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第二十四話 精霊神の帰還

〜前回のあらすじ〜


 何があったのかは覚えてないけれど、事態は終息したようです。


◀ ◇ ▶


 現在、リュナの部屋に俺は居る。無許可での侵入なのはそうなのだが、今は許可をとる相手が昏睡状態なので仕方がない。それに、そいつを目覚めさせるために俺はこの部屋に入っているのだ。

 目の前のベッドには、リュナが横たわっていた。意識を失った状態で、目を覚まさない。

 意識を失って三日は経っているはずだが、苦しそうな様子は全くなく、寧ろ安らかに眠っていた。

 そんなリュナの寝顔を堪能している暇はない。リュナの顔に右手をかざし、頭の中でイメージを固めていく。

 この世界に来て五ヶ月以上、イメージをするという行動は何度も何度もしてきた。それ故にイメージという行為自体にさほど時間はかかることなく終わる。


《これからは、私の補助があるからもっと早く終わるよ。

イメージはいつも通りでいいからね。》


 だそうだ。

 タルタロスの補助のおかげか、イメージはいつもの半分の時間で終わり、リュナにしっかりと効果は付与された。

 瞼一つ、指一つ動かさなかったリュナの瞼はピクピクと動き、ゆっくりとその瞼は開いた。綺麗な金色の虹彩に囲まれた瞳孔は、急に光が入ったことにより小さくなる。


「うっ」


 眩しそうに、窓から入ってくる光から目を背けるリュナ。その視線の先に俺がいたことにより、リュナは目を見開いた。意識が戻ったばかりでまだ身体まで動かしにくいのか、先ほどから首から上の動作だけだ。


「ソラ君……」

「リュナ、起きたか。体調は大丈夫そうか?」

「う、うん、何とか。ソラ君は……?カマエルはどうなったの?」

「大丈夫。全部解決した。」

「良かった……」


 安堵のため息をつき、表情を緩めるリュナ。

 そしてリュナは気怠げにベッドから立ち上がると、よたよたとしながらも歩いてドアに向かう。

 俺もリュナの補助をしながら部屋を出て、部屋の外にいたリリスにバトンタッチ。

 続いて隣のシエラの部屋へ。

 シエラも、リュナと同様安らかに眠っている。シエラには、右腕の傷に右手をかざして発動させてみる。

布団をめくり、右腕を手にとって見てみると、その綺麗な腕には分厚く包帯が巻かれていた。

だというのに、包帯からは血が滲み出ている。

 この三日塞がらなかった、深い創傷。三日間流し続けた血液。

 それを今、俺の力により治癒させる。


「【虚無之神(タルタロス)】。」


 イメージの力により集結された神が如き力は、出血の止まらない傷口に充てられる。

 出血は止まらない。シエラは目を覚まさない。失敗?


《ううん。ちゃんと思いは届いたみたいだよ。》


 静かに、後ろからドアが開く音がする。振り向いて見てみると、リリスが入ってきていた。


「後は任せてにゃ。」


 そういうと、俺を押しのけてシエラの右腕に手のひらをかざす。


「【明鏡止水】」


 それはユニークスキルだった。傷口に当たる箇所は水色に発光。

 数秒してからリリスが慣れた手つきで包帯を外していくと、そこには傷跡なんてものはなかった。

あるのは、いつもと変わらぬきめ細やかな皮膚のみ。どうやらちゃんと効果はあったようで、ひとまず安心だ。


「あと半日もしたら目を覚ますと思うにゃら、そのときは甘やかしてあげにゃよ?この子、意識がにゃくても自分の気合で耐えてたんにゃから。」


 リリスの言う通り、目が覚めたら思いっきり甘やかしてやろう。いつもはそんなことはしないが、今回だけだ。


《チッ》


 ん?どうした?


《い、いや、なんでも》


 そうか。

 ちょっと気になるところはあったタルタロスだけども、そのことについては言及せず、ノアの部屋へと向かうことに。

 二人と同じように、ノアも権能による治癒を始めていく。

 群青色の痣は顔にまで広がり、呼吸は浅く早い。身体は熱を持っていて、顔色と呼吸からして明らかに体調が悪そうだ。


「この呪いについては、私でも分からにゃい。

ユニークスキルで無理にゃから、ソラくんにゃら……」


 俺は右手をノアの顔にかざし、【虚無之神(タルタロス)】を発動させる。

 だが―――


《あー、これ、多分できない。》


 はぁ?待ってくれ、どういうことだよ。


《ごしゅじんには謝らないといけないけど、この権能は私には手に負えない。》


 どういうことだ?詳しく教えてくれ。


原初之権能(プリミティブスキル)。多分【略奪之神(ゲーラス)】かな。【夢寐境界呪式】。あいつの権能の中でこれだけは、私じゃどうにもならない。

もっと純粋な回復力だったら……》


 【略奪之神(ゲーラス)】。ノアは、この呪いを西の魔王にかけられたと言っていた。つまりは、西の魔王は原初之権能(プリミティブスキル)の能力者。

 いや、今はそれより。純粋な回復力ってどういうことなんだ。


《ごしゅじんに先に一つ、権能についての法則を教えておくね。

原初之権能(プリミティブスキル)っていうのは、ほとんどが闇属性か光属性に分かれてるの。同じ属性同士だと、お互いに干渉しにくい。だから、他の属性で回復ができるやつ、光か水だったら可能なの。そのためには原初之権能(プリミティブスキル)と同じくらいの力がいるんだけど、当てはまるスキルは二つある。》


 ―――その二つは?


《【大海之神(タラッサ)】と、【天空之神(アイテル)】。どっちかがあれば、この女は助かるよ。》


 ―――そうか。苦しそうなノアを放ってはおけないが、今はそのどちらかを探す必要があるんだもんな。

 ノアの呪いはタルタロスじゃ解けない事が解って、俺は部屋から出る。

 部屋の外にいたリリスとリュナには説明をした。

 そのうえで、俺は一階へと戻っていく。

 悲しんでいるわけではない。二つの権能のどちらかをどうやって入手したらいいのか、考えているのだ。

 そもそも入手というか、この権能を持っている神を味方にしないといけないのかもしれない。

 俺が一人で物思いにふけっていると、玄関の方から扉の開閉音が聞こえてきた。

 そして俺の視界に入ってきたのは、セト。帰省しに昔暮らした村に行っていたはずだが、帰ってきたようだった。


「おかえり、セト。」

「ソラ。ちょっと聞いてくれないか。」


 帰宅早々何やら話があるようだ。セトの目は暗い。憎しみを抱え込んでいるような、気分の落ち込み方だった。一体村で何があったというのか。


「村で、不思議な夢を見た。我の過去の村の記憶だ。村を襲ったのはイグモニアの軍だというのは話したよな。」

「うん。」

「その軍を操っていたと思われる奴を見つけた。」

「一国の軍を?誰が?」

「我の好敵手(ライバル)にして因縁の相手。現南の魔王、コウだ。」

「南……」


 なんだか聞いたことがあるような気がするが、セトのライバルならば恐らくそいつも神。

なるほど、それでセトは怒りに燃えているわけだ。


「ソラ、我は―――」

「ついて行く。セトの言いたいことは理解できた。」

「―――そうか。ありがたい。

すぐにでも出発したいが、大丈夫か?」

「準備はすぐ終わるから、今日の日没頃に出発でいいか?」

「本当に、ソラは優しいな。恩に着る。」


 と勢いで言ったものの、実は特に何も考えずに言ってしまった。

 セトの言いたいことはわかる。村の仇を討つために、そのコウってやつを倒したいんだろう。

 俺としても、そいつが神ならば原初之権能(プリミティブスキル)について何か情報が得られるかもしれない。

 準備自体はすぐに終わる。俺はセトに一言言って、準備をするために自分の部屋へと戻った。

 そして、リュナやカイルたちに事情を説明する。

 一応まだ病人であるリュナは、行きたいとせがまれたが置いていく。カイルとリオンとシグルドは、俺が説明をしても心配するような素振りはなく、笑顔で「行って来い」と言われた。リリスとサーシャには、「三人は任せて」と。

 説明も終わり、その後自室にて一時間ほどで準備を整えた。

 例の野営用魔道具もしっかりと携え、リュナから借り受けた四次元バッグに荷物を全て詰め込んで、部屋を出る。

 セトは手ぶらだ。旅のときは毎回のことだが、セトは精霊なので人間に必要なことはほとんどしなくていい。食事も、睡眠も、排泄も、必要ない。つまりは何も持っていかなくていい。

 そんな身軽なセトと共に、リュナやカイルたちから見送られながら南の魔王城へと旅立つこととなった。


「ソラ君、セト君、無事に帰ってきてよ!」

「リュナは安静にしとけよ。」

「ソラ、お前ならできる。きっと余裕だろうが、頑張ってこいよ。」


 応援の言葉で背中を押され、俺とセトはすっかり整備された道を、南門方向へと歩いていった。

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