第十八話 遅れてきた英雄
〜前回のあらすじ〜
ミカエルを倒しました。
◀ ◇ ▶
俺史上最も熾烈なミカエル戦が無事に終わり、怪我の治療等が終わった俺たち冒険者はギルドに集まっていた。
報酬の割り当てと感謝状の授与、今後についての作戦会議のためだ。
まず行われたのは、街を魔王軍の手から救った感謝状の授与式。
今回ミカエル戦に参加した冒険者十八名に、それぞれ感謝状が渡された。
その後は報酬の支払いだ。
もちろん参加した冒険者全員に多額の報酬が支払われたのだが、各地で活躍した冒険者、及び対ミカエルにおいて最も活躍した冒険者には追加で特別報酬が支払われた。いわゆる危険手当みたいなものだが、額が桁違いである。
俺に支払われた額は、日本円にしておよそ一億円。
俺は異世界に来て一週間強で、小金持ちとなったのだ。ちょっとした資産家並みの金がある。
今回特別報酬の対象となった冒険者の名前と賞金の額を挙げておこう。(金額は日本円換算とする。)
大聖堂攻略戦 : ルミア
総賞金額 五千万円
アクロ市役所攻略戦 : セト
総賞金額 七千万円
アクロ立支援学校攻略戦 : リュナ・イヴ
総賞金額 五千万円
アクロ市長邸宅攻略戦 : シュルツ・ポートギル
総賞金額 三千万円
アクロ警察署奪還作戦 : ノーマン・ウィルト
総賞金額 八千万円
冒険者ギルドアクロ支部奪還作戦 : 該当者なし
総賞金額 〇円
ミカエル戦線 : イノウエ・ソラ
総賞金額 一億円
以上だ。
なんで賞金にばらつきがあるのかというと、それは個々人の活躍度合いが違うからだ。
一人で殆ど終わらせた場合と、協力したけどその中で特に目覚ましい活躍をした場合。
当然、平等にすると不満がでてくるだろう。それの対策のためだ。
まあ、今回の戦いで功績を挙げた六名の中に俺のパーティメンバーが全員入っているのは喜ばしいことだ。
ルミアも、今回の件で休みが取れるだろう。彼女が貰った賞金は、全てロムバートさんに預けて街のために使ってもらうらしい。
活躍した人の中に俺の知らない名前が二つあるので、とりあえず挨拶に行こうかと思い立った。
ノーマンさんと、シュルツさん。
賞金を受け取りに来るときを狙う。
ノーマンさんのときに来たのは無精ひげともじゃもじゃの黒い髪の毛が特徴の痩せ型のおっさん。
前世で言えば、ただのニートか日曜日の会社員のようにしか見えない。
なんとなく話しかけづらいが勇気を出していってみる。
「あのー……ノーマンさんですか?」
「ん?はい、そうですけど。」
「僕はイノウエ・ソラといいます。挨拶をしたくて。」
「ああ、今回も大活躍でしたね。」
「ありがとうございます。これからも、お互い頑張りましょうね。」
「ええ。」
話してみると案外気さくな感じの人だった。
どこかで見たことあると思ったら、あの無駄に強い剣のおっさんだ。
第一次ミカエル戦で敵の前線を崩壊させた人。あの腕前を見れば、今回活躍したのも納得である。
さて、次はシュルツさんだ。
ノーマンさんのときのように再び受け取りのときを狙っていると、やはり来た。
リュナとはまた違うより明るめの黄緑の髪の毛で、まだ若い。
俺が言うのも間違っているかもしれない。(外見年齢十一歳)
「すいません、シュルツさんですか?」
「あん?」
「今回すごい活躍でしたね。次もがんばってください!」
「あんたは……ソラとかいうやつか。自分が一番活躍したからって調子に乗ってんじゃねえよ。」
…………態度が悪い。
まあ、そんなもんか。傍からみたら子供が冷やかしてるだけだもんな。
「これから作戦会議を始める!冒険者各員は冒険者ギルド一階の酒場に集まるように!
繰り返す――ー」
ギルド内に放送が鳴り響く。
それを聞いた俺たちは、すぐに酒場に集まった。
見渡すと、そこにはこの街のギルドに所属している殆どの冒険者が集まっていた。
酒場に並べられていたテーブルは全て壁の方に押しのけられ、空いたスペースの正面に設置された台に冒険者リーダーが登り、大声で皆に届くように言った。
「本日、魔王軍幹部ミカエルの討伐が完了した。皆、ご苦労だったな!
だが、この街を占領されたこともあり、警備を強化するべきだと考えている。これは町長や領主様と相談した結果である。
さらに、今回ミカエルを討伐したことで魔王軍の行動が活発化する恐れもある。
なので、こうして君たち冒険者に集まってもらい、
会議を開いた次第だ。
突然で不本意だが、誰か、何か防衛に対していい案はないか?」
という、下手したらこの街の存続に繋がりかねない大事な議題だった。
俺がその話を聞いてまず思ったのは、この街に出入りする人達の身分証明をちゃんとすること。
実際俺がこの街に入るときも警備が甘すぎて素通り出来た。
でも、このことに関しては防衛とは関係ないだろう。
防衛に大事な事……やっぱり戦力の強化だろうか。
そうやって皆が考えている中、誰かが口を開いた。
「やっぱり人数や戦力の差があるんじゃないですか?
位置的にも狙われやすいですし、この際、王都に支援を求めるのはどうでしょうか。」
王都?そうか、この街も独立しているわけではない。何かしらの国に属しているんだから、王都に頼る手もあるんだ。
冒険者の大半がその案に賛成している中、リーダーが言いにくそうに言った。
「実は今回、一回目の襲撃の時点で王都に助けを求めたんだ。
応援が来る予定だったが、結局その援軍が来る前に二回目の襲撃が起こったんだ。
幹部ということで大物が出動したらしい。まあそれも遅かったが。
というわけで、王都に助けを求めても、自分たちで防衛したほうが早いという結論に至った。
だから、残念ながらその案は棄却させてもらう。」
応援を呼んでたのか。
でも、王都とこの街の距離が遠いため、到着するのに時間がかかるのだそう。
それならば、援軍は大して意味もない。
暫く議論を続けた後、結果的に各々が鍛錬をしてより強い相手に対抗できるようにするということに決まった。
何とも冒険者らしい結論が出たところで会議は今回は解散し、今日のところは日が沈んできたので俺は宿屋を借りて寝ることにした。
翌朝、俺が起きると、何やら宿屋に面している大通りが騒がしかった。
窓から覗いてみると、大勢の人が道脇で人だかりを作っており、真ん中の大通りでは仰々しい集団が闊歩していた。
何処かから紙吹雪が散り、歓声が響き渡る。
集団の先頭にいる赤髪の男は、きらびやかな剣を腰に差し、動きやすそうな白い軍服に身を包んでいる。
後ろに続くのはきれいな身なりの冒険者らしき人たち。
あれが、昨日リーダーが言っていた王都からの応援ってやつか?
だとすると、先頭の男も後ろの小綺麗な冒険者も、何処か品格があるのに説明がつく。
俺は急いで最低限の身支度をし、宿屋の前の大通りに出る。
そこにはすでにリュナとセトの姿があった。
俺がリュナとセトの近くに駆け寄ると、二人は俺に気づいたようだ。
「おいセト、これは何の騒ぎだ?」
「ああ、どうも剣聖の率いている軍勢らしい。」
「大して憧れはないけどね。」
俺の質問にセトが答え、その後にリュナが言う。
リュナは剣士なんだから剣聖に憧れるべきじゃないのか?
―――そんなことは置いといて、この剣聖の率いる集団――以降『剣聖軍』と呼ぶことにしよう――は冒険者ギルドの方へ向かっていく。
俺は脇道を通ってギルドに先回りし、リーダーを見つけて話を聞く。
「剣聖が来たと聞いたんですが、これってもしかして昨日言ってた援軍ですか?」
「ああ、そうだ。まさか一日遅れで来るとはな。」
やはりそうらしい。
暫く待ち、剣聖軍は冒険者ギルドの前まで来て止まった。
ギルドの前に立っているリーダーと剣聖が何かを話し始める。
その話は俺のところまでかろうじて聞こえた。
「援軍に来ました。早速ですが、魔王軍幹部の襲撃予定日はいつですか?」
「それがなぁ…………実は、もう終わったんだ。」
「終わった……といいますと?」
「そのままだ。ミカエルは俺たちで倒した。」
「――――――ええ!?」
剣聖の驚きの声が辺りに木霊する。
その声を聞いて、周りの歓声が静まり返った。
「だから、申し訳ないんだが貴方達の仕事はなくなった。」
「そうですか……
では変わりに、この街の近くにあるという“封印の洞窟”へ調査に行っていいですか?」
「ああ、構いませんが……何故?」
「最近、封印の洞窟で封印されていた邪神が脱出したという噂を聞きまして――」
この街の近くの、封印の洞窟の邪神?
……もしかして、セトのことか?
会話を盗み聞きしながら俺が考えていると、視線を戻したらいつの間にか剣聖とリーダーの話は終わっていた。
剣聖軍は街の一角、最近空き地だった場所へと向かっていく。
俺がその光景を眺めていると、後ろから声が掛けられた。
「おいソラさん、今回の剣聖の件だが、あんた、心当たりはないか?」
「剣聖の件?援軍のことですか?」
「いや、封印の洞窟のことだ。あんたも聞こえてたんだろう?」
あ、やっぱりそのことか。なんなら盗み聞きしてたのもバレてるし。
「まあ、心当たりしかないといいますか……」
「やっぱりそうだったか。まあ、立ち話もなんだ。中で話そう。」
そう言って、リーダーはギルドの中に入っていく。俺もその後をついて行き、中に入る。
リーダーに連れてこられたのはギルドの酒場。
早朝だからか、それともさっきの騒ぎの直後だからか、全く人はいない。
リーダーが椅子に座ったので、俺はその向かいの椅子に座る。
なんだろう……この光景は前世の学校での懇談のときの光景に似ていて、気が緩められない。
「それじゃあ、単刀直入に聞く。あんたはあの封印の洞窟に関係があるんだな?」
「――はい、あります。」
「それだと、セトさんもそうか。何があったのか教えてくれ。」
「――はい、全てお話します。
俺は、気が付いたらあの洞窟の中にいたんです。
そこでセトと出会って、仲良くなりました。
多分、話に出てた“邪神”はセトのことだと思います。
俺はあのスキルでセトの封印、洞窟の結界を解いて、セトと一緒に洞窟から脱出したんですよ。」
多少ざっくりと言ったが、事実なので大丈夫だろう。問題はリーダーの反応だ。険しい表情をしている。
もともと顔が濃いのに、俺が話をすると眉間にシワがよって、ますます怖い顔に。
暫く考え込んだような仕草を見せ、言いにくそうに口を開いた。
「――あのなぁ、それが大問題なんだよ。
かつて東の大国を滅ぼした、あの邪神の封印を解き、世に解き放ったんだぞ?
ソラさん、自分が何やったかわかってるのか?」
「…………はい、重々承知しています。」
「まあ、俺たちもソラさんやセトさんに命を助けられたから、とやかく言える立場じゃないんだけどな。
――こちらとしても、色々面倒なことがある。できれば、あの剣聖と話をつけてきてくれ。街の東の広場にいるはずだから。」
「はい、セトも連れて行ってきます。」
この思い雰囲気から抜け出し、俺はギルドを後にする。
剣聖軍の行進を見終わって宿屋に戻ろうとしているセトを捕まえ、街の東側へ向かう。
「おいソラ、急にどうしたのだ。
どっかに行ったと思ったら、帰ってきた途端我を拉致るなんて。」
「拉致じゃねえよ!
とにかく、あの剣聖たちは援軍の他にもう一つ目的があったらしいんだ。それがお前だ。」
「我?」
「そうだ。お前が洞窟から脱出したのが大問題になっていて、その調査の目的もあるそうだぞ。」
「で、何をしろと?」
「色々面倒くさいことがあるから説得して阻止しろって。リーダーが言ってた。」
「なるほど、つまり我が力を見せてやればいいのだな。」
違う。どう解釈したらそんなことになるんだ?
「平和に終わらせたいからやめてくれ。」
「じゃあ話し合いか?」
「ああ。お前がその神だといえばなんとか成りそうな感じするからな。」
などと軽く口喧嘩をしながら歩いていると、目的の東広場の付近についた。
ここの路地を抜けると広場が見えてくる。
恐る恐る路地を出ると、広場ではいかつい男たちがたむろしていた。
その中に剣聖の姿を見つけ、歩み寄る。
流石というべきか、剣聖は遠くにいる俺たちの気配に気づき、立ち上がった。
「君たちは誰だ?」
「俺たちは貴方に話があって来た。
貴方、封印の洞窟に行くそうだな。」
「――何故それを?」
「リーダーに教えてもらった。それで本題に戻るが、貴方たちは調査に行くつもりなんだよな。」
「――そうだ。」
「なら、その必要はない。」
「何故?」
「その調査対象はここにいるから。」
俺がそういった途端、剣聖は辺りを見回す。
そして、何かを察したような表情で言った。
「――まさか、さっきから喋らない君の隣にいる男が?」
その答えを聞いた途端、待ってましたと言わんばかりにセトが前に出て言った。
「その通り!我はセト。貴様らが探しているという、封印の洞窟に封じられていた神だ。」
「貴方が――
フッ、そうでしたか。ならば、ここでお手合わせ願えませんでしょうか。」
と言い、腰の剣を抜く。
「ああ、別に良いが――」
「では、お願いします。」
剣聖は剣を構える。
セトは背中からコウモリのような禍々しい翼を生やし、構えの姿勢を取った。
両者が向き合い、一拍おいて、いきなり目で追えないほどの速さで斬り合い始めた。
あまりにも早すぎて見えないが、【千里眼】の効果なのか大体の動きは見て取れる。
剣聖が斬りかかるが、振り下ろされる剣をセトが翼で受け流す。どんな体勢になっても、その動きの流れが変わることはなかった。
よく見ると、セトは一度も攻撃をしていない。ずっと防御に徹している。
暫く目にも止まらぬ斬り合いが続いた後、体力が尽きてきたのか剣聖の動きが鈍り始め、セトも剣聖も最初の体勢で止まった。
「まさかこれほどまでに強いとは。」
「我も、貴様ほど強い人間には初めて会った。」
「――これで決める!ユニークスキル、【一刀両断】!!」
剣聖はそう叫ぶと、その場から姿を消し、一瞬にしてセトの目の前に現れた。
剣を頭上に大きく振りかぶり、ものすごい速さでセトに振り下ろす。
その直前、セトが呟いた。
「神之権能、【混沌之神】」
剣聖の剣はセトに届き、セトは真っ二つになった。
――と思ったら、剣聖の後ろに現れたのだ。
先程斬ったはずのセトが後ろにいるのを見て、剣聖は驚きを隠しきれていない。
「フッ、残念だったな。それは残像だ。」
どこかで聞いたことがあるようなセリフをセトが言い、改めて両者向き合って、話し始めた。
先に口を開いたのは剣聖。
「神之権能――まさか本当に存在したとは。」
「神なのだから持っていても当然であろう?」
「私のユニークスキルで倒せないとなると、長い戦いになりそうですね。」
「いやいや、我は出来れば戦いたくはないのだが。」
また剣聖が斬りかかろうとしたその時、俺の背後から怒鳴り声がした。
「リオン!何やってるんだ!」
俺が後ろを振り返ると、そこにいたのはノーマンさん。
剣聖はその声に反応し、構えている剣を降ろした。
「父さん!?」
ん?父さん?
剣聖とノーマンさんは血縁関係なのか?
俺が訝しむと、ノーマンさんが剣聖に向かってまた怒鳴った。
「何をしているんだ!お前は今戦っている相手がわかっているのか!?」
「邪神ですよね。」
「邪神ではない!セトさんはこの街の英雄だぞ!
お前なんかが戦っても、セトさんが本気を出していればお前なんか勝負にすらなっていない!」
本気を出せば大国すら勝負になっていないですね。
そう言いたかったが、やめておいた。
「ああ、ソラさん、うちの愚息がすみません。」
「いえいえ。それより、剣聖ってあなたの息子さん?」
「いや、厳密に言えば息子ではないんですよ。
血の繋がりないですし。」
そう言って、ノーマンさんは剣聖との関係について話し始めた。
◀ ◇ ▶
リオンは、元は戦災孤児だったんですよ。
俺が冒険者だった頃、戦地に狩り出され、その時に路地裏で保護した子供たちのうちの一人がリオンなんです。
リオンは発見した頃、粗末な木刀を持って年下の子供たちを守っていたんですが、それを見て、保護した後俺が剣術を教えてみると、あっという間に隠された剣の才能が開花しました。
一ヶ月足らずで大人の剣の腕を抜き、上官たちはその剣の腕を買って避難所の防衛を任せるようになったんです。
子供に任せる事を不満に思っていた者も多かったですけどね。
やがて、組織内に敵国のスパイがいることが判明し、組織は警戒態勢に入りました。
その時、スパイの第一の標的となった子供たちの避難所で、子供たちを守ったのがリオンです。
そんなこともあり、俺はリオンの教育係となったんです。
リオンとともに王都に移り住み、俺は剣を教え続けました。
俺たちが王都に住んでから、王都に襲撃しに来た魔王軍の幹部をリオンが見事に倒し、その功績が認められてリオンは“剣聖”の称号をもらったんです。いわば、この国の最強の剣士ですね。
“剣聖”ということもあり、この国で起こる魔王軍幹部の騒ぎはほとんどがリオンに任せられるようになりました。
恐らく今回もミカエルが来たからリオンが出動したのだろうと。
◀ ◇ ▶
「本人も悪気はないので許してやってください。」
「いえ、セトも怒ってはいないですし、特に問題もありませんので。大丈夫ですよ。」
「そうか、ありがとう。」
俺とノーマンさんが話している間、剣聖――リオンは気まずそうに縮こまっていた。
「まあ、これからも仲良くしてやってください。」
「お願いします。」
ノーマンさんとリオンが言う。
そんなこと言われたら答えは一つしか無いだろう。
そのことはセトも同じだった様。
「「こちらこそ、よろしく。」」
投稿が遅れてすいませんでした。
今回は過去最高の長さ。六千六百文字です。
総文字数十万文字超えを目指して頑張ります。
これからも、どうぞよろしく。