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第零話 プロローグ

 「―――それで、こんなところまで呼び出して何の用だい?イペリオス。」


 今、イペリオスの前に座っているのはとある男だ。

 真っ白な軍服を着こなした、金髪に橙色の瞳のスラッとした体型の男。

 まるで久しぶりに友に会うかの如く、その男はイペリオスに向かって馴れ馴れしく聞いた。

 この短期間で二度も馴れ馴れしく話しかけられることなったイペリオスだが、決してその態度に腹を立てることはなかった。


「久しぶりだな、コウ。」

「ああ、久しぶりだとも。で、何の用だい?それを私は聞いてるんだけども。」


 質問に答えなかったイペリオスの返答に、ややイラッとした態度を露わにするコウ。

 そんな高圧的な態度でも、イペリオスは内心懐かしんでいた。


(やっぱり、こいつのこの態度は変わっていないな。)


 そう思いつつも、懐かしさと同時に込み上げてくる怒りを抑え込み、イペリオスは落ち着いた口調でコウに接する。


「お前と話がしたかった。」

「話、ねぇ。そのためにわざわざ呼んだのか?」

「俺たちの時間なんて無限みたいなものだろう。そんなにピリピリするなよ」

「確かに無限だな。だがそれは生涯の話だ。今私が進めている計画に要する時間は、有限なんだよ。障害とならないよう、手早く終わらせてくれないかな。」


 相変わらず変わらない―――どころか、ますます強くなってくるコウの口調を受けて、イペリオスは若干顔をしかめつつも自らを制して話を続けた。


「いきなり質問でなんだが、お前の計画ってやつは一体何なんだ?」

「なんだ、知らなかったのか。てっきりあんたなら理解できているとも思っていたんだけど。」

「教えてくれ。」

「何でそんなに積極的に聞こうとする?あんたはそんな性格じゃないはずだぞ?」

「管理者として、把握しておきたいだけだ。」

「なるほど、管理者ね。便利な肩書だな。まあいいだろう、教えてあげようか。

私が進めている計画、それは、ヤミを追い詰める作戦だ。

イペリオスも当然知っているはずだ、私と奴の仲がすこぶる悪いというのは。

何万年も続いてきた勝負を、決着させる。ただそれだけのことさ。」

「決着……コウ、絶対それだけじゃないだろ?」


 イペリオスはコウが隠したある一つの事実に気づいた。

 それを指摘され、コウはため息を一つ。そして気分を害したと言わんばかりに、少々乱暴な口調になる。


「相変わらず洞察力は変わっていないようだな。

そうだよ、私がヤミを殺したいのはそれだけじゃない。

あの御伽噺だ。」

「御伽噺?」

「創世の七師のやつだよ。なんであれに私のことが載っていないんだ?」

「知らねえよ。別にあれは人間どもの口伝で継承されていった物語だからな、セトは関係ないだろう。」

「セト?」

「ああ、ヤミのことだ。人間から名前をもらったんだよ、あいつ。」

「遂にあいつも人間ごときに飼い慣らされるところまで堕ちたか。哀れだな。

だがな、だとしても私は絶対にセトを殺す。復活したばかりの今がチャンスなんだよ。」


 そう言いながら、感情的になったコウが目の前の机を叩いて立ち上がる。


「イペリオス、話はこれでおしまいか?」

「あ、ああこれだけだが」

「これだけのためにここまで呼び出したと……?

私はやることが山のようにあるんだ。もう帰らせてもらう。」


 そのままコウは部屋の出入り口へと歩いていき、ドアを開けて出ていった。

 あとには、イペリオスが残された―――わけではなかった。


「イペリオス様、少々よろしいでしょうか。」

「入れ。」


 コンコンとドアがノックされ、そんな声がドアの向こうから聞こえてくる。

 入ってきたのは、イペリオスが普段情報収集に使っている部下だった。


「何か動きがあったか」

「東の魔王様が討伐されました。」

「―――誰にだ?」

「カズトという異世界人です。」

「カズトか……」


 今まで複数の異世界人をこの世界に引き入れたイペリオスだが、カズトという者の名前には心当たりがなかった。

 不穏に思いつつも、部下に命令を下す。


「これからコウの動向を探ってくれ。

それと、ウラノスの行方も追うんだ。」

「御意。」


 イペリオスから命令を受けた部下は、一礼して部屋から出ていった。

 一人となったイペリオスは、玉座に深く腰掛けて独り言をつぶやく。


 「―――迫りくる運命を回避することはできない。

過ぎ去る過去も、来たるであろう未来も。

運命を変えることは不可能だ。

それは、途方も無いような力を持った我々神であっても同じ。

過去を変えることはできないし、未来を決めることも不可能だ。

何をしても、結果は変わらず世界は廻り続ける。

過去は、変えられない。

だが、真実を知ることはできる。

機会を用意してやった。

さあ、あの惨状を招いた黒幕を突き止めてみせろ。セト。」


 北の魔王は笑みを浮かべる。かつての友へ向けて。


(俺は、この時のために色々と工作をしてきたんだ。

それこそ何百年前から、コツコツとこの瞬間を狙って積み重ねてきた。

この計画が実を結ぶまで、幾千万の労力と時間がかかっている。

かつての友を裏切る行為であろうと、最近あいつは傲慢すぎだ。少しお灸を据えてやろうと思ってな。

セト、俺はお前を信じているぞ。

期待通りの働きをしてくれることを願っている。)

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