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第十八話 セトの不在

〜前回のあらすじ〜


セトが墓参りをするため、一度故郷に帰っていきました。


◀ ◇ ▶


 今日はセトが居ない。

 セトがアクロを発ってから三日となった。

 今日も穏やかな日々が続く―――わけではなく、この三日とある出来事があって大変だった。

 ノアが倒れた。

 一ヶ月前から身体に異変が起こっていたノアが、倒れた。

 髪の内側は群青色に染まり、片方だった虹彩の変色ももう片方にまで到達した。頭の猫耳の内側も群青色に染まり、ノアの身体にも不調が起こっていた。

立ち眩みや咳、最初はそんなものだった。だが、今回ノアが倒れたことで状況は一変した。

 俺の目の前でベッドに横たわっているノア。

 ここ最近長袖長ズボンを着て不自然に肌を隠してきたノアの腕を見る。

 その細く綺麗な腕には、人の肌には似つかわしくない、とある模様があった。痣と言ってもいいだろう。()()()()()()()()()()()()。牡丹のような形をした痣だった。

 腕の所々にその痣が現れ、脚にも同じような痣が発現。どうやらノアはそのことを隠していたようだが、たちまち容体が急変。たまにではあるがこうしてベッドに横たわり、リュナの治療を受けている状態にまで陥ってしまった。


「ノア、具合はどうだ?」

「ソラくん……ゴホッゴホッ……な、何とか大丈夫です」

「―――なんでこんなになるまで教えてくれなかったんだ?」


 俺が一番気になっていたことを、質問した、

 その問によってノアは若干複雑そうな表情を見せたが、申し訳なさそうにこう言った。


「―――だって、ソラくんに心配かけたくなかったから……」


 ノアのその言葉に、俺の腹の底からこみ上げてくる何か。俺は以前ノアに言った言葉を思い出しながら、感情を吐き出すように言う。


「俺は、相談してくれと言ったよ。それなのにこんな状態になって、こっちのほうが余計に心配になるんだよ!」


 その俺の剣幕にノアは黙り込んだ。

 そして一言、ノアは自らの腕の状態を見ながら言葉を紡ぐ。


「―――ごめんなさい。」


 その言葉で終わらず、ノアは弁明の言葉を並べ立てる。


「これは、いくら相談したところでどうしようもならない病です。きっと相談しても、ソラくんには何もできなかった。凄い回復術を使いこなすリュナちゃんでも、私と同じ境遇のシエラちゃんも、この状態を目の当たりにしても何もできない。セトさんの権能なら或いはあったと思いますが、戦闘用スキルに治癒効果は見込めません。

相談しても治ることはないのならば、みんなの手を煩わせたくない。先ほども言ったように、心配をかけたくなかったんです。

アクロが破壊され、その状態から復興できるまでにみんなの心に負担をかけたくなかった。だから、今まで隠してきました。ごめんなさい。」

「―――ノアは、ノア自身は、この病が何なのか知っているのか?」


 思わずそう聞いてしまう。それほどまでにノアの話には不明な点が多い。まだ何かを隠しているような、そんな感じがした。

 質問を受けたノアは、答えづらそうにしている。一度口を開いて何か言おうとしたが、それも途中で止めてしまった。


「隠さなくていい。相談して欲しい。そう言ったのに、まだ自分で抱え込もうとするのか?

たとえどうしようもなくても、手を煩わせようと、俺はノアの不安を背負いたい。それでノアの心が軽くなるのなら、そうして欲しい。

話してくれないか?」


 心からの思いをぶちまけた。たとえこれでも話してくれなかったとしても、その場合は俺が潔く引くまでだ。


「―――わかりました。話しましょう。」


 ノアはベッドから起き上がって、俺の横を通り扉まで歩いていく。

 体調は崩しているが、その動きには普段と何の変わりもない至って元気そうな足取りだった。

 ノアは部屋から出る。その後を追って俺も部屋から出て、キッチンに向かうノアの後ろをついていく。


 「私のこの病。これは単なる病ではありません。“呪い”です。私がまだ西の魔王軍幹部、“憤怒”だったときに掛けられた、トリガー式の呪い。

術者は西の魔王です。私が裏切った時のために、いつでも殺せるように掛けたのでしょう。それが発動して、私の身体は日に日に蝕まれていく。

なので、簡潔に言ったら解呪が不可能なんです。私の前の“憤怒”の幹部は冒険者に討ち取られ死亡したのですが、その際にこの呪いについて教えてくれたんです。彼女も、前代の幹部から教わっていたのでしょうね。

“牡丹の水薬”。それが、私の身体を蝕む呪いの名前です。牡丹の形をした痣が身体中に発現し、やがては重要臓器にも広がっていって死に至る。あの時ソラくんから指摘された時、呪いの発現に気づいたんです。

髪の変色が、呪いの第一段階と聞いていましたから。」


 キッチンでコップに水を注ぎ、それを持ってリビングまで移動するノア。

 落ち着いた様子でコップの水を飲み、右手のひらを見る。

 綺麗な肌に現れた、主張が強い群青色の牡丹の痣。


 「やがてこの痣は身体中に広がります。それまでに対処をしなければ、私は死んでしまう。

でも、そうなったとしてもいいと思ってるんです。もともと私の命なんて、あって無いようなものでした。あの時ソラくんに救われ、私の命は形を取り戻しました。

―――私は、ソラくんに最期を看取って頂ければ死んでも悔いはないです。」

「死ぬなんて……俺はノアを救う。必ずその呪いを解呪して、ノアを救ってみせる。だから、死ぬなんて言うな。」


 死なせない。呪いなんかに負けて、むざむざ死なせたりはしない。例え治療不可能でも、必ず治療法を見つけてみせる。

ノアは大切な仲間だ。死に別れなんてごめんだ。


「……やっぱり、ソラくんは優しいですね。」


 それだけ言って、ノアはコップをキッチンのシンクに置き自分の部屋へと戻っていく。

部屋に入る直前、俺に向かって「ありがとう。」と言って、扉は閉じられた。


 そして、ノアからその告白を聞いた翌日のことだった。

 リュナとシエラにもその旨を話し、どうにかできないかと話し合った。

 小一時間ほど話し合った末、結局結論は出なかった。そもそも、神であるリュナでも解呪はできない呪いだ。回復のスペシャリストとも言えるリュナが出来ないのであれば、どうしようもない。かと言って、ノアを見捨てるわけにはいかなかった。ライバル関係にある二人も、仲間として、友達として真剣に対策を考える。


「思ったんだけどさ。」

「何だ?」

「私がその呪いをどうしようもできないの、多分私の権能がユニークスキルだからだと思う。」

「と、言うと?」

「魔王からかけられた呪いなら、当然その権能は神之権能(ゴッドスキル)神之権能(ゴッドスキル)でかけられた影響は神之権能(ゴッドスキル)でしか解呪できないからね。私の【森羅万象】でも治療に至らないのは、多分そういう原理だと思う。」


 成る程。それは確かに、よくよく考えてみれば一理ある意見だ。

 東の魔王も神之権能(ゴッドスキル)を持っていた。さらにその魔王を倒したカズトが神之権能(ゴッドスキル)灯火之神(ヘスティア)】を獲得。このことからも、魔王となった者が必ず神之権能(ゴッドスキル)を持っているという法則性は考えられる。

旅の道中でリュナがそんなことを言っていた気もするが……一旦ここは『魔王は神之権能(ゴッドスキル)を必ず所持している』という理屈で考えるとしよう。

 その権能で呪いをかけたなら、神之権能(ゴッドスキル)じゃないと解けない。神之権能(ゴッドスキル)には神之権能(ゴッドスキル)でしか対応できないというルールに則ったものだろう。

 ということは……?ノアを救うためには、神之権能(ゴッドスキル)が必要になるということである。しかもセトの【混沌之神(カオス)】は頼りにならないそうなので、ああいう戦闘系ではなく治療系が必要になるそうだ。

 最強の治癒術師、リリスがその類いの権能を持っていたりしないだろうか。

カイルとイヴァナは神之権能(ゴッドスキル)を持っていたので可能性は十分にある。

 だが、カイルに送った手紙に関しては音沙汰がない。届いていないのか、読んでいないのか、集合できていないのか、はたまた他の理由か。世界最強パーティがくる予兆すらもないので、正直当てにならない。

 こうなればもう俺が頑張るしか……!とも思ったけれど、そもそもの問題として俺の【諸行無常】を神之権能(ゴッドスキル)に進化させることが難しいのだ。

 この際、南か西の魔王を倒しに言ってもいいかもしれない。神之権能(ゴッドスキル)を得るために。

 だがこの日は結論が明確に出るわけでもなく、後はそれぞれが仕事をこなして一日が終わったのだった。


 ―――次の日に復讐劇が始まろうとは、この時誰も知る由もない。

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