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第四話 三人娘の苦悩

 コンコンコンと、静かな寝室に軽やかなノックの音が響き渡る。午前七時、朝食の用意が出来たことを知らせに、まるで日課のようにルミアが起こしに来た。

 部屋の主が不在だと気づく、数十秒前だった。


 「ソラさーん、朝ごはんができましたよー。」


 部屋の外でルミアがそう呼びかけるが、いつもはガサゴソというシーツが擦れることと眠そうなうめき声が聞こえてくるはずが、今日は一切の音が聞こえて来なかった。


 「ソラさーん?起きてますかー?」


 そう呼びかけても、反応はない。不審に思ったルミアがドアを開けてみると、彼女にとって一大事とも言える光景が目に飛び込んできた。

 誰もいないベッド。ソラの気配はその部屋にはない。


「―――っ!?」


 はっと、やっと状況を理解したルミアは廊下を走り、階段を駆け下りて一階の玄関まで急いだ。

 玄関にはソラの靴はない。だが。部屋には杖と剣があった。つまりこれが指すもの、ルミアには全く見当がつかなかった。


(信じたくはないけれど、家出だとしたら、装備や荷物は持っていくはず。誘拐なら私たちが気づいている。だというのに、ソラさんは恐らく外に。どうして?)

「どうかしましたか?」


 ソラの姿が見えない理由に必死で頭を回転させていたルミアに、後ろから声がかけられる。ルミアが走っていく姿を見たノアと、リーベだ。


「ルミアちゃん、何かあったの?」

「んー?なんか走ってったけど……」


 その後ろから、リュナとリア、シエラも駆けつける。

 ルミアは自分だけではどうしようもできないと思い、今朝見た事を打ち明けることにした。


「部屋にソラさんがいません。靴がないので、恐らく外かと。誰か、ソラさんが何処に行ったか知りませんか?」

「ソラさんが!?」「ソラくんが!?」「ソラ君が!?」「お兄さんが!?」


 ルミアの口から発せられた衝撃の事実に、一斉に驚きの声を上げる。ただ、彼女たちは冷静だった。


「待って、一旦落ち着こう。ソラ君が突然いなくなったんだよね。それだったら、まず手がかりを探さないと。」


 リュナの最もだと言える意見に全員頷いて、それぞれでソラが消えた理由の手がかりとなるものを探し始めた。

 ノアとルミアはソラの部屋へ。リーベとリアは幽霊たちへの聞き取りへ。シエラとリュナは精霊王たちへの聞き取りへ。それぞれが自分がやるべきことを理解し、動き出した。


 ノアとルミアは、ソラの部屋にて手がかりを探していた。

 ソラが迷宮で獲得して以来ずっと愛用している刀は、杖と一緒に壁に立てかけてあった。ベッドは綺麗に整えてあり、まるで自分の意志で外に出ていったかのようだ。

着替えの服は上着が一枚なくなっている。が、それに二人が気づくことはない。

財布等の荷物類も全て部屋においてあり、誰かが暴れた痕跡も特にない。

窓も割られていないし、鍵に細工されていた痕跡もない。

 手がかりがない部屋の中を捜索し、彼女たちはある一つの手がかりを得た。


「……どう思います?」

「……一メイドの意見としてならば、述べさせてもらいます。ソラさんは、外で誘拐されたんじゃないかと。」

「そうなりますよね。」


 彼女たちは、その結論に至った。そこに至るまでの根拠が、部屋の中には十分に残されていたからだ。

 整えられたベッドのシーツと掛け布団。争った痕跡や、侵入された痕跡のない部屋。ほぼ全てが残されたままの荷物。


 「どう考えても、この状況で家出も誘拐もあり得ない。」

「そうですね。矛盾点が多すぎる。

家出だとしても、拉致だとしても、辻褄が合わない箇所が多数ありますから。」


 十数分の捜査によりその結論を出した二人は、他の四人に報告するべく一階へと戻っていく。


 一方リーベとリアは、屋敷の何処かにいるであろう幽霊四人を探していた。


「幽霊さんたちー!」

「何処にいるのー?」


 彼女たちにも幽霊の姿は見えるが、何処にいるかは全く分からないので屋敷内を呼びかけながら回るしか無かった。

 だが、思ったより早く四人は現れることとなる。


 『どうしたの?お姉さんたち。』

『フフフフフ。私たちに何か用?』

「ああ、幽霊さんたち、お兄さん知らない?」

「ソラさんがいなくなったの。」

『あのお兄さんが?』

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ああ…私のせいだ……ごめんなさいごめんなさいぃぃ……』


 いつもの調子の幽霊たちだが、リーベはとある部分に疑問を覚えた。この短い会話の中でも、言っている内容に、気になる部分が混ざっていたからだ。


 「ちょっと、『私のせいだ』ってどういう事?」

『ひ、ひぃぃ……ごめんなさい、ごめん、なさい、余計なことのせいで、私、もう喋りませんからぁ……』

「そ、そういうことじゃなくてです。『私のせいだ』って言ってたけど、何か知ってるの?」


 彼女が謝罪の中で発した、『私のせいだ』という一言。そこに彼女は目をつけた。リアはそのことについて全く気づいていなかったが、リーベだからこそ気づけた点だろう。


『ごめんなさい、私、ごめ、ん、あ、ごめんなさい……』

「教えてくれない?」

『うぁぁ……ごめんなさい、お兄さんが消えたのは、多分私のせいだ……ごめんなさい!ごめんなさい!お願いだから殴らないで!ごめんなさぁい!』


 大きな勿忘草色の瞳から、大粒の涙をボロボロとこぼしながら必死に謝罪を続け始める少女。癇癪を起こした彼女をなだめたのは、隣にいた無口の少年だ。


『安心して。ここにはもう、殴る人はいない。だから、泣くな。』

『うぅ……ひっぐぅ……うぐぅ……わ、私、すぐ泣いちゃって、ごめん、なさい、許して、お願い……』

「……過去に何があったかは聞かないでおきますね。

それで、『私のせい』って、どういう意味?」


 涙を拭うために目を擦る少女は、落ち着いたのかやっと話せるようになった。

 だが、内容が少女の罪悪感を強くする。


『………あのお兄さん、夜、外に出たの。あの、猫の耳のお姉さんと同じように、それで、私、窓から見てたの。そしたら、お兄さん、後ろから殴られて……うぅ……そ、れで、変な人がお兄さんを連れ去って……うっぅ……私が、見てたのに、助けられなかったし、伝え、られなかったから……みんなに心配かけることになっちゃって、私の責任、ごめんなさい、あやまっても許されない、けど、私には謝ることしかできないから、だから、ごめんなさい、私のせいで、うぅ……おにい、さんを、うぁ……ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ……』


 少女の拙い説明だったが、同年代であるリアはその内容を完璧に理解できた。要約して分かりやすくした内容をリーベに伝えると、ようやくリーベも理解できた。伝えきれたものの再び泣き出した少女を、少年が背中を擦りながら慰める。


「ありがとう。ソラさんが見つかったら、すぐに連れて帰るから。」

『うん。頑張って。』

『フフフ。お兄さんに責任取らせないとね。フフフフフ。』


 そして二人はお礼を言った後、回れ右で一階のリビングへと戻っていった。


 リュナとシエラは、精霊王を探していた。幽霊たちと同じく屋敷内にいるはずだが、全員自由人なため何処にいるかは皆目見当がつかない。

 ヒナタ、メイ、クロノ。この三人のうちの誰かから話を聞ければ万々歳だが、いかんせん見つからない。

 屋敷中を探し周り、やっとの思いでヒナタを見つけたのはノアの部屋だった。


「ヒナタちゃん、ソラ君が何処に行ったか知らない?」

「❦❀✲✡✵✤✩」


 言語と言えるのかも分からない謎の言葉を話す美少女ヒナタだが、リュナは自身のユニークスキルによりそれを翻訳し、理解した。


「えっと……何言ってましたか?」

「『知らないけど、クロノなら知ってると思うよ』だって。」

「また探さないといけないんですか……」


 そうして、二人はヒナタと別れた後再び屋敷を巡り始めた。

 二十分程経ち、ようやく見つけたのは屋敷の庭。メイとクロノは、仲良く花壇の手入れをしていた。


「メイちゃん、クロノ君、ソラ君が何処に行ったか知らない?」

「↩?↳↭↛↬↦」

「↻#”/}>|'」


 喋っていることは違うもののお互いに言語が通じているのか、二人は暫し考えてから相談し始めた。

 そして、シエラには全く分からない言語での応酬が続いた後、二人の中でやっと結論が出せたのかクロノが振り向いてリュナに告げる。


「↫⇃↦」


 勿論その言語はシエラには分からないため、リュナがどう翻訳したかを聞く必要があるのだ。


「なんて言ってました?」

「『知らない』って。」

「そうですか……」


 振り出しに戻り、今までの努力が一瞬にして無駄になった。精霊王たちは何も知らないから、リュナたちは諦めて他の意見を聞くために一階のリビングへと戻っていったのだった。


 そして、各々が情報を得てリビングに集結。ソラを探すための作戦会議が行われることになった。


「みんな揃ったところで、お互いに報告し合おうか。」

「私たちはソラくんの部屋を調べ、その結果一つの仮説を立てました。荷物は全て残っていて、部屋で争ったような形跡もなかった。つまりこれは、ソラくんは外に出たところで誘拐されたんじゃないかと。」

「それ、私たちも同じだよ。幽霊の子たちに聞いたんだけど、お兄さんが外に行ったときに得体のしれない人たちから殴られて、何処かに連れて行かれたのを見たって。」

「外に…ソラさんは何故外に行ったんでしょうか」


 お互いに得られた情報とそこから導き出された結論を話し合う中、ルミアがとある疑問を呈す。

 それについては誰も分からず、質問に答えられそうな確証も無かった。


「それは分からないですね。私たちの方は収穫は何もなかったので、こればかりは考察になりそうです。」

「幽霊さんが、ノアさんと同じように外に出ていったと言ってましたけど……」

「私と同じように?」

「ああ、確かそんな事も言ってたね。」

「私と……襲撃の前夜のことでしょうか。あの時呪いによって蝕まれていましたが、気分を晴らすために星空を見に行ったんです。ソラくんがいないからこの際話しますが、必ずこの呪いを解いてソラくんを守ってみせるって。結果的に、ソラくんと精霊さんたちに守られましたけど。」

「じゃあ、ソラさんはその事を知ってたんでしょうか。」

「知ってたのかも知れないですが、外に出たせいでソラくんが拐われたと考えてもいい気がします。」

「そうだね、結論はそこに辿り着く。」


 彼女たちは、ソラが外に出たときに誘拐されたという結論を前提にした、これからどうするべきかという話し合いを行い始めることに。


「で、ソラ君をどうやって探すかなんだけどね、その男たちが何処に行ったか目撃証言を探すべきなんじゃないかと思う。」

「場所はアクロの中ですもんね。たとえ真夜中でも、見た人はいるはずです。」

「怪しい人とか、そういった類のものに賭けるんだね。私たちも協力する。」

「幽霊さんたちと、精霊さんたちにも協力してもらうよう頼みましょうか。」

「それがいいと思います。」

「それじゃあ、今日の昼からでも街に繰り出してみようか。」

「「「はい」」」


 こうして彼女たちは、冷静沈着な素早い判断で、ソラを救出するための行動を取り始めたのだった。

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