第十六話 別動隊の動き
転スラは普段書籍で読んでいるんですが、なろうで読むとすごいですね(小並感)。
あの文章量は今の僕には真似できません。
流石は大人気作品。
〜前回のあらすじ〜
ミカエルが人質を閉じ込めた建物六つのうち一つを制圧しました。
◀ ◇ ▶
セト視点
街の内部に侵入し、目標場所の制圧のため、六つのグループに分かれる事となった。
我は勝手に役所という場所の攻略部隊に割り振られ、ソラとリュナと離れ離れになってしまった。
ソラはルミアとかいうメイドと一緒だったので大丈夫だとは思うが、リュナは正直心配なところだ。あやつはユニークスキルの所持者なのだが、ソラと同じく戦闘系のスキルではない。
リュナが無事帰ってこられるかは、グループのメンバーの二人に任せるしかないが……我のグループははっきり言って論外だろう。
見るからに盗賊な風貌の、肌の露出が多い華奢な小娘と、魔法杖を携えてやや大きめの紫のローブを羽織っている女。こんな構成、明らかに我が前衛をやれと言っているようなものだ。
しかも、この二人、我を見つめて動こうとしない。何故かはわからないが、二人から緊張感が感じられないのだ。
――そういえばソラが出る前にそんな事を言っていたな。ソラはこんな状況で立て直そうとしてくれていたのか……
今までの態度が悔やまれる。
ええい、くよくよしている場合ではない。
さっさと事を片付けて、早くソラとリュナと合流しなければ。
我は今回の作戦について全く分からないが、行くべき道はこの魔法女が知っているはず。
「おい、道がわからないから先導してくれ。何に見惚れているか知らないが、今は戦争中だ。気を抜くな。」
我がそう呼びかけると、女はハッとしたように動き出した。
「ああ、失礼しました。役所でしたっけ。それならこっちの道です。」
そう言って、女は今まで来た方向を指す。
そちらの方向へ進んで行くと、大きな建物があった。
アクロに入り、それから中央まで来るときは皆警戒していてわからなかったが、改めて見てみればかなり目立つ大きさだ。
いくら我と言えどもいきなり奇襲などあろうものなら対処は難しい。そのため現状遠目から見ているが、あの建物の近くには小鬼の兵隊がいるだろう。
そうして我が敵の動きに警戒していると、いきなり盗賊女が駆け出していった。
さっきから何を考えているかわかりにくい女だとは思っていたが、突然無策で敵地に走っていくなんてバカなのだろうか。考えが足りていない。
飛び出していった盗賊女を止めるように魔法女が後を追いかける。
愚かなことに無警戒で二人が行ってしまったので、一応二人を守るためにも我も行かなければならない。
そうして愚か者二人の所為で役所の前まで来たが、我の心配は的中。当然、警戒していた兵隊はいた。鉄の鎧で完全武装している大鬼ども。ざっと二十体程だろうか。
この数、そしてこの距離ならば我なら苦戦せずとも勝てるが、少し好奇心が湧いてきた。この愚か者である女二人が、大鬼たちを相手取ってどうするのか見ものだ。
大鬼の兵隊たちを視界に入れると、案の定というべきか、二人は攻撃を開始しに走り出した。盗賊女は攻撃を器用にかわしながらタガーで攻撃しようとしているが、とどいていない。そして魔法女は後ろから攻撃しようとしているが、別の大鬼によって攻撃され、何も出来ずに防戦一方になっている。
二人の戦闘の現状を簡潔にまとめると、二人とも一切攻撃が出来ていない状態だ。
――あれから暫く見ていたが、女は魔力切れで逃げ惑うだけ。そして盗賊女は体力が切れて逃げ惑うだけだ。
もう既に攻撃どころか防御も出来ていないので、この戦いをを進展させるためにもそろそろ我の出番かと思い、【混沌之神】を使って魔力で生成した紫色の太いトゲで、追手の二十体を貫く。
「わあ、セトさん凄い!」
「ありがとうございます!」
「…………」
いくら持て囃されても、今となってはこやつらの弱さに呆れ果てて何もいえない。
「良いからさっさと制圧するぞ。」
「「はい!」」
我がほとんど殲滅した後、我らは役所内に侵入し、それぞれ部屋を探索した。
何人か見回りの小鬼がいたが、女二人に任せて我は次々とドアを開けていく。
一階には誰もいなかったが、二階で三十人ほどを見つけることが出来た。全ての部屋を探索し、他には誰もいないことを確認。
救出したはいいものの、この人間たちをどうしたらいいのだろう。置いていくべきか、連れて行くべきか。
そう我が悩んでいると、魔法女が口を開いた。
「ここは安全なので、この人たちはここに置いていって、私たちは援軍に向かいましょう。」
「わかった。だが、援軍といってもどこに行けばいい。」
「そうですね……大聖堂かギルドでしょうか。」
大聖堂は……ソラがいるところか。
たとえあの堕天使がいたとしても、あやつなら大丈夫だろう。
「じゃあ我らはギルドに向かおう。大聖堂はソラがいればなんとかなる。」
「わかりました。ギルドはあっちです。ギルドにはリーダーがいるので早めに向かったほうがいいと思います。」
制圧した役所内の人間を全員救出したため、我ら三人は次なる目的地、ギルドに向かうことにした。
◀ ◇ ▶
リュナ視点
制圧作戦が始まって、私は学校の班になった。
セト君やソラ君と離れ離れになってしまったけど、グループのメンバーは頼りになりそうな男性二人。一人が斧を担いだ逞しい体つきの男性で、もう一人が長い剣を持った若い男性。
剣の方は見たことがある。確か……剣鬼さんの弟子だったかな。ミカエルの戦いで敵の軍に飛び込んでいった二人のうちの一人。
私は一応こんななりでも剣士だけど、ソラ君やセト君の言う通り、私に剣での戦いは向いてない。だから、今回の戦いはこの人たちに任せようかな。
二人は張り切った様子で学校へと向かっていく。私はその逞しい背中を眺めながら、二人の後をついて行く。
アクロは見知った街だけど、人がいなくて閑散としてる今だとまた違う雰囲気がある。静かすぎて、何処か怖くもある。
そんな誰もいないアクロの雰囲気に浸っていたら、気づいたら学校についていたみたい。
学校といっても敷地は広くて、いくつかの建物がある。
異世界人が伝えた文化だそうで、校舎、体育館、プールという場所、校庭など、聞き覚えのない名前のついた建造物全てひっくるめて学校と言うのだそう。
となると、これからこの全ての場所を回らなければならないのかな。
どうせ敵もウジャウジャいるだろうし、前衛二人に任せながら、小柄な私は人員救出に専念しようかな。
「リュナさん、まずはどこから始めましょうか。」
と、斧の人が聞いてくる。
「敬語じゃなくていいよ。私よりも年上だろうし。まあ、まずは体育館から始めたらどうかな。」
「わかった。体育館はあっちだな。ここからでも大鬼が見える。警戒しながら行くぞ。」
「ああ。」
「うん。」
不思議と斧の人と剣の人は連携が取れている。
二人は全身鉄鎧で武装した大鬼に果敢に斬り掛かっていき、あっという間に入口の四体を倒してしまった。
戦闘の音を聞いて体育館の裏側から駆けつけた大鬼も、抵抗する余裕もなくバッタバッタと倒れていく。
この二人が強すぎて私の出番がなさそう。まあ、それでもいいんだけどね。普段は回復魔法ばっかりやってるわけだから、前に出て戦うのはこの二人担当にしよう。
二人が見張りの大鬼をあっさりと倒してしまって、体育館のドアを開けて中に入ると、ざっと二十人ほどの人がいた。
厚めの布と角材で簡易ベッドのような物が作られており、それが無造作に設置されていた。
まさに捕虜の生活のような酷さ。
あのミカエルに対して怒りが湧いてくる。
「助けに来ました。大丈夫ですか。」
「お怪我等はありませんか。」
二人が声を掛けて周る。私たちの姿を味方だと認識して、捕まっていた人々は安堵の表情を浮かべていた。
「ああ……やっとだ……やっと開放される……」
「ありがとうございます!!」
「祈りが届いた……」
「校舎の方にも人々が捕まっているんです!
こちらは大丈夫なので、早く助けに行ってやってください。」
「わかりました。くれぐれも、外には出ないでください。まだ安全が確認されておりませんので。」
校舎の方にも人が……?
体育館は広く、明るい。
校舎の教室は狭いので、校舎のほうが酷いだろう。
一刻も早く助けに行きたい。
私は腰に差していた短剣を取り、怒りの気持ちを胸に校舎へと走り出した。
「リュナさん!」
「危ない!そっちには何があるか――」
二人は止めるが、そんなのは気にしない。
これでも私は剣士だ。いざとなったら回復魔法もあるし、ユニークスキルもある。
私のユニークスキルは【森羅万象】。あらゆる情報を集めることができる。だから、校舎内にいる敵の数や位置もわかるし、捕らえられている人々の位置も、人数も、生活環境も手に取るようにわかる。
私はそのスキルを発動させた。
一階には見張りの小鬼しかいない。二階には見回りの小鬼と人の反応。三階には二階より多い人の反応が。
見張りの動向は見えている。
鉢合わせても小鬼なら私でも倒せる。
校舎内に侵入し、見張りの目を掻い潜り、階段にたどり着いて上の階に上がる。
でも、そこからが誤算だった。逆に何で私は自分に対しての評価が課題なのだろう。過信が仇となった。
二階に上がった途端、小鬼数体と鉢合わせてしまったのだ。
意識を一階の動きに集中させすぎたせいだ。二階の索敵が曖昧だった。
敵の振り下ろした剣はもう目の前。私の剣でも間に合わない。
でも、私がそこで死ぬ、或いは大怪我を負うことはなかった。仮にも神と言えど、今の私にそんな仰々しい力はない。これは、私がどうこうしたわけじゃない。
カキンッ!という金属同士がぶつかり合う音が響き渡り、私に剣が振り下ろされる事はなかった。
つい瞑ってしまった目を開けると、見覚えのある剣が私の目の前で止まっていた。
敵の振った剣を受け止め、流した剣。
横から声が聞こえた。
「大丈夫ですか?リュナさん。」
そこにあったのはあの剣の人の姿。
「全く、一人で突っ込んでいくからだよ。」
その後ろでは斧の人がぼやく。
助けに来てくれた……?
「あ、ありがとう」
「リュナさんは一人で行っちゃだめだよ。危ないって言ったのに。」
……なんだか子供扱いされている気がする。
「にしても、何で一階は通り過ぎれたの?かなり見張りは多かったし、たまたまだとは思えない。」
私は二人に自分のユニークスキルの事を話す。
「なるほど。索敵にも使えるスキルか。」
「てか、ユニークスキルって……ええ!?」
驚くのもそうだろう。ユニークスキルというものは本来持っている方がおかしいから。
普通の人間である私がユニークスキルを持っている事に驚くのは、大して不思議なことではない。
「二人が来てくれたから、今からは上手くユニークスキルを使えそうだよ。」
元は私が一人で突っ込んでいったのが悪いんだけどね。
とりあえず私たちは、索敵で反応があった教室を開けていき、二階で三十人ほどの人を助けることができた。
だが、まだ見張りを倒せていない現状、その場で待機してもらったほうがいいだろう。
安否確認をして、見張りを効率よく倒していく。
ついでに一階の敵もね。
三階に上がり、索敵で場所を把握した小鬼たちを狩り、教室の戸を開ける。
三階ではかなり多くの人々を助けられた。
二人が避難ルートを確保し、全員を体育館へと避難させる。
その間に私は敷地内全域に索敵範囲を広げ、取り残された人、敵などがいないか確認した。
特に問題はなかったので助け出した人たちには「待機しておいて」と告げ、私たちは別の場所の援軍に向かうことにした。
次の場所は町長の屋敷。
学校から出て暫く歩き、街の北方にある町長の屋敷に到着した。
そこにいた冒険者は六人。
本来三人のはずなので、どこかのグループが援軍に来たのだろう。
手間取っているようで、救助人数は少ない。
「どうしたんですか。」
「ああ、援軍の人たちですか。
実は、ここにいる敵の数が思ったより多くて、なかなか侵入できないんですよ。」
と、外側にいた冒険者が言った。
私は【森羅万象】を起動する。屋敷内にいる敵の数は学校と変わらないぐらい。これの何が多いのか。
――――――ん?
目の前にいる冒険者、それに遮蔽物に身を隠している冒険者二人に妙な気配を感じる。
その違和感が気になった私は、スキルの精度をあげてその三人を鑑定してみた。
すると、私が気になった冒険者三人の結果は、【小鬼】という結果が出た。
私はすぐさま仲間の二人にこの事を小声で伝える。
『手前にいる冒険者三人を鑑定したら、小鬼っていう結果が出たんだけど。』
『じゃあ、小鬼が人間に変装しているっていうことか?』
『索敵の実績があるし、それは疑い難いな。』
剣の人が冒険者に聞きに行った。
「すいません、つかぬことを伺いますが、――あなた、本当に冒険者ですか?」
「…………」
聞かれた冒険者は沈黙を貫く。
やがて、その冒険者は黙り込んだまま本性を現した。その証拠に、肌の色が緑色へと変わっていった。――これは小鬼の肌色。やっぱり変装していた。
「クックックヨくわかっタなぁそのトおりダ。俺はニンゲンではナい。」
男――いや、小鬼がそういうと、もう二人の冒険者も小鬼へと進化していく。
「ウヒャッヒャッヒャッ気づイたとこロでもウ遅イ。
お前ラは俺タちガ殺――グギャッ!?」
その小鬼が言い終わらない内に斧が頭に振り下ろされる。
無惨にも殺され、他の二体も討伐された。
「……なんか、変装していたくせに大して強くなかったな。」
「もうちょっと骨があるかと思っていたんだが。」
二人は残念そうだ。
それからというもの、担当していた冒険者三人(ちゃんと人間)と協力し、無事に人質を救い出すことができた。
こちらは制圧が完了したので、とりあえず次にギルドへ向かうことにした。
今回初めてのソラ以外の視点です。
ソラより書くのが大変でした。
楽しんでいただけた方、評価とブクマよろしくお願いします!