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第十話 偽善の棺桶(前編)

〜前回のあらすじ〜


アクロに帰ってきました。


◀ ◇ ▶


 「―――と、言うわけなんだ。」

「ソラ君さらっと言ってるけどさ、それってめちゃくちゃ大変なことなんじゃない!?」

「あの偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)ですよね?そんなの冒険者間では有名な話ですよ!」

「私も最近聞いたことがある気が……確か、関わったら搾り取られて殺されるって。」


 俺は、昼食の席でリュナたちに犯罪者連合(クライム・ギルド)偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)に関する話をしていた。

 支部がアクロに根を張ってしまったようだと話をしていたら、リュナたち三人はそう騒ぎたてる。

 俺からしたら、リュナとシエラの騒ぎ方よりノアが言ってることが恐ろしく思えてくる。

 関わったら、搾り取られて殺される。犯罪者連合というだけあって、並大抵の犯罪じゃない。

 俺たち冒険者にとって、いや、それは町の人々にとっても、とても危険な因子となる。

 現代で言う暴力団なのだから、治安が乱れに乱れている今のアクロだったら、道端で出会うくらいの割合だろう。

 暴行、傷害、恐喝、窃盗、拉致、殺人。やつらが取りうる行動なんてこんなところだろうが、心身ともに消耗しきっているであろう町の人々にとって、心のバランスを崩すのには十分な力を持った存在及び集団であることは、その規模の大きさから見ても明確だ。

 だからこそ、今動くことができる俺たちが潰しに行こうと、そんな相談をしていたわけなのだが。


「俺としては、早急に潰したほうがいいと思っているんだけど。」

「当たり前でしょ!潰すよ!私たちで!」

「危ない気もしますけど、ソラさんが潰したいというのなら私も頑張ります!」

「我は別にどちらでもいいが、平穏が脅かされるというのなら協力してやろう。」

「私も、こんなのは許せないですから。」


 全員賛成っと。

 早速交戦の準備だ!―――と思ったところで、ノアから鋭い指摘が入った。

 たった一言でも、俺が勘定に入れ忘れていたとても重要なことだった。


「アクロの偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)の勢力って、どれくらいなんですか?」


 皆の安全につながる問題。指摘してくれたノアに感謝だ。

 相手の勢力も分からないのに突っ込むわけには行かないと、そういう訳だ。

 改めて考えてみれば、この問題に気づかなかった俺は愚かだなと心底思う。

 勢力問題。実際どれくらいなんだろうか。


「今こっちに入ってる情報だと、確か千人くらいじゃなかったっけ。」

「!?」


 俺は驚いた。いや、勢力に関してではない。喋り方はリュナに似ているけれど、声が幼い。

 聞いたことのある声がそんな答えを出してきたので、俺は驚いてその声の方向を見てみる。

 茶髪の、俺よりも身長が低いメイド。


「お兄さん、久しぶりだね。」

「リア!」

「セマフェレを潰しに行くの?お兄さん、ちょっと最近活躍し過ぎなんじゃない?そんなに有名になりたいの?」

「ほっとけ。これは俺なりの善意だよ。」

「セマフェレは偽善の棺桶だからね、お兄さんみたいな偽善者はあっという間に殺されちゃいそうな気もするけど。」

「偽善者言うな。世の中の優しい人全員偽善者になるだろ。」


 というような、リアとやるのは初めてのような茶番劇を繰り広げる。

 リア、(しばら)く会わないうちに毒舌になったんじゃないのか?


 「お楽しみのところ悪いけどさ、千人くらいだったら私たちでいけそうじゃない?」

「たかが千人、我が一掃してやろう。」


 リュナとセトが、千人という数を聞いて調子に乗る。

 二人とも神だから勢力感覚がおかしくなっているのだろうか。セトなら有言実行してしまいそうだが、リュナが勝てるなんて一ミリも思わない。精々後方支援部隊ってところだろう。

 千人。一万とかに比べたら圧倒的にマシだけど、千人もの人間を敵に回すというのは些か気が引ける。


「ソラくん、相手の数がどうこう言ってる暇は無いですよ。

今こうしている間にも、あの勢力はどんどんと根を張っているんですから。」


 ノアからの一押しで、俺は踏ん切りがついた。やる気が出てきた。

 アクロを守るためだ。犯罪組織なんてぶっ潰してしまえ。

相手は武装集団?こっちはユニークスキル持ちだ。

千人もいる?パワーで叩き潰せばいいのみ。

 要するに、再起不能なまでに、完膚なきまでに叩き潰せばそれでおしまいなのだ。

 この街にはもう二度と近づくなと、抑止力の役割を担えばいい。ただそれだけのことだ。

 俺が最終的な決定を下して、俺たちはアクロの犯罪者連合(クライム・ギルド)撲滅作戦へと乗り出したのだった。


◀ ◇ ▶


 見る影もないアクロの街並み。それは、二日経っても何も変わらない。

 ただ、変わらないのは街の被害状況だけだったようだ。

 人々の心は、確実に変わっている。これほどのことは無かったにしても、魔王軍に襲撃されるのなんて慣れているのだろう。

 いい方向でも悪い方向でも、人々は動き出した。

 実際、今俺の目の前で瓦礫の撤去作業が行われている。

 手伝おうとも思ったけれど、俺たちがここに来た目的を見失ってはならない。

 犯罪組織、偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)を撲滅するために、物理的に殲滅するために、完膚なきまでに叩き潰すために、こうして万全の対策をして来ているのだから。

 だが、俺たちがこうして潰しに来ても、情報が何も無い。どこに支部の建物があるのかとか、組合員はどこにいるのかとか、そういう情報がないので動きようがない。

 リュナの【森羅万象】は情報の網羅だけれど、認識できる情報でしか作動しないんだそうだ。

 とりあえず、もっと偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)に関する情報を集めるために、俺たちは冒険者ギルドへと向かうことにした。

 崩れた街を横目に眺めながら、今では避難所となっているギルドへと向かっていく。

 やがてギルドの建物の前まで着くと、中から微かに声が聞こえてきた。

 それも、自らの耳を疑うほどの内容だった。


『おるぁ!テメェらさっさと荷物出さんかい!』

『いくら冒険者ギルドだからって、俺たちに逆らってもいいと思ってんのか?』

『そうだぞ?そこの姉ちゃん。姉ちゃんみたいなひ弱でヒョロヒョロの女が立ち向かったって、俺たちにゃ刃が立たねえってわけさ!』

『どうせならそこの男ども使ってみろよ!まあ、腕が折れてちゃ無理だろうがなぁ!』

『ガハハハハハハ!おもしれぇ!こりゃあ傑作だぜ!』


 男数人の声がしてくる。聞き覚えもないし、何より言葉遣いや笑い方、罵り方が汚い。

 冒険者にも荒くれ者は数多くいるけど、皆人情はある。こんな下劣で汚い態度を取るような人間は、ギルドには居ない。

 つまり。


「―――偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)

「どうする?もう突入しちゃう?」

「内容からですけど、多分中の人は全員人質ですね。」


 リュナとセトはやる気満々。ノアとシエラは、俺と同じく慎重に行ったほうがいいという意見だ。


『仲間ぁ?そんなの来るとでも思ってんのかぁ?』

『領主は王都、町長が夜逃げしたんじゃあ、オメェらなんて見捨てられたも当然なんだよぉ!』

『保安部隊も手一杯だし、なにせもう用済みだ。お前らには死んでもらうしかねえ』

『グヒヒヒヒヒ!前から人肉が食べてみたかったんだよなぁ!』


 やばい。いや、慎重になんて言ってる問題じゃないと思う。今すぐ突撃しないと、中の人たちの安全が確保できない。

 そう思った俺は、リュナたちに相談せずに感情に任せてドアを蹴破った。

 ものすごい轟音を立てて木っ端微塵になった重厚な扉は、金具と荒い木片となって辺りに飛び散る。

 そんなに力任せに蹴ったわけじゃない。多分、扉がもろくなっていただけだと思う。

 俺がそんなことをして中に突入すると、まるで映画のような光景がそこにはあった。

 不謹慎だけど、本当にこれはドラマや映画とかでしか見たことがない。

 避難所となっていた酒場にいた人々は全員がロープで縛られ、口には猿轡が。

壁際の方には、リーダーたちが縛られて地面に転がされている。

よく見るとリーダーたちの腕は変な方向に曲がっていて、俺の姿を見て目で助けてと訴えてくる。


「ああん?なんだこのクソガキ」

「へっ、もしかして助けに来たのかなぁ?僕ちゃん。

残念でしたぁ〜。英雄になんて憧れるもんじゃねえぞ?」


 犯人と思われる男たち複数人の中から、猫背で逆三角形の顔が特徴的な男が近づいてきた。

 手には湾曲したナイフ。舌と鼻にはピアスが。

 俺の前まで来てナイフを突き立てようとするけれど、入り口の方を見てその男はたちまち凍りついた。

 リュナたちがいたからもあるけれど、問題はその威圧感だ。

 ナイフを手に持って近づいてきた男は、リュナとノアとシエラが発する殺気に気圧されて、冷や汗をダラダラと流しながら硬直した。

 その隙を突いて、俺は新品の魔法杖で男の鳩尾を一撃。

 ぐっと短いうめき声を上げて倒れた男は、近づいてきたリュナに踏みつけられ、ノアに空間ごと切り取られてこの世から居なくなった。

 多分空間ごと保存されているだけだと思う。情報源をやすやすと殺すほど、ノアは馬鹿ではない。

 改めて犯人たちの数を数えてみる。

 人質たちを見張っている男が五人。そしてリーダー格と思われる男が三人。

武装して待機している男が四人。リーダーたちを見張っている男が三人。

合計十五人。先ほどの男も含めると十六人だ。


「そいつを殺して粋がんなよ?クソガキ共。こっちには人質がいるんだよ。いつでもコイツラを殺せる。

こっちはもう目的は果たしたからな。いつでも逃げれるんだよ、残念だったな。」


 そう言って、十五人全員が武器を構えた。

 棍棒(メイス)、ナイフ、剣、斧、鎌、武器は様々だ。

 全員近接戦闘用の武器。さらに厄介なのが、あいつらが人質の至近距離で待機していることだ。

 何か行動を起こしたら、人質を殺られる。


「さあ、武器を置くんだ。そこのガキも、後ろの女どももだ。そこの男はこっちに来い。」


 ここで抗ってもどうしようもないので、俺たちはとりあえず武器を置く。

 そして、リーダー格の犯人に指名されたセトが、余裕そうな表情で男の元へと歩いていく。


「あんだお前。さっさと歩け!自分が今どんな立場か分かってんのか?」

「我が今どんな立場か?ああ、よく分かっているとも。」

「じゃあ金目のもん全部出して、そこに跪け。」


 あいつ死んだわ。

 セトに要求させる傲慢な姿に、俺たち四人は誰もがそう思っただろう。勿論、リーダーたちもだ。


「おらどうしたぁ!さっさと這いつくばれよ!床舐めるくらい頭下げろよぉ!頭が高いっつってんだよ!いいかげんにしろよいびるぞゴルァ」


 頑なに頭を下げようとしないセトの態度に、男は怒りと苛立ちを隠せない。

 汚い言葉でセトを罵る一方、罵られている側のセトは腕を組んで微動だにしない。

 そして、


「跪く?」


 と、たった一言発した。

 これにより男の傲慢さはさらに加速していく。


「ああそうだよ!さっさとひれ伏せって言ってんだよ!見せしめにお前から殺してやろうか?」

「ひれ伏せと?この我にそんな卑しい命令をさせるなど、前代未聞だな。」

「ゴダゴダ言ってねぇでさっさと跪けよ!あ?分かった。脳天ぶち抜いて欲しいんだな?お望み通りやってやるよ。」


 セトの態度に苛立ちが爆発した男は、手にしていたメイスを頭上に振り上げ、その重さと腕力で加速させながらセトの頭に向かって振り下ろす。

 だが、当然それはセトの頭には届かなかった。

 見えたのは、セトが頭頂部の高さまで手を挙げた姿。

 刹那、男のメイスは砕け散った。棍棒と言っても金棒のようだった、恐らく金属でできているであろう棍棒は、セトの速すぎる防御によってあっけなく破壊された。

 その光景を見て男は面食らった。その隙にセトが挙げた手を男の顔の前で左から右へと振った。

 さらに刹那、男の頭は消し飛んだ。

 愚かな男の頭部は弾け飛び、右側に頭部だったものが飛び散っていく。

 脳髄や皮膚や頭蓋骨や眼球や筋組織や血液が一緒くたに混ざり、最早何の肉塊か分からなくなったような状態で飛び散り、男の左にいた男に降りかかる。

 目の前でリーダー格が死んだ男たちは大混乱。だが、男の肉片がかかった部下の男が発狂しだす前にセトが手刀により殺害。

 綺麗に縦に二等分され、右半身と左半身が裂けて崩れ落ちていく男。

 さらに、頭部が粉砕された男の右側に立っていた男が逃げようと走り出した瞬間、セトがその腕をつかんで捻った。

 男は断末魔にも似たうめき声をあげて、その腕は肩からちぎれることに。

 男が余りの痛みに肩を押さえると、セトがそのまま左側の頭部をつかんで首を捩じ切った。

 一瞬のうちにリーダー格の三人が死亡。あまりにもあっけなく、そして非情で、ショッキングな出来事が目の前で起こった。

 人の死に免疫がない人質たちはもちろん、免疫はあるはずの犯人たちも悲鳴や奇声をあげる。

 その隙に動いたのは、シエラだった。

 ヤケクソになってこちらに走ってくる男三人を殴打して走り出し、あっという間に人質監視役の五人を制圧。

 シエラに殴打された三人と、制圧された五人は完全に意識を失い、中には股間から何やら垂れ流しているやつもいた。

 そして俺は、シエラに続いて行動を起こす。

 余りの事態に手にしていた武器をリーダーたちに向かって振り下ろそうとしていた犯人たち三人を、力任せに杖で殴打。それでは気絶はしないので、刀で腕を切り落として黙ってもらった。

 やってることはこいつらよりもやばいけど、一瞬で犯人たちの制圧は完了。

 犯人の生存者は十三人。人質の中の負傷者は二十人ほど。リーダーたち男の冒険者は腕を折られ、女の冒険者は顔を殴られていた。

 冒険者がアクロギルドの十八人のメンバーしかいなかったのが不幸中の幸いとも言える。

それ以外の冒険者だったら、冷静になれずに死人が出ていただろう。

今回、人質側に死人はいない。犯人側の三人だけだが、生存者たちは情報を搾り取った後警察組織に連行する予定だ。

 人質側の怪我人の治療が終わり、意識が戻った犯人たちは俺たちの姿を見て完全に怯えてしまっている。


「お前ら、偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)か。」

「は、はいぃ!」

「じゃあ、偽善の棺桶(セマ・フェレトロ)に関しての情報、全部吐いてもらおうか。」

「もしも隠したらどうなるか、想像つきますよね。」

「い、言います言います!だから、だからどうか命だけは!」


 俺とリュナとノアによる尋問開始。

 セトをちらつかせておけば、目の前で仲間が三人無残に殺された光景を目撃したこいつらは、隠そうとせずに全て話してくれるだろう。


 そして、尋問は終わった。やつらは下っ端だったが、アジトの場所や組織の構成、支部長とその側近がどれだけ強いか聞き出せた。

 どうやらただ規模がでかいだけで、強いやつは支部長だけのようだ。

 それでも、セトに敵うかは見ものだけど。

 その後、十三人の身柄を保安部隊に引き渡し、俺たちは支部を叩き潰すためにギルドをあとにした。

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