第二十八話 エピローグ
「ふふ。ごしゅじん、がんばってるねぇ~。」
四方八方闇の無限に続く空間の片隅に、まるでモニターのように映し出されている景色。
そして、その景色の映像の前に座り込んでいる一人の幼女がいた。
青紫色の長髪と、妖しく光る小豆色の瞳。そして黒いドレスを着ていて、体育座りの姿勢で映像をまじまじと見つめていた。
「最近ごしゅじんが他の女といるからちょっと嫌だけど、こうして私のことを頼ってくれてるんだからいいよね!
いつか私があの女たちからごしゅじんを奪うんだ〜。」
その映像は、とある人物の主観映像だった。
その人物の目の前には、黄緑色の髪の少女と黒髪の獣人の少女が見える。
「にしても“しょぎょうむじょう”ってどんな意味なんだろ。」
たまに独り言を呟きつつも、幼女は映像から目を離さない。
「ごしゅじん、頑張りすぎだと思うんだよね。
えーと、ごしゅじんを狙った悪い奴らがいっぱい来たでしょ?
あとすっごく危ない街にも行ったでしょ?
それと……魔王を倒したでしょ?
ごしゅじんに休んでもらいたいなぁ。
しかもごしゅじん、このあと大変だよ。
魔王倒したからお祭りがいっぱいあると思うし。
ごしゅじんのスキルが早く進化してくれたら、私もあっちに行って手伝ってあげられるのになぁ……ざぁんねん。
――――――そうだ。今のうちにごしゅじんが喜びそうなしゃべり方考えとこ。」
目の前の掃除の映像に飽きたのか、急に立ち上がる幼女。
そして優雅にクルクルと回りながら、自慢げに一人で喋り始めた。
「まあ素の私もいいだろうけど……」
くるっと回って手のひらにメガネを生成。それをかけて直立する。
「ご主人様はこういうクールな秘書がお好みなんでしょうか。」
またくるりと回り、まるで魔法少女のように一瞬でワイシャツと茶色のスカートに着替える。
「それとーもぉ?こんなぶりっ子系?きゃぴっ」
またまたくるりと回転。今度はメイド服。
「ご主人様!ご主人様の隣には、私がついてますよ!
こんな従順メイド風の私が!」
続いてはポニーテールにして、体操服に。
「いやいや、ここは体育会系で!」
今度はマフラーで口元を覆い、半纏を羽織る。
「駄目じゃな。ご主人はこういうおばあちゃんの方が好みじゃろう。」
そして最初の姿に戻った。
「いや、そもそもごしゅじんって私みたいな子が好きなのかなぁ。」
そして今度はパリッとしたスーツ。
「分からないな。主人の興味を探らなければ、私が演じるべきキャラクターも皆目見当がつかない。」
そのスーツは一瞬でよれたスーツに変わって、両手を頭の後ろに回す。
「いやー、案外こんな適当キャラでも許してくれる感じないっすか?」
そしてまた幼女は元の姿に戻った。
「いや、それはないね。
うーん、こういうときはあの女どもを参考にしてみよう!
まずは……あの猫耳の人から。」
映像に映っていた黒髪の少女の様な髪型と服装に変身。
「こうでしょうか……なかなか清楚なイメージですね。」
次は同じく映像に映っていた黄緑髪の少女の服装に。
「それか、あの黄緑みたいな馴れ馴れしい系?」
その次は、映像に映っていた桃髪の少女の装いに。
「意外にハツラツ系の敬語とかでしょうか。」
再度幼女は元の姿に戻る。
「他にごしゅじんが喜びそうなもの……」
そして姿はそのままに、喋り方と態度を変えていく。
「ご主人様、私以外の女となんて仲良くしませんよね。
私を愛してくださるんですよね。私だけを愛してくださるんですよね。」
「い、いや!別に好きとかじゃないから!
いいからこっち向かないでくれる!」
「うーん、なかなかわかんないなぁ。
いや、そもそも多重人格キャラを捨てるべき?」
その疑問が出てきたところで、幼女は和服に着替えて自問自答し始めた。
「せやなぁ……まあ、ご主人が進化させてくれたらでいいんとちゃう?」
「そうどすな。ご主人の意見を聞く前に決めたらあきまへんし。」
またまた元の服装と喋り方に戻り、何か納得したような表情で結論を出す。
「やっぱりそうなのかなぁ。
よし、じゃあごしゅじんが私を進化させてくれたらにしよう!」
そうして暫く一人問答を続けたあと、満足したのかまた座って体育座りの姿勢で映像を見つめ始めた。
そんな不思議で包まれた彼女の名前は―――
―――虚無之神といった。
これにて、第五章終わりになります!
詳しいことは活動報告の方で書いておきますが、トモキの度の記録はこれで終わりになります。
こういう話の流れが好きだったという方、申し訳ありません。
でも、引き続きこの作品を読んでいただければ幸いです!
それでは、次回から六章となります。皆さん、ありがとうございます!