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第二十六話 事件の元凶

〜前回のあらすじ〜


 南の魔王城に行くために、海神が祀られている漁村に着きました。


◀ ◇ ▶


 潮風が気持ちいい。鼓膜を揺らす波の音、髪をなびかせる強い風。見渡す限りの水平線。よほど深いのか、海底は暗くて見えない。水が汚いわけではなく、綺麗な青が目に飛び込んでくる。

俺の後ろにはセトが。同じく爽やかな風に身を委ね、思い切り海上移動を満喫していた。

 ―――わけがないだろ。いやいやいや、ありえん。

 だって―――今俺たちは、大きな鮫の背中に乗ってるんだから。

鮫は鮫でも、ホホジロザメ。それもどでかいやつ。

大海魚オリゾタス。創世の七師の一柱、創世の噺――神話の時代において、大陸を取り囲む果てしなく続くような広大な海を創った、神。

 どういう因果か、こうして神の背中に乗って移動していた。


「おい、ソラだったか?大丈夫か?」

「ま、まあ……」

「無理そうだったら言えよ。俺とて子供を殺したくはないからな!」


 ガハハと豪快な笑いを響かせるオリゾタス。多分これ、タルタロスがいなかったら秒で死んでたと思う。今はタルタロスが俺に吹き付ける強い風や上下の揺れを軽減してくれているので、それがなかったら海に放り出されていた。


《ごしゅじん大変そうだね〜》


 他人事みたいにいうなよ。


《こうして私がごしゅじんを救ってると思うと、なんだか嬉しくなるよ。

私がごしゅじんの命を握ってるって感じがして。》


 ……ん?なんか最後に不穏な言葉が聞こえてきた気が……


《き、気の所為だと思うよ!》


 そうかぁ?(棒)


《ごしゅじん、前に集中してないと。》

「ソラ!頭下げろ!」


 頭の中からタルタロスの警告が、後ろから緊迫感溢れるセトの警告が。俺の脳は茶番直後ながらも素早く働き、耳の鼓膜から渦巻き管を通って入ってくる信号と、目のレンズを通って網膜から入ってくる信号を正確に処理して脊髄から運動神経へと電気信号を発信する。

 小難しく言ったが、結局のところは間一髪のところで避けたのだ。

 俺の頭スレスレを飛んできたのは、何かの魚だった。トビウオのようなものではない。似ているものを挙げたら、カジキ辺りだろうか。口先が鋭く尖って、なんでも穿つことが出来そうな凶器のような魚が、俺の眉間を狙って飛んできたのだった。恐らく飛ぶ行為はトビウオと同じようなものだろうが、今回避けられたから良いものの、下手したら死んでいた。

 だが、海の上の悪夢はこれからだったのだ。

 バチャバチャバチャバチャ。大きな波しかなかった海上に、無数の飛沫が舞い上がる。まるで魚群が海面にいるかのような光景だが、その予想は当たっていた。それも最悪の状態で。


「おい二人とも!防御魔法張れ!」


 そのオリゾタスの警告に、セトは俺の目の前に、広い防御魔法を張った。


《【空虚の歪曲遮蔽ディストーション・バリア】を張るよ!》


 俺が何も出来ないままに、先にタルタロスが防御魔法を展開させた。セトの半円状のバリアの内側に、まるで時空の狭間のような闇が壁として現れる。

 刹那、全てに穴を穿つ自然の脅威は猛威を振るった。先ほどの全身凶器の魚の群れが、こちらに向かって飛んできた。矢のような口先は、俺たちを仕留めんと狙いを定めて真っすぐに飛んでくる。

 だが大半はセトのバリアで跳ね返され、横にそれた個体もただ海に落ちていくだけだった。

 その後も脅威は何度も訪れたが、セトの完全防備バリアと万が一のタルタロスの障壁、そして圧倒的な王者の存在感を見せつけたオリゾタスによって全ての脅威は鎮圧。

 先ほどから前方にかすかに見えていた島が、どんどん近くなっていく。城の全貌も視界に捉えることができる距離になってきたところで、また脅威は俺たちに襲いかかる。

 パチパチと空に現れる、火花のような光。その光は一瞬にして消えるのだが、そこに現れたものが問題だった。

 巨大な礫。弾丸のような金属の塊が、無数に空に生成される。

 現れた地点の空中一点で留まっているその弾丸だが、ある程度の量が生成されると、一気に牙を剥いた。

 一斉に発射され、周りの被害関係なく等しく蹂躙するための兵器として、鉄礫の殺人雨は辺りに降り注ぐ。

 これもセトのバリアで防ぐことが出来て、俺とセト、オリゾタスも無傷。

 その鉄礫の一斉放射は幾度となく続いた。いい加減うんざりするような衝撃とともに海にボトボトと落ちていく無数の鉄塊。水に触れた瞬間にジュッと音を立てて煙が発生し、鉄本来の重さによって深い深い海の底へと無残に沈んでいく。

 七度目の乱舞で、遂に俺は堪忍袋の緒が切れた。


《やっちゃう?》


 やるに決まってるだろ!

 タルタロス、この攻撃を仕掛けてくる奴がどこにいるか分かるか?


《索敵あんまり得意じゃないけど……あれかな。魔王城の前にいる奴。

なんだか危険そうな感じもするけど、ごしゅじんなら大丈夫だよね!》


 俺はタルタロスの補助ありで立ち上がる。勿論補助無しでやろうものなら、バランスを崩すより先に前から吹き付ける強風によって後ろに広がる大海に放り出されている。

 右手を天に掲げ、タルタロスと息を合わせて例の魔法を発射する準備を整える。

 身体から搾り取られていく魔力。だがその大半はセトから“つながり”を通じて流れてくるものなので、どれだけ使おうと問題はない。


「セト、あの城吹き飛ばしても大丈夫そうか?」

「ああ。問題ないし、なんなら吹き飛ばしてくれたほうがいいまである。」

「おっけー!」


 これから敵討ちに行くセトに了承を取っておき、俺は全魔力を注ぎ込んで魔法を発動させる。

 行くぞ!タルタロス!


「【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】―――!!」《【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】―――!!》


 決まったぜ。

 後ろが全く見えないため何が起こっているかは定かでないが、背後から六筋の紅い閃光が魔王城を貫いた。

 細く紅い光の奔流が魔王城の入り口に佇む人物に直撃し、理不尽なほどの力を辺りに撒き散らす。爆発により発生した半円状の灼熱の業火が辺りを包み、問答無用で焼き払った。

 その隙にオリゾタスは見計らったかのようにスピードを上げ、あっという間に陸に到達。素早く上陸し、肌を焦がすほどの熱風と黒煙が辺りを満たす島にたどり着いた。

 あれほどの大魔法を撃って正直体に負担がないわけではないが、我慢出来ないほどではないのでここは我慢だ。


「はぁーあ、シモベたちがやられちゃったじゃん。

前もボクのオモチャを壊してさ、ホントに何がしたいのさ。」


 そうして黒煙の中から顔を出したのは―――否、顔はなかった。宙に浮く、銀色の正八面体だ。クリスタルのような見た目だが、浮遊の動きからして明らかに意思を持っている。喋ったのもこいつだろう。

 というかこいつ、何処かで見たような気が―――


「そう、そう、そう!お前だよお前!せっかくあのオモチャ使い勝手良かったのにさ、意味わかんない能力使って殺すし。ホントに冒険者って生き物はつくづく何がしたいの?あー、熱い。痛い。どうしてくれるのさ。大変だったんだよ?これだけの仲間を集めるの。それなのに一撃で全部お釈迦にしちゃってさ、人の努力を踏みにじって楽しいの?ねえ、楽しいの?答えてよ、ねえ。人を虐めるのってそんなに楽しい?防衛とか名目打って戦うけどさ、結局みんな金か戦闘が目当ての狂人しかいないんでしょ?結局いつもいつも人間ってそうなんだよ。だからこそ変えてあげようとしてるのに、そうやって人の善意を自分たちの私利私欲のためにぶち壊しにするんだ。へぇ~、そうなんだ、どうせここに乗り込んできたのも魔王様が目当てなんでしょ、知ってるよそれくらい。どうせ魔王討伐とかいうどうでもいい経歴と称号を欲しがって、命削ってまでして戦うんでしょ。全く理解できないよ。金のためとか、栄誉のためとか、お前たち人間は地位と名誉と財産だけあればいいっていう単純で愚かで無能で単細胞な生物なんだよね。そんなんだから、精霊であるボクたちに一向に追いつけないんだよ。言っておくけどね、魔王様をそんなくだらない欲のために殺させるのは断じて許さないからね。ボクが止めるから。その腐って汚れきったプライドをへし折って、悪い手本として見せしめに殺すんだよ。わかった?不毛な戦いとかどうでもいいから、命が惜しければ早く帰っ―――」


 長々と偉そうに語っていた正八面体――恐らく精霊は、地面から発射された闇の奔流をまともに喰らい、欠片一つ残さず消え去った。

 その魔法を使ったのはセトだ。精霊は最後まで言い切る前に、神の怒りを買って抹殺された。仕方がないと言えば、仕方がない。

 というか、話の内容と俺の記憶を照らし合わせたら、こいつが何者か思い出した。ミカエルを乗っ取っていたと思われる謎の物体だ。ミカエルを倒した後、こいつがミカエルの胸から飛び出してきて南の空に飛んでいったのを覚えている。


「近頃の精霊はこんなにも傲慢なのか?」


 呆れたようにセトが言う。

 何の躊躇もなく、何の前触れもなく精霊を殺した光景を見て、後ろでオリゾタスが若干引いているが、セトはそんなことお構い無しにスタスタと歩いていく。

 俺の【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】による黒煙は晴れ、辺りが見えるようになった時には驚いた。あれほどの大きな爆発だったのに、魔王城は原形をとどめている。いや、それどころか傷一つ付いていない。

 そんな無傷とも言えそうな魔王城に無遠慮に乗り込んでいくセトの後ろを、俺は小走りで追いかけて城の中に入っていった。

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