第十五話 アクロ奪還作戦
〜前回のあらすじ〜
リザードの大群を皆で倒しました。
◀ ◇ ▶
魔王軍幹部、ミカエルから届いた手紙には、俺を連れてこいと書いてあった。その事をリュナとセトに相談しに行こうと思う。
手紙の内容を伝えてくれたリーベにお礼を言い、俺は部屋を出てリュナの部屋へと向かう。
部屋について扉を開けると、そこではセトとリュナがボードゲームをして遊んでいた。
あんなに大きな戦いがあったというのに、いつもどおりの呑気な過ごし方に俺は少々呆れたが、今はそれどころではない。
「リュナ、セト、ちょっと良いか?」
「ん〜?何〜?」
「今いいところだから手短に終わらせてくれ。」
最近セトもリュナの呑気さに侵食されつつある気がする。ほのぼのとした空気に気圧されそうになるが、本質を忘れずに二人に話す。
「実は、手紙でミカエルから宣戦布告を受けた。しかも、アクロを人質にとって。だから、どうするべきか相談しに来たんだ。」
「ミカエルというと、あの雑魚堕天使のことか。」
「ソラくんなら勝てると思うよ。だから、そんなやつぐらいちゃちゃっと倒してきてよ。」
…………もはやこの空気に呆れて何もいえない。
「あのなぁ。もうちょっと緊張感というか、危機感を持ったほうが良いんじゃないか?
街が人質になってるんだぞ?
多分前より強力な軍勢を率いていると思うし、二人の力を借りたいんだよ。頼むって。俺は二人を頼りにしているんだから。」
これでだめなら引きずってでも連れて行く。
なぜそんな事をするかって?答えは簡単。俺一人だと死ぬ気しかしないからだ。幾らチートスキルを持っていたって、多勢に無勢。せめてこの二人の協力が欲しい。
「ふふーん。ソラくんが私たちを頼りにしてくれていると言うなら、仕方ないなぁ。」
「フハハハ!!ソラが期待する力、見せつけてやろう。もっと頼ってくれても良いんだぞ?」
呑気にも程があるからムリだと思っていたが、以外にあっさりOKが出た。しかも、こいつらチョロい。「頼りにしている」という言葉だけでいとも簡単に落とすことができた。
「ありがとう!それじゃあ、出発しよう。」
「え、今から?」
「まだ猶予はあるだろう。」
「いいや、これから出発だ。あの余裕ヅラしているミカエルには、一発キツイのをお見舞いしないとな。」
現在占領されているアクロを、できる限り早く取り戻したいからだ。それに、相手は魔王軍幹部なのだから、ここで倒しておかないと後々面倒になりそうな気がする。
「ま、まあ、ソラがそこまで言うのなら付き合うが……」
「じゃあ、準備して馬車でも借りる?歩きはやだよ。」
複雑な事情が絡み合う中の俺の無茶振りに、嫌そうな顔をしながらも二人は渋々了解してくれた。
その後、それぞれ戦いの準備を済ませて屋敷の玄関に集合する。
そこには、俺たちを見送るためなのかリーベとルミアがいた。
「リーベ、ルミア、どうしたの?」
「あの手紙のことなのですが、冒険者の皆さんに相談して回りました。
怪我が完治された方々が参加したいと言ってくださったので、馬車の手配をしてからソラさんのお見送りをしようと思いまして。」
「私も今回の戦いに参加します。ソラさんを危険にさらす訳にはいきません。」
「ルミアちゃんはこう言ってまして……
冒険者の皆さんやルミアちゃんも一緒に連れて行ってあげてください。」
そう言って、リーベが玄関のドアを開ける。玄関先の庭につながる白い石畳の道には、十何人かの冒険者が今から勃発しようかという新たな戦いに息巻いていた。中には見覚えのある顔がちらほらある。冒険者リーダー、剣が強いおっさん等など、錚々たる顔ぶれだった。
「ソラさんと街のピンチだ。喜んで力を貸すよ。」
「今回もミカエルの仕業なんだって?」
「あいつは倒しておかないと。ついでに報酬も……」
「もう、あんたはそうやって物欲しかないんだから。」
なんか色々言っているが、俺が数えてみるとルミアを除いて総勢十四人。つまり、合計十八人。
数としては少ないが、ミカエル戦、紅のリザード戦を生き抜いた猛者たち。当初の予定だった三人と比べると、六倍の戦力になったのだ。ありがたいことだ。
「それじゃあ皆、今からアクロを奪還する!
勝利条件はミカエルの討伐!
恐らく奴が従えている軍勢は前より強力なものになっている。
油断せず、今回の戦いも勝利するぞー!」
「「「おーーーー!!」」」
冒険者リーダーの、皆を焚き付ける勇ましい掛け声によって、今この瞬間から第二次ミカエル戦が幕を開けることとなったのだ。
各々がパーティごとに用意されていた馬車に乗り、アクロを目指す。
出発してから三時間ほど経った頃、件のアクロの街が見えてきた。ところどころに兵士の姿が見えるが、それらは全て小鬼の小隊だ。
遠目に城壁と兵隊たちが見えてきた後暫く進むと、向こうはやっと俺たちを視界に捉えたのか、「敵襲ーー!」という声とけたたましい警報音が僅かながら聞こえてきた。
だが、それと同時に冒険者たちが馬車から降り、西門の前を守る小隊に斬り掛かっていく。援軍を要請する暇もなく、逃げたり体制を立て直したりする暇もなく、武骨な冒険者たちによって小鬼たちは面白いほどに蹴散らされていく。
「わぁーー!!」
「応援を呼べー!!」
「助けて!死にたくない!」
「襲撃だぞー!!」
アクロを解放するために本気で倒しに行く冒険者と、寄せ集めのせいか全く統制が取れず、反撃もできずにただただ逃げ惑うだけの大混乱の小鬼たち。
どちらが悪役なのかわからないほど一方的な戦いに、俺は遠くから見ていることしかできなかった。
そうしていつの間にか西門は制圧され、戦いの火蓋が切られてから僅か数分で街の内部への侵入が可能となった。
先の小鬼たちが要請した援軍に警戒しながら俺たちが街の中に入ると、街なかには人がおらず、空気が張りつめるほど静かで、閑散としていた。
活気があった市場も、子供たちが遊んでいた広場も、人が一切いない状態だ。
そんな静かな街の中で見えたのは、敵の軍勢。
先程よりも一回り大きい小鬼で構成されている部隊。
武装してはいるが、正直装備が貧弱すぎて戦いになるかも怪しいところだ。
案の定、より早くその姿を視界に捉え、先回りして潰しに来た冒険者たちと交戦になり、わずか数分ほどで隊は壊滅した。
その調子でどんどん街の中心部へと進んでいく冒険者たち。
街の中心部の重要な施設が集まる地域に近づくにつれて、敵の軍勢が強力になっていく。
ここで、改めて今回の作戦を説明しておこう。
冒険者リーダーの見立てによると、大抵街を支配するには人質の動向を監視しておかねばならない。そのため、住民を大きな建物に集めて幽閉しておく場合があるのだそうで。
住民が囚われている確率が高い場所は六ヶ所。
冒険者ギルドアクロ支部本館。
教会の大聖堂や敷地内にある周辺の建物。
行政を担当している役所。
アクロ警察署。
アクロ立支援学校。
アクロを領主に代わって治める、町長の屋敷。
これらがこの街で代表的な大きい建物の為、住民が集められている確率、より強力な部隊がいる確率が高いのだそう。
俺たちの目的は、まずこの六ヶ所を制圧し、住民の安全を確認すること。
そして、今回の事件の首謀者であるミカエルを探し出し、確保すること。
戦いの後に残るであろう残党をローラー作戦でひとり残らず潰すこと。
以上だ。
街に侵入し、中心部まで近づけたので、俺たちは六つのグループに分かれ、各々目標場所を制圧しに行く。
俺は教会制圧のメンバーとなった。
理由は、教会といえば天使。
ミカエルは堕天使なので、教会にいるんじゃないかという意見がでた。
ミカエルは爆撃魔法を使うので、魔法を消せる俺の能力が必要になるかもしれないそうだ。
そんな作戦が立てられ、俺たちは三人ずつのグループに分かれた。人っ子一人いない中央広場で、十八人がそれぞれ六方向に歩き出す。
皆が解散してから俺たちのグループは南方向に暫く歩き、途中で遭遇した小隊をなぎ倒しながら、教会の敷地の入口へと到着した。
教会は、大聖堂、宿坊、あとなんか変な小屋が四つほどで構成されている。
各建物を回らないといけないのだが、俺としては宿坊が可能性が高いと思っている。
それでも一応目と鼻の先にある大聖堂から探索を開始していく。
敷地内に入り、大聖堂を目指す。
教会の周りには全身鉄鎧と肉切り包丁で武装した大鬼の部隊が展開していた。
魔法職である俺には天敵である前衛型の魔物だが、幸いにも俺のグループには同じく前衛型のルミアがいる。
全身鉄鎧と肉切り包丁などなんのその、あっという間に入口の大鬼六体を倒してしまった。
遠くからは追加の武装大鬼が十数体ほど来たが、遠くなのでルミアに頼るまでもなく俺の魔法で対処可能。
即座に攻撃魔法を準備し、接近してきたおよそ十四体の大鬼を貫く。
いとも容易く魔物兵士たちを葬り去り、俺たちは援軍が来ないのを確認した後、大聖堂の大きな扉を開け、中を確認する。
そこには沢山の人がいた。
辺りには厚めの布が散乱し、大聖堂の奥で固まっている人たちは、男性が前で後ろの女性たちや子供を守るようにして立っており、後ろの子共たちは涙目でこちらを見つめていた。
状況を理解した俺は、彼らの不安を煽らないよう落ち着いた声で
「もう大丈夫ですよ。助けに来ました。安心してください。」
と言った。
その声を聞いて、前にいた男性たちはヘナヘナと座り込み、女性たちは安堵のため息を吐き、子供たちは安心したように泣き出した。
そんな中、一人の男性が前に出てきて、俺たちに言った。
「助けに来ていただいてありがとうございます。私たちは今のところ怪我などはありません。
ですが、宿坊の方に連れて行かれた人たちが何人かいます。そちらも助けに行っていただけないでしょうか。」
「ええ。今からそちらにも行きますが、外はまだ危険です。安全が確認されるまでここで待っていてください。」
グループの俺とルミア以外のもう一人の男がなだめるようにそう言って、俺たちは新たなる目標である宿坊へと出発する。
先ほど人々をなだめた男を護衛でおいていき、俺とルミアで宿坊の制圧をするつもりだ。
宿坊にも武装した大鬼たちがいた。
先程と同じように入口の大鬼をルミアが倒し、遠くから来る援軍を俺の魔法で沈める。
今回手間取ったのは建物に侵入した後だ。
建物内にも武装した小鬼がおり、侵入した途端襲いかかってきた。
建物の中は狭く、部屋に人質がいる可能性もあるため暴れることができず、たかが小鬼程度に時間を喰ってしまった。
結局探索の結果一階には誰もおらず、俺たちは何の収穫もないまま二階に上がることにした。
二階にも見回りの武装小鬼がおり、少々苦労したがなんとか倒すことができた。
二階の部屋のドアは南京錠で施錠されていて、部屋の中に人質がいた。まるで囚人のような扱いだ。
俺とルミアで南京錠を破壊して周り、合計三十六人を助け出すことが出来た。
助け出した人達の話によると、三階にも人がいるそうなので、二人で三階に上がる。見張りはいなかった。
三階では四十八人を助け出すことができ、現在の救出人数は合計百二十四人となった。
宿坊の人たちに大聖堂に集合するように言い、俺とルミアは残りの四つの小屋を見に行くことにした。
四つの小屋は塀の内側、敷地の四方に建てられており、敷地内を一周することになるため移動にかなり時間がかかった。
一つ目の小屋はただの物置。
二つ目の小屋は食糧庫。
三つ目の小屋は書庫。
四つ目の小屋も物置
―――だと思っていた。
違和感があったのは四つ目の小屋だ。
物が角に積み重ねるようにして置いてあり、まるで下に何かを隠しているようだった。
それに、外見はボロボロなのに、中に埃が少ない。
俺はルミアにこの違和感を伝え、二人で物をどかしていくことにした。
そうしたらなんと、地下室への扉が見つかったのだ。
俺が偵察部隊として先に入る。
中は石を積んで作った部屋で、比較的真新しい鉄格子が部屋を区切っている。まるで牢屋のようだった。
石壁で隠れて見えなかったが、その牢屋の中には、数人の聖職者がいた。
司祭のような格好のおっさんが一人と、シスターのような女性が五人。
ルミアが鉄格子を破壊して全員を助け出した。
俺が違和感に気づいていなかったら、この人達は閉じ込められたまま死んでいただろう。
全ての場所を探し終えたため、助け出した六人を大聖堂へ連れて行った。
すると、
「神父様!ご無事でしたか!」
「良かったです。私たちも神父様方がどこに連れて行かれたか分からなくて……」
「神父様も、シスターさんたちも、無事で良かった……」
と、大聖堂で待機していた人たちが司祭のおっさんに駆け寄る。
この人神父だったんだな。だとしたら尚更、助けることができて良かった。
俺とルミアが後ろからその感動の光景を眺めていると、神父さんが俺たちの方を振り向いて、歩いてきた。
「ありがとう、少年よ。
君がいなければ私たちは地下牢で命を落としていただろう。
今は私たちは何もできないが、この街のために頑張ってくれ。君たちに、神の祝福がありますように。」
「ありがとうございます。
今、僕らの仲間が別のところで交戦中ですので、安全な場所、例えばこことかで待機していてください。
安全が確認されたらまた来ますので。」
神父さんのとても聖職者らしい言葉に俺はそう返し、俺とグループの二人は次の場所、冒険者ギルドへと向かうことにした。