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第十七話 幹部の力

 大聖堂を開放した俺たちは、次なる目的地、冒険者ギルドへ向かうことにした。

 当初心配されていた大聖堂でのミカエル戦は実現されなかった。

 俺とルミアとその他冒険者一人が冒険者ギルドへ向かっている途中、進行方向から爆発音が聞こえてきた。

 敵の魔物は爆発系の攻撃なんてしてこなかったので、恐らくミカエルだろう。

 大聖堂ではなくギルドにいたのか。

 ギルドに閉じ込められているであろう人々や、そこに向かった冒険者たちのことが心配になり、走るスピードがつい速くなる。

 ギルドを担当しているのは冒険者リーダー。前回の件もあるので、余計に不安だ。


 ギルドの近くまで来ると、そこには壮絶な景色が広がっていた。

 破壊された建物の瓦礫が散乱し、あちこちに血が飛び散っている。

 交戦しているであろう冒険者たちの姿はなく、ただ大鬼(オーガ)の死体がいくつか転がっているだけ。

 リーダーたちはどこに行ったのかとあたりを見回すと、ギルドの正面の瓦礫の山がかすかに動いた。

 俺はその動きを見逃さず、ルミアに声をかける。


「そこの瓦礫の山だ!誰かが埋まっている!」


ルミアともう一人は即座に動いた。

 三人で瓦礫を一つずつ撤去し、やがて隙間が見えてきた。

 そこから這い出てきたのは人間の手。中で必死にもがいており、俺たちは次々と瓦礫を撤去していく。

 徐々に上半身が外に出て、数分かけてやっと埋もれていた男は瓦礫の山から出てくることができた。


「ありがとう、ソラさん、ルミアさん、フィルトさん。」


 俺のグループでもう一人が名前がわからなかったが、フィルトっていう名前なのか。

 いや今はそれどころではない。


「いえ。それより、一体何があったんです?」

「ああ、ギルドにミカエルが潜んでいて、中にいる人たちを人質に取られた。

「中に入ったら容赦しない」、と。

それで俺たちが強行突破しようとしたらこの有り様だ。

どうやら外に(トリガー)式の爆発魔法が仕組まれていたようで、まだ何かあるかもしれないし、こんなで俺はもう動けない。

だから、ソラさんが行ってくれないか。

元はミカエルの要求は君だったんだろう。

だったらなんとか交渉できるはずだ。頼む。」


 大体の状況は把握できたが、そんな事を言われても俺にはどうしようもない。

 あんな大物を相手にできる程の自信もないし、

交渉する度胸もない。

 俺が葛藤している最中も、ルミアとフィルトは救助作業を行っている。

 …………これも街を救うためだ。

俺のせいでこれ以上の犠牲者は出したくない。

 悩みに悩んだ末、俺はミカエルと交渉する道を選んだ。この際ミカエルを小物だと割り切って、強気の姿勢で攻めることにする。実際ミカエルは小物みたいなものだし、魔王軍幹部だからといって警戒し過ぎなのかも知れない。

 自分を無理矢理にでも納得させて、俺は騒ぎの渦中にあるギルドへと踏み込んでいった。さて、これが吉と出るか、凶と出るか。


 ギルドの扉を開ける。

 入ってすぐ広がる酒場には、ミカエルと普段酒場にいる給仕の女性たちがいた。

 ミカエルは女性たちに話しかけながらお茶を飲んでいるが、女性たちは無理に口角を上げ、苦笑いのような愛想笑いをしている。

 するとミカエルは俺に気づいたのか、ティーカップを置いて立ち上がった。


 「やっと来たか。お前を待ち望んでいたのだ。今日こそは決着をつける。」

「いや、さっき思いっきりティータイムしてたよね。これが因縁の対決を迎える前の雰囲気なの?」

「…………」


 まずはジャブで揺さぶりをかける。この程度で揺れてくれたら万々歳だが、ミカエルの態度は揺らがなかった。仮面をかぶっているため表情は読み取れないが、声の抑揚などで分かる。

 俺の挑発に対し、それに負けじとミカエルが言い返す。


「お前、手紙の内容がわかっていないのか?私はお前を連れてこいと、手紙に書いたはず。なのに来たのは冒険者風情。これには心底がっかりした。」

「俺も冒険者なんだけど。

それに、お前がどこにいるかは書いてなかった。

つまり、俺はどこに行けば良いか分からないままで乗り込んできたんだ。逆にこの速さに感謝しろよ。」

「っ!」


 続いてド正論アッパー。

 これにはミカエルも耐えきれないようで、態度や声色から怒りを隠しきれないでいる。


「……確かにそれは私の落ち度。

でも、お前があんなに卑怯なことをしておいて、そんな事を言える立場なのか?」

「あの無効化のことか?俺のスキルだから別に卑怯じゃないし、人質取ってるお前のほうがよっぽど卑怯だと思うよ。」


 トドメの一撃。

 これを受けて、ついにミカエルはキレ始めた。やはり、俺の想像通りこいつは魔王軍幹部だからといって侮ったら駄目だった。想像以上の小物だわ、こいつ。


「うるさいわ!

もうお前のスキルはわかっているんだぞ!

魔法阻害(アンチマジック)】だろう!そんな小賢しい真似、この魔道具の前には無意味だ!」


そう言ってミカエルが胸から取り出したのは、紫色の宝石がついた銀のペンダント。

 言葉から察するに、スキルを無効化する魔道具だろう。

 でもそんな魔道具(モノ)、俺の【諸行無常】の前には無意味も同じ。

 前にセトが言っていた。


『“魔道具”は便利な物が多いが、大抵、というか全てがユニークスキルには効かない。

魔導宝具(アーティファクト)”はユニークスキルでも通用するが、神之権能(ゴッドスキル)には通用しない。』


 たかだかスキルを妨害する程度の魔道具で、“ユニーク”スキルを破れると思うな。


 「残念だったな。その魔道具は俺には効かない。

試してみるか?」

「ふん、そうやって大見栄切っているのも今のうちだ。くらえ、【炎熱火球(ファイアーボール)】。」


 そう言って、ペンダントをかざしながら火球を撃ってきた。

 俺はすぐに【諸行無常】を使う。

 案の定、ペンダントは作動せずに【炎熱火球(ファイアーボール)】は消えた。

 その結果にミカエルは驚いている。


「何故だ!?この魔道具があるというのに!お前、何の小細工をした!」

「別に、何もしてないけど。単純に俺には効かなかっただけ。」

「効かない!?いや、聞いたことがある。魔道具が一切効かないスキル……まさか、お前!」


 やっと理解したようだ。


「そう、俺はユニークスキル所有者だ。」

「クソがーー!!」


 そう叫んで、ミカエルは突然天窓を破って外に飛んでいった。

 その後、後ろから慣れ親しんだ声がする。


 「おい、ソラ!大丈夫か!」

「今のは何?ソラ君、大丈夫だった?」


 後ろを振り返ると、立っていたのはリュナとセト。息を切らしていて、急いで来たのが見て取れる。


「大丈夫だ。人質も見た感じは無事。

それより、今飛んでいったミカエルを追いかけないと。」


 外に出ると、集まってきた冒険者たちと武装大鬼(オーガ)たちが交戦していた。

 そこにミカエルの姿はない。

 俺が急いで飛んでいってしまったミカエルの姿を探していると、突然大聖堂の方角で爆発音がした。遠くで青空に黒煙が立ち上る。


「あっちは……大聖堂?」

「堕天使がそこに飛んでいったのか?」

「大聖堂はまずい!あそこには避難している人たちが!」

「何!?」

「じゃあすぐに行かないと!」


 ようやくリュナとセトが慌て始める。


「大変だ!ミカエルが大聖堂に向かった!あそこには人々が避難している!動ける人はついてきてくれ!」


 緊迫感を孕んだ呼びかけに素早く反応してくれた動ける冒険者を連れ、俺たちは大聖堂に向かう。

 走りに走って大聖堂が目の前まで迫ってきた頃、またもや爆発音と悲鳴が聞こえてきた。

 大聖堂の壁や天井は崩落し、穴が空いていた。そこからミカエルが火球を放ち、中の人々を攻撃している。

 俺はこれが危険だと本能で察知し、中にいる人たちを助け出すために急いで大聖堂の中に入る。

 中では防御魔法で人々を守っている神父さんと、魔法で応戦しているシスターさんたちの姿があった。

 神父さんは俺に気づいたのか、突然叫んだ。


 「頼みます!あの背教者を倒し、我々を守ってください!」


 言われるまでもない。

 俺はすぐさま【諸行無常】を使う。

 その効果のおかげですぐにミカエルの火球攻撃が止まり、直後上から怒鳴り声が聞こえてくる。


「おいガキ!またそのスキルを使ったのか!ふざけるなよ!正々堂々戦え!」


 ミカエルがブチギレている。

 いい意味だと思っていたら、いきなりミカエルの口からとんでもない言葉が飛び出た。


 「こうなればこれを使うときが来たか――くらえ!ユニークスキル、【聖人無夢】!」


 こいつもユニークスキル持ってたのか。じゃあさっきなんで逃走したんだよ。


「フッフッフ。このスキルにより我の身体能力、魔力、思考速度は大幅に上昇した!

これで勝てるものなら勝ってみろ!」


 何か言っているが多分大丈夫だと思う。

 何故かミカエルはすごいスピードで空中反復横跳びしているが、俺はその動きを逆手に取ることにした。その状態でもとに戻ったら果たしてどうなるだろうな。

 答えは簡単。


「ユニークスキル、【諸行無常】。」


 俺が呟いた途端、ミカエルの移動速度上昇がもとに戻り、ミカエルは慣性の法則に従って横に飛んでいった。

 ドスンという音と共に砂煙がたち、やがて入口にミカエルが現れ、言った。


「なんでお前のスキルは私のユニークスキルにも作用するのだ!」

 「お前知らないのか?ユニークスキル同士だったら対抗できるんだよ。」

「はあ!?」


 俺は引き続き【諸行無常】を発動させ続ける。

 もうミカエルは何も出来なくなった。


「おーい、冒険者の皆さーーん!ミカエルを倒すなら今だぞー!」


 と、俺はミカエルの後ろに向って叫ぶ。

 ゾッとしたミカエルが冷や汗をかきながら恐る恐る振り向くと、そこには殺気をダダ漏れにした冒険者たち。


 「よくもやってくれたなぁ!」

「俺たちに勝てるとでも思ったのか!」

「襲撃三回分の恨み、晴らさせてもらう!」

「リザードや大鬼(オーガ)なんぞ、俺たちの敵じゃないわ!」


 皆、ミカエルに対しての恨みを思い思いに言っている。


 「ちょっと待て!我は二回しか襲撃してないぞ!

リザードなんて低能生物、従えてない!」

「「「問答無用!!!」」」


 何かミカエルが弁明するが、冒険者たちは聞く耳を持たない。

 あっという間に取り囲まれ、攻撃の雨を受ける。

 冒険者たちによる、親の仇とばかりのあまりにも一方的な攻撃。


「ぎゃあああ!!」


 辺りに断末魔が響き渡り、やがてミカエルの身体は動かなくなった。

 冒険者たちはミカエルから離れ、遺体を確認する。

 ピクリとも動かず、割れた画面から覗く見開かれた目には光は宿っていない。

 ――俺たちの勝利だ。


「やったぞー!」

「俺達の勝ちだーー!!」

「うおーーー!」


 一斉に冒険者たちが歓声をあげる。

 だが、その直後仰向けに倒れているミカエルの死体に異変が起きた。

 心臓の場所から何かが浮き出てきたのだ。

 それは、正八面体の銀色の物体。

 その物体が出現するなり、さっきまで騒いでいた冒険者たちが、一気に静まり返った。

 その物体は身体の上二十センチ程まで浮いた後、周りの冒険者に向かって念を放った。


『あーあ、やられちゃったか。』


 その一言を冒険者たちの脳内に残し、南の方角に飛んでいった。


「今のは……?」

「あれは……精霊か?」

「なんでミカエルに精霊が?」


 ――あの物体は何だったのだろう。

現在六万文字を超えました。

当初は高いと思っていた目標、十万文字まであと少し!

皆さん、応援ぜひともよろしくお願いします!

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