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第五話 閑話

〜前回のあらすじ〜


ロムバート邸に一度寄ってから、王都に戻ってきました。


◀ ◇ ▶


 爽やかな目覚め。それは、現代社会においてかなり難しいことだと俺は思う。

 世界から見た日本人の睡眠時間の少なさや、労働などでの疲労もその原因の一つだろう。

 実際俺も中学生として、爽やかな目覚めができることなんてない。

 成長期だからしっかりと睡眠をとろう。学校でも当たり前に言われることだし、睡眠時間を削るのはよくないことだとも理解している。

 ただ、人間というものは己の欲望を押されられない生物なのだ。

 難しい話じゃない。簡単なこと。深夜のゲームがやめられないんだよ!

 ゲームのやり過ぎとか以前に、そもそも深夜にやるということがよくないんだと思う。

 友達の多くは「夜更かしが当たり前」なんて思っている。でも、俺はその常識はおかしいと思うんだよ。

 それが習慣づいてしまうと、どんどん睡眠は足りなくなる。

昼に眠たくなって授業に身が入らなくなったり、逆に夜覚醒する。

完全なる悪循環だ。

 そんな、中学生に起こりやすいであろう悪循環なのだが、事実俺はその一歩手前まで来ていた。

 そこであの事件が。俺はトラックに轢かれて死んだ。正直今でも信じられない。

 人間が信じられないと思うときは、目の前で起こっている現象と自分の常識が噛み合わないこと。

 でも、俺が直面した問題はそんな生半可なレベルじゃなかった。

 剣と魔法の世界。まだ許そう。そんなものフィクションでしか見たことがないけど、中学生として、絶賛中二病中の俺としては、割とすんなり受け入れられるものだった。

 チート能力(ユニークスキル)もあったし、仲間も増えたし、なんならハーレムだし。

 物語の流れとしては、この上なくいい流れだと思う。

 ただ一つ俺が思うのは、フィクションの中の作品ってチートやら無双やらハーレムやら多いじゃん。

ああいうのじゃなくて、もうちょっと主人公が挫折して、次々と目の前に立ちはだかる困難を乗り越えていく。これが物語としていいと思ってる。

 勿論、程よい無双が爽快感あっていいかもしれない。

 ハーレム展開は読んでて想像しやすいかもしれない。

 チート能力同士でバトルは面白いかもしれない。

 でも俺としては、やっぱり主人公の挫折って重要だと思う。

 完全なる個人の感想だから聞き逃してもらってもいい。

 なんなら俺がその主人公だと考えた時、挫折はしたくない。ゆとり世代の特権である。

 そもそもの問題、俺が主人公であるのかも怪しくなってくる。

一応有名になってきているわけだし、少なくとも名無しの脇役とか冒険者Aとかはない。

 けれども、俺以外が主人公である場合もあるかもしれない。

そしてその人が挫折し、壁を乗り越えようともしているかもしれない。

 ここで重要なのは、俺が数ある冒険譚の中で、埋もれないようにするということだ。

 何か爪痕を残す。俺の冒険譚が残されないとしても、せめて誰かの冒険譚に登場したい。

 なんという承認欲求。


 ―――かなり話がそれた気がする。

 えーと、なんだっけ。ああ、そうそう。『信じられない』の定義について、俺のエピソードから話しているんだっけな。

 じゃあ話を戻そう。剣と魔法の世界だけなら、まだ俺の脳はパンクせずに済んだ。脳内シナプスがショートせずに済んだだろう。

 けれど、俺が剣と魔法の世界であるという事実を認知する前にイレギュラーな存在がいた。

 それがセトだ。虚無と混沌を司る精霊の神で、イグモニア連邦国という大国家を一夜にして滅ぼした。

正確には一夜ではなく一昼かもしれないけど、表現の上では大事かもだけど、時間の短さを表すためにはそう表現した。

 その時何があったのかはわからない。だが、実際俺はその爪痕を目の当たりにした。

 瓦礫の山と化した巨大都市。あれほどの大きさの都市を一瞬にして破壊する、セトにはそんな力があった。

 そんなことも知らずに俺は封印を解いて、セトとともに旅に出る。

 まず最初に冒険者になろうと、辿り着いたのがアクロだった。

 そしてギルドで出会ったのが、リュナだった。

 あの時リュナは俺のことを子供扱いしていたが、今となっては対等な関係だ。

ただ、この世界に来て一つ気付いた事がある。

身体が全然成長しないのだ。

三ヶ月もあればこの子供の体も身長伸びるだろうし、髪等の体毛も伸びる。爪も伸びるだろうし。

でも、俺がこの世界に来た時と全く同じなのだ。

 新陳代謝がないのだろうか、髪の毛は伸びることもないし抜けることもない。爪も伸びない。不思議なことに怪我は自然回復する。

 そこら辺のメカニズムは俺にはよくわからないけど、異世界に来たらいつの間にかそんな姿になっていた。

 決して俺がただ単に低身長だったというわけではないことを注釈しておこう。

 そんな子供でも、今はこうして一端の冒険者。通り名もつくほどの。

 シエラが加入し、ノアを更生させた。西の魔王軍幹部だったシエラとノアは、今ではそんな経歴が嘘であるかのように穏やかで、(したた)かだ。

 その後も、いろいろな人と仲良く(?)なった。

 俺がルミアに会うときに心のなかで警戒していたように、知り合いの中には圧倒的に女性比率が多い。

 多様性の時代に性別がどうのこうの言うと怒られる気もするけど、これはあくまでこちらの世界の話だ。

 俺の女性の知り合いが多いという話だが、これは明らかな事実だ。

 リュナ、シエラ、ノア、ルミア、リーベ、リア、リース、グレース、イヴァナ、ミホ、その他諸々。

 一方男性陣はこんな感じ。

 セト、カズト、マーク、リオン、リーダー、ノーマン、カイル等。

 あれ?こうして挙げてみると以外にどっちもどっちか?

厳密に言えば女性比率の方が高いけど。

 だがしかし、女性比率で困るのは俺だ。

 知り合いの女性の中で、明らかに俺に対する執着のようなものが強い女性たち。

 リュナ、シエラ、ノア、ルミア、リース。

 五人。まずい。これは俺の中でずっと思っていたことなのだが、非常にまずい。

 俺が危惧していること。それは、ハーレム展開だ。

別にいいじゃないかと、諦めたくもなる。だが、それは俺のプライドが許さない。

 特殊能力、【諸行無常】。そして無駄にイベントが起こりやすい俺の身の回り。加えてハーレム展開。異様な速さの魔法習得。信用の早さも異様だ。

 今俺は誰に語ってるのか全く分からない。単なる独り言だ。だけども、俺の言いたいことは分かる人も多いんじゃないかと思う。

 そう。異世界転生や異世界転移の物語で一番つまらない展開だ。

 ハーレム、無双、有名になる。この三要素が揃ってしまったらもう終わりだ。

 俺は今のところ二つが当てはまっている。これでさらに力をつけてしまったらどうなるだろうか。

どんな戦いでも無双して、要素が一つ埋まる。

 それが何を意味するかは、言わずとも分かるところだろう。

 言いたくない。俺の末路がそんな結果だと思いたくない。認めたくない。恐ろしい。

 こんなに毛嫌いすることもなかった気もするけれど、この展開を警戒して損はない。

 それでもこの世界で暮らしていくうちに強くなっていくと思うし、それは生物の『進化』という性質上仕方のないことで、強くなるという意味では自分の命を守るという目的のためもあり、必要になってくる要素の一つだ。

 すなわち何がいいたいかと言うと、何とかしてハーレム展開を脱却したい。

 だけど俺は選べない。リュナ、シエラ、ノアの中で誰を選ぶかとなったら、正直言うと選べない。

 リュナはなんだかんだで俺についてきてくれるし、どこかセナの面影があって切り捨てられない。

 シエラはこんな事言うとあれかもしれないけど、いや、やっぱり言わないでおこう。代わりに他のを。

シエラの魅力は、その強さとユーモアだ。

頼もしくも面白い仲間という点では突出している。

 ノアは、正直言うことない。料理上手いし、健気だし、美人だし、俺の言いたいことを理解してくれるし。

なんでも俺を担ぎ上げるのはやめてほしいけど。

 この通り、三者三様の魅力があるのだ。それに、パーティの空気が悪くなっても嫌なので、あえて俺は選ばないという選択肢を取る。

 それだと本末転倒だから、これから新しい選択肢を探していくつもりだ。


 長々と独り言を―――いや、考え事をしてしまった。

 今後の方針として過去を振り返るのは大切だ。

 特にこれから、激動の展開になっていくと予想している。

 どうせまた大きなイベントがあるんだろうなぁ……

 こういう不安は大体当たるのが鉄則なので今回の不安も現実となるだろう。

 如何に対処するか。問題に直面するたびに毎回問われるこの問題、答えは一つじゃない。

 無数にある答えの中から最適解を見つけ出せるようになるのが、今の俺の優先順位一位の目標だ。

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