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第二十七話 精霊たちの行進

〜前回のあらすじ〜


 魔王城がそびえ立つ島に上陸し、攻撃してきた精霊をセトが抹殺しました。


◀ ◇ ▶


 「我が今まで大きな魔法を使わなかったのはな、怖かったからなのだ。一度大切な(ひと)を失って、それから自分の存在というものに戒をかけるようになった。物理的にも精神的にも閉じこもっていた我には、それについて考える時間は幾らでもあった。無限と言えるほどの、たった二百年の自戒の刻が。

苦痛だった。二百年も閉じこもること自体はそれほど苦しくはなかったが、悲しみと後悔が事件の後も永遠と我をつきまとう。今も、だ。今も我は恐怖に囚われている。情けない神だと思うよな、たった一人の人間の死によって心を痛めている神なんて。でも、あいつはそれほど我にとって大事だったんだと知っていて欲しい。

今まで我は逃げ続けてきた。自らが負うべき責務から、大切な命をむざむざ奪われてしまった自責と後悔から、そして現実に目を向けることから。

あの時ソラが目の前に現れた時、我は面白半分に声をかけたと思っただろう。あの時我は、再び我の心の支えになってくれる存在に出会えたような気がしたのだ。

それから、リュナにも出会った。ソラとリュナ、この二つの支柱があるお陰で我はこれまで耐えることが出来た。だが、我はやはり怯えていたんだ。怖かった。胸がズキズキと痛んだ。大切な人を再び失う恐怖に、再び直面したくなかった。結局は自分が辛くなりたくないという自己中心的な考えだが、ソラも分かるだろう、大切な人を失う気持ちは。ソラはかろうじてそこまで至らなかったが、きっと分かるはずだ。今まで長い間行動を共にしてきた仲間が、家族ともいえるような存在が、ある時何の前触れもなく容易く壊されるのは、心を引き裂くほどの痛みを与える。

極論、それが我が自らの力に鍵をかけていた理由だ。そのせいで今まで苦労をかけたが、今回は我に任せてほしい。過去との決別だ。

いいかソラ、貴様だけは諦めたらだめだ。たとえどんなに高い壁に直面しようと、貴様なら大丈夫。皆が諦めようと、貴様だけは不屈であれ。それがいつか、枷を解く鍵となる。だから、挫けるな。膝をつくな。常に前を向け。皆を振り切れ。そうすればそこに、希望は見えてくる。」


 セトはそう語って、最後に俺に向けて言葉を託した後部屋に入っていった。

 右手に力強く握りしめた、黒い炎の刀身が煌めく刀を携えて。

 そして、扉を閉じる直前、部屋の外にいる俺に向かってニッコリと笑い、一言残して行ってしまった。


「またな。」


◀ ◇ ▶


 俺たちは今、魔王城の廊下に立っていた。白を基調とした大理石の壁に、モノクロチェックの床。ライトは淡い白だ。

 城の前で俺の魔法を耐えきり、さらに意味が理解できない理論をまくし立てた精霊は、セトによって粉微塵どころか原子すら残さず消し去られた。


「さっきのやつってなんだったんだ?」

「あれは金の精霊王。コウの下僕の一人で、幹部級の上位者だ。」

「そんな奴が?え、もしかしてこの城そのレベルがウジャウジャしてたりする?」

「ウジャウジャ――とばかりには行かないが、多数はいるだろうな。精霊王は属性ごとに存在する。すなわち、基本元素の火、水、木、金、土。派生系の風、毒、氷、雷、刻、空、命、陰、陽の十三種だな。」

「今倒したのが金だから、残りは十二体か。」


 というか、属性ってそんなに種類あったんだな。前にカイルから教わった数種は知っていたが、派生系が多すぎる。多分それぞれで魔法の使い勝手が違うのだろう。

 とりあえず単純な計算はしてみたものの、それをセトが否定した。


「いや、精霊王はこの十三属性で存在するが、もう二つ、属性が存在する。」


 意味深に放たれたその言葉に一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに二つの単語が頭に浮かんだ。

 片割れは今隣にいるイケメンだ。


「闇と光か。」

「正解だ。この二つの属性は神として存在する。我が闇の精霊神、そしてここの魔王が光の精霊神。

つまりこの城には十四属性がいることになるが、その点ではソラの計算は合っていたのかもしれないな。」

「なんでだ?光もいるなら十三だろ。」

「ソラは以前遭遇したリザードについて覚えているか?」


 納得できなかったのだが、セトから投げかけられたその問の答えを思い出した時、セトが言いたいことを完全に理解出来たような気がした。


「あの炎の精霊か。」

「あいつが炎の精霊王だ。少々傲慢過ぎたから灸を据える意味で殺してやったんだがな、まさか残る傲慢を十二も倒さないとならんとは。」


 光、水、木、土、派生系の九種。それら全てが敵となるのは恐ろしいが、俺には強力な味方がいる。だろ?タルタロス。


《精霊って……お化けみたいなもの?じゃあ大丈夫だよ!属性によってはちょっと大変かもだけど、ごしゅじんの右腕になったげる!》


 なんて頼もしいのだろう。そして俺の横のセトも、闘志を燃やしていた。殺意とは違う、やる気や原動力と表現したら正しいような熱気が右半身に伝わってくる。


「ソラ、貴様は何もしなくていい。」


 何をしだすかと思えば、セトの周りに強力な衝撃波が放たれる。当然真横にいる俺が無事でいられるわけではないが、そこは流石タルタロスだ。突然の不可視の衝撃を、完璧に防御してみせた。

 その衝撃波によって、セトを中心として球形の範囲が崩壊。俺が【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】を撃っても傷つかなかった魔王城が、いとも容易く内部攻撃により崩れた。いや、外部だけ硬かっただけだろうか。どちらにしろ、天井が崩れ去って二階層の床も崩れ、二階層への通路は強引に開かれた。セトによれば一階には反応無しということらしいので、恐らく敵は二階から多いだろうという算段を立てたうえでの攻撃だったのだ。

 セトは謎の脚力で飛び上がり、スタッと二階に着地。俺をおいたまま、走っていった。


 ―――それから、俺も何とか二階に上がってセトを探す。もしかしたら三階とかもあるかもしれない。その予想がより現実味が増すこととなった原因が、俺の目の前に幾つもあった。

 凄まじいほどの破壊の跡。壁や床、天井はボロボロだ。それに、ガラスの破片が至る所に散らばっていた。もともと球形だったいろいろな彩色のガラス玉が、無理やり砕かれたようなものが大量に転がっていた。そのガラス片に足が触れると、たちまちガラス片は塵となって大気中に消えていった。


《―――あの人、大暴れしてるね。》


 何が起こってるのか、分かるか?


《うん。えーと今は……四階で変なお化けと戦ってて、手当たり次第に消し去ってる。

精霊王も何体か消したみたいだね。土、毒、氷、雷は少なくとも死んでる。》


 となると、残りは八体。タルタロス、セトのところに移動するためにはどうしたらいい?


《えーと、今先回りの場所を探してるから……あ、ここだ!》


 そうタルタロスが叫んだ瞬間、俺の目の前の景色は一変。何処か暗い部屋の中のようだ。

 客室か何かだろうか。置いてある家具に躓かないよう気をつけながら、周りの様子を探る。

 すると、部屋の片隅でぽおっと何かが光った。暖かい光だ。その発生源は、精霊だった。

 全体的に床につくほど長い長髪の、俺の半分ほどしかない凄く小さな少女だった。

 肌も髪も服も全てが真っ白。俺の姿を見て「ひえっ」と覚えた様子を見せたが、俺が襲撃者であるセトではないと理解したのか僅かに警戒を緩めた。


「大丈夫だよ、俺は何もしないから。君は?」

「✟✡✜♢❖✯❂❀✪❃❃✩」


 だめだ、全く分からん。そもそも言語かすら怪しいその言葉は、ボソボソと少女の口から漏れてくるだけで、全く理解できなかった。


《えっとね、『私は陽の精霊王。あなたもあの怖い人と同じじゃないの』って。》


 流石万能タルタロス。


「俺は危害を加えないよ、大丈夫。」

「❦✲✯✵✳✩✵?」

《『本当?』って。》

「本当だとも。ここは危ないから、俺と一緒に来てくれないか。」


 俺がやりたいのは、善良な精霊王の保護だ。もしもノアの呪いを解くのに役に立つのなら、保護する。そうでなくとも、理不尽に従わされている者たちはセトの凶刃が届く前に救い出したい。


「✡✪❖✰✡」

《『わかった』って。よかったね、ごしゅじん。》


 俺は部屋の入り口を見つけ、外の様子を見てから陽の精霊王の手を引いて外に出る。

 ほぼ破壊しつくされた廊下に出たら、陽の精霊王はホッとため息を吐いた。そして、何かを俺に伝えてくる。


「❦○•✕✧✙✤❦♢+✯✡❀✳✯」

《『お兄さんの杖に宿れる』って。チッ、お兄さんなんて……》


 タルタロスが何かブツブツ言いながら舌打ちをした。

 そんな事が陽の精霊王に伝わるわけもなく、陽の精霊王は俺の杖の宝玉に触れると光となって吸い込まれていった。

 これで保護が完了したのだろうか。


《うん。この調子で他のところにも行ってみようか。》


 そして、俺は再び歩き出す。セトに追いつくため、そして精霊王を保護して回るために。残るは七体。


 数時間後、俺は何体か保護に成功した。いちいち精霊王と呼ぶのも面倒くさいので、全員に名前をつけた。

 陽の精霊王―――ヒナタ

 命の精霊王―――メイ

 刻の精霊王―――クロノ

 この三体が、俺が精一杯城中を駆けずり回って保護できた精霊王たちだった。

 ネーミングセンスが日本人なのは仕方がないことだろう。説明は――しなくてもいいか。

 そして、暴虐の化身のようなセトが戻ってきた。


「随分暴れたな。」

「まあな。ほとんど我には向かうやつばかりだったから、遠慮なくやらせてもらった。残りは、光と水と陽と命と刻だが―――」

「ああ、後半三体なら俺が保護した。反抗する意思は無さそうだったから。」

「そうか。我も一人助けた。」


 そう言って、セトは異空間から一人の精霊を引っ張り出してきた。雫を模したような、半透明で水色の精霊。見るからに水の精霊王だろう。


「わ、私はきっとお役に立ちますから、どうかお助けを!」


 完全に怯えきっている様子なので、俺は杖の中から三体の精霊王を呼び出してみる。

 白い少女、ヒナタ。右腕と左足がないツギハギだらけの少女、メイ。顔が時計を模した黒服の少年、クロノ。

 三人を見て水の精霊王は少々安心したのか、ボロボロと涙をこぼし始めた。身体が水だから、どれが涙かは分からないけれど。


「お前の名前は、アクアだ。保護してやる。」

「あ、ありがとう、ございます……」


 三人プラス一人は杖の中に吸い込まれていった。

 ボロボロになった城の中で、精霊神VS精霊王たちの蹂躙戦は幕を閉じたのだった。

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