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第九話 ソラを探す旅

 ソラを誘拐した黒ずくめの男二人の行方を追い、リュナたち六人+精霊王三人は聞き込みのため馬車管理所まで来ていた。

 何故そこに来たのか。理由は単純である。街ゆく人々に根気強く聞き込みを行ったところ、犯人らしき人物がこの馬車管理所を利用しているところを見たという人がいたからだ。その人から得た情報を鵜呑みにし、彼女たちは現在スタッフと話をしている。


「昨日の夜十一時ごろ、子供を背負っている男二人が来ませんでしたか?」

「昨日の夜十一時ですか。すいません、担当が違うので僕は何とも言えませんが……」


 残念ながら、応対したスタッフは当時対応していたスタッフではなかったようだ。


「何か、あったんですか?」

「実はその子供が誘拐されたんです。今私たちで行方を追っていて。」

「それでしたら、その時の担当を呼んできますので、少々お待ちいただけますか」


 ノアの非常に簡潔な説明を受け、スタッフは何かを察したように行動を開始した。

 普通の家のような大きな建物の壁に開けられた対応窓口の前で待つ集団。暫く待っていると、先ほどのスタッフが奥から別のスタッフを連れてきて、最初のスタッフは二人目のスタッフに説明を始める。


「―――というわけらしい。」

「ああ、あのお客様のことですか。」


 連れてこられたスタッフは、説明を聞いて現在の状況を完全に理解し、その上で自分が対応したであろう犯人たちのことも思い出し、ノアたちに話し始めた。


「お客様がおっしゃっているお客様のことならば、確かに私が対応いたしました。ですが、無闇にお客様の個人情報をお教えするわけにもいかないので―――」

「人の命がかかってるんです!教えてください!」


 スタッフは教えられない旨を伝えようとしたが、受付の台を両手で強く叩き、必死な様子で怒鳴ったノアに気圧されたスタッフは、本来駄目だと自分に言い聞かせつつもノアに押し負け、結局教えてしまった。


「―――わかりました、大変ですよね、あの方々が犯罪者なのならば、仕方がありません。お教えしましょう。

彼らは王都へ向かいました。彼らの馬車を預かっていましたので、恐らくそれに乗って行ったと思われます。今から王都行きの急行馬車を手配いたしますので、お客様方はそれに乗って王都に向かわれるのがよろしいかと。」


 スタッフの善意により早くも王都へと向かうこととなったノアたち。同情による善意と早い対応に感動し、一同何度もお礼を言ったほどだった。

 その後ノアがちゃんと正規の料金を支払い、一行は王都へと向かった。

 彼女たちが乗った馬車は、特別急行だった。最近改良の施されたとっておきで、世間一般的に呼称されるいわゆる“竜車”である。竜車というものは本来危険が多い。馬の代わりに竜車の動力源となるリザードは、品種にもよるものの基本的に気性が荒く、御者にも反抗しやすい。魔物なのだから当然の性質だが、それでも乗り物に利用するのは理由がちゃんとあったのだ。そう、速度が段違い。まず馬との決定的な差であった。馬で一ヶ月間かかる道のりが、リザードだと一週間と少しで移動可能。さらに沼地や荒れ地など、通る足場が悪い場所でもリザードならば大抵が適用可能な優れもの。扱いやすさに難アリだが、スピードの面では評価されていたのだった。

 そんな竜車、実はとても危険だ。何度も言うが、竜車に起用するリザードの気性が荒すぎて、暴れて車体が横転なんてことも多々あり、そのスピードもあってか事故が絶えない。そのため特急というと命の危険さえある乗り物だが、彼女たちがそれを知らなかったり、知っていても致し方無しと無視して乗っているわけではない。勿論竜車を手配したスタッフも、危険さを知っていたうえで乗らせたわけではないのだ。

 最初に述べた通り、この竜車はごく最近改良されている。二年前から竜車の安全化が進んでおり、つい先日それが成功してアクロ近辺での実用化が開始されていたのだ。その仕組みを確立したのが近所の魔導具店店主メグだとは、この時誰も知る由もない。

 メグが十年前から同志たちと研究を重ね、遂にリザードの気性の荒さを相殺するほどの防御設備を設置することに成功。竜車全体を覆う防御結界の術式を工夫したり、気性が落ち着いているリザードを交配により生み出したり、車輪の工夫によりスピードに耐えられるようにしたりと、数々の大小さまざまな工夫により、竜車に乗っている場合は内部の人間だけは無事なようになっている。

 そんな経緯もあり、この特急竜車は少々値段が高い。リザードの使用費、御者の人件費、結界の維持費、その他諸々あって通常の馬車の倍はする。だが金銭での面はノアが自腹で出した。こればかりは致し方がないと、ノアは金額を気にせずに即金で支払ったのだ。

 まだ付近の街でも出し惜しみがされていたり、点検中だったり、実用化までこぎ着けていなかったりと色々あるこの竜車だが、それを迷わず提供したスタッフの善意、そして十年にも及ぶメグたちの努力、そして高い料金を必要経費と割り切って迷わずに支払うノアのソラに対する執念が生み出した結果が、この王都に爆速で向かう竜車なのだった。

 彼女たちは、その爆速竜車に乗っている間も時間を無駄にしない。全員でこれからどうするのか作戦会議をしながらの移動だ。


「どうしますか」

「まず男たちの動向を探るしかないでしょ。それからその後を追う。どれほど旅をしたって、私は必ずソラ君を救いたいから。みんなだってそうだよね?」

「勿論ですよ。私だってソラさんのことが好きですから。私も、リュナさんには負けないほどのやる気があります。」

「私だって、リュナちゃんやルミアさんには負けませんから。」

「皆さん、ソラくんを救いたいという気持ちは変わらないようですね。普段は恋敵という名のライバルですが、今は共に囚われの王子を救いに行く仲間です。協力して、絶対にソラくんを救い出しましょう!」

「「「オオーーー!!」」」


 作戦会議のはずが、いつの間にかソラへの愛を確かめ合う話になってしまった竜車の中。四人のソラへの強い執着に、リーベとリアだけが気まずそうに眺めていた。そして精霊王たちは俄然せずの立場で、いつの間に持ってきていたのかソラが手作りしたトランプでババ抜きをしていた。


「……まあ、私たちはルミアちゃんの応援しようか。」

「……そうですね。」


 呆れた表情で成り行きを見守るリアとリーベ。四人には聞こえない程度の音量で、ヒソヒソと相談をする。そして相変わらず、精霊王三人は竜車の荷台の端で、無造作に手札から出された何枚ものトランプを囲んでババ抜きを続けていた。

 一方ソラへの愛を叫ぶ四人は、話を戻してソラを救うためのこれからを話していた。


「さて、じゃあ話を戻すけど、王都は人も多いからね。闇雲に聞き込みをしてるだけじゃ、無駄に時間もかかるし私たちの体力も気力も削られる。そこで、私はもっとピンポイントに探したらいいんじゃないかと思うんだ。」

「ピンポイントに?どうするんですか?」

「思ったんだけど、王都っていうのは必ず治安組織とか保安機関があるわけじゃん。警察とか、通行調査とか、犯人たちが使ったであろう道とか店とか、絞り込みながらそういう情報を管理している人たちに聞いてみればいいわけだよ。それに、何故ソラ君を誘拐したのかも気になるから。もしそれを推察できれば、もっと分かりやすくなると思うけど。」

「なるほど。」


 リュナの言わんとすることは、凄く的確に的を射抜いていた。

 今までただ闇雲に、範囲を絞っていたものの対象を絞らずに聞き込みを行っていたため、ただ少しの情報を得るためだけでも何時間もかけて聞き込みを行っていた。そのままだと、日差しのもとで何時間も手に入れられるかわからない情報を求めて彷徨うことになっていた。そこで、やり方を変えてもっと効率化を目指そうと、そうリュナは進言したわけだ。


 「じゃあ、何で犯人はソラ君を誘拐しようとしたんでしょうか。」

「それについては私が一つ考えたんだけど、タイミング的にも動機的にもこれが一番有力だと思う。誰も言わなかったからこの際言うよ。

まず、男たちのソラ君を誘拐した動機を絞り出した時、お金目的は無いと思ったんだ。いくらソラ君が稼いでいるとは言え、相手は子供。それに自分の屋敷を持ってるんだから、空き巣やスリや色々手段はあったと思う。一番抵抗に遭いやすく、リスクの高い誘拐を取るとは思えないんだよ。」

「それじゃあ……」

「うん。金銭目的の誘拐じゃない。そうすると私欲か力目当てだよね。私欲だと、見せしめにしてお金を稼いだり、その……変な趣味にソラ君を使うのかも知れない。でも、少なくとも前者は違う。それなら最初の通り、空き巣かスリでもしたほうが稼げるし、何よりどういう商売をしたって足がつく。

後は私にとって一番心配である後者だけど、こればっかりはそれでないことを信じるしか無いね。複数人で襲っていることからその可能性は減るけど、完全に否定できる要因がないからそうじゃないとは言い切れない。まあ、ソラ君に女の子の服着せてみればそりゃあ可愛いだろうし、そのへんは私にも欲はあるよ?それでも、男たちにそんな破廉恥なことをされていないのを祈るしか無い。

で、力の方だけど、これが一番有力な線なの。ほら、二日前カイルたちに言われたこと、覚えてる?『異世界人を集めている』って話。あれがもし、正規のスカウトとかじゃなかったと考えてみたら……?」

「………皆さんに伝えておきますね。ソラさんは、私に相談をしてきたんです。「異世界人だ」って。リュナさんなら理解してたと思います。」

「うん。ソラ君が異世界人だってことは、私も出会った瞬間に【森羅万象】で理解してた。だからこそ、この可能性が頭に浮かんじゃったんだよ。もし、その犯人たちがテロス王国なら。もし、ソラ君が異世界人だということも、その居場所も強さも分かっていたとしたら。ソラ君が誘拐されたタイミングも、動機も、そう仮定して考えてみればぴったり一致する。」

「じゃあ、ソラさんはテロス王国に連れて行かれたって言うんですか!?」

「あくまでまだ仮定の話だから。それだと確信できるような情報がまだない以上、テロス王国に連れて行かれたと決定して物事を進めるのはまだ早いと思うんだ。だからこそ、これから王都で情報収集を始めるわけだけど。」


 リュナが、長々と自分の考えを明かした。犯人たちの動機と、それに辿り着くまでの過程。消去法で導き出したものではあるが、結果的に残されたその可能性は話を聞いていた全員を納得させられるだけの根拠があり、今回の事件の核心に迫る予想だった。

 可能ならば、彼女たち自身今すぐにでもテロス王国に乗り込みたいところだろう。だが。もしそれが違ったら。もし別の目的でソラが誘拐されたのだとしたら、万が一そうなった場合の代償が大きいのだ。


「さっきリュナちゃん、治安組織に話を聞くって言いましたよね。私は、そんな公的機関がやすやすと話を聞いてくれるとは思いませんが……」


 仮説を結論まで持ち込めるような情報を求めて意気込みを行う上で、シエラが手を挙げてリュナに疑問を呈した。

 その質問に対して、リュナは悪巧みのような笑みをニヤリと浮かべ、答えたのだ。


「私たちには、それくらいの公的機関を強制的に動かせるほどの権限を持つ人がついているじゃん。」


 三人は、リュナの話が指す人物が誰なのか理解できなかった。後ろで静かに聞いていたリアたちも、途中から興味深くなってきてそれを聞いていたわけだが、リュナの含みのある物言いに中身を察することはできず、首を傾げるだけだった。

 リュナは、尚もヒントを投下する。


「私たちがこれから行くのは王都だよ?その人はライバルだけど、私たちの捜査を手伝ってくれる仲間。味方にしては心強すぎる人だよ。」


 王都。ライバル。仲間。その三つの単語が何を意味するのか、そして誰のことを指すのか、察しのいい三人は完璧に理解ができた。リアとリーベは分からなかったが、これは三人にしか回答できない考え方である。


「「「リース様だ!!」」」

「大正解。」


 リース・モーガン。プロタ王国を隅から隅まで統治する王女であり、ソラに好意を抱いてソラのことを兄呼びし尊敬するほどの『ソラ大好きっ子』ぶりを発揮する少女だ。


「リース様なら、王女だし当然それなりの権限は持ってるはず。それにソラ君が誘拐されたとなれば、いくら忙しくともその情報に飛びついて血眼でソラ君を探し始めると思うよ。」

「なるほど。それなら私たちも活動しやすくなる……王女様の庇護下に入ることができれば、ソラさんを探しやすくなると、そういうわけですね。」

「そう。さらに、カイルたちは『もうすぐ戦争が始まりそう』だと言ってた。これを逆手に取って、今王宮ではテロス王国に関する情報が手に入りやすくなってるんだと思う。なんてったって各国の情報を吟味して対策を立ててるわけだからね。王女の協力がなくても、王宮に入りさえすれば後は自分たちで探し出せると思うんだ。」


 リュナが自信満々にそんな作戦を豪語する間にも、爆速で進む竜車は平原を風を切って走り抜けていっていた。

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