第十五話 新たな物語の始動
〜前回のあらすじ〜
屋敷を改装し、皆で暮らし始めました。
◀ ◇ ▶
俺たちが屋敷に移り住み、あれから一ヶ月が経過した。
その中での他愛ない出来事や日々の生活は、少々省略させてもらおう。
俺が生活の中でふと気になったことを、これから幾つか発表していこうと思っている。
まずは一つ目だ。
前置きになるが、現在アクロは復興が進んで、街の三分の一程の家が再建された。
アクロが元通りになってきて、俺はカイルとリオンに宛てて手紙を書き、王都に送った。
リースにも送った。送らないとリースが怒ると思ったから。
カイルたち二人に送った手紙の内容としては、『復興も一段落したから、ぜひともアクロに訪れてくれ』というもの。
それが受け入れられたのかはわからないけれど、少なくともカイルとリオンはこの一ヶ月以上アクロに来ていない。
メンバー全員と合流できたのか気になるところだ。
リース宛ての手紙には、最近の身近で起こった出来事を書き連ね、ついでに気遣いの言葉等を書いて送った。
今朝ポストを見たら、リースからの手紙が入っていたので後で読もうと思う。
で、次だな。二つ目。
―――ノアに異変が起こった。
髪の毛の時点で異変だと言ってもいいのだが、今回ばかりは明らかにおかしい。
その根拠となるのが、二つある。
片方は髪の毛の色だ。前回ノアに聞いたときは髪の毛の先のほうが変色していたが、あれから一ヶ月。
色はどんどん侵食して、先のほう、髪の半ば、付け根付近と、裏側だけが群青色に染まっていく。
果ては、ノアから見て左目、俺から見て右目の色が変わる始末だ。
サファイアのような綺麗な青色だった瞳が、群青色に染まった。
青同士なので気づきにくいが、よく見たら左右で色が違う。
いわゆる、虹彩異色症。もう少し一般的に言えば、オッドアイだ。
右目がサファイアの青、左目が群青色。微妙な違いではあるが、これは髪の変色が瞳――虹彩にまで侵食してきているということで、とても看過できる事態ではない。
そしてもう一つの理由が、ノアの若干な体調不良だ。
本当に軽微なものではあるが、最近ノアの体調が悪い。
咳がひどく、たまに立ち眩みをする。本人曰く若干倦怠感もあるようで、変色となにか関係があるのではないのかと踏んでいる。
ノアに聞いても原因は全く分からないとのことだ。リュナも解析不可能。なんなら治癒魔法では治せない。
こうなったら俺の知る限りの最後の希望は“世界最強の回復術師”である、リリスのパワーくらいだろう。会ったことないけど。
ノアが本当に心配だ。シエラとリュナ、セトも心配するくらいだ。
ノアの異変が、二つ目。ただ話していてもどうにもならないので、ここで話題転換をしようと思う。
三つ目だ。ギルドで、不穏な噂を聞いた。
なんでも、ユニークスキル持ちが次々と襲撃に遭い、殺されているらしい。
異世界人がほとんどで、その犠牲者の数は三十人にのぼるという。
その襲撃者の情報としては、謎に包まれた部分が多い。目撃者の少なさや、その場にいた人間の大半が殺されていることから、限りなく情報は少ない。
分かっているのは、誰かになにか恨みを持っていて、それの八つ当たりで異世界人を見つけ出して殺しているということ。
仮面のようなもので顔を隠しており、身体は黒い布のような服で覆い隠しているという。
これだけで何が分かるというのだ。
俺も異世界人、パーティ全員がユニークスキル持ちなので、俺が狙われる可能性もないわけではない。
というか、魔王軍キラーとかなんとか言われて持て囃されているというのに、襲撃の兆候なし。
ユニークスキルの情報は漏れていないのだろうか、はたまた俺の武勇伝がその襲撃者の耳に届いていないだけなのだろうか、どちらにしてもこの一ヶ月間、襲撃が起こるなんていう素振りは無かった。
まあいざとなったらこっちにはセトがいる。【混沌之神】でボコボコにしてくれるだろう。
ちなみに、俺がこんなに他力本願なのは理由がある。
相手はユニークスキル持ち相手に何連勝もし、虐殺を繰り返してきたというのだ。少なくとも波のユニークスキルより高い権能を所持している可能性は高い。
最悪、神之権能なんてこともあり得る。
そんなことになれば俺の【諸行無常】は通用しないので、原初之権能であるより確実なセトの権能を頼っているのだ。
ところが。そんな俺の思惑とは裏腹に、ある日突然セトがこんな事を言いだした。
「我、一度故郷に帰ってみたいと思っているんだが。」
その発言は、とある日のとある朝のとある朝食の席での唐突なものだった。
セトの故郷。確かイグモニア連邦国に潰されて、それでセトが怒り狂ったんじゃなかったか?
つまりここでいう故郷へ帰るとは、つまりは帰省とは、お墓参りみたいなものなのだろう。
その事情を知っていた面々も、知らなかった面々も、そのセトの思いたちを否定する者はいなかった。
「いいと思う。改めて、しっかり別れを告げてこい。」
「そうだね。セト君と仲が良かった子がいたんだっけ。お墓参りしてきなよ。」
俺とリュナは、そんな言葉をかけてセトの後押しをする。
皆の温かい態度に、セトは嬉しくも寂しそうに一言、「ありがとう」とだけ言った。
そして翌日の朝、前日から旅の準備をしていたセトは、北東方面へと徒歩で旅立っていったのだった。
セトの背中を見送りながら、若干だがさみしい気持ちになったのは気のせいだろうか。
うん。気の所為にしよう。
セトが無事帰ってきて、過去の出来事から吹っ切れることを祈るばかりだった。