第九話 再来のアクロ
〜前回のあらすじ〜
貴族のパーティーに招待されました。
◀ ◇ ▶
パーティーが終わり、俺たちは屋敷に戻ってきていた。
それぞれがなんやかんやあって疲弊していたものの、あの地獄のような時間は終わりを迎えている。
帰ってきた頃にはもう日は暮れていたので、皆就寝。
一夜明け、この後はどうするかというと、それを今から話し合うところだった。
何だか最近話し合いばっかりしているような気もするけれど、それはこの際置いておくとしよう。
まずはいつものようにダイニングのテーブルに皆が集まって、これからの話し合いが行われることとなる。
でも今回はいつものような緊張感があるわけではないので、比較的話しやすい状況だ。
「さて、一大イベントも終わったことだし、お前らはどうするんだ?」
当然のように、今回もその場をカイルが取り仕切る。
「俺たちは、魔王城でやることが山積みだから、そっちに行かせてもらうよ。」
そうカズトが答えた。
新たな魔王となったカズトには、やるべき仕事が山ほどある。それをこなさないといけないのだし、魔王になった限りはもう魔王城が家みたいなものなのだから、たとえ仕事がなくても家に帰るという形で城に戻らないといけないのだろう。
「それで、ソラは?」
「俺たちは―――アクロかな。」
そう。見逃してはいけない、忘れてはいけない、見捨ててはいけない問題が、目の前にあるのだ。
アクロの人々にとって、もといロムバートさんにとっても重要になるような土産もあるし。
その土産とは、魔王討伐の報酬だ。
実はパーティーが終わって、屋敷に帰ってきたときに家主から渡された。
勿論家主の支払いではなく、どうやら届けられていたようだ。
大きな麻袋に入った金貨は数え切れないほどあって、袋の底が破れるか、袋の口が破れるかどっちが先なんだろうというくらいの重さ。それが、パーティごとにあって、三袋を屋敷の使用人が頑張って持ってきた。
一人で持つのも一苦労。三人がかりで俺の部屋に運び入れたほどだ。
その大量の金貨はリュナのバッグに入れておいたので、これで持ち運びが楽になった。
いつ使ってもリュナのバッグは便利だ。革命ものだ。
その金貨の総額だが、それについてはリースから教えてもらった。
金貨五万枚。日本円に換算すると約五十億円。なんだそれ。
無論、俺たちはその金額を聞いたとき驚いた。目が飛び出るかと思った。
五十億って、どんだけ巨額なんだよ!と思ったが、改めて考えてみればこの国では理解できそうなことだった。
大陸一と言われるほどの面積を誇る大国だ。税収は半端ないだろう。税収が多いということは、必然的に国家予算も上がる。国庫も潤う。
どうせ一兆くらいはあるだろう。だいぶ前に王都を西の魔王軍から守りきったときに、一千万とか渡されてビビり散らかしたものだが、多分あのときは冷静じゃなかったんだろうな。
あんな貴族たちにとって、こんな大きな国家にとって、五十億なんてものははした金にしかならないんだろうな。
いやまあ言いすぎかもしれないけど、完全に否定できる話ではない。
だからこそ、四つの街の復興支援と、王城の建て直しと、俺たちへの報酬の支払いが同時にできているんだ。
ありがたく受け取って、この大金は皆と話し合ってアクロに寄付することにしよう。
「そうだな。ソラたちはアクロでゆっくりしておけ。
まあ、ゆっくりする暇は果たしてあるのか。そこは疑問だけどな。」
「ちなみに、カイルさんたちは何を?」
ノアがそんな質問をする。
それを受けて、カイルはペラペラと説明を始めた。
「俺たちか?俺たちは、これから他の仲間と合流する予定だ。
昨日の朝にも言った二人と、他の仲間とな。」
「その仲間は何をしてるんだ?」
続いてはマークの質問。
色々と謎に包まれている最強パーティだが、特に隠すこともなくその質問に関してもスラスラと答えていくカイル。
そしてそれを隣で何も言わず聞いているリオン。
「あいつらは―――
リオン、あいつらの仕事なんだ?」
「忘れたのか?
サイラスはデントロへの観光に、リリスとシグルドはテロスの潜入捜査、サーシャはディスタグモス大森林の調査。」
「そうだったな。まあそんなとこだ。
それぞれ仕事がもう少しで終わりそうだから、一度合流するんだよ。
まあ二週間くらいかかると思うがな。」
またもや知らない名前が出てきたけど、放っておこう。
なんかもう人の名前が出てきすぎて面倒くさい。
要するに、仲間は他のところにいるという話だ。
「まあそんな訳だ。各々、ゆっくりしてくるといい。
王都については、俺たちに任せてくれ。いつ襲撃があってもいいように、俺たちが常駐しておくさ。」
そんなふうに締めくくられ、あっさりと会議は終了。
その後は各パーティに分かれて荷造り。俺たちは先ほども言った通り、アクロに戻る。
カズトたちは、ミホがカイルから転移魔法を学んで魔王城に帰るそうだ。
あんな一週間もかかる道のりをいちいち移動するより、転移したほうが圧倒的に早い。
それは当然のことなのだけど、この転移というものがこの世界、案外重要になってくるものだ。
本当に魔法とは便利なものだな。
勿論俺たちも【空間転移】でアクロに移動するので、その限りではない。
「皆、荷造り出来たか?」
「準備バッチリだよ!」
「こっちも大丈夫です!」
「我も完了だ。」
「私も!」
荷造り完了。後はセトの【空間転移】でいつも通り移動して、ロムバート邸にて次の行動計画を練るのみだ。
何か仕事があれば、それを手伝う所存ではある。
今のアクロなんて、問題は山積みだ。俺たちに少しでも手伝えることがあれば良いのだが。
そして俺たちはそれぞれが荷物を持って、セトの魔法で転移を開始する。
セトの足元に展開された水色の魔法陣の上に皆が乗ったことを確認すると、魔法陣は光を放ち始めて、たちまち視界は白い光に包まれる。
その光が収まってきて、目の前にあったのは屋敷だった。
最早見慣れたほどの、ロムバート邸。前回から二日ほどのブランクで戻ってきた。
門ををくぐって、庭を縦断していく。
玄関について、ドアノッカーでノックしようとした時だった。
何やら、室内から物音が聞こえてくる。
足音だ。一人の足音。
お互いになりつつも俺がドアノッカーに手をかけると、いきなりドアが開けられて一人のメイドが出てきた。
息を切らし、片手にはほうきを持った状態の青髪のメイド。ルミアだ。
「ソラさん!」
「ルミア!」
二日ぶりだけどルミアは嬉しそうで、喜びながらも俺たちを屋敷の中へと招き入れてくれた。
そしてまずは、ロムバートさんが待つ応接室へ。
―――と思っていたのだが、今回の流れは少々違ったようだ。
ロムバートさんは現在王都にて会議に参加しているようで、五日ほど帰ってこれないらしい。
何の会議かは教えてはくれなかった。ルミアも知らないそうだ。
付き添いでリーベが王都に行っているので、今屋敷には居ないとのこと。
俺たちは二ヶ月ほど前に使っていた客室に案内され、そこでひとまずくつろいだ。
今は屋敷の使用人でアクロを対処しているので、俺たちに任せたい仕事はたくさんあるらしいので、ルミアがその書類関係を取りに行った。
そして案外すぐに戻ってきて、息も切れ切れに俺に数枚の羊皮紙を渡してくるルミア。
「これが依頼書?」
「今必要なのに、誰もが手一杯で受けてくれる人がいなくて……
でも、ソラさんなら大丈夫ですよ!いざというときには私も行きますから!」
無駄に期待されているのが一番重いんだけどなぁ。
荷が重い。肩が重い。期待が重い。
それでも、俺たちが魔王討伐に貢献したという実績はあるわけだし、羊皮紙を見た限りはその『いざというとき』は起こらなさそうだ。
その羊皮紙に書いてあった内容というのが、街で彷徨いている暴力団や武装集団の制圧だった。
有象無象はたくさんいるらしい。武器で武装して、物資をかっさらっていくやつもいる。ただ自分の気持ちの憂さ晴らしがしたいがために、通行人に突然暴力を振るい始めるやつもいる。
そんなやつらは、別に冒険者で対応可能だった。だけど、ある一つの頭の痛い問題が浮上した。
目の上のたんこぶ。そんな問題だった。
それが、アクロ内での犯罪者連合の発足。
近年大陸各国で問題になっている、犯罪者連合。現代社会で言う指定暴力団の様な集団だ。
そんな集団でも特に大規模なのが、偽善の棺桶と呼ばれる組織だった。
この組織の特徴は、いくつもの街に支部があること。急激にその根を張り巡らせている偽善の棺桶の支部は、大抵が不安定となっている街で発足しやすい。アクロも、その餌食となってしまったのだろう。
今回の依頼は、数多くいる武装者も捕まえつつ、まだ卵の状態である偽善の棺桶の支部を叩くことだった。
倒す相手が暴力団だなんてデンジャラスな匂いしかしないけれど、アクロの復興以前にこいつらがいたら復興なんて夢のまた夢だ。
明日―――というか今日にでも、皆を集めてこの組織を潰しに行くことにする。