第十四話 賑やかな日々
〜前回のあらすじ〜
廃屋の屋敷を改装して住むことになりました。
◀ ◇ ▶
正直に言おう。初めは、こんなことになるとは思っていなかった。
全く想像していなかったか、もっと違う想像をしていた。
今になって改めて見て、唖然としている俺。
俺の目の前には、俺が今いるこの空間は、最早貴族の屋敷と言っても遜色のない―――いや、それは言い過ぎだな。家具や装飾などは、その場しのぎの若干質の悪い安物に過ぎない。それでも豪奢な雰囲気がその部屋にあるのは、配色と明るさ、配置の工夫だろう。これを先導して色々と提案してくれたリーベにお礼を言わないとな―――趣のあると言ったらいいだろうか、屋敷と呼ぶにふさわしい装いとなって、復活したのだった。
そう。今俺の目の前にある光景は、知識のあるルミアとリーベ先導で改装された、先ほどまで廃屋だった建物の一室だ。
柔らかなクリーム色の壁と、木の温もりを感じやすいように調整した腰壁、穏やかさを表すために角を取った巾木。
凹凸を無くして白く塗った天井、床はどうしようもなかったのでコーティングのためにワックスみたいな塗料を上に塗り、ロムバート邸からもらった絨毯を敷いた。
廊下には余計な装飾はなく、花瓶やランプはほとんどない。その代わり、明かりには屋敷にあった光るクリスタルを砕いて壁に埋め込み、装飾かつ光源として活用。
元が分からなくなるほどの変わりように、俺含めリュナやシエラは開いた口が塞がらない。
尚、ちゃんと皆で一生懸命取り組んだ。途中の作業工程は省くけど、ビフォーアフターで考えてほしい。
俺たちが最初に来た時の屋敷。床はコンクリート、割れたガラスや木片、鉄片や埃、蔦と枝と葉が足の踏み場もないほどに床を埋め尽くし、同様にコンクリートである壁も風化してヒビがあちこちに入っていて、植物に侵食されつつあった。
そんなボロボロだった屋敷。廃墟と呼ばれていたのも無理もないほどの荒れようだった建物が、今はこれだ。
流石に当事者でも驚かざるを得ない。
そんな改装が、およそ三日間もの間続けて行われた訳だ。
物資の調達、掃除、施工、床のコーティングが固まるまでの時間を考えると、三日でこれだけの量の作業が終わったのは怖すぎる。
普通常識からしてあり得ないだろと、腹の底から叫びたいところだ。
当然この世界の常識でもありえないことだけど、よく考えてみてくれ。俺たちに常識が通用すると思うか?
答え、思わない。常識とはぶち破るものだと証明してくれた三日間だった。
そんな三日間を経て、俺たちはいつもの生活に戻った。
俺が異世界に来てから四ヶ月。着々と月日を重ねていくうちに、遂に自分の屋敷を持った。
ちなみにこの屋敷の権利に関する問題は、もう既に解決している。
街が管理することになっていたが、ロムバートさんにこの旨を話した結果、色々と手続きを終わらせてくれたので、もう心配はない。
「さあ、内装も完成したことだし、何する?」
「トランプしようよ。」
「いいですね!」
『トランプって?』
「まあ見とけ。」
意味がわからないような流れであっさりとトランプをすることに。
ババ抜き。王道の勝負が始まった。
ジョーカー一枚抜きの五十三枚のカードがシャッフルされ、一枚ずつそれぞれに渡されていく。
配り終わったところでそれぞれ自分のカードを見て、ゲームスタート。
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「まって、ソラ君何かイカサマした?」
「してないけど。」
「ちょっと、もう一回やります?」
「ああ。我もそれがいいと思う。面白くないしな。」
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「…………強すぎない?」
「ソラくんってこんなにババ抜き強かったんですね」
「何も仕込んでないようだし……まさか素で強いのか?」
「引き運が良すぎて自分でもひいてる。」
「もっかいやろうよ!」
―――――――――
「ねぇ意味がわかんない。」
「それはいくらなんでもないですって。」
「面白くないぞ、ソラ。」
「そんなこと言われても……」
「分かった。他のやろ、ポーカーとか。」
―――――――――
「何なの?」
「ポーカーでも駄目なんて……」
「逆にどうやったら勝てるのか気になってきましたよ。」
「自分でも意味がわからないよ、いや、イカサマなんてしてないからね?」
―――――――――
「…………」「…………」「…………」「はぁ……」
「ねぇ、ごめんて。いやしょうがないじゃん。引きの問題なんだから。」
『面白いほど負けていくねぇ。』
『フフフ。無様な姿。』
『弱い。』
「弱いって言うな!」
何が起こったかは、だいたい会話でわかると思う。
俺が強すぎた。ただそれだけだ。
鬼神の如き強さで五連勝。不動の一位を飾っていた。
対して負け続きのリュナを、霊たちが散々に煽っていく。
これが勝負。勝ち負けが存在するこの業界では、運を制したものが勝つのだ。
なんて偉そうなこと言ってたら、リュナがブチギレ。実際に言ったわけではないけど、負け続けているリュナは遂にキレた。
「うん、もうやめよ!トランプなんて!よくよく考えたらこんな状況でトランプなんてやるもんじゃないし!うん!そうだよ、みんなでボランティア行こうよ!」
そう言って強引にトランプを終わらせ、自分を納得させる。
でも、そのリュナの誘いでに反応して立ち上がったのはセトしかいなかった。
「―――三人は?」
「頑張って〜」
「せっかくなので自分の部屋の計画を練りたくて。」
「二人で頑張ってきてください〜」
「シエラちゃんだけでも行こうよ!」
「いや、ちょっと今そういう気分じゃ…」
「気分の問題なの!?」
そうこうあって、セトとリュナは二人でボランティアをするため、街に繰り出していった。
二人がボランティアに行ってから、俺たちはどうしたかと言うと。
シエラは自分の部屋で仮眠を、ノアは後で風呂に入りに行くそうだ。
「じゃあ、ソラさんとノアちゃん、おやすみ。」
「おやすみなさい」「おやすみ。」
シエラはリビングから去った。客室の方向へと消えていった。
シエラの姿が見えなくなったことを確認したノアは、手元にあるマグカップの中のお茶を一口飲み、小さなため息を一つ。
「ソラくん、一つ聞きたいんですけど。」
「何?」
「イザヨイアヤナっていう名前に聞き覚えはないですか?」
ノアが突然そんな質問を投げかけてきた。
イザヨイアヤナ。名前からして日本人っぽいけど、何故その名が今ここで?
というか誰?
「イザヨイアヤナ?―――いや、聞いたことないけど。」
「そうですか、」
「それがどうかしたの?」
「い、いえ、何でもないんです。気にしないでください。」
そう誤魔化し、ノアは席から立ち上がる。その際、俺はある部分の異変に気がついた。
「ノア、結局その髪の毛の色ってなんなの?」
「髪の毛―――ああ、これのことですか。」
「なんか広がってるけど、インクじゃなかった?」
「落とそうとはしたんですけど、インクではなかったみたいですね。」
そう言っているノアだが、これはやはり完全に異変だ。
前まで一部だけの変色だったのが、どんどん広がって髪の先の方は完全に群青色に。
インクでもないならば、ノアの体に何か異変が起こっているのではないか?
「ノア、体調は大丈夫?」
「体調?ええ、大丈夫ですけど……
体調が関係あるんですか?」
「いや、明らかに色が広がってるからさ、ノアの身体に何か起こってるんじゃないかって思って。」
「大丈夫だと思いますけど……
でも、心配してくれてありがとうございます、」
「大丈夫なら……まあいいか。
何か異変が起こるようなら、遠慮なく相談してよ。」
「ありがとうございます。」
そんな感じで終わって、そのままノアは風呂場の方へと向かっていった。
うーん、気になる。色が侵食していく、ノアの髪。ノアは平気そうな顔をしていたけれど、本当に大丈夫なのだろうか。
心配だけれど、これから一緒に暮らすことになるんだし、よく見てあげれば、何かあっても対応はできるはずだ。
現在ロムバート邸の引っ越しを手伝っているルミアたちにも、ノアのことを気にかけるように言っておこうかな―――いや、まだ今の時点で大ごとにするのは早いな。
経過観察。俺にできるのはそれだけだ。
ノアの異変も気になるけれど、現時点で特に問題もなく、俺たちの屋敷生活は始まった。
平和な日々を、送れるといいけれど。
『フフフ。平和。平穏な日々を望むなんて夢だと思ってたけど、お兄さんならできると思ってるよ。』
『僕たちも、幽霊ながらお兄さんの恋路を応援してあげよう。』
「何で恋路なんだよ。せめて安全とか平穏とかにしてくれ。」
『ひ、ひぃ……私も、勿論、邪魔にならないように応援してますからね……』
『僕も。頑張れ、お兄さん。』
「―――ありがとう。
十二人の大所帯かぁ。四人もこれから、一つ屋根の下で暮らす家族みたいなもんだ。仲良くしような。」
『勿論。』
『フフ。言うまでもないわね』
『私と仲良くなんて……ありがとうございます』
『うん。』
俺の傍らに歩いてきた子供四人。傍から見たら子供五人。
―――ここから、新たな物語が始まることになるのだろう。