第二十四話 住居階層
流れで幽霊たちの部屋を作り、俺はその日はひとまず部屋に戻って休んだ。
まあ部屋と言ってもエイトが急ごしらえしてくれた粗末な部屋なんだけど。
できればそこから作りたかったけど、掃除は下からともいうし、リフォームは一階から進めることにしていたのだ。
そんな調子で続いてきたこの計画が、もうすでに五階層に到達。
俺たちの客室は五階にあるので、ついに客室を改装できるのだ。
まずは廊下。もう五回目となったこの作業をしていく。
まあ実際するのはガイアだから俺はもう何もしなくていいのは、もう分かりきっていることだろう。
壁も、床も、柱も、ドアも、絨毯も、カーテンも、窓ガラスも、全てを置き換える。
そのうえで改めて間取りを決め、ガイアと相談した末に、約十二部屋の客室を作ることができるという算段となった。
なので、ちょっと本気を出して客室を作り、それをコピーしていこうと思う。
現在俺は、自分が泊まっている部屋の前にいた。
《本気を出すって言っても、トモキ君にそんな知識あるの?》
大丈夫だ。今まで家族旅行で泊まってきた数々のホテルの部屋の内装を思い出して、その知識を総動員するから。
《大丈夫かなぁ……記憶で勝負するんだったら、多分僕が漁ってきたほうが早いと思うけど。》
そういえばお前人の記憶漁るの好きだったよな。
じゃ、よろしく。
《人聞きの悪いことを言わないの!
まあ仕方ないし、私が今回も一肌脱いであげよう。》
そしてガイアの声が途絶える。
その間にも、俺も内装を考えておくとしよう。
どうしようか。
まずはベッドと本棚は基本。戸棚の中には、数種のアメニティも設置しておこう。
風呂場はユニットバス、洗面台にコップとタオル、カードキー式とかできるかな。
ここまでやってしまったらもうもはやホテルだろうとしか言いようがないけど、まあホテル参考だしいいんじゃない?
それでそれで―――
《今記憶を確認してきたけど、大して参考になりそうなものはなかったよ?
今トモキ君が言ったようなのばっかり。》
そう?俺ってもしかして記憶力いい?
《エイト君の要望を全部ボクに覚えさせてる時点でそれは怪しいけどね。懐疑的だよ。》
でもそれぐらいしか情報ないんだったら、それでいいんじゃないか?
作り始めてしまっても。
《まあいいかもね。それで、配置とかは決まったの?》
もうそこら辺に関しては安心してほしい。バッチリ決まってない。
《決まってないんかい》
置くものを考えただけだし、まだ間取りやら何やらは途中だから、ちょっと時間ちょうだい?
《はぁ……僕が考えれば数秒で終わるんだけど、ここはトモキ君のプライドとこだわりを尊重して、僕はソリティアでもやってるよ。》
暇人が一人でやるゲーム第一位、ソリティア(あくまで個人の感想です)。ド偏見だけども。ソリティア好きの皆さん、ごめんなさい。
えーと、じゃあ間取りは―――
―――二千年後―――
よし。決まった。
《やっと決まった?もう二千年くらい待った気がするけど。》
実際には十数分くらいしか経ってないからな?
長生きしすぎて時間感覚おかしくなってないか?
《おっと、今トモキ君が禁じられし呪言を口にした気がしたけど、気の所為にしておこうか。》
お前、ついに厨二病キャラにまで手を出し始めたか。
《僕の他にもキャラ崩壊してる人はいるからね。》
いるんかい。
まあそのことについては興味ないからいいや。それよりこれ、考えた見取り図。
《ほうほう。ふむふむ。なかなか興味深い見取り図で。》
そんなにか?別に何もひねくれてないし、狙ってもないけど。
《そうだろうね、何の変哲もない、何の引っ掛けもない、何のユーモアもないこんな平々凡々な見取り図なんて。》
…………ちょっと辛辣すぎやしないか?
《いや?別に?僕が長生きなのは事実だし?》
あ、もしかして引きずってる?ごめんって、謝るから。機嫌直してよ!
《冗談冗談。で、これの通りに進めていく感じでいいね?
カラーリングとかはこっちでいいのを選ばせてもらうけど。》
ガイアの冗談って無駄に現実味あって怖いんだよなぁ……
まあそんな感じで頼む。
《じゃあいつものように、少し待っていてね。》
そうしてガイアが、部屋の内装を作り始めた。
その様子を見守りながら、俺の方ではこれからの計画を想像する。
ここを完成させたら、残りは六階と七階だ。六階の要望はすでにエイトから聞いていて、それはガイアが覚えているのでそれを作ればよし。
あ、ここにボスを設置して、代々の魔王に仕えさせるのも面白いかもしれない。
俺が創ったダンジョンのシリーズみたいな?
《いいね、それ。面白そうじゃん。》
あ、ガイアもうできたのか?
《うん。まあ多分これでいいと思うけど、一応見てみて。》
了解。
俺が部屋のドアを開けてみると―――そこには何も変わっていない部屋の景色があった。
おいガイア、何も変わってないんだが。
《あ、ごめん伝え忘れてたね。
その部屋はトモキ君の荷物とかが邪魔で置き換えれなかったから、他の部屋にしておいたよ。》
そ、そうか。荷物片付けておけばよかったかな。
《後でソフォスちゃんの部屋にでも置いておいたらいいじゃん。作り替える時だけ。》
そうするか。
で、その作り替えた部屋は何処だ?
《そこの、今いる部屋の二つ隣。》
口頭で誘導されるままに、右の部屋へと行く。
でも、そこには二つ先の部屋なんてないが……
《ああ違う違う。左ね。》
左かい。
引き返して今度は左方向に。その部屋の扉を開けてみると、俺の部屋とは見違えるような景色がそこにはあった。
そう。もう高級ホテルとしか表現できないような、俺がイメージしていた画を大幅に凌駕している完成度。
ペルシャを連想させるような細かな柄の絨毯に、猫足のモダンな木のテーブル、部屋の奥に置かれた二つのクイーンサイズのベッド、無駄な装飾は施されていないが、それでいて統一感を崩していない戸棚。
鏡は飾ってあるが過度な主張はせず、カーテンもシンプルながらに景観を損なわない。
風呂場を見てみる。トイレ、洗面台、バスタブが一緒になったタイプだが、ちゃんとスペースは取ってあって、開放的な感じもする。
思わずこんなに説明をしてしまったが、それほど驚きが隠せないということだ。
《どうやら驚いてるみたいだね。そうだよ、僕がいろいろ手を加えて、さらに立派にしておいたんだよ!》
凄いよ、凄いしか言えないよ、圧巻だよこれは。
お見それしました。
《建築のプロだからね?創造を司ってるんだから、これくらいはお茶の子さいさいだよ!》
―――そしてさんざんガイアを持ち上げた後。
この部屋を次々とコピーしていって、五階層は完成した。
細かく言えば、部屋ごとに形や窓の向きとかも違ってくるので、その都度細かく調整を加えながら部屋を創っていった。
俺の部屋のときは荷物をソフォスの部屋に置き、ソフォスの部屋のときは荷物を俺の部屋に持ってきて、完成したらまたもとに戻した。
ガイアに《女子の荷物を漁らないなんて、紳士だねぇ》と言われたが、考えてみろ、これは人として当然のことだ。
ガイアが過去に仕えた人の中にはそんな変態もいたのかもしれない。
この発言は、ガイアの今までの苦労話が滲み出てきた瞬間だった。
そんなことはどうでもいいな、俺は性格こそ悪いが紳士だという話だ。
これにておしまい。無駄話を切り替えることを、なんと言うんだっけ。閑話……なんだ?
《閑話休題じゃない?》
そうそう。それそれ。
では閑話休題。続いては、六階だ。
エイトの要望によれば、ここには幹部たちの部屋と、食堂や風呂等の水回り、書庫等の重要なものをしまう保管庫を作ってほしいとのことだ。
これについては、元から原型があったので作り替えるだけで済んだ。
だけどもその原型もかなりひどく、何度も手入れや作り替えをしてやっと使えているような状態だった。
きれいだったのは、食堂と書庫、保管庫、女性陣の個室だけだ。
よくこんな有様で四百年も暮らしてきたなと思うが、この際きれいにしてやろうと、ますます意気込む要因となった。
まずは幹部たちの個室。これらは客室と同じような造りにした。
さすがにそのまんま同じだといけないので、カラーリングや配置、絨毯とカーテンの柄を変えながら調節した。
これを幹部全員の七部屋分行った。
であった幹部たちには要望などを聞いたため、部屋の中にそれも取り込んでいる。喜んでくれるといいが。
次は水回りだ。食堂は比較的綺麗だったが、いかんせんボロボロだ。
せっかくなので冷蔵庫を最新式に(エイトの知識なのか、冷蔵庫は現代風の物が使われていた)。さらにコンロや水道等もガイアの技術により全て魔力式にして、ボロボロに破損している箇所を丸ごと置き換えてピカピカに。
風呂場も、汚れや破損箇所が目立ち、もうずいぶん誰も使っていないような感じだった。
幹部は風呂に入らなくても大丈夫なのかなとも考えつつ、きれいに掃除して、タイルなどもすべて新しいものに張り替える。
備品等もすべて新調し、気合を入れた結果ちょっと高級な温泉旅館の大浴場みたいなことになってしまった。
まあ結果オーライ。気合が入りすぎてしまったが、入りすぎて困るものでもないし。
続いては保管庫。誰かが日々手入れをしているのか、特に直したらいい箇所は全くと言っていいほど見つからなかった。
貴重なものも多いだろうし、むやみに触るのは諦めることにして、保管庫から去った。
こんな感じで六階層が完成し、ついに七階層だけとなった。
多少ざっくりだったかもしれない。まあそこら辺はご愛嬌ということで見逃してくれ。