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第二話 馬車の行き先

 「はぁ……」


 これからどうしよう。いろいろ考えてみた結果、どうもこの馬車はテロス王国へと向かっているようだ。

先日カイルたちから聞いた話を思い出した。テロス王国が、ユニークスキル持ちを集めていると。俺はどうやら、あの時後ろから殴打されて気絶していたらしい。


《ごめんなさい、私が注意してれば……》


 タルタロスは悪くないよ。仕方なかっただけだ。俺が気づかなかったのも悪かった。

なんてことを言っても気休めにならないのは二人ともわかりきっていて、現在次とるべき行動を画策中。

 とりあえず、情報収集の一環として前の小窓を覗いてみた。御者の男が二人座っていて、何やら会話をしていた。幸いにも俺の存在は気づかれず、会話を盗み聞きすることに成功。


 「いやー、今回も成功だな。」

「全くだ。情報部からのデータ見て心配しちまったが、案外大したことねえガキじゃねえか。」

「でも、こいつがユニークスキル持ちなのか?とてもそうは思えねぇが。」

「案外、生まれたときからユニークスキル持ってたりするらしいぜ。俺たち凡人にはいくら頑張っても手が届かない力だが、このガキはきっと天が味方したんだろうよ。」

「なるほど。で、このガキで何人目だ?」

「えーと……俺たちが捕まえたやつで八人目かな。全体で七十は行ってんじゃないか?」

「そんなに強者集めて、どうするつもりなんだ。戦争でもおっ始めんのか?」

「お前、上からの話聞いてなかったのか?軍隊に編成するための人材にするためだから、どうせ戦争に使うんだろうよ。」

「へぇ~。ガキが戦争なんてねぇ……まあ女でもユニークスキル持ちだったら並の男よりは強いわな。」

「そう。しかも新型兵器もあるらしいから、多分俺たちの勝ちだな。」

「新型兵器?なんだ、そりゃ。」

「ほんと話聞いとけよな。噂だが、鉄で出来た遠距離武器と巨大な砲台みたいなものらしい。他にもいろいろとあるようだが、どうせ剣と魔法にしか頼らない各国を出し抜けるってわけだ。」

「なるほどな。」


 ……そんな大事な情報、俺が聞いちゃっていいのだろうか。こいつら、盗み聞きされているとも知らずに俺が知りたかった情報を面白いほど話してくれる。

 この会話の中に含まれた沢山の重要な情報には、一部看過できないものだってある。

 新型兵器の話だ。これがもしも俺たちの世界の兵器のことだったら、この世界の国々はほとんど終わったようなものだ。剣と魔法の、集団戦に特化した各国の戦い方。対して、対策の取りようもない初見殺し兵器たち。そんなもの、兵器の方が強いことなんて見え見えだった。

 ただ、それを知れたところで俺はどうしようもない。悟られずに馬車から降りられればいいけれど、俺はそんな技持ってないからまず百パーセント捕まるし、たとえ成功したとてそこからどうやって帰ればいいのかという話になる。

 というわけでタルタロス、何かいい案ないか?


《私?うーんと……馬車乗っ取るとか?》


 却下。それだと危なすぎる。俺は馬の操縦とかできないからね。


《じゃあ、いっそスパイ活動したら?》


 スパイ活動?


《うん。わざと捕まったままで、忍び込むの。そしたら相手の基地の中でいろいろ探れるでしょ?》


 なるほどな……それいいかもしれない。戦争は情報戦から始まるって言うし、今は魔法通話が使えないけどもしかしたら内部情報を渡せるかもしれない。

 どう抗っても現実的な案なんて無いんだし、いっそ諜報員になってみるか。


《ジョブチェンジジョブチェンジ!》


 場の流れで諜報員になった俺は、とりあえず今の持ち物を確認してみた。

 寝る時に着ていた普通の服と、ジャケットもどきの上着。杖は無い。刀も、勿論無い。使えそうなものも無い。ポケットには何も入ってないし、馬車の中に何か置いてあるというわけでもない。

 つまり、この何も無い中で策を立てろと。無理だろそんなの。プロの諜報員じゃあるまいし、今の俺は拉致監禁されたただの可哀想な子供です。

 馬車は進む中、文字通り一文無しの俺にできることは無かった。魔法でこの馬車を吹き飛ばすくらいしかできないけど、そんな事をしたら帰れなくなる。

 この際、目的地に着くまで待っていたほうがいいのだろうか。

 そう考えた俺は、この状況下何もすることなくただ壁にもたれかかり、座って時を過ごした。

暇だったので、タルタロスに話し相手になってもらったけど。

 この空き時間に、タルタロスの権能について色々と説明してもらっていいか?


《いいよ。私の権能はね、五つあるの。【諸行無常】、【全限界解放】、【魔法超越】、【絶対防御】、【格差の王】。詳しく説明すると―――》


 【諸行無常】……進化前の権能と同じく、魔法やスキルの無効化が可能。一部例外はあるが、ほとんどの神之権能(ゴッドスキル)の効果と全ての核撃魔法以下の魔法を無効化する。


 【全限界解放】……魔力、身体能力、感情、体力、命、その他様々な概念の限界をぶち壊すことができる。いわば【百花繚乱】の最上位互換だが、【全限界解放】は身体に負担がかかり過ぎるのでオススメは出来ないそう。


 【魔法超越】……核撃魔法以下の、この世に存在してかつ自分が知っている魔法を使うことができる。魔法系のスキルの効果を自分が使えたり、魔力の制御や術式の解読・操作がより簡単になる。


 【絶対防御】……書いて字のごとく、絶対に防御する技。対象の攻撃を異空間にそのまま放り込むことで、理論上は幾らでも防ぐことができる。


 【格差の王】……【混沌之神(カオス)】、【創造之神(ガイア)】、【虚無之神(タルタロス)】の三つの権能は、原則として他の権能に負けることはない。だが、原初之権能(プリミティブスキル)の場合は苦戦は必至である。

主に相手の権能が何か分かったり、相手の権能を相殺できたりする。


 なんていうぶっ壊れチートスキルだった。オーマイゴッド。タルタロスの話によると、カマエル戦の時に使った権能は全てであり、特に【全限界解放】を長時間使用したためとっくに人間としての体の限界は超えていて、死の淵に突き当たったところで神器によって解除されたんだそうだ。

 ところで、神器ってのは?


《神器は、この世界に十三個あるアイテムなの。ほとんどがガイアによって創り出されたものなんだけど、稀に実物自体は存在しない神器もある。

十三のうちの七つは、カイルたちが持ってた武器ね。

アスカロン、ケーリュケイオン、ミストルティン、ラブリュス、アムリタ、アセイミー、グングニル。残りの六つのうちの一つが、南の魔王コウが持ってたエクスカリバー。もう一つが、セトが持ってたグラム。》


 え?セトが持ってたやつって、俺の刀だろ?まさかそいつ、神器だったのか?


《いや、グラムっていうのは、形無き神器なの。特殊なオーラを纏って神に等しい力を込められた刀が、グラムに変質するの。そのオーラを纏っている時だけだけどね。》


 そうなのか。じゃあ、セトとコウは神器同士で戦っていたということになるのか。で、残り四つは?


《それが、私もわからないの。二つの名前はわかるんだけど、四つとも何処に有るかはわからない。

その二つの名前が、レーヴァテインとアメノムラクモ。》


 アメノムラクモ……確か日本神話だよな。八岐の大蛇(ヤマタノオロチ)の尾から出てきたとされる、別名草薙の剣。三種の神器だよな。

もしかして、残りの二つって……


《三種の神器……その可能性はあるね。何に使うのかは全く分かんないけど。》


 三種の神器。草薙の剣(クサナギノツルギ)(別名天叢雲剣アメノムラクモノツルギ)、八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)八咫鏡(ヤタノカガミ)。実際に戦闘で使えるのかは不明だけれど、この二つが残りの神器である線は濃厚である。というか、アメノムラクモが出てくるなんて、もしかしてその神様日本神話の知識でもあったのか?


《分かんない。ガイアに一回聞いたことあるんだけど、そのときは『主様が面白かったんだよ』って。》


 じゃあその『主様』がこの神器を創ったと見て間違いないな。

 ……アメノムラクモ……?この世界に来て何処かで聞いたことがあるような気がするけど……


《何処?》


 うーん、思い出せない。まあそのうち思い出せるだろう。

 そう割り切ってふと、小窓から外を見てみる。すると、いつの間にか城塞都市のような街に着くようだった。


《ごしゅじん、不安?》


 まあ、そりゃ不安だとも。拉致されて、知らないところに連れてこられて。頃合いを見計らって、反逆してみようかな。俺にはそれくらいの力があるわけだし。

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