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第二十八話 光と闇が織り混ざる刻

メリークリスマス!!

〜前回のあらすじ〜


 魔王城にて、精霊王たちとセトの壮絶な戦いが繰り広げられました。


◀ ◇ ▶


 これはあの一方的な殲滅戦の後、セトがポツリと呟いた真実だ。


「木の精霊が、ヴァンプ・フェンリル……

火の精霊が山火事……金の精霊は軍隊か……」


 何のこっちゃだが、きっとセトの過去にあった出来事なのだろうとすぐに理解できた。何があったのか、深く詮索するつもりはない。

 あれから、魔王城にウジャウジャしていた精霊は綺麗さっぱり消え去った。大半がセトによって心核(コア)を砕かれ死滅したのだが、それ以外は逃げていったようだ。だがまだ魔王の反応はあるとのことなので、これから俺たちはそこに向かおうとしている。


「なあセト、コウってどんなヤツなんだ?」

「コウか?コウは……一言で言い切ってしまえば傲慢なやつだな。奴を形容できる単語は幾らでもある。

傲慢、非常識、自己中心的、驕慢、高飛車、わかりやすいものを挙げたらこんなものだろう。

自分のことしか気にしない。下僕である精霊たちを、まるで盤上の駒のように扱う奴だ。死んだところで代わりは幾らでもいるし、自らが最強神だと信じてやまない、まあ簡単に言ってしまえば屑だな。

同族を仲間とも思わない。使い捨ての手駒のように見て、自分の立場がいかに上か納得させるための過剰な自己顕示だ。

我ら神同士でも、あいつだけは違った。自分が一番だと主張してくるから、それを嫌って誰も寄り付かなくなった。だからだろうか、精霊で一番強いのは自分だと主張するために我に敵対し始めたのは。

本当に、迷惑甚だしい。」


 要するに、セト自身が特段何かやったわけではなく、自己中なコウが自分の存在を高く押し上げるためにセトを敵視するようになったと。

そんなんで大切な人を殺されたんじゃ、たまったもんじゃない。セトが激怒したのも無理はないだろう。

 ということは、そんなゴミを今から倒しに行くというわけだ。俺の本来の目的は微妙に違うものの、セトにとっては大きな分岐点になるんだろう。分水嶺。過去との決別。果たして、セトは打ち勝てるのだろうか。

 廊下を歩きながらそんな会話をする。セトも大変だなぁとしみじみ思いつつ、いつの間にか俺たちは最上階まで来ていた。

 既にかなりの高階層まで来ていたからか、上りの階段がなくなるのもかなり早かった。

 ちなみにこの城は、雲の上まで行くんじゃないかというくらい高い。窓から見える景色は霧がかかってよく見えないが、多分雲の近くくらいの高さなんじゃないだろうか。城内の酸素と気圧がどうなっているのかは気になるが、そこは魔法のお陰だということにして置いておこう。

 問題は、その最上階層だった。階段を上がって廊下に出てすぐ、大きな両開きの扉に行く手を塞がれる。白い壁に似つかわしい、金で出来ているような豪奢な扉。前世でこんな芸術作品を見たことがある。地獄の門だったかな。それの、天国バージョンだと思ってくれればいい。

 沢山の天使と雲、そして煌びやかな太陽が象られたその大きい扉は、どうやらその向こうに大きな部屋があるらしく、他に扉もなく続く廊下もなかった。


「―――ここが?」

「ああ。恐らくコウの部屋だろうな。」


 この世界に来て約六ヶ月。これまで沢山の死闘を経験してきた俺だが、魔王を倒すのは二度目。魔王を討つのは大変緊張することであり、圧倒的な存在感を放つ豪奢な扉を前にして俺の心臓は今までよりも速く拍動している。

 ドクンドクン、血液や酸素と同時にアドレナリンが身体中を駆け巡る音が、やけに鮮明に聞こえる。

 それと同時に、心のなかで覚悟が決まった。セトを、仲間の心を傷つけた奴には天罰を下してやる。たとえ相手が神だろうと。

 俺が一歩踏み出し、扉のドアノブらしき出っ張りに手をかけようとしたその時。


「待て、ソラ。」


 セトが邪魔をした。左手で俺の手を遮り、右手で扉を押さえて開けさせないようにしたのだ。だが、俺はセトに何か考えがあるとみて反抗はしなかった。


「何かあるのか?」

「ここは我が行きたい。幾ら一方的とは言え、決着をつけなければならない相手だ。ソラは外で待っていてほしい。」


 それはつまり、一騎討ち。神対神の、お互いの過去を引きずりあった因縁の対決が実現することとなる。

 だがそうすると、セトの勝機はかなり減るのだ。恐らく互角だろうし、俺が加勢したほうがいいんじゃないか――とも言おうとしたが、セトの目は本気だった。怒りと無念に燃えた、真剣な目つきを見て俺は言葉を飲み込んだ。


「分かった。必ず帰ってこいよ。」

「勿論だが、ソラのその刀を貸してくれないか。」

「いいけど、なんで?」

「コウも剣を使う。正々堂々なら剣同士がいいと思ってな。」


 なるほど。それを聞いて一瞬にして腑に落ちた俺は、魔法杖とタルタロスが居れば何とかなると思い、セトに日本刀を貸した。

 セトは手慣れたように刀を振り、魔法を発動させた。

 その魔法により、刀はセトの右手を伝わって刀身に魔力が集中していく。そして、刀身は真っ黒な黒炎に包まれた。禍々しい漆黒の炎に包まれた漆黒の刀は、さらに闇を帯びて迫力を増す。

それをセトが持っているのだから、なかなかに様になっている構図だ。

 刀のかっこよさと画の良さに言葉を失った俺に、セトは過去のことを語り始める。


「我が今まで大きな魔法を使わなかったのは―――」


 ―――数分後。全てを吐き出してスッキリしたのか、セトは覚悟を決めた様子で扉を見た。

 ゆっくりと、且つ堂々と扉に向かって歩いていくその背中を見守りながら、セトを決別の戦いへと送り出す。

 その手には黒炎を纏った刀がしっかりと握られている。

 セトは扉を開け、中を見た。一瞬殺気が漏れ出たが、その後すぐに落ち着き、部屋の中に入っていく。

 そして扉を閉める直前、俺の方を振り返りセトは初めてニコリと笑って、言った。


「またな。」


 ―――扉はバタンと閉じられた。


◀ ◇ ▶


 余計なものは置かれていない、魔王城の最上階の一室にて。ダンスホールのようにガランとした広間には、一人の男が立っていた。

 入り口の金で装飾が施された扉から入ってきた男は、扉を閉めた途端に部屋の奥を鋭く睨みつける。

 その男――セトの目線の先にいるのは、これまた豪奢な玉座に鎮座した、男だ。

 金髪に橙色の細い目、スラッとしたモデルのような体は純白の軍服を見事に着こなし、何処か荘厳ささえ溢れ出ている。


「セト、だったか。人間に飼いならされて、随分と愉しんだようだな。」

「コウ、お前がやったことは赦されない。ここで殺す。」

「殺す?角が取れた、神もどきと化した今のお前に一体何ができるっていうんだ。寝言は寝てから言ってほしいね。」

「寝言じゃない。お前は【天空之神(アイテル)】のことを言ってるんだろう。無論、我も持っている。【混沌之神(カオス)】を。」

「ほう、そうかい。じゃあ格の違いをその身体に刻み込んでやろう。」


 今のやりとりに早くも辟易したのか、コウと呼ばれた男は玉座から立ち上がり、異空間から一本の剣を取り出した。

 神光聖剣(エクスカリバー)。黄金色の光を放つ、黄色と黄緑のアクセントが入った片手剣だ。そこに【天空之神(アイテル)】の権能が上乗せされる。

 白銀色の眩い光を纏った刀身は、全てを光のもとに灰燼に帰す凶悪な天のイカヅチと化した。

だが、セトも同等の力を持っていた。コウにとっての誤算はそこだった。

 セトの刀に帯びた黒炎が、より一層勢いを増す。主の復讐に応えるべく、【混沌之神(カオス)】は全ての力を総動員させてまで一本の神殺しの兵器を作り上げた。暴虐廻剣(グラム)。それが、かの剣が帯びた力の名前だった。

その黒炎は、東の魔王が使っていた焔をも上回る威力を持つ。接近したもの全てを炭に変え、触れたものを灰燼に帰させる、神を殺すための裁きの執行刀となったのだ。

 両者、()る気は十分。一気に部屋の中の気圧が下がり、温度も急激に下がっていく。そして、コンマ一秒のレベルで繰り広げられることとなった死闘。

 僅かな油断で自らの身は滅ぶ。そんな状況下での、互角の剣の打ち合いが神の領域で始まったのだ。

 エクスカリバーによってセトの服は裂かれ、グラムによってコウの軍服は燃やされ、水面下での激突はお互いギリギリの状態で続くことになる。

 その永遠とも思えるほどの一瞬は、彼らにとっては十分に自分が命を失う可能性のある時間だ。それと同時に、相手の命を刈り取れる可能性もある。

 互角同士の戦い。一寸の迷いもコンマ一秒の油断も一ミリの間違いも許されない苛烈な死闘は、両者の体力切れにて幕を閉じた。

 幾ら精霊といえど、幾ら神といえども命ある限り限界というものは存在する。

僅か一瞬の打ち合いでお互い限界に達し、肩で息をしながらお互いに距離を取り合った。

 先に動いたのはセト。床が抉れるほどの踏み込みで一瞬にしてコウの目の前まで接近して、その首にグラムの刃をかけようと刀を振るう。だがそれを受け止めたエクスカリバー。


「フッ、なかなかやるじゃないか。」

「認めたくはないが、ここまでてこずったのは初めてだ。なおさらここで殺す。」

「それは、こちらのセリフだ。」


 再び、火花を散らすほどの打ち合いが始まった。だが今回はセト優勢だ。

 気迫で押していくセト。それを防御しながらも、少しずつ押されていくコウ。

 そのままセトが押し切るか、コウが巻き返すか。結果はそのどちらでもなかった。

 セトがうめき声を上げて、膝から崩れ落ちる。その腹に突き刺さっていたのは、一本のナイフだった。

 苦しそうに眉間にしわを寄せ、うめきながらもセトは言う。


「ふざけるな……」

「ふざけてなんかないさ、いつ私が真剣勝負だと言ったんだ?勝手に解釈を定めないでもらいたい。」


 セトの言葉を軽く一蹴するコウ。

 だが、すぐに天罰は下ることとなった。

 セトが苦痛に耐えながら立ち上がり、刀を奪って完全に油断していたコウの顔面を掴んだ。そして、その手のひらから白い光が放たれ始める。


「おい、まさか―――!!」

「あばよ、コウ。」


 あっという間に白い光は二人を包み、凄まじい熱エネルギーとなってその場を満たした。

 セトが最後に振り絞った攻撃により、驕った神は消滅することとなったのだ。

ついにクライマックス!

連続投稿にしますので、次回は二十時です!

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