外の世界は洞窟内より危険だ。
今のところは街に行くことを目標にしているが、そこまでの道のりは厳しいだろう。
魔物とか盗賊とか、害となる存在はウジャウジャいる。
だが、そんな悩みは一瞬にして打ち払われた。
「我が守ってやろうか?」
戦闘手段も戦闘経験も度胸もない俺には思ってもない救いの手が差し伸べられたのだ。
ああ、神様……
そうだこの精霊、神様だった。
この救いの手、勿論答えはYESだ。
「ああ、ありがとう。是非ともお願いするよ。
ところで、お前名前はないのか?
いつまでも精霊精霊って呼んでる訳もいかないし、
名前考えてやろうか?」
「ほう、面白い。
せいぜい我に合ういい名前を考えろよ?」
俺が思いつきでそんな提案をしてみたのだが、どうやら精霊も乗り気のようだ。
名前……
そうだ。いい名前を思いついたぞ。
「お前の名前、『セト』って言うのはどうだ?」
「セトか……
素晴らしい!今日から我は闇の精霊神、セト様だ!」
気に入ってくれて何よりだ。
名前の由来は、旧約聖書の天地創造の章に出てくる、アダムとイヴの子だ。
皆さんご存知アベルとカインの弟でもある。
我ながらいい名前を思いついたものだ。
「それじゃあよろしくな、セト。」
「ああ、こちらこそ。ソラ。」
セトが煙を変形させ、腕の形にしてこちらに伸ばしてきた。
俺も手を出し、握手をする。
この瞬間、セトと俺が繋がった様な感覚を感じた。
俺は、ここから新たなる物語が始まってゆくことになるんだと、改めて実感したのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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