表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/288

第二十九話 エピローグ

 《!!ごしゅじん!離れて!》


 突然頭に響き渡ったタルタロスの警告に、驚きと同時に後ろに跳ね退いた俺は、絶望を目の当たりにすることになった。

 眩いばかりの真っ白な光と共に扉を突き破り、部屋の外に溢れてきた身を焦がすほどの熱エネルギーと莫大な破壊の衝撃。

 タルタロスが防御結界を張ったものの、その凄まじい熱は抑えきれなかったのか、自分の顔を庇うために咄嗟に出した腕が焼け爛れ、顔の左側と身体の正面は焼け焦げた。

 だがそんな酷い火傷ですらも、目の前の光景には気にならなかった。

 目の前には、何もなかった。そう、()()()()()()のだ。

 扉は吹き飛び、部屋の中が露わになる。だがそれは最早部屋と呼べるか疑問なほどで、家具等の内装は一切合切が消し飛び、ボロボロになった壁と下地が剥き出しになった床、丸く凹んだ天井がかろうじて部屋という枠組みを形成していた。

 そこにあったはずのセトとコウの姿は、綺麗さっぱり、痕跡すら残さず吹き飛んだ。

 後に残っていたのは、床に突き刺さった俺の日本刀だけ。何もなくなってしまった部屋にポツンと、傷一つ付いていない日本刀が、まるで墓標のように床に突き刺さっていた。

 それを見て、察することは余りにも容易だった。


「うあああああああああああああああああああああっ!!!!」


 俺は膝から崩れ落ちた。涙腺は決壊した。ボタボタと床に落ちて跡を残す、大粒の涙。

セトが死んだ悲しみと、セトを救えなかった悔しさに耐えきれず、火傷した腕がボロボロになることも厭わずに地面を叩き続けた。感情のままに、ひたすら泣き続けた。

 セトの言っていた仲間を失う悲しみが、理解できた。たった六ヶ月だが、この世界に来てからずっと行動を共にしてきた仲間(セト)が消えた。その事実が目の前にあるが、俺は心の何処かで否定していた。否定したかった。きっとセトは何処かで生きていると、そんな理由があるはずないのに、理想と僅かな希望に縋って惨めに泣いた。

 タルタロスが慰めようと、俺は泣き続けた。目が腫れるほど、地面に叩きつけていた左手がボロボロになるほど、身体中の水分が抜けるくらいに、泣きじゃくった。

 死んだ。セトは死んだのだ。別れだ。

 いつまでも泣き続けた後、俺は刀の下へと駆け寄った。その刀のもとには、一枚の紫色のコインが落ちていた。闇の精霊であるセトを表すかのごとく、紫色だった。片面には☾、もう片面には空島を模した模様が彫ってあった。これと刀を形見にしようと、二つとも大事に握りしめ、俺は城をあとにした。

 魂の抜けたような状態で一階層まで降りて、外に出る。城の正面の海岸ではオリゾタスが俺を待っていたが、そこにセトがいないことを見て理解してくれたようだった。

 オリゾタスは俺を背に乗せ、波を切って海を渡る。


 オリゾタスに「元気出せ」と一言かけられたのは覚えているが、その後のことはまるっきり覚えていない。

 恐らく放心状態のままにアクロまで帰ってきたのか、見慣れた冒険者ギルドの前に立っていた。

 何人か俺のボロボロの姿を見て憐れむような、心配の目線を向けていたが、そんなもの俺の意識には入らなかった。

 屋敷に帰るなり、慌てた様子でカイルたちが出迎えてくれた。セトがいないことに疑問を抱いていたが、どうやら抱えている問題が余りにも深刻なようで、その話は後にするとのことだった。

 案内されたのはノアの部屋。ノアの顔に浮かんでいる痣は増え、それにより呼吸は荒く、顔面蒼白。


「ノア……」


 余りにも心を痛めていた俺にとって、ノアまで失いたくはなかった。

 幸いにもタルタロスがついている。


《えーと、対処法が……》


 ああ、そうだった。しまった。結局、あのどちらのスキルも手に入れられなかった。所在がどこにあるかも分からずじまい。ということは、俺はこのままノアを看取るしかないのか……?

 ―――と、そんな時だった。俺の杖の先から三体の精霊が出てきて、ベッドの上に子供の形で具現化した。

 ヒナタとメイとクロノ。三人は目配せして頷き、謎の言葉を発しながらノアの顔に手をかざす。


「✕✙✙✕⑤✰✙♢❦✡❀✲✵」「%@!(*@(*$;;#(~:"¡?」「↦↪↛↱↬↳↦↪↫↹↭↻」


 淡い光が部屋を満たした。ヒナタが放っていたような、暖かい光だ。

 何をしているのかは全く分からなかったが、為す術もない今この三人に託すしかないと、一縷の望みを抱く。

 そして、奇跡は起こった。

 何が起こっているのか理解できなかった。

 ノアの顔に浮かんでいた痣がみるみるうちに消え始めた。腕にでていたのも消え、髪の色も元の黒に戻り始める。

 呼吸も安定し、顔色ももとに戻った。

 つまりこれは―――


《呪いが解けたって、ことなのかな。》


 ノアが目を覚ました。

 右目は澄んだ青色、左目は青よりやや薄めの群青色の瞳で、こちらを見る。


「ソ、ラ、くん……」

「ノア、ノア!助かった……!良かった……!」

「ちょっと、痛いですよっ」


 思わず、ベッドに横たわるノアに抱きつく。

 後ろから元気そうなリュナの声とシエラの声が聞こえたが、俺は気にせずノアに抱きついた。ノアは最初は戸惑いながらも、ゆっくりと頭を撫でてくれる。

 精霊たち、本当にありがとう……!


「✵✙♢✡✪✤!」「⇃↭↩!」「%@:$?#!」


 俺の気持ちが伝わったのか、嬉しそうに喋る三人。

 ノアに頭を撫でられていくうちに俺はだんだんと安心してきて、急に睡魔が襲ってくる。


「ソラくん、ゆっくり休んでください。」


 その言葉を境に、俺の瞼はどんどん重くなり、やがて意識は夢の中へと沈んでいった。



これにて第六章、完結となります。

セトが死にましたが、物語は勿論まだまだ続く予定です。寧ろこれはまだほんの序章ですから。


良ければ、ブクマや評価等、よろしくお願いします!

いつも応援、ありがとうございます!


年末年始ですが、少し投稿をお休みさせてください。

一月四日から再開しようと思いますので、これを読んでくださっている皆様、ぜひぜひ楽しみにお待ち下さい!

頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ