第七話 勲章授与式
〜前回のあらすじ〜
ノアと話しました。
◀ ◇ ▶
ノアにカイルから呼ばれていると聞いて、俺は一階へと降りてきていた。
階段を降りて、いつも話し合いをしているダイニングへと向かう。
そのテーブルに、リュナとカイル、リオンがいた。
俺とノアが向かうと、カイルは俺たちを見て喋り始めた。
「おう、いい朝だったか?ソラ。」
「勿論。」
「そりゃ、そんな美少女に起こされたらどんな朝もいい朝になるだろうな。」
美少女。言わずもがなノアのことだろうな。
確かにノアは美少女だ。地球には―――韓国にはひょっとしたらいるかも知れないが―――いないであろう絶世の美少女。
今まで普通に接していたけど、改めて見たらその容姿の美しさが理解できる。
「カイル、もしやリリスとサーシャ、イヴァナじゃ不満だと?」
と、リオンが呆れたようにカイルに尋ねた。
リリスとサーシャは聞いたことない名前だな。
「あの二人は最近会ってないしな。イヴァナは病人だし多くは求めん。」
「ええと、そのリリスとサーシャっていうのは……?」
俺が尋ねようと思っていたけれど、先にノアがそのことについて質問をした。
何だか毎回俺より先にノアが言っているような気もするけど。
「二人のことか。いずれ紹介すると思うが、今伝えておくとするかな。」
曰く、まずリリスというのは、世界最強の回復術師のことらしい。
ちなみにイヴァナやカイルとは違い、リオンのようにユニークスキル持ちなんだそうで。
神であるリュナとどちらがすごいか、見ものだな。
強さ次第では世界最強の座を譲ることになりそうだけど。
そしてサーシャは、世界最強の盗賊。こちらもユニークスキル持ち。
前から思っていたのだが、もしかしてそれぞれの職業の世界最強が集まってパーティを形成しているのか?
だとしたらそのパーティーに勝てるのは多分神か魔王しかいないと思うけど。
「で、まあその二人のことはともかくだ。
本題に入るとしよう。
二つのいいニュースと、一つの悪いニュース、どっちが先に聞きたい?」
あからさまな振りだけど、あえてここは悪い方から聞いてみよう。
そっちのほうが気になるし、どうせ二つとも聞くんだから正直どうでもいい感じはある。
「じゃあ、悪い方で。」
「ソラが倒したイオフィエルがいたよな。あいつが留置所から脱走した。
王都警備隊が総出で探しているが、結界の破れ目を発見した。どうやら王都の外に逃げたらしい。」
イオフィエルが、脱走した。今は亡き東の魔王の近衛である、魔王軍幹部が一角が、やっと捕まえたのに脱走した。
そんな報告を聞いたというのに、俺はさほど驚かなかった。何故ならば、心のどこかでその可能性を薄々感じていたからだ。
あれだけ変装が得意で、長年連れ添っていた仲間の目も欺き、リュナでなければ見抜けなかった変装の達人。
ほぼ怪盗みたいなやつにとって、脱獄なんて赤子の手をひねるより簡単なことだろうと、少なからず予想していた。
それが見事に的中してしまった。悪い時の勘ってだいたい当たるもんだ。
「じゃあ次はいいニュースだな。
まずは一つ目。イヴァナの容態が安定した。
栄養も水分もしっかりと取れて、今は普通に生活ができるくらいだ。」
「よかった……」
「で、二つ目だ。お前が心配していた―――」
カイルがそこまでいいかけた時だった。
階段の方から、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
俺がその方向を見てみたら―――
「ソラ兄!」
降りてきたのは、近頃部屋に籠もりきりだったリース。
落ち込んだ雰囲気は一転、何だか憑き物が落ちたかのような清々しいほどの元気さ。
「―――どうやら、本人のお出ましのようだな。」
「リース!」
二つ目のいいニュース。カイルが言いたかったのは―――リースが元気になったことだろう。
「ソラ兄!心配かけてごめんなさい!」
「一体何があったんだ?」
「それが――」
俺がそう聞いたら、先ほどまでのリースの明るい顔が少し暗くなった。
禁句だっただろうか。
と思ったが、リースは話してくれた。
曰く、ガブリエルとの戦いでアーチボルドさんを亡くしたそうだ。
どうりで、俺たちが帰ってきた後にアーチボルドさんの姿を見なかったわけだ。
とすると、俺が魔王を倒した後の嫌な予感はアーチボルドさんのことだったのだろうか。
突然の逝去、御冥福を祈ります、アーチボルドさん。
「アーチボルドさんが……」
「でも、もう吹っ切れた。ソラ兄のため。皆に迷惑かけないように、私がしっかりしないと。」
アーチボルドさんを喪ったのは確かに哀しい。
だが、それ以上にリースが頼もしく思えてくる。
身近な人の死を乗り越え、より強靭な精神力を得たのだろう。
このことを教訓にして、自分なりに頑張ったのだろう。
今のリースの目は、やる気に満ちている。
「カイル、本当に話したいことは何?」
「まさかリース様に見抜かれるとは。
ソラたちも聞いておけよ?これから魔王を倒したことの報告に行ってくる。
だから、リース様には勲章授与式の準備をしてほしいんです。」
「勲章授与式……ね。」
王女として、一国の主として、リースには仕事が山のようにあるのだった。
イオフィエルに城を破壊されて、再建までのこの仮住まい。
さらにアーチボルドさんを喪い、引きこもりとなった。
引きこもりから脱却できたのは、大きな一歩。だが、その間の王女としての仕事がある。
ツケが回ってきた。
勲章授与式と聞いて嫌そうな顔をしたリースだが、仕方なさそうに腕まくりをして自分の部屋へと戻っていった。
仕事に取りかかりにいったのだろう。
ならば、俺たちも俺たちでやることはやらないといけない。
それぞれ、これからに向けて動き出す。
◀ ◇ ▶
場面は大幅に変わり、俺たちは現在、とある広いホールの近くの別室で待機していた。
勿論今現在行われているのは、勲章授与式。魔王討伐が正式に、盛大に発表される、歴史的な瞬間なのだ。
俺たちは各々しっかりとした服を着ている―――わけではなかった。
どうも、冒険者は普段着でいいらしい。それもカイルたち三人は例外となるのだが。
普段着と言っても、ボロボロのものだったりはだめだ。堅苦しいものではないにしても、しっかり格式を重んじることができる服装が求められる。
俺は、先日購入した新しい服を着て臨んだ。
リュナはいつもの服。何故か新品同様綺麗。
ノアもどうやら服を購入していたようで、新品の服を引っ張り出してきた。
シエラは、妙に使い込まれている感じが滲み出ている服だった。ボロボロではないし、汚れているわけではない。冒険者が着ていても何らおかしくはない服だ。
そんな感じで最早ドレスコードも適応外となってしまっている俺たちが、これから勲章を受け取ることになる。
そう考えると緊張してきた。
どうしよう、心臓バクバクだけど。
「ソラくん、緊張しますね……」
「まあでも勲章受け取るだけだし、魔王戦よりは大分マシだと思うよ?
それでも緊張するものは緊張するよね、今めちゃくちゃ心拍数多いもん。」
「ところでさ、なんでノアちゃんはソラ君のことを君付けで呼ぶようになったの?
もしや……?」
「いいじゃないですか、リュナちゃんと同じ呼び方で。」
「今私はノアちゃんとソラ君の仲がよりいっそう深まってしまったことを危惧してるんだけど……」
リュナは訝しんだ。
また喧嘩が起こりそうな雰囲気がしてるけど……やめてほしいんだけどな。俺がどうこうで喧嘩するの。
シエラまで混ざろうとするし。めちゃくちゃこっち見てるし、聞き耳立ててるし。
こんな時くらい落ち着こうよ。
「まあ、その話はまた後でにしようか。」
「そうですね」
一触即発の空気は、当事者たちで収まった。俺が割り込んで止める必要は、どうやらなかったようだ。
その点で言えば、リュナとノアも成長していると言っても過言ではない。
喧嘩が未然に防がれたところで、俺たちがいる控え室のドアがノックされ、外から女性スタッフの声が。
どうやら俺たちの出番のようだ。
「さて、皆、行こう!」
「うん!」「「はい!」」「ああ。」
万全を期した俺たちは、控え室から出てホールへと向かっていく。
廊下の途中で別の部屋から出てきたカズトたちも合流し、スタッフに案内されながら、俺たち八人はホールに辿り着いた。
広いホールの中に、何人もの人がきっちりと並べられた椅子に座ってステージの方を見ていた。
向かって正面にあるステージには、俺たちの方をまっすぐ眺めているリースが。
「魔王討伐パーティ一行の、入場です!」
魔法で作られた拡声器かなにかで、ホール全体にリースの声が響き渡った。
声が広がったその瞬間、椅子に座っていた人々は一斉にこちらの方を向いて、拍手をし始める。
拡声器の余韻とともにホールを満たす拍手喝采の中、俺たちは中央に用意された道を歩いていく。
俺とカズトが先頭、その後ろをミホやリュナたちが手を振りながらついてきている。
今まででこんなに大々的に注目されたのは初めてなので、照れくさいし緊張するしで頭真っ白になってしまった。
ただ、目の前で起こった出来事は一部覚えているので、それは紹介しておこう。
といっても断片的なものなので、詳細な描写はできない。そこについてはご了承を。
まずそのまま歩いていって、ステージに上がった。俺とカズト、そしてステージ横から出てきたカイルとリオンが一列に並び、ひざまずいてそれぞれ順番にリースから勲章を受け取っていく。
勲章は人によって様々で、俺は魔法の杖を貰った。
カズトは枝を模した柄の剣、カイルは金色の腕輪、リオンは徽章。
その後にもらったリュナたちも、それぞれ品物を貰ったようだった。
そして品物を貰った後は、国歌斉唱と写真撮影。
いつか見た新聞に写真が載っていたけど、どうやらあれはカメラではなかったようだ。
後でノアに聞いたのだが、光を切り取って保存する魔法のようで、招待客の中に何人もいた記者らが小さな杖を使って俺たちの写真を撮った。
その後のプログラムもいくつかあったのだが、緊張しすぎたのか、はたまた緊張から吹っ切れてしまったのか分からないけれど、全く覚えていない。
気づいた時には授与式は終わっていて、俺たちは控え室にいた。
貰った品物を一旦控え室に置き、どうやら次は貴族たちが参加するパーティーが開かれるようで、その格好のまま俺たちも参加しなければならないようだった。
品物を見せ合ってはしゃぐリュナとノアとシエラ。
俺の品物に関しても聞かれたのだが、自分でもよく見ていないので帰ってからのお楽しみとして見ないことにして、その品は置いておくことに。
どうせすぐに呼ばれるだろうから、いつでも行けるように準備をしておくことにした。