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第二十六話 一網打尽

 王都に攻め込み、それぞれの部隊で目的の人物を潰すために大軍で押し寄せた兵士たちは、彼らを甘く見ていた。

 所詮子供。成人もしていないような奴、百三十万もの軍勢を使う必要なんてない。参加している兵士たち、そして国の上層部も、何処かから湧いて出た自国への自信により、高慢にもそう高を括っていた。

 だが、王都に閉じ込め多数の兵を用いて潰すという判断は正しかった。むしろ、それだけでは足りなかったほどに。

 王国の最新兵器を持ってしても、彼らを殺す事は出来なかった。更に捕らえることはおろか、動きを鈍らせること、一瞬引き留めることも不可能だったのだ。

 化け物。そう、まさに化け物なのだ。二つの恐怖に駆られながら、彼の視界に入ってしまった兵士は絶望する。

 ―――ああ、きっとこれが神なのだろう、と。

 自分たちではどうにもできない、圧倒的な力を持った存在。成すすべも無しに蹂躙され、無様に命を散らしていったのだった。


◀ ◇ ▶


 「―――ふぅ」

「やっと、全員倒し切りましたかね……」


 シエラとソラは、背中を合わせて地面にへたり込んでいた。

 額には汗が浮かび、手にはそれぞれの武器が握られているものの、激しい戦いの末なので地面に置いていた。

 横には、無傷のシノブたち。そして周りには、血の海。

 身体の何処かを斬り裂かれ、痛みに悶えながら死んでいった兵士たち。

 四肢を切り落とされ失血死した者もいれば、胴体を貫かれたり首をはねられたり、脇腹を斬り裂かれ内臓が零れ出ている死体もあった。

 ソラとシエラの手元にある剣には、べっとりと血と皮脂が付着し、いくら業物だとは言え連続では斬れそうにない。

 ソラたちを包囲していた、総勢二万の大軍。全体で見れば小隊のようなものだとは言え、たった二人で二万の軍を壊滅させてのけたのだ。


「ちょっとちょっと、君たち二人でこんなに暴れちゃって、体力とか大丈夫なの?」

「まあ、もう慣れっこだから。」

「そうですね……」

「普通慣れていいもんじゃないけど……お陰様で、あたしたちは無事だよ。ありがとう。」


 かくして、残り総数百二十八万―――というわけでもなかった。

 実は、別の場所でシエラと離れ離れになり行動していたノアとリュナが大奮闘。

 ノアにより空間ごと消去された将兵たちは、およそ六万に上る。リュナも戦地の真っ只中で新たに獲得した戦闘用スキル【範囲消去(デリート)】により二万の兵の生命を刈り取っていた。

 つまり、この一時間足らずで命を落とした兵の数は十万となり、残りは百二十万なのだった。


 「これからどうするかだけど……多分この街敵兵だらけだよなぁ……」

「そもそも、こんな状況で王城に攻め込んでも意味のないような気もしますが……」

「なんで?」

「だって、私たちを潰すなら攻撃範囲内にある王城はもうもぬけの殻でしょう。巻き込まれないように、転移魔法か何かで何処かに避難してるんじゃないですかね。」

「じゃあ今やるべきは……」

「とりあえず、ノアちゃんとリュナちゃんとの合流、それとリース様との合流ですかね。」


 そう話し合い、これから何処に向かうべきか、どうするべきかを決めていく二人。何とも頼もしき二人の作戦に横から口を出せるはずもなく、シノブたちは黙って周囲を引き続き警戒していた。

 だが―――


《ごしゅじん!東の上空!》


 ソラの頭の中にタルタロスの警告が響き渡る。それと同時に東の空にただならぬエネルギーを感じ取ったソラは、首をぶんと回してそちらの方を見た。


「―――ミサ、イル……?」


 飛来してくる灰色の物体は、ソラの言う通りミサイルだった。

 先端がすぼんだ円柱状で、内部に鍵式の爆発魔法が組み込まれている兵器。

 ソラはそれが飛来してくるのを見て、直感的に一瞬で危険だと判断した。

 それもそのはず、ソラの知る限りミサイルという代物は前世でもかなり危うい兵器なのだ。それが魔法などで強化されている可能性もあるので、もし着弾したら及ぶ被害は尋常ではないだろう。

 反射的に、ソラは声を出していた。


「みんな逃げろ!あれがここに落ちてくる!全力で走って、できるだけ遠くに逃げるんだ!」


 ありったけの声量でそう叫び、ソラが伝えたかった緊迫感が無事に伝わったのか全員緊張した面持ちに変わり、すぐに走って逃げ出した。


「ソラさん―――」

「シエラも逃げて!俺も逃げるから!」


 ソラは無理矢理シエラの背中を押し、自分たちも巻き込まれないようにその場から逃げ出しそうとした。

 だがソラの目に映ったのは―――たたずんでミサイルを見つめる、ヒナタの姿だった。

 もうミサイルは目前にまで迫り、ヒナタを助けに行ったら自分も爆発に巻き込まれてしまう。


「ヒナ―――」


 そう叫ぼうとしたその時。

 彼方の青空から、一筋の光がほとばしる。それはミサイルの中心を正確に射抜き、ヒナタの頭上を越えて地面に着弾。ミサイルはたちまち空中で爆発四散し、ヒナタは真正面から強風を浴びたが微動だにしなかった。


「…………」


 声も出せないソラ。先ほどからヒナタがあり得ないほどの強さを誇っていて、ドン引きしていた。


(ヒナタってあんなに強いの……?)

《ごしゅじん、一応教えとくけど、今のごしゅじんの契約精霊ってあの子だよ。》

(え?そうなの?)

《うん。南の魔王城でごしゅじんの杖にあの子が宿った時点で契約が成立しててね。

あの子の心、今まで欠けてたんだけどね、それが今は埋められてる。》

(じゃあ、ヒナタは俺に従ってるってこと?)

《比較的自由な子みたいだから、自主的にごしゅじんを護ろうとしてるんだと思う。まあでも、私には敵わないけどね!》

(そこで張り合おうとするなよ……)


 新事実が発覚したところで、ソラはヒナタに駆け寄った。

 そして労いの意を込め、自らの右手をヒナタの頭の上に置いた。


「ありがとな、ヒナタ!」


 頭を撫でてやるとヒナタはたちまち嬉しそうな顔になり、虹色に輝く瞳の奥はまた別の光できらきらと光っていた。

 可愛いなぁとソラはヒナタの笑顔を十分に堪能したところで、気を取り直し辺りを見渡す。

 先ほどの爆発で、兵士たちが再びやってきたようだった。

 血で紅く染まった石畳、そこら中に転がり積み重なる無数の仲間たちの遺骸、そしてこちらを底のない目で見つめる返り血まみれの子供。

 駆けつけた兵士たちは、全てを理解した。

 恐怖で戦慄し、後退った。中にはこっそりと逃げ出すものもいたが、その者が結局生き残れたのかは定かではない。


 一分後、本気になったソラの攻撃により総勢一万の兵力を持つ小隊は全滅。あっけない最期だった。

 魔力感知でリュナとノアの反応がないことを確認し、街なかで小規模の【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】を放ったのだ。

 効果範囲内にあった建物は木っ端微塵に、塵すら残さず消し飛ばされ、兵士たちも衝撃により全員死に絶えた。

 ソラをその矛先に捉えた一万の小隊、そして近くにいた合計五万人の兵士たちも全員が理不尽に生命を刈り取られ、死体は焼き尽くされ炭となった。

 そして、そこからは飛んで火に入る夏の虫。爆発音を聞いたか直接目で捉えたかのどちらかで駆けつけてきた、数々の小隊。

 中には小銃やライフルを所持している兵もおり、当然その武器の存在はソラも確認したが、遠距離武器でいくら殺傷能力が高くても、圧倒的な神の力の前にはただの鉄くずに等しいのだ。

 駆けつけた三万の軍がたちまち葬られた。あっけなく、【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】でその身ごと焼かれ死んでいった。


《ごしゅじん、やり過ぎ。いくらなんでも十万は人の心ないよ。》


 力の根源ともいえるようなタルタロスからの至極当然な指摘に、ソラは頭の中で悩む。


(何でだろう、最近人の命がどうにも軽く思えて仕方ないんだよなぁ。)


 その感覚は、最近ソラの頭を悩ませている事柄の一つだった。

 ソラ自身、この世界に来てから多数の人間の死に関わってきている。ただ心というものは、そう簡単に人の死に慣れるものではないのだ。ソラも大切な人の命は大事に思っている。

 が、今のソラにとって目の前の兵士たちはただの虫にしか過ぎない。解釈としては、人間が殺しても罪悪感を得ないハエたちと同義である。

 原因は不明ではあるが、そんな意図しない危険な感覚がソラを凶行に走らせていた。


《無慈悲……》

(慈悲なんてかける必要ないよ、だって全員俺たちの事狙ってるんだろ?)

《……分かった。私はごしゅじんのスキルに過ぎないから、ごしゅじんの考え方に付き添うよ!》

(なんか強引に納得させたみたいな感じに……)

《そんなことないよ、私はごしゅじんの行動をとやかく言う権利ないから。それに、私はずっと、ごしゅじんの味方だからね!》


 タルタロスのことが頼もしいと思いつつ、ソラは辺りを見渡した。

 遠くから鎧の当たるガチャガチャとした音、無数の足音が聞こえてくる。

 今も合流出来ていないノアとリュナ、そしてリースのことが心配だったのだ。

 だが、ソラのそんな心配は杞憂に終わる。

 遠くで、淡い水色の光の柱が発生。タルタロスには、その攻撃で何千の将兵の命が散ったか視えていた。


《ごしゅじんが十万、女たち合計で十六万、それにあの王女と剣の人で三万ってとこかな……》

(合計およそ三十万か?この街に入った兵たちの総数ってどれくらいか分かったりする?)

《えとね、街の周りを十万が取り囲んでて、中に入ってるのは百十万ってとこかな。》

(残り八十万か……)


 せめて合流さえ果たせれば―――と思っていたその時、光の柱が聖なる輝きを放った方向と反対の街の一角で、多大な衝撃波が発せられたのを視認。

 空中に巻き上げられる砂ぼこり―――否、建物や舗装された道路の瓦礫や破片が粉々になって舞い上げられているのだった。

 見るからに、剣もしくは斧での斬撃だった。ソラが現段階で得ている情報の中で、この街にいると予想される人物で剣使いなんて、シエラとソラ、そしてリースぐらいしかいない。

 だがタルタロスは、別の気配を感じ取っていた。


《―――あれは……【剣聖の覇気】……?》



第七章もクライマックス。

なので、全章恒例の連続投稿開始です!


次回第二十七話は十一時から!お楽しみに!

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