第二十六話 祝いの時間
「それでは、新魔王城建築を祝って!
かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
何が起こっているかというと、見ての通りだ。
パーティー。エイトが五階の大広間で開催した、いわばホームパーティーの様な感じの催し。
多数の料理が用意され、魔王軍の幹部と思わしき七人と俺たち三人、そしてほぼ主役みたいなエイトがこのパーティーに来ていた。
まあ来ていたというよりこのメンバーで開催したようなものなんだけど。
幹部陣は、ミカエル、出迎えの時の男、配膳の時の女性二名、やや幼そうな男、でっぷりと太った、骨付き肉を貪っている男、長髪のエルフ耳の女性。この七人は全員が仮面をかぶっていて、エイトの話によると、それぞれ《悩み》、《喜び》、《嘆き》、《驚き》、《笑い》、《怒り》、《祈り》を司っているのだそう。
七つの大罪ってこんなだったっけ。美徳のなんたらも七つか。十戒……は足りねえや。
何の考えが元になっているのか凄く気になる。
「なんでこのラインナップなんだ?」
意思とは反してエイトに聞いてしまった。どうしてだろう、気になりすぎたからなのか、よく考えもせずに口が勝手に動いた。
「フフフ。何が元ネタだと思う?」
「そう言われても全く見当つかないんだよなぁ。やっぱり大罪か美徳か?」
「どっちも違いまーす。」
「えー、じゃあなんだ?」
「トモキは推理小説好きか?」
「急になんだよ、まあ嗜む程度には好きだけど。」
「ちなみに読んだことあるのは最近の推理小説?それとも昔の王道とか?」
「どっちもかな。」
「好きな作者は?」
「作者……綾辻行人と東野圭吾辺りか」
というか急にこんな話題になったけど、何か関係があるのだろうか。
「じゃあ分かると思うぞ?」
「これで何が分かるんだよ。」
「まあ分からないならそれでもいいけどな。」
そんな思わせぶりなエイトの態度に、俺は悔しくなる。そして知りたいという気持ちが増大していく。
そして一つ閃いた。
「―――もしかしてだが、奇面館か?」
「大正解。」
奇面館の殺人。内容を語るのはネタバレとかの対策で避けておこう。
これを読んでいる皆さんなら、読んだことがあるもしくは読んでみたいという人もいるはずだ。
そんなことなくても、館シリーズは傑作なのでぜひ一度読んでほしい。
「なるほどね、奇面館か。じゃあ納得だな、このラインナップも。」
「まあトモキ、こんなラインナップのことなんか気にせずに、今日はお祝いなんだからパーティーを楽しもうぜ?一応お前が主役なんだからさ。」
「トモキくーん!ちょっとこれかけてみてよ。」
向こうで食べ物を眺めていたガイアが、突然俺たちのところへと駆け寄ってきた。
「ほれ、ガイアに構ってあげな。」
「うわっと。
で、なんだ?ガイア。」
「これ。トモキ君の記憶を再現してみたんだ。」
そう言ってガイアが手渡してきたのは、何かの紙の輪っかだった。いや、ただの紙の輪っかではなかった。これはたすきだ。それも、大きく『今日の主役』と書いてある、金色に光るたすき。
なにこれめっちゃ恥ずかしいんだけど。
「つけてみてよ。」
「え、嫌なんだけど。」
「いいじゃねえか。一回だけでも。」
「え………」
しぶしぶ俺はそのタスキを肩にかけてみる。
「ブフッ。クックック……」
「アハハハハハ!!ちょっとトモキ君、面白すぎだよ!」
「…………」
俺のこの格好を見ただけで、エイトは吹き出し、ガイアは大笑い。よく見てみると向こうの方でソフォスがクスクスと笑っている。
こんな反応を受けて俺がとった行動はただ一つだった。
「こんなもんいらん!!」
「あー!ちょっと!せっかく面白――作ったのに!」
「今更言い直すようなことでもねえよ!」
すぐさまたすきを脱ぎ、足元に叩きつけたのだ。
―――その後―――
俺がたすきを捨てて、ガイアは少しヘコんだ。
でも数十秒後には気にしなくなり、俺の腕を引っ張って料理コーナーへと連れてきたのだ。
まあパーティーだし、ちょっとだけでもはしゃいでやろうか。
そう思いながら、並べられている料理を見る。
!?
おいおい嘘だろ……
今回の料理形式はバイキング。ビュッフェといったほうがオシャレでいいかも。でもビュッフェって発音しにくいからなぁ。
まあいいや。並べられている料理は、とんでもなく日本のものだった。
語彙がおかしくなるほど驚いた。
中央都市にも日本食――というか和食の店はあったけど、ここまで日本を再現するのかというくらいの日本食が勢揃い。
米や味噌汁はもちろんのこと、うなぎの蒲焼きや焼き鮭、納豆、漬物が入った小鉢が数種、その他いろいろとあったのだが、なんと言ってもひときわ目を引いたのは海鮮系だ。
船のような大きな入れ物に盛り付けられている刺身たち。いわゆる舟盛りの刺身から、自分が好きなやつを取ってそれをどう食べても良いというのだ。
海鮮丼にしてもよし、少し炙ってもよし、そのまま食べてもよし、手巻きにしてもよし。
ソフォスとガイアも、それを見て目を輝かせていた。
「どうだトモキ。俺の努力の結晶は。」
「努力?」
「この米とか、海鮮とか、納豆とか、うなぎの蒲焼きとか、後その他諸々、俺が四百年も費やして開発した食材たちなんだ。」
「全部エイトが!?」
「そう。大変だったんだぞ?
当時は戦争が終わったばかりだったからな。なんとか立て直すために、芋とか米とかの開発にいそしんで。」
「ふーん。ほへははひへんはっはへ。」
「何立ちながら食ってるんだよ。席あるだろ?座って食べろよ。」
「いは、ひょっほほははふいはっへ。」
「口に含んだまましゃべるなよ。」
「よし、飲み込んだ。まあとりあえず立ち話もなんだ、席で話そうぜ。」
「まあそうするか。」
俺は選んだ料理をプレートに乗せたまま、エイトと一緒に席に着く。
すでに持ってきていたオレンジジュースを片手に、俺はエイトの話を聞いてあげることにした。
「お前は四百年前起こった戦争のこと知ってるか?」
「いや、全く。」
「そうか。教えてやろう、その戦争とはな、世に言う“多元大戦”だ。正式名称は多種族新次元侵攻大戦っていうんだけど。
その戦争を終わらせたのが、俺なんだよ。」
「え、まじで!?」
「そうそう。それで―――」
と、しばらくの間エイトの話は続いた。
俺はその間話を聞きながらも、目の前にある美味しそうな料理の数々を食べていた。
米がうまい。もちもち。あと海鮮は俺は海鮮丼にした。
サーモン、マグロ、エビ、イカ、ハマチ、ブリ、イクラ。その他様々な刺身を、丼に入れたホカホカの白米の上にきれいに並べていく。
そして完成したのがこの海鮮丼だ。仕上げに醤油を少し回し入れれば、後は思いっきり頬張るだけ。
「この国が誕生した経緯なんだけどな―――」
「ふんふん。はむっ。」
―――――――――
「で、まあ魔王となったときはかなり大変だったんだけど。」
「そりゃ面倒くさいな。あむっ。」
―――――――――
「ほんとに、北の魔王に感謝だよ。
一回会ったことはあるんだけど―――」
「ムグムグ……あむっ。もぐ」
―――――――――
「―――まあそんなわけだ。要するに大変なんだよ、魔王っていう肩書を背負い続けるのは。」
「うんうん。ムグムグ。ぁむ。ムグムグ。」
「相変わらず食い続けてるなぁ。これほどいい食べっぷりを見てると、こっちまで嬉しくなるな。」
「いや、これめちゃくちゃ美味しい。
この世界って運送方法とかないしさ、どうやってこの魚運び込んでるの?」
「それは企業秘密だな。」
「そう。残念だ。」
そんな会話を続けながら、俺は食事の手を止めることなく食べ続ける。
その間にもエイトは喋り続ける。
やがてお互い満腹になってきた時だった。
「ふう、美味しかった。ごちそうさま!」
「そうだトモキ、」
「うん?」
「このパーティー終わったら後で玉座の間まで来てくれないか。」
「?うん。わかったよ。」
まだまだパーティーは終わる気配がないのだが、なぜか呼び出された。
なんだろう。やっぱり一回の部屋だろうか。それとも地下室について?
心当たりが多いな……
そんなこともありつつの、このパーティーを俺たちは目一杯楽しんだ。
うまい料理は食べた、ドリンクも飲んだ、騒いだ、親交を深めた、調子に乗って度数の高いアルコール飲んで酔っ払った。
もう満足だというところで、女性の声による案内があった。
『バルコニーに出て、夜空を眺めてください!』
その場にいた幹部たちと俺たちは、バルコニーへの扉を開けて外に出る。
夜風が心地良い。感想としてはそんなところ。あと月がきれい。それとあれは―――
ヒューーーーーーー
ドドーーーン
夜空に咲く、大輪の光の花。
花火だ。
数発ずつではあるけれど、花火が上がる。
そういえば花火は日本の伝統的な文化だなぁと考えつつも、その美しい景色を眺めて、パーティーは終わった。
―――玉座の間にて―――
パーティーが終わった後、皆が片付けをしているうちに俺は玉座の間に移動した。
そこでは、早めに帰ってきていたエイトが、玉座に座って待ち構えていた。
「来たな。」
「用件ってなんだ?」
「なに、簡単なことだ。
質問が一つ。そして直々に伝えたいことが一つ。」
エイトは二本の指を立てる。
「まず前者から。お前が設置したボス、ケセドっていうのはどんな奴なんだ?」
ケセド。俺がこの魔王城に設置したラスボスだ。
「あいつの能力は【慈悲之神】。攻撃を受け止め、相手がギリギリ死なない程度の威力にして跳ね返すスキルだ。」
「エイル……なんか俺の名前に似てるな。そこも狙ったのか?」
「いや別に。」
「そうか。じゃあ最後に、伝えたいことだ。」
辺りに緊張感が走る。部屋の空気がぴーんと張り詰める。
エイトが黙っているので、こちらも緊張してくる。
「―――トモキ、この城を建て替えてくれて、ありがとう。」
「え?どういたしまして。」
「やっぱり面と向かっては照れくさいな。
わざわざこんなことで呼んで悪かった。用件は済んだ。」
用件はもうないらしい。つまり帰れと。そういうことだ。
俺は頭の中で先ほどの言葉を反芻しながら、部屋を出ていって自分の部屋に戻る。
『ありがとう』
そんなエイトの言葉が頭の中に再生される。
俺は思わずはにかみながら、新しくなった廊下を歩いていくのだった。
連続投稿、これで二話目です!
次回は十五時。お楽しみに!