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第二十一話 お尋ね者

 俺たちは、長きサバイバルの末にやっとの思いで王都に到着した。

 俺が拉致監禁されてから、十四日目の出来事。あの駐屯地が【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】によって滅んでから、五日後の事だった。

 五日かけて、脱出した俺たちは街や村を渡りながら王都に辿り着いた。


「長かった……」

「こっちのほうがキツイかも……」

「うぅ……」

「ほら、みんな頑張って、後ちょっとだから。」


 俺、ケント、ヨツキの三人は五日間の苦行に疲れ果てていた。

 何故かドミトリーは元気で、保護者的な存在のシノブの補佐をしている。


 五日に及ぶサバイバルは、本当に過酷だった。まず駐屯地の近くにあった街に、シノブの身分証で全員入り、これまたシノブの金で替えの服や数日持つ食糧などを買い込んだ。

 全員拉致されてきた身で、金など持っていないからだ。

 特に俺は要注意人物の可能性もあるため、服装をガラッと変えて眼鏡と帽子で変装した。

 服の値段や買った物資の値段を見て、シノブは微妙な顔をしながら財布を取り出していた。帰ったら、ちゃんとその分の代金は払おう。俺はそう思った。

 戦時中といっても、街の活気は至って普通のものだった。テロスの普通は分からないが、テロス住まいのケントが「あんまり変わってないなぁ」と言っていたので、これが通常なのだろうと思いながら街の中を歩く。

 たまに街の中で軍人を見かけるくらいで、それ以外はごく普通の街だった。まあ、問題はその軍人なのだけど。

 キョロキョロと、何かを探しているような仕草を目撃できた軍人全員がしていた。

 何を探しているかは、言わずとも分かるだろう。

 俺は街なかで軍人を見かけたら、その正体が悟られないように物陰に隠れるなどして、その場を切り抜けてきた。

 そのおかげで捕まることなく、こうして無事でいられるわけだ。

 特に怖かったのは、とある村でのことである。親切なお爺さんとお婆さんが、風情のある農村の一軒家に泊めてくれた時のことだった。

 夜、逃亡生活中にしてはまともな、手作りの温もりが籠もった夕飯を味わい、ありがたいことに風呂まで入らせてもらって、用意してもらった布団に潜り皆寝ようという時間帯だった。

 コンコンコンと、深夜には珍しくドアがノックされる。

 その時俺たちは家の奥の部屋にいたため、玄関で何が起こっているのかは分からなかった。が、僅かに聞こえてくる話し声により事態を察したのだ。


「この家で反逆者を匿っているという通報があった。婆さんたちには悪いが、家の中を捜索させてもらう。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、いきなりなんでそんなこと……」

「近所の住民からの目撃情報だ。これから入って少し漁るが、いいな。」

「そもそも私たちは反逆者なんて……」

「大人しく通さないと、婆さんたちも反逆の容疑で捕まるぞ。」

「っ……」


 直後、俺たちがいた部屋の中にお爺さんが入ってきた。真剣な面持ちで、人差し指を口の前に当てて俺たちが騒ぐのを止めようとしている。


「奥の押し入れの、床板を持ち上げろ。そうすれば、地下室への入り口がある。時間がないから、早くそこに入ってくれ。」


 小声ながらに切迫した口調で、そう指示される。俺たちは言われるままに、押し入れの戸を開けて床板を探ってみた。

 割とすぐに床板が外れ、人一人が通れるくらいの穴が開き、その先には竹でできた梯子が下へと伸びていた。

 俺たちは急いでその中に入る。地下室は真っ暗で、更に俺たちが入った途端お爺さんによって床板が閉められたため明かりは無く真っ暗だった。

 それでも、明かりをつけず皆息を殺して、狭い空間の中どうにかやり過ごそうと必死に耳を働かせる。

 が、何も聞こえなかった。

 数分の静寂の後、入り口から光が漏れてくる。もし見つかったのなら最悪交戦も考えていたが、入り口から光とともに顔を出したのはお爺さんだった。


「大丈夫かい、不可抗力とは言え、こんな狭くて埃っぽいところに閉じ込めてごめんね。」


 探しに来た衛兵であろう男が去ったのだろう。俺たちは順に地下室から出た。

 どうやら布団でカムフラージュがしてあったらしく、それで聞こえなかったのだろう。

 そんな出来事があった翌朝、まだ肌寒い時間帯に俺たちはその家を出た。

 別れ際、お爺さんとお婆さんに何故俺たちを庇ったのかと聞くと、


「徴兵令で戦争に駆り出された息子がいてね、ちいちゃいころの姿が君にそっくりだったんだよ。」


 と、何処か寂しいような、それでいて嬉しいような顔をしてお婆さんがそんな話をした。

 俺にそっくりだったそうだ。確かに、おばあさんは白髪、お爺さんは赤い目である。両方を受け継いだ結果、俺に似たような容姿になったのだろうか。

 もしかしたら殺しちゃったかもしれないから、とりあえず思考から追い出しておいた。


 そんなこともあり、逃亡生活というのは常に神経が張り詰めるから大変だったのだ。

 王都に辿り着いたからと言って、気を抜いていいわけではなかった。なんならここからが正念場なのだ。

 何故王都に来たか、その理由を今明かしておこう。

 逃亡生活中に話し合った結果、ここにいる七人全員が戦争反対の意思を示した。

 まあ、ヒナタは戦争なんてどうでもよさそうだったが、言語をタルタロスに翻訳してもらった結果―――


《「主を虐めたから許さない」って。》


 主とは誰だ……?と思ったけれど、タルタロスの見解だと俺のことだそうだ。その時タルタロスが舌打ちして明らかに不機嫌そうになっていたのは、気づかなかったことにしてあげよう。

 なんだか段々と俺を取り巻く女子が構成されつつあるけど……全員戦闘に対して食い気味で怖いんだよなぁ……

 うん、気の所為にしよう。今他のことで頭を悩ませたってしょうがない。

 そんなわけで、俺たちは戦争を無理やりにでも終わらせるために王城を襲撃しようとしていた。

 正直、勝つ気しか無い。こっちには神の力を持っている人間が二人いる。それに後はユニークスキル持ちだ。

 流石に七人で踏み込むというのも気が引けるが、ラビスを上回る強者が現れない限り余裕―――


《後ろ!》


 えっ!?


「クッソ、躱しやがったか。」


 壁に轟音を立てて横から振られた足をかろうじて体をひねり避けた俺は、その突然の襲撃に驚愕しながらも後ろを振り向いた。

 そこには、頬に十字の傷があるゴツい男が。俺が爆発で消し飛ばしたはずの、ラビス・アンレが、強面で鋭い眼光を俺に向けていた。


「核撃魔法ぶっ放し、更に郎党連れて脱走?とても、お前ごときができる芸当じゃねえよな。

内部に誰か強力者、それとお前の頭の中にもいるだろう、なぁ。」


 それを聞いて俺は僅かに身を引いた。

 シノブとはまだ特定できていないにしろ、タルタロスの存在を看破されたのだから。


「その反応だと、当たりだな。自我持ちのスキルってと、原初之権能(プリミティブスキル)か?ふっ、近頃の若造はそんなもんに命託してんのかよ。」


 ラビスは嘲笑する。だが、反論はできない。俺には“それ”が見えていたからだ。

 魔力とは別の、練り上げられた濃密で強固な闘気が。恐らく魔力持ちではないラビスには、魔力はない。その代わり、身体には長い修練で積み上げたであろう心技体の強さが現れていた。


「現実見ろ、現実を。スキルなんてものに頼ったって、自分の本質は何も変わりゃしねえんだ。ユニークスキルだとか、神之権能(ゴッドスキル)だとか。そんな喚き散らしてる連中を、一度再起不能なほどに殴ってやりたい。

よかったな、お前はその第一号だ。」


 俺がへたり込んでいる地面に向けて、握られたラビスの拳が振り下ろされる。

 【一望千里】による攻撃予測でギリギリで避け、服が破れる程度で済んだ。

 俺が隠れていた路地裏はおろか、大通りにまで響きそうな音が鳴り響く。

 ラビスの拳は、まるで金剛石(ダイアモンド)のように硬かった。王都の整備された地面を、まるで豆腐でも潰すかのように木っ端微塵にしてしまったのだから。

 一目で、スキルでは埋めきれない差を思い知った。

 俺は急いで立ち上がり、その場から逃げるように立ち去る。

 後ろから冷酷な靴音が聞こえてくる。目の前に人混みが広がるが、構わず突っ込んでいった。


「おわっ」

「きゃっ」

「すいませんっ!」

「おい!クソガキ!」

「危なっ」

「ほんっとにすいません!通してください!」


 人混みを無理やりにかき分けながら、少しでもラビスから距離をとろうと一目散に逃げる。


《ごしゅじん、残念だけど、戦ったほうがいいみたい。》


 そのタルタロスの言葉の真意は、数秒後に思い知ることになった。

 やっと人混みから抜けたと思いきや、そこには悠々とラビスが立っていたのだ。


「逃げんなよ、小僧。お前の考えてることは、だいたい分かるんだよ。」

「―――お前、一体何者だ?その強さを持って、一介の軍人じゃ納得できない。」

「ほお、お前みたいな小僧にも俺の強さが理解できると。

じゃあ名乗ってやる。俺は“十戒”、“不敬”のラビスだ。きっとお前も聞いたことがあるだろう、偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)という名を。」


 その名を聞いた途端、俺は息を呑んだ。その名は、かつて魔王軍に蹂躙されて荒廃したアクロの雀の涙ほどの治安を奈落の底に叩き落とした、犯罪組織。セトの怒りを買って数秒で滅ぼされる事態となったが、まさか―――


「そのまさかだ。俺は十戒のナンバーファイブ。つっても、二つ名上そうなってるだけで、実力だったらナンバースリーなんだがな。」


 まるで俺の思考を読んだかのように、ラビスはそう豪語した。でも、それを信用するに足る証拠を先ほどの数秒で目に焼き付けた。自称でも何でもない、この男の実力は侮ったら駄目だと、俺の本能が警鐘を鳴らしていた。


「この際だ。スキルか鍛え上げた力、どちらが強いか決着をつけようじゃねえか。」


 ラビスはそう言い、圧倒的な自信と見合った筋肉をたぎらせながら、不敵な笑みを浮かべた。

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