第二話 束の間の休息
〜前回のあらすじ〜
王都に帰ってきました。
◀ ◇ ▶
十数分ほど続いた話し合い。
終わった後は、屋敷の中にそれぞれの部屋を用意してもらってそこでくつろいだ。
ぼろぼろになってしまった服は脱いで―――と思ったのだが、俺の生活に直接的に関わってしまう、認めたくないが目の前にある気づいたくない恐ろしい事実に気づいてしまった。
いや、大げさだったかもしれないな。要は、着替えがあと一セットしかない。
大ピンチ。
思えばこれまでの戦いでボロボロになった服は全て捨てていって、買い足してきたものの数少なかった服はもうそれぞれ一枚ずつしか残っていなかった。
これはまずいと、その残った服を着て財布だけ持って街に出る。
とりあえず、記憶を頼りに以前メグさんが働いているのを見た洋服屋に向かうことにする。
店の前の大通り。以前観光した時には人がごった返していたのだが、今日はなぜか閑散としていた。
幸いにも脇の店はいくつか営業しており、その中に洋服屋も含まれていた。
人の少なさを不思議に思いながらも、俺は店の中へ。
出迎えたのはメグさんではなかった。まあバイトだと言っていたし、居ないのも仕方ないとも思う。
ちなみにその店員さん、俺が見た時目を引いたのが、その髪色。
プリンカラー。頭頂部がカラメル色で、下の方が金髪。
前世で見かけたこともある髪色だけれど、思ってみればこっちに来てこんなカラーリングは見たことないなぁと、後で思ってみれば物凄くくだらないことを考ていた。
「どのような服をお探しでしょう?」
人当たりの良さそうなお姉さん。まるでお手本のようなビジネススマイル。
「あ、えっと、普段着で着れる服で、動きやすいやつを……」
「かしこまりました」
普段着。とりあえず普段着が欲しい。戦いとか前提にしてたら、生活なんて安定しないから。
俺がそう頼むと、店員さんは明るくそう言ってすぐそばのラックから何着かの服を見積もり始めた。
その様子を眺めながら待つ。
幾つもの服を腕にかけて戻ってきた店員さんは、ズボンや上着を目線に合わせ、片目で見ながら何やら考える。
何か納得したのか、はたまた何が気に入らなかったのか分からないけれど、「これを試着してみてください」と服を俺に渡してきて、向こうにあった試着室を指差した。
俺は以前にも利用したことがあるその試着室に入り、渡された服に着替えてみる。
試着室には鏡が設置されていなかったので、着替え終わっても自分の姿を確認することはできなかった。
でも、服でなんとなく想像ができるので店員さんに確認してもらえばいいと思い、着替えたあと試着室の外に出てみた。
外で待っていた店員さんは、俺の着替え後の姿を見て息を呑んだ。
「かわいい!いや失礼、とても良く似合ってますよ!」
今明らかにかわいいって言ったよな。
え?普通に嫌なんだけど。子供の姿だからって、かわいいは褒め言葉じゃないぞ。
「鏡とかないんですか?」
店員さんの感想を受けてどうしても自分の姿が確認したくなった俺は、ダメ元でそう聞いてみた。
するとあまりにもあっさりと、店員さんは答えた。
「ありますよ?」
あるんかい。
店員さんはラックに立てかけてあった縦長の鏡を持ってきて、俺の前に置く。
そこに映った俺の姿。服からも想像できていたのだが、想像以上によく似合っていた。
ここで紹介をしておこう。
白地に赤いマークが描かれた半袖シャツに、ダボダボの灰色の上着。この上着は、パーカーのフードがないような感じのものだ。
ズボンは黒色に赤いラインが入った薄めの生地の長ズボン。
かわいい……というよりかはクールな感じで、俺は見た目や着心地共に大満足だった。
これがまず一セット目。用意されたのは五セットで、ここからはテンポ良く紹介していこう。
二セット目は、赤いライン等の装飾が入った白のTシャツ、黒のズボン。
三セット目。これは、襟とボタン付きの黒いシャツ、逆V字の赤いリボン、緩めの灰色のズボン。
四セット目は、薄灰色の下地に赤いカエデのマークが大きく入った半袖シャツに、赤いラインが入った黒の半ズボン。
五セット目、赤い無地のポロシャツ、焦げ茶色のズボン。
なんだか最後は適当になっているような感じもするし。三セット目はちょっとリボンが可愛すぎるかなとも思ったけど、十分に普段着として使えるものだし、伸縮性も抜群。いざ戦いになったときにも対処できるような、余計な飾りの少なさもポイントだ。
全部気に入ったので、五セット全部買うことにした。
何故って、やっぱり服は数種類ないと不便だろう。
値段はそれなりにしたけど、今までの蓄えもあったのでポケットマネーで購入ができた。
そんなに財布に金を入れていていいものかとも思ったけど、盗むやつは速攻ボコボコにできる自信があるので、念の為多めに入れている。
今回は服を買うためだったので、そのために多く入れていたこともある。
金の問題は解決。最初から問題など何もないのだが。
こうして想定よりも大分早く終わった買い物だけども、ここでイベントが起こる。
「あの、失礼ですが、もしかしてソラさんですか?」
会計のあと、店員さんがそうして話しかけてきた。
何故俺の名前を知っているのだろうか。そこも疑問に思ったのだが、とりあえず返事をする。
「そうですけど」
「やっぱり!メグちゃんから話は聞いてますよ、なんでも色々と危険で高難易度のクエストをこなしてきたそうじゃないですか!」
クエスト―――なのか?俺は基本的に魔王軍幹部を退けていっただけなのだが……それでも一応緊急クエストの扱いなのか。
というか、メグさんからか……
「ま、まあ、そんなことも……」
「今や巷で有名なソラさんが利用してくださるなんて、嬉しい限りです!ぜひとも、今後ともご贔屓に!」
「そんなに有名なんですか……?」
「まあよく聞く通り名だと、魔王軍キラーとか朱眼の死滅者とか、朱白の御子とか。」
俺が把握してる奴は最初の魔王軍キラーしかなかったのだが、いつの間にそんな物騒な通り名がついたのだろうか。
どうせなら一つにまとめてほしいな。
「ところでメグさんって今はどうしてるんですか?」
「メグちゃんは……この前までバイトしてたんですけど、突然辞めちゃって。どうもアクロの方で何かあったみたいで。」
「アクロの方で?」
アクロで?何かあったのか?
「はい、私も詳しくは知らないんですけどね。」
気になる。アクロで何かあったのなら、それは看過できない事態だ。
それについての情報を集めたいので、店員さんには悪いが話はここらで切り上げて俺は帰ることにした。
店から出る時、店員さんは俺に向かって「また来てくださいねー!」と声をかけてきたので、まあ機会があればまた来ようと思う。
服が入った袋を持ちながら大通りを走り、屋敷の前まで来て、ドアの前に立っている護衛に顔パスして屋敷に入る。
とりあえず服を自分の部屋においてからにしようと思って、自分の部屋まで移動。
扉を開けてみると―――
「………………」
「あ」
「………………変態だぁーーー!」
「誤解だから!ちょっと待ってよ!」
なぜか俺の部屋の椅子に座ってくつろいでいたリュナ。
この流れは何回目だろうか。
俺が叫んだことによって慌てふためくリュナを横目に、俺は服類をベッドの横に置いてリュナと向き合うことに。
「まあそんなことはさておきだ、リュナ。今回は何のようだ?」
「特に。暇だったから?
それよりソラ君、その袋は何?」
「服。買ってきた。」
「え、私も連れてってよ。いいやつ選んであげたのに。」
「いやそういう問題じゃねえよ。」
そして俺は、アクロについて聞く。
何か起こっているらしいのだが、知らないか―――と。
答えは勿論、知らないだった。
まあリュナに聞いても分からないなんて最初から分かりきっていることだし、どうせならノアかカイルかリオンに聞けばよかった。
後で聞いてみるとするか。
「ノアちゃんたちにも聞いてみる?」
「聞きに行くか。」
そこでは考えは一致。二人で一階に降りて、他の人がいるであろうダイニングまで行ってみる。
ダイニングは話し合いを開いた場所なので、きっと暇人たちが集まっているだろうと、そう考えての行動だった。
ダイニングに入ってみると、そこにあった大きな机を挟んで周りに並べられた椅子には、緊張感を醸し出している面々が揃っていた。
俺とリュナとリースとイヴァナ以外のメンバーが。
「おおソラ、ちょうどいいところだ。今からアクロについて話そうと思っていたところだからな。」
議題はどうにもアクロらしい。
話題にそれが多くでてくるのだが、本当に何があったんだろうか。
「とりあえずそこの席に。
よし、だいたい揃ったから今から説明するぞ。」
そこからはつらつらと説明が続くので割愛。
簡単にまとめてみる。
曰く、俺たちが魔王討伐に出発したあと、魔王軍幹部による襲撃があったそうだ。
この街にも襲撃はあったのだが、リースとアーチボルドがそれを鎮圧。軍はほぼ壊滅し、幹部も討ち取ったそうだ。
それだけならハッピーエンド。だがしかし、問題は道中の街だった。軍の進路上にあった四つの都市が甚大な被害を負ったという。その中にアクロが含まれているわけだ。
とまあこんな趣旨の内容だったのだが、要するにアクロの大ピンチ。
久しぶりというのもあるし、ロムバート邸に行ってからアクロの様子を見に行くのがいいのかもしれない。
「リュナたち、どうするか?」
「私はアクロが心配だから見に行くけど?」
「我はソラが行きたいのなら。」
「私も行ったほうがいいと思いますけど」
「出発には賛成です。」
と、全員がアクロに行きたいと言ったのだ。
勿論俺も元より賛成なので、俺達のパーティーは満場一致でアクロに行くことに決定。
カズト達のグループは他の街を見に行くという。そして世界最強の二人はやる仕事がたくさんあるそうなので、今回はリタイアだそうだ。
「お前の底力で、アクロを元気づけてこい。」
準備をしようと動き始めたそんな俺たちの背中に向かって投げかけられた一言は、カイルのものだった。
勇気をもらえ―――るかは半信半疑なところもあるけれど、カイルに押されながらも、俺たちはアクロに向かって出発することになったのだった。