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第二十六話 二人の旅路

〜前回のあらすじ〜


 リュナとシエラの傷は治癒。

 ノアの呪いを解くための方法を探すため、セトの故郷の仇をとるために南の魔王城へと向かうことになりました。


◀ ◇ ▶


 南門から、俺とセトは馬車に乗って出発した。

 目指すはアクロより南にある都市、ノティだ。ノティはアクロとのつながりが深く、どちらも魔王城に近いという理由でお互いに情報交換をし合っていた。

 都市としては、アクロと大差ないそうだ。ただ、これまでに何度も魔王軍の攻撃を受け続けてきたことで次第に強固になっていって、今や街に住んでいる住民でさえそれなりの戦闘力があるという。

要するに、八百屋のおっちゃんとかが戦えるってことだ。これまで住民というのは武力によって脅かされ、武力によって守られるものだった。だがノティは例外となり、世界で有数の自衛都市として名を馳せている。

 前述の通りアクロとノティの仲はとても良い。ロムバートさんとノティの領主はどうやら古い友人のようで、これまでも魔王軍による大きな被害が出た場合はお互いに助け合っていたという。

なので、ガブリエルの軍に蹂躙されて壊滅しかけたアクロに真っ先に救助活動と支援を行ったのは、ノティなのだ。

 街でパトロールをしていた保安部隊と、あの後幽霊たちから聞いた話に出てきた医療チーム。ボランティアを率先して行い始めたのも、ノティの活動員の方々というわけ。

 これは、ノティが危機に陥ったときも同じだった。隣接している不毛の地の、街の付近にあった巨大遺跡。俺たちが東の魔王城へ行く道中に見かけたなぞの穴がその入り口らしいのだが、そこからモンスターが大量に湧いてきたことがあった。

その際ノティの被害を最小限にとどめたのが、その時たまたまノティに来ていたアクロ在住の二代前の剣聖。彼は魔物の波を抑え込むだけでなく、二度とこんな事が起きないようにと遺跡の攻略まで行った。

さらに、剣聖が遺跡攻略へ出向いたときとほぼ同日に、アクロのボランティアチームによる救助活動が行われた。

このときノティに降りかかった災害は野生の魔物による被害のため、自分の街で何とかするのが暗黙のルールだった。その常識を蹴り捨ててまで助けに来たアクロ。さらにそのチームがボランティアの市民たちという点にも、ノティの住民たちは心動かされたそうだ。

 なんていい話なのだろう。そう思うかもしれない。いや実際そうなんだが、一ヶ月前の出来事によってその友好関係は意味を成さなくなった。

 とても稀有で大変で幸運で大袈裟なことなのだが、街同士の付き合い的に見ればこれはマズかった。

 一ヶ月前の出来事。そう、俺たちが東の魔王城を倒したことだ。

 今まで共通の敵である魔王がいたから。だからこそ協力関係が築けていたのだ。だから、敵である東の魔王が消えた今、ノティにはアクロを助ける義理はなくなった。

 それでも関係が裂けていないのは、向こうの領主の厚意なのだろうか。

 俺が何がいいたいかというと、この際ノティの敵である南の魔王も殺してしまおうと。そういうわけだ。

 そんな思惑もありつつ、ただ単に南の魔王城への中継地点として利用しようとしたのだ。

 ただ―――


「え!待って!」

「凄い!」

「そうか、アクロの人だもんな」

「本物だよね!」


 ―――は?

 俺が街なかを歩いていた時だった。道行く人――多分その人たちは冒険者だろう――から、必要以上の注目を浴びるのだ。

 何故?俺道行く人に騒がれるほど有名じゃないだろ。

 そう思っていたら、二人組の女性冒険者が羊皮紙を手にして近づいてきた。「あの、すいません」と声をかけられ、俺とセトは立ち止まる。


「どうしましたか?」

「あの、ソラさんですよね。」

「は、はい。そうですけど。」


 そして何が起こったか。辺りに集まって騒いでいた人々は、その一言で一気に沸き立った。驚愕が混ざった喜びの声を何人もがあげる。


「噂は聞いてます!サインもらえませんか!」

「………噂?」


 サインもらえませんかと片方の女性は持っていた羊皮紙と羽根ペンを渡してくる。

だが俺のきょとんとした様子を見て女性もきょとんと。


「噂って?」

「あれ?本人が知らない?」


 と言って、戸惑いつつも快く教えてくれた。

 曰く、早くも俺の大活躍が巷で話題となっているようだった。カマエルを大魔法で跡形もなく消し去ったことが人づてで伝わり、冒険者界隈では一大ニュースなんだそう。

それでついた(あざな)が、“紅冠鳥”ソラ。紅冠鳥って……?と思ったが、どうやら紅冠鳥というのはカーディナルとも言い変えれるそうだ。

何故カーディナルなのか。俺は訝しんだ。過去に【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】を使ったのはセトだが、何故俺がカーディナルなどと呼ばれているのだろうか。


《ごしゅじんが使った魔法が、【紅月之黙示録カーディナル・アポカリプス】なの。》


 なるほど。その時の記憶はないのだが、タルタロスがそう言うのなら腑に落ちた。

 でも、なんだか“紅冠鳥”というのは微妙な気がするのは俺だけだろうか。

別に今まで複数語られていた通り名が一つにまとまるのはいいことなのだが、どうにも不満が残る。

―――ここで言えば、波となって訂正できるだろうか。


「紅冠鳥じゃ微妙だから、これから通り名はカルディナにしてよ。紅冠鳥(カルディナ)。それが、俺の通り名ってことで。他の人にも伝えてくれると嬉しいな。」


 辺りはざわめいた。だがそれはすぐに興奮が息巻いた声となって広がっていく。

 本人が通り名の訂正をしたということは、これから俺はその名で通っていくということと同義だ。

 まあいいだろ。カーディナルを短縮して今思いついた名前、カルディナ。意外にかっこいいんじゃないか?


「カルディナ……」


 まあその後はサインして上げた。生まれて初めてのサインだったが、果たしてうまく書けたかどうかは緊張で分からない。喜んでいたから良しとしよう。

 他の人たちにもせがまれたが、その女の人がサインをギルドに飾るというのでそれで何とかなった。そんな大御所扱いされても困る。俺は豪胆でもないし、そんな大層な男じゃない。ただの一介の冒険者なのに、何故こんなに有名になってしまったのだろうか。

 噂は噂。所詮口伝の冒険譚には限界があるからな。どうせすぐに埋もれて消えていくのだから、この一時の栄華に身を任せてみてもいいのかもしれない。

 栄華と言っても、基本死地に潜るだけの少々乱暴な生き様なのだが。荒くれ者の職である冒険者たちにとって、それほど乱暴な場所を生き抜いてきたのがいいのかもしれないが、令和のゆとり世代である俺には全くと言っていいほど分からない。理解性は皆無である。

 こうなった経緯にしても人の心というのは分からない。が、とりあえずサインをしてあげてその場をあとにした。

 余り目立つのも苦手だからな。記憶や歴史に爪痕を残すのは結構。だが注目されすぎるとビビってしまう、前世の人見知りが発動してしまう。

 その後も道を行くたびに何やら俺に対する話し声が聞こえてきたのだが、別に悪いことではないと解っているので聞き流しながら、南門へと進んでいく。

 プロタ王国最南東に位置するこの街は、地理においてかなり苦戦が激しい。なにせ南は無限に続く海、東は不毛の地なのだから。

 海にもどうやら凶暴な魔物が多いようで、日本で言うカジキやホホジロザメのような人間を殺しうる魚のような魔物が多数生息している。

 ちなみに海には神が祀られているという噂も聞いた。それを聞いたセトが何か心当たりがあるようで、魔王城に行く際に協力してくれるかもしれないとのこと。

 俺は神の名を八人分全員覚えているわけではない。セト、リュナ、コウ、ディボスしか覚えてない。が、神の中に巨大魚みたいな神がいたということは覚えているので、多分そいつだろう。

 ここから馬車で二日南西に進んだところに、その神を祀る祠がある漁村があるそうだ。

 漁村と言っても生半可な村ではなく、もう政令指定都市にしていいんじゃないかというくらいの発展度合い。アドバンテージとなる水産業の方法を確立した英雄がその地の出身らしく、昔から伝わってきた方法によって漁を続けているそうだ。

 これはギルドで初めてであった初対面の人から聞いた話だ。ギルドの酒場というのは意外にも交友関係ができやすく、知らない顔同士でも比較的気軽に話せるような雰囲気がある。そのおかげで必要な情報を集めることが出来た。

 その日は一日街を歩いてくたびれたので、宿に泊まることにした。本当に旅人用の一般的な宿なのだが、少々金を使ったことで綺麗なところに止まることが出来たのだ。

 明日も、まだ旅は続く。いずれは死闘がまた起こるのだから、ここでゆっくり休んでおきたい。

 そう考えながら宿のベッドに潜り込んで、風呂上がりで火照った身体を十分に休ませながら瞼を閉じ、眠りについたのだった。

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