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第五話 ユニークスキル

 検査されたが失敗に終わった俺は、研究室から地下牢へと連れて行かれた。

 そう。地下牢だ。あまりいい思い出はないが、俺が地下牢に閉じ込められることになったのは何度目だろうか。灰色の石レンガで組まれた長方形の空間に、廊下に面している方の壁は鉄格子となっている。

牢屋内は暗く、光源と言えば廊下から鉄格子を介して入ってくる明かりしかない。かび臭く、湿っぽい。さすがに死臭はしないけれど、他にも多くの人々が他の牢屋に閉じ込められているようで、哀しみがこもったうめき声や口喧嘩の罵声、独り言などがもろに聞こえてくる。

 ったく、何でこんなことになったんだろうな……


《大丈夫だよ、ごしゅじん。私がついてるんだから。》


 まあさっきヘボをしたタルタロスではあるけど、孤独ではないという点では安心だ。

 俺は改めて、牢屋の中及び鉄格子の向こう側を見渡してみる。

 牢屋内には、恐らくベッドであろう粗末な木の台が置かれている。大人一人は横たわれそうな感じだが、見た目がもう既に不衛生だ。ボロボロで、裂けた割れ目からは何か小さな赤い虫が出てきている。

これなら床で雑魚寝するほうがマシだとも思ったけれど、それも駄目だった。床には蜘蛛が這っている。俺は虫は大丈夫な方だけど、雰囲気と状況があれなだけにかなり怖く感じられる。安眠は当分できなさそうだ。

 牢屋の外にある廊下には、衛兵らしき男が二人。どちらも、タルタロスの見立てでは強者だ。

他の牢屋には、日系や東欧系、北欧系など幅広い人種の人々が閉じ込められている。どれもこの世界にいるはずのない人種なので、異世界人なんだろう。全員がユニークスキル持ちで、連れ去られてきてここに閉じ込められているわけだ。全員で反乱を起こせば脱出することも或いは可能なのだろうが、脱出できていないところを見るとその可能性は絶望的だ。

だからといって、こんな薄暗くて不衛生な牢屋にいつまでも留まっているわけにもいかない。しかも何もすることがない。汚い牢屋で、何もすることがない。これはある意味地獄だ。だが、幸いにも俺の向かいの牢屋には日本人らしき少年がいた。タルタロスは居るが、同じ境遇としての話し相手が欲しい。


「ちょっと、そこの君。」


 鉄格子越しに話しかけてみる。最初彼は自分のことだと理解していなかったが、明らかに話しかけてきている俺の姿を見て返事をしてきた。


「……なんだ」


 その声に生きる気力は全く感じられなかった。今の状況に絶望し、もう諦めている感じだ。


「君、日本人?」

「……そうだけど……なんなんだよ」

「俺も日本人なんだよ。」

「……その格好で?」

「そう。前世でトラックに轢かれて、この世界(こっち)に転生してきたんだ。」

「……はぁ」

「一体ここはなんなんだ?なんか知ってる?」

「……」


 少年は黙って俯いた。聞いちゃいけなかったかなと思ったけど、どうやら少し考えていただけのようだった。


「ここは、テロス王国の要塞の一つ。テロスの噂は知ってる?」

「噂?ああ、異世界人を集めてるってやつ?」

「……そう。戦争でも始めるつもりらしくて、僕は一ヶ月前からここに閉じ込められてる。」

「一ヶ月前……大変だな……」

「ユニークスキルのせいでね。ちなみに、君のユニークスキルは?」

「そちらから先にどうぞ」

「僕のは……【一発逆転】。いわゆる運命改変の効果を持つ、運ゲースキル。」

「俺は……まあ驚かないで聞いてよ。【虚無之神(タルタロス)】なんだ。」

「タルタロス……って?」

神之権能(ゴッドスキル)の最高峰、原初之権能(プリミティブスキル)の一つ。」

「プリ……はぁ?何でそんな強力なスキルを?」


 俺の爆弾発言に大声で復唱しかけた彼だったが、途中で抑えてくれた。衛兵に聞かれないようにだろう、そこから先はヒソヒソ声で話し始める。


「まあ、色々あってね。」

「そんな強力なやつがあれば、ここから出るのなんて簡単じゃないか!」

「いや、実はそう上手くは行かないんだよ。」

「なんでだよ」

「君が見たかは分からないけど、男たちのリーダーみたいなゴツい男がいたんだよ。そいつがめちゃくちゃ強そうでさ、あまり戦いたくはないんだよねぇ。」

「ゴツい……ああ、馬車から僕を引きずり下ろしたやつかぁ。そいつが危険なの?」

「うん。タルタロスもそう言ってる。」

「え、そのスキルって喋るの…?」

原初之権能(プリミティブスキル)は自我持ちらしいからね。」

「へぇ……」


 そんな話をして、お互いの情報と推測を交換した後だった。

 牢屋が並ぶ地下室のドアがガチャッと音を立てて開き、話の渦中にあった俺を連れてきた男が入ってきた。思わず距離を置いたが、男の目的はどうやら俺のようだった。男は俺が居る牢屋の前にたち、衛兵に何か指図をして扉の鍵を開け、ズカズカと中に入ってきた。


「来い。」


 たったその一言だけ言うと、俺の腕を乱暴に掴んで無理矢理にでも引っ張っていく。

ここでも抵抗する必要は皆無なので、俺は仕方なく従って男に引っ張られながら歩いた。

 向かいの牢屋の彼の顔が引きつり、青ざめていたのは、俺が素直に従った事を見て男がヤバそうだと気づいたからだろう。他の理由でも、賢い彼ならばむやみに反抗することはない。

 そうして男に引っ張られていき、俺はまた石造りの廊下を歩いていった。

 建物内を巡って男が連れてきたのは、先ほどの研究室。

 また俺の検査を実施するつもりなのだろうか。

 いや、待てよ?確かユニークスキルを確かめるんだったな。じゃあ、タルタロス自身は妨害するとしても、ユニークスキルを持っていないという判定になる俺はどうなってしまうんだ?

そんな不安が、突然頭をよぎった。タルタロス、何とかできないか?


《えっと、何とか?どうしよ…えとえと、とりあえずごしゅじんの【千里眼】を進化させてみるね!》


 なんとも力技な返答が聞こえてきた後、目の前で研究室の扉が開けられ、俺は乱暴に部屋の中には入れられる。それと同時に、頭の中に若干タルタロスの声と似ている、今までに何度か聞いた世界の声が響き渡った。


『―!【千里眼】が、ユニークスキル【一望千里】に進化しました!』


 なんか最初の方ドタバタという音が聞こえたが、無事に進化したという報告のアナウンスが流れ、とりあえずは一安心だ。

 というか、そんなに簡単にスキルって進化できるものなのか?


《えーと、色々話すと長くなっちゃうから簡単に話すけど、実は【千里眼】のほうがユニークスキルになるはずだったの。でも【諸行無常】っていう私の前身を獲得しちゃったから、スキルになっちゃったってわけ。

だから、ユニークスキルとしての素質は元々あったから、私がちょっといじっただけで進化できたの。》


 なるほど。なんだか腑に落ちるような落ちないような理論だが、結果的には最悪の展開は回避できそうだし、後はさっきの【一望千里】を前面に押し出すことで、俺はユニークスキル持ちということになる。素晴らしい。


「さっきは失敗したが、次こそは測れるはずだ。」


 何処か自慢げに豪語する研究者の男。俺を引っ張って奥の部屋へと連れて行き、俺をカプセルの中に押し込んだ。

 特に抵抗もしなかったのであっさりと終わり、カプセルは閉じてスキャンが始まる。

 レーザー光線のような眩いフラッシュを受けて目に少々ダメージを受けたが、何とか検査は終わったようだった。


『なるほどな……感知系のユニークスキルと、魔力が異常に高いな。』


 あれ?魔力測れたのか?単にこの器具の性能がいいだけなのか、今までは最上限の数値だったり測定不可だったりするんだけど。魔力が高いというだけで納得できた数値なのか?


《多分だけどね、セトから流れてきてた魔力が、あの人が消えちゃったから元の状態に戻ったんだと思う。それでも、半年もあの魔力が身体に流れてたから、すっかり闇属性の魔力に順応しちゃったみたいだけどね。》


 確かに言われてみればそうだ。悲しいけれどセトが死んでしまったから、繋がりが消えて俺に魔力が流れてこなくなったんだろう。ただ、男の反応を見る限り俺は素でも魔力が高いらしい。魔法がこれからも使えるのは嬉しいことだ。

 男はカプセルを開く操作をして、俺をカプセルから引っ張り出した。そして何やらコンピューターのような魔導具に向かい、細かな操作をしている。

 (しばら)くして、文字が大量に印刷された文書のような羊皮紙を持って外で待っている男に手渡した。

 男は少し書面に目を通した後、無言で研究者に頷いて俺を掴んで廊下に出た。

 そのまま無言で廊下を引っ張られていく俺は、またあの牢屋へと戻ってくることになったのだ。

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