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第一話 目覚め

 俺は揺れと背中の痛みによって、目を覚ました。

 目を開けてみると、視界に入ってきたのはいつもの部屋の天井ではなく、木でできた小屋のような場所の中だった。大の字で寝転がっていた俺は、寝ぼけた頭を急いで働かせながら起き上がってみる。

 先程から感じている振動に加え、ゴゴゴゴゴと轟音が聞こえてくる。

 痛む背中を労りながら、俺は状況を理解するためにあちこちを調べてみることにした。いや、もう既にここが何処かなんて見当はついているんだけど、念の為だ。

 小窓のような小さな木の扉が三ヶ所、壁についている。一つを開けてみると、そこからは凄い速さで通り過ぎる草原の景色が見えた。それで確信が持てた。


「―――はぁ!?」


 ここは馬車の中だ。


◀ ◇ ▶


 南の魔王城から帰還した翌日のことだった。俺はベッドの上で目覚め、ズキズキと痛む左腕を押さえながら昨日起こったことをタルタロスに確認した。


《昨日なんでノアの呪いが解けたかって?

ええとね、ごしゅじんが連れ出した精霊王が三人いたじゃん。あれの属性の相性が良くて、私の補助をしてくれたから、呪いが解けたの。》


 精霊王の属性……なんだっけ。


《陽と命と刻。陽で呪いを緩和して、命で回復させて、刻と私の【諸行無常(ディスペル)】で呪いを無かったことにする。これであの女は助かったの。

多分ごしゅじん、セトに続いてあの女まで死なせてたら廃人になってたと思うよ。》


 だそうだ。説明もつかないような奇跡が起こったのかと思ったけれど、ちゃんと根拠はあったらしい。それでも、俺が何の気なしにとった行動がこうして人の命を救うパターンが多くて、まるで一挙手一投足が重要だと思えてくる。そんなはず無いけれど、あの時あの選択は神がかっているとしか思えない。あの時の自分に感謝、そして協力してくれた精霊たちとタルタロスに感謝だ。


「❀✙❦✪!」


 見ると、ベッドの横の椅子にはちょこんと座るヒナタが。かわいい。


《『良かった!』って。》


 どうやらヒナタも祝福してくれているようで、俺はベッドから起き上がりヒナタを連れて一階へ。

 一階のリビングには、面子が勢ぞろいしていた。世界最強の七人、ルミアたち三人、リュナたち三人、幽霊四人、ヒナタ以外の精霊王二人。


「おはよ、ソラ君。」

「おはよう。」


 俺は空いていた席に座り、ヒナタが何故か俺の膝の上に座ってくる。その微笑ましい以外の何物でもない光景を目の当たりにしたリュナたち三人は少し羨ましそうな目線を向けてきたが、すぐに冷静になった。幼女相手に闘争心を燃やすのはダメだと思ったのだろうか。


「それで―――」


 カイルが口を開いた。質問されることは理解しきっている。後はどう説明するかだ。


「セトは、どうなったんだ。」


 ―――覚悟はしていたが、大変説明しづらい。「無理しなくていい」とサーシャたちがフォローしてくれるものの、俺には真実を伝える責務がある。


「セトは―――」


 俺は真実を一切合切話した。セトが討伐に向かった経緯と、そこで起こった出来事。セトが死んだ時の話も。全員が静かに聞いてくれた。

 辛かったけれど、セトはもういない。あいつは、ライバルを倒すのと引き換えに自分の命を犠牲にした。ただポツンと残された刀だけが、結果を物語っていた。


「大変だったな。」

「ソラ君は何も悪くないよ、きっとセト君は何時か戻ってくるから。」


 全員が励ましてくれるが、たとえ神であろうと消滅したら戻ってこないことはわかりきっている。失われたものはもう戻らない。そんな事ができたら苦労しない。


「セトが死んでしまったことは悲しい。だが、ソラには悪いが俺たちはここで折れるわけにはいかないんだ。ソラと、ノアとシエラと……ソラが連れてきたそこのガキどもは知らないだろうが、世界情勢が今不安定にある。何時崩れるかも分からない。そうなれば世界は大混乱に陥ってしまう。」

「カイルが難しく言ってるけど、要は戦争が始まりそうってことね。ったく、少しは要点ぐらい纏められないの?」

「うるせぇな、俺が説明下手なのはわかってるだろ。」

「えー、そうなんだー。知らなかったなあ(棒)」

「知ってたろ棒読みで言うな。そして邪魔すんな。」


 茶番が繰り広げられているが、話の重さからしてそんな状況ではないと思うんだが……


「ゴホン、サーシャが言った通り、もうすぐ戦争が始まる。多元大戦程ではないにしろ、かなり過激になりそうだ。」

「ゆうたら、世界大戦みたいなもんやな。プロタ王国、テロス王国、ディナスティア魔導帝国、デントロ自然公国、あと西側諸国。大陸中のすべての国を巻き込んだ、ごっつ強いもん同士のぶつかり合いが始りそうなんや。ほんでワイらもそれに参戦せなあかんわけやけど、お前らはどうするんやっちゅう話をしに来たわけや。」


 戦争か……歴史上、戦争というのは人類が起こしたもので最も残酷だと思う。事実日本に核爆弾が落とされたのもそれが原因だし、原爆の他にも東京大空襲とか沖縄戦とか、今でも各地に戦争の爪痕は残っている。俺が転生する前は、中東戦争とか世界でも未だに起こり続けていた争い。

 でも、考えてみればこの世界の戦争はもっとやばいんじゃないか。

核兵器とか銃とか戦車とか、そういう系の文明の利器は無いにしても、魔法やスキルがあるのだからその分激化しそうではある。さらに、この世界ではいつ死ぬかも分からない。その分命の重さに対しての考え方がルーズなんじゃないか。負けたら虐殺なんて当たり前、そんな世の中であってもおかしくはない。


「あと、一つ付け加えておくにゃ。今回の戦争において火種とにゃっているのは、西に位置するテロス王国。この国はまあいわゆる覇権主義で有名で、大陸でも一番の軍事国家にゃ。にゃからプロタよりも面積は狭いけど、巨大な軍隊を抱えてるのにゃ。私が調査した結果にゃと、ざっと二百万は居るかにゃ。テロスの人口はおよそ六千万人。徴兵令にゃんかもあるから、もしかしたら強者も多いかもしれにゃい。しかも、カマエルの襲撃で多数の人々が殺された後から、あの国はにゃにか不穏な動きを見せてる。無事だった異世界人にゃんかを集めているようだにゃ。多分ユニークスキルが目当てだと思うから、ソラくんたちは要注意だにゃ。」


 異世界人を集めている……異世界人が界渡りの際に必ず獲得する、並の人間よりも強力な力、ユニークスキルを集めようって魂胆だな。それで言ったら俺たちのパーティはユニークスキルだらけだし、俺は異世界人だからもしかしたら危ないのかもしれない。


「大丈夫ですよ、ソラさん。私たちが守ってあげますから!」

「そう。シエラちゃんの言う通り。ソラ君だけは、連れて行かせないからね!」

「ソラくんには何度も助けられましたから、これからは私たちが守る番です。私に抱きついてくれたこと、ちょっと嬉しかったですよ。もう私たち夫婦でいいですよね。」

「あ!ちょっとノアちゃん!抜け駆け禁止!」

「ノアちゃん、ずるい!」

「シエラちゃんはともかく、リュナちゃんは見てたじゃないですか。」

「ぐぬぬ……」


 ……最後で台無しなんだけど。ちょっと落ち着けないのか?この三人は。まあ確かに抱きつきはしたけど、あれはノアが助かってホッとしたからで……もういいや。


「……大変だな、ソラ。」

「まあ……」

「ええやないか、べっぴんさんに囲まれるなんて。」

「シグ、もしかして私たちが美人じゃないとでも?」

「そうにゃよ。」

「ま、まあそれはそれでやな……」

「「誤魔化すな!」」

「は、はい……」


 こっちはこっちで大変そうだ。全く、静かなのは精霊たちと幽霊たち―――


『フフフフフ。お兄さん、慕われてるね。』

『そりゃそうだよ、僕たちを助け出してくれたんだから、それほど器が広いってことだよ。』

『うう……私たちのために手を煩わせてしまってごめんなさいぃぃ!』

『それでいいんじゃない。』


 そうでもなかった。前言撤回。静かなのは、椅子に座ってオレンジジュースを飲んでいるメイとクロノ、そして俺の膝の上で行儀良くしているヒナタの三人だけだった。

 こうしてみるとかなり大所帯になったわけだけれど、どうやら七人はもうすぐ王都に帰るようだ。

 彼らの出発は明後日。話し合いはもう破綻したも同然なので、そこで打ち切って各々自分の部屋に帰ることにした。

 そしてセトのいない生活が始まり、その日の夜が訪れ、また朝になる。そしてまた、何の変哲もない一日をクエストをこなしながら過ごして、夜の帳が下りる。

 でも、その夜俺がなんとなく外に出たのが駄目だった。星がきれいだなぁと、上着を羽織って寒空の中外に出てみた。中央街の噴水の縁に座って(しばら)く夜空を眺めていたのだけれど、誰かの足音が聞こえたあとそこからの記憶がない。

 後頭部に鋭い痛みが走り、同時に鈍い音が静かな街に響き渡る。一瞬にして意識は奪い去られた。


◀ ◇ ▶


 回想シーン、終了。そんなこんなあって、次に目覚めたときは馬車だった。


「…………何故?」


 そう呟いても、何処かから答えが返ってくるはずもなかった。

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