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第八話 聞き込み開始

 「あの、すいません、昨日の深夜から今朝早朝にかけて怪しい人とかの目撃情報ってありませんでしたか?」

「ないですね、特にそういったタレコミもありませんし。」

「そうですか……」

「どうかなさったんですか?」

「実は、ソラさんが拐われた可能性がありまして……」

「ソラさんが?」

「はい、屋敷にいる子供が、誘拐の一部始終を見たって言うんです。ソラさんも今朝から姿が見当たりませんし」

「じゃあ、ギルドの方でも全面的に捜索願を出しておきましょうか?」

「ありがとうございます、お願いします。」

「何か情報が入りましたら、至急連絡いたしますので。」

「本当にありがとうございます!」


 ギルドの受付で、受付担当の女性とリーベが話していた。内容は勿論、ソラの失踪についてだ。

 ソラの誘拐が判明してから、彼女たちの迅速な対応によって救出計画は動き出していた。と言ってもソラが何処に言ったのかは彼女らには分からない為、現在アクロの各地で聞き込みをしている次第である。

 深夜帯から早朝未明の間にかけて起こったと推定される、一連の誘拐事件。暗い夜中の犯行だった為、どうしても目撃者が少ないのが現状である。

 ただ、ソラが失踪したという事実は冒険者たちにとって寝耳に水のことだった。その時ギルドにいた者たちが、話を聞いて奮い立つこととなったのだ。

 今やアクロの冒険者ギルドでは、ソラは英雄だ。過去に何度も街に襲いかかる脅威を撃退し、東の魔王、そしてあまり大々的には知られていない南の魔王討伐にも関与している。さらにはプロタ王国王女の警護、攻略不可能のダンジョンの踏破。常人には足元にも及べないほどの数々の功績を打ち立て、“魔王軍キラー”や“朱白の御子”、最近では“紅冠鳥(カルディナ)”という通り名を持っている。その為ソラは冒険者たちの尊敬の的であり、憧れの対象なのだ。その偉人が何者かの手によって連れ去られたとなったら、冒険者一同黙っては居ない。そう、黙っていないのだ。


「ソラさんが拐われたぁ!?」

「嘘でしょ!?」

「大変じゃないか!」


 リュナ、リーベ、リアがギルドでの聞き込みを開始した途端、話を聞いた冒険者の何人かが驚きのあまり大声で復唱してしまった。それが他にも伝わってしまい、あっという間にギルドの中は大騒ぎに。

 驚きに開いた口が塞がらない者も居れば、今すぐに動き出そうとする者、危機感に負けて騒ぐ者、誘拐犯に対して怒る者、様々な反応を冒険者たちは見せた。

 彼女らにとってその反応こそが驚きなのだが、それでもソラを心配してくれているということなので、彼女たちの支えになっているのだ。

 そんな騒ぎの渦中のギルドだが、勿論いつまでも騒いでいるわけでもない。


「皆さん、ソラくんを見た人、もしくは怪しい人を見かけた人は居ませんか!」

「ソラ君が誘拐された可能性があるの!昨日の深夜頃から今朝の早朝までに、何か不審な人物だったり声だったり聞いた人はいない?」


 騒ぎを利用して、ここぞとばかりに大声で呼びかけるノアとリュナ。冒険者たちは、ほとんど全員が首を横に振った。

 ギルドに来るまでに街でも多少聞き込みをして来ている彼女たちだが、ギルドでも収穫が無いとなるともう絶望的とさえ思えてくる。だが、彼女たちにとっての希望は潰えていなかった。冒険者の中で一人、手を挙げた人物がいるのだ。


「セレスさん!」


 彼女はセレス。かつてソラとリュナ、シエラとセトが参加した討伐に何度も参加しており、ソラが“アクロギルドの十八人”と称している中の一人である。そんな彼女が、多くいる冒険者の中でただ一人だけ、自信なさげながらも手を挙げたのだ。


「私、昨日の夜外に出てたんです。ヴィオも観てたんじゃない?」

「え、俺!?夜のこと……?」


 セレスが、隣にいたヴィオという男に聞く。ヴィオも、“アクロギルドの十八人”の一人である。腕は立つ男だ。


「あ、あれか!」


 何かを思い出したように、ヴィオは大きな声を出す。それに揃えるように、セレスも話し出した。


「思い出した?あの黒ずくめの、男二人だよ。噴水の前でごそごそして、怪しいなとは思ってたけど。」

「暗くてよく見えなかったんだよなぁ。何やってるのかは分からなかったが、まさかソラさんを拐うところだったなんて。」

「じゃあ、その二人の黒ずくめの男が……?」

「何処に行ったとかは分かる?」


 リュナが食い気味にそう質問する。彼女たちにとってはとても重要で、他とない貴重な情報だからだ。余すことなく情報を集めておきたいという気持ちの表れである。


「ええと、確か西門の方に行ったね。」

「ああ。黒くて細長い物――今思えばあれが気絶したソラさんなんだろうけど、それを二人で抱えて西の方へと去っていったんだよ。」

「西門ですね」

「じゃあ、次そっちに聞き込みに行ってみようか。」


 彼女たちの行動は早かった。そして速かった。西門に手がかりがあると分かるなり、六人ですぐにギルドを出ていったのだ。まるで風のように、いきなり来ていきなり去っていく。

 ギルドにいた冒険者たちは、ソラが拐われたという驚きと同時に、彼女たちの行動力の高さに少しばかり引いていた。

 かなり有力な情報を手にし、すぐさまギルドを後にした彼女たちは、小走りで西門の方角へと向かっていった。

 事件のときは閑散としていた街道も、今はもう日が昇って人も多い。人にぶつからないよう且つ急いで向かうため、人と人との間を縫って彼女たちは進んでいく。

 そして程なくして西門に辿り着き、彼女たちは聞き込みを開始した。

 ノア、リュナ、シエラはソラを助けるためなら苦労を厭わず、積極的に通りかかる人たちへの聞き込みを行う。リア、リーベは、付近の店舗等に住んでいる人たちへの聞き込みをする。ルミアは過去の影響でどうしても人に話しかけることが出来ないため、いつの間にかついて来ていた精霊王たちと待つことに。

 どれだけ時間がかかろうと、彼女たちは根気強く聞き込みを続けた。たとえ聞く人全てが首を横に振ろうと、僅かな可能性を信じ探り続けた。


「すいません、私も協力できなくて。」

「いえいえ、ルミアさんは仕方ないですって。」

「そうだよ、これでも振り切れてきたほうなんでしょ?私たちに任せて。」


 時には精霊王たちの可愛さに通行人を虜にしながら、時には近所の商店のおばあちゃんに気遣われながら、彼女たちは聞き込みを続けた。次第に人々の心にも同情心が芽生え始めるほどに、何度も何度も行く人に声をかけ続けた。

 すると、ある人がそんな彼女たちに小さな情報をもたらす。


「誘拐?そりゃぁ、大変だね。いつごろの話なの?」

「昨夜十一時頃です。」

「昨日の十一時かぁ……あ、そう言えば、なんか変な人たちは見かけたよ。」

「ほんとですか!?」


 ついに見えてきた兆しに、聞き込みをしていたノアの声が上ずる。


「うん。子ども連れの人たちだったかなぁ。男二人に、片方が子どもをおんぶしててね。子どもの方はぐったりしてたから、もう寝てたのか分からないけど。

その男二人、ジャケットは羽織ってたんだけどね。その下の服が上下黒だったから、時間も時間だしよく印象に残ってたんだよ。」

「その子供ってどんな子か分かります?」

「ええと、子どもの方は黒いジャケット羽織ってたなぁ。それに反して髪の毛が綺麗な白だったから、よく覚えてるよ。十二歳くらいかな。もうかなり大きいのに、何でおんぶしてたんだろうね。」

「白い髪、黒いジャケット、十二歳……」


 ノアはその三つのキーワードが話に出てきたことにより、その子供がソラだと確信した。

話をしている男性はその子供が誘拐の被害者で、男二人のほうが誘拐の犯人だとは思っていない。


(間違いない。その子供がソラくんだ。寝てたってことは、気絶させられてた……黒ずくめの男二人だし、筋は通る。)


 そして、考えを改めて確信に変えたノアは新たな情報を得るために質問を続ける。


「その人たちが、何処に向かったか分かります?」

「確かね、そこにある馬車管理所で話をしてたよ。」


 ノアが男二人の行き先について男性に質問すると、男性はそう言いながら道の奥に位置する馬車の管理所を指差した。

 冒険者たち以外にも、商人や一般の客なども利用する馬車は、先程男性が指した建物で管理されている。馬車便の管理、馬車の貸し出し、御者のスカウト、馬の管理、馬車の預かりや点検まで、馬車に関することは全てやってのける非常に便利な公共施設。そこを男たちが利用したとなると、彼女たちにとってそこに行く以外に手はなかった。


「ありがとうございます!」

「いいや、困ったときはお互い様だよ。無事に救い出せるといいね!応援してるよ!」

「はい!ありがとうございます!」


 男性から励ましの言葉をもらったノアは、新たな希望を胸に、同じソラを探す仲間とともに馬車管理所へと向かった。

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