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第八話 貴族のパーティー

〜前回のあらすじ〜


リースが立ち直り、イヴァナが回復し、やっと勲章授与式が執り行われました。


◀ ◇ ▶


 貴族も参加するパーティー。魔王を倒したという功績をお披露目する場だけあって、各地の領主や有力貴族が召集。

 半分魔王討伐の祝賀会、半分はプロタ王国の威厳の象徴を広めるための、栄華を極めたパーティーだ。

 貴族や領主たちも参加するとあって、さらにさらに魔王討伐という歴史的偉業の祝賀会とあって、どれだけ豪華な料理が出てくるんだろう、どれだけ華やかな行事が行われるのだろうと、俺は勲章授与式の終わった後の控え室で、心を躍らせていた。

 考えてみれば、俺は意外と貴族との接点がある。

 まずその象徴とも言えるのが、リースだ。彼女はこの国の王女。すなわち皇族、王族のような扱いであり、立場だけで言えば貴族よりも上の立場となる。

それでも今その政権の土台が揺らいでいるのは、数多の要因が重なった結果であろう。

 二人目は、ロムバートさん。領主なのだが、当然自分の領土を持つという役職なので、言ってみれば男爵のような立場にある。領主領主と言って、俺も何気なく接していたロムバートさんだが、男爵ということは王侯貴族である。

つまりはこの国の重要な貴族。男爵は位は低いけれど、あれだけ大きくて立派だった街を治めているのだから、男爵位の中でも上位に入るはずだ。もしかしたら男爵の一個上かもしれない。

 三人目―――というか、ここは顔見知りというだけであって、更にまとめての紹介となるのだが―――この国の大臣たちだ。

側近以外に、とても親しい者以外にリースに口を利くことができる数少ない重要役職に就いている者たち。

一度開かれたイリオスに関しての会議で彼らに会ったことがあるのだが、第一印象としては余り融通が利きにくいようにも思えた。格式を重んじて、正規の手順を踏む、頑固ながらもお手本のような政治家。

 これら貴族との関わりがある俺なのだが、パーティーに参加してみて、現実を目の前に叩きつけられた。

 現実。そんな上手い話はないと、改めて思い知らされた。

 というか、こればかりは俺の人付き合いの順番が悪かった。

 出会ってきた貴族が全員まともだったから、貴族という生き物を本来使ってはいけない物差しで測っていたのかもしれない。

 出会う前にあった、パーティーへの期待は何処へやら。

 余りにも狡猾で下劣な現実が、目の前に有った。

優しく言うなら、面倒くさそうな奴らが沢山いる。

たっぷりの悪意と皮肉を込め、隠し味に嫌悪感を加えた言い方で言えば、腐りきって汚染しきった人間の現状が、自惚れと駄欲でどす黒く染まった政界の縮図が、そこに広がっているかのようだった。

 言い過ぎということはない。それほどまでに、貴族という奴らはやはり貴族という生き物で、貴族という枠の中で貴族という七光に囚われながら、貴族として生きて、貴族として死んでいくんだろうと、言ってみれば救いようのない腐りきった人間でしか無かった。

 世の中の人間を、救われるべきか裁かれるべきか、あるいは生かすべきか殺すべきか、その二つの選択肢に分類されるとしたら、俺だったら迷いなく貴族連中を後者の方にぶち込むだろう。

 大事なことだから二度目も言っておこう。言い過ぎということはない。それどころか、これだけ並べ立てても形容しきれないほどだ。

 ここまで形容してきても足りないほど。それほどまでに貴族というのは腐っていると、俺はそう伝えたかった。

 何故俺がこんなに貴族を罵っているのかと言えば、その原因は向こうにあった。貴族たちにあった。


「おお!そなたが魔王討伐に参戦したという!」

「ユニークスキル持ちだと聞いたが、どれくらい強いのだ?」

「魔王なぞ、所詮は厄介なだけであろうよ!なあソラ殿!して、どんな勝ち方をしたのかな?」

「ソラ殿は魔王を倒したわけではないと聞いたが、では一体何をしておったのだ?」

「魔王討伐に参加するというその心意気、まさに武勇!

どうだ、私のところに来ないか?」

「おいアイドリュール男爵、男爵位の分際でなにをしておられるのだ!ソラ殿、ここは伯爵である我が屋敷に来られるが良い!」

「ソラ殿の武勇伝、ぜひとも聞きたいところですなぁ!ソラ殿、討伐の際に使った技を、ぜひとも私に見せてくださらぬか」

「ええい、ここは侯爵位である我輩に譲るべきであろう!ソラ殿!ぜひとも我輩と話をしようではないか!」

「話は聞かせてもらったぞ、ソラ殿!ここはぜひ、優秀な人材が揃っている私の屋敷へ来るといい!訓練も思いのままだぞ!」

「皆のもの!静まらぬか!」


 ―――と、こんな感じだ。

 俺が、先頭である俺が部屋に入ってきた瞬間に、まるで狙いすましていたかのように貴族どもが詰めかけてきた。

 会話の内容を聞いて分かる通り、貴族という生き物には自己中しかいないのかというほどの、くだらないほどの傲慢ぶりだ。

これならば、まだディアスの方がマシだと思えるほどの。

 いい年したおっさんたちが、年端もいかぬ子供に詰め寄るなど、絵面的にはきつすぎる。見ていられない。

 幸いにも一人、冷静な貴族がいたようで俺的には助かるのだが、自己中で自惚れで傲慢な貴族たちの猛攻を最終的に抑えたのは、ノアとシエラだった。

 貴族たちが詰め寄ってきて口々に勝手なことを喋ってくる中、よく聞いたら後ろでジャキッという音が聞こえた。

 そしてその瞬間に何人かの貴族が黙った。それでも喋り続ける輩は居た。その音で止まったのは半数ほど。

 それでも次の一手で、先ほどまで耳と頭がが壊れるかと思った貴族からの猛攻は、静寂という形で終結を迎えることになったのだった。

 その、泣く子も黙るならぬ貴族も黙る会心の一手とは。

俺の背後から放たれた、とんでもない重さの重圧だった。

 恐る恐る後ろを振り返ってみれば、そこには冷たい視線を貴族どもに送りながら腰の大剣を掴んでいるシエラと、洒落にならないほどの殺気がこもった魔力を全開放させているニコニコとしたノアが。

 重圧の原因は一目で分かった。ノアの殺気だ。

 絶対この殺気は嫉妬ではない。こんな予想をするのも馬鹿げているが、ノアはおっさんに嫉妬するようなたちではない。

恐らく、俺が困っていたからだろう。事実そうなのだけど、若干やりすぎじゃないかとも思えないような、痛快で爽快な対処法だった。

 結論から言うと、ナイスノア。

 半分シエラが、そして半分ノアが制圧した貴族たちは、それ以上は何も言うことなく俺の前からそそくさと立ち去っていった。

 そこからやっと、俺たちは会場に入ることができた。何とも長い前置きだったが、ここからがパーティーの本番となる。

 まず使用人に席に案内されて、円卓を囲むように設置された五つの椅子に、それぞれ座る。

 そして何が始まるのかと言えば、まずはリースによる開会式。


「あー、あー、テストテスト。

お集まりの皆様、ステージにご注目ください!

これより、東の魔王討伐祝賀会を開催します!」


 そして巻き起こる拍手喝采。ひとしきり拍手があり、少し落ち着いてきたところでリースはハンドサインを出して拍手を止める。

 そして、続けて魔王討伐の経緯と自らの体験、城が破壊されたことに関しての話を始めた。

 ここは俺は知っているので省く。

 だいたい話し終わったところで、リースは俺たちの紹介を始めた。

 ここも省略。

 一人ひとり紹介されて、そのたびに紹介された人に対して拍手の雨が浴びせられる。

 そうして、十一人分の紹介が終わった後。リースの話はそこで終わり、リースが締めの言葉を言ってステージを去る。

リースが去った後部屋に運び込まれてきたのは、カートに載った何皿もの料理だった。

 それが十何人もの使用人たちの手でそれぞれの席に運ばれていく。

 皿に載っているのは、少量の料理。コース料理だ。

 これが何という料理で、何という調理法で、何という食材を使っていて、どんな味で、どんな食感なのかは全く分からない。知るすべが無い。

 周りの貴族が食べているのを見て恐る恐る食べてみる。

 それを皮切りに、リュナたちも恐る恐る食べ始めた。

 味は、まあ一言で言えば普通。普通は人によって違うという理論を出されたらもうそこで終わりでしか無いのだけれど、しかし普通としか表現できない。

 強いて言うのなら、動物の肉か魚か分からない何かの肉を、煮たのか茹でたのか分からない調理をされたものに、野菜のソースなのかハーブのソースなのか判断が難しいソースがかけられていて、肉のジューシーさは無いけど風味はしっかりとあって、食感は固くはないけど決して柔らかいとはいえなくて、どんな味かと言われたら不味くはないけど美味しいと言えるかは微妙な、そんな感じの料理だった。

 これが貴族の食事なのだろうか。庶民である俺には全くと言っていいほど分からない。

どこがいいのか分からない。

 どうやらそれはリュナたちも同じ考えだったようで、俺と同じく微妙そうな顔をしながら料理を食んでいた。一口サイズだったのが幸いだったな。

 そしてコース料理なのだから、当然何皿もでてくるわけであって、どうやらさっきの何かの肉料理は順番的に前菜だったようだ。そもそもあの料理が肉なのかも分からない。

 いや、前菜ではなかった。次に野菜がきたから、多分これはフランス料理で言うところのアミューズだろう。

 もう説明も面倒くさいから大幅に省略してしまうが、順番としては、まず何かの野菜の料理が出てきた。

その後、スープ。これはほうれん草のポタージュ。

それから、何かの白身魚の煮付けのようなものが出てきたあと、ローストビーフらしき料理。

 食べた後は、もう終わりなのかシャーベットの様なデザートが登場。いわゆる氷菓子だ。

 それを食べ終わり、これでコースは終了、と思ったのだが、まだあった。

 鶏肉だった。これはめちゃくちゃ美味しくて、皮はほどよく焼いてあり、脂はあっさりとしていてかつ肉のジューシーさは十分にある。ハーブとの相性抜群だ。

 これがメインディッシュだったのだろうか、次は何故かチーズだった。

フランスパンを輪切りにしたような、通称バゲットの上に載せられたチーズ。

バゲットは薄く、その上にチーズが載っている。

 使用人が持ってきたのは、三種類だった。

一つは、円形を八等分にした一つ分のチーズ。

一つは、薄い長方形のチーズ。

一つは、三角形をスライスしたようなチーズ。

それぞれバゲットに載せられていて、そこから選べばいいらしい。

 俺はとりあえず、最初のやつを選んだ。何だかよくスーパーで見るカマンベールチーズに似ていたからだ。

 何のチーズなんだろうと思いながら、バゲットと一緒にかじってみる。

 適度な塩気と、クリーミーな味わい。中はとろっとしたチーズ。

うん。まるっきりカマンベールチーズだった。

 なんなら美味かった。

 その後、二度目のデザート。運ばれてきたのはアイスクリーム。

使用人が持ってきた末種類のうちからバニラっぽい色のアイスを選んで、それをスプーンですくって食べてみる。

牛乳アイスだった。

これはこれで美味しい。


 一部楽しめた食事。それが終わると、(しばら)くの会談タイムの後、ダンスパーティーだ。

 そこからが、地獄の到来だった。俺たち主役組に詰めかける貴族たち。

 最初の騒ぎにいなかったのか、はたまた懲りていないのか、また俺はうるさい貴族どもに取り囲まれた。

 何とかリュナたちの方向に行こうとするが、それを貴族たちが邪魔をする。

 ちなみにリュナたちも貴族たちに取り囲まれており、中には制裁を食らった馬鹿な貴族もいた。

 要するに、スケベオヤジってことだ。ノアの尻やシエラの胸を触り、見事にふっ飛ばされて円卓やら壁やらに激突し、気絶。

因果応報とはまさにこのことだろう。

 そのぶっ飛ばされた貴族は運ばれていったが、この先が心配になるのは俺だけだろうか。

 あれだろ、「貴族である私をぶっ飛ばすなど、非礼だー!」とかどうとか言って、なんか変な言いがかりつけて、潰しにかかろうとするんだろ。

 可哀想に。そんなことをしてしまったら多分冗談抜きで殺されかねない。


 なんやかんやあった、地獄の会談タイム。かなり疲れたけど、何とか乗り切った。

 後はダンスタイム。勿論、俺の相手は―――あ、もしやこれって……


「ソラくんとは私が!」

「いや、身長差が小さい私のほうがいいでしょ!」

「ソラさんは私がいいはずです!」


 やっぱり。

 いや、もうここは正直に言ってしまおう。これ以上喧嘩が長引くと面倒くさい。


「俺はリュナと踊りたいな。」

「「え!?」」「やったー!」

「身長差が小さいから、踊りやすいでしょ。」

「まあそれは……」


 と、いうわけで俺はリュナと踊ることに。

 俺にフラれたノアとシエラはダンスの相手を探さないといけないのだが、二人とも貴族相手は嫌なようで、ノアはセトと、シエラはマークと踊ることにしたそうだ。

 曲に合わせてステップ。うん。無理だこれ。難しすぎる。

 リュナもまともにできないので、俺とリュナは早々に退散。壁際に寄せられた席に座り、様子を眺めることに。

 カイルとリオン、イヴァナも席に座ってダンスを見ていた。

 ノアとセトのダンスは、息ぴったりとはいえないものの二人とも上手い。

 シエラとマークは、力任せみたいだ。ステップができなくても、それっぽくできてればいいじゃんみたいな。


 さほど面白くもなかったダンスタイムの後は、講演や出し物等をした後、閉会式のリースの締めの言葉でパーティーはお開きとなったのだった。

 なんというか、非常に疲れた。うるさい貴族たちとはもう関わらないと、今回を受けて心に誓ったのだった。

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