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第二十三話 同郷の狙い

 二階を完成させた頃のお話。

 すっかり趣味の悪さは消え、もはやオシャレな館と化した廊下を、とある人物が悠々と歩いてきた。


「なかなか順調のようだな!」

「こんな感じでどう?」

「前の印象よりだいぶ違うな。俺はこっちのほうが好きだ。」

「それは何より。」


 俺はその人物であるエイトと話をする。


「二階はもう終わったのか?」

「今から三階に行くところ。」

「一階の部屋見せてもらったけど、手前の方は普通の部屋で奥の方の部屋は酷かったぞ。

ああいう演出なのか?」

「まあ結構考えて創ったから。」

「人は死んでないからいいけど、まあ使わないところだからいいけど、ちょっと不安な気もするけど、まあそれが魔王城ってもんだよな。

で、この階も同じようなコンセプトの部屋が勢揃いなのか。」

「今見てみる?」

「いや、後で見るよ。トモキには仕事に集中してほしいからな。」

「そうか。じゃあ三階も創ってきていいか?」

「あ、ちょっと待った。」


 俺が三階に行くために階段へと行こうとすると、肩を掴まれ引き止められた。


「三階から上は、俺の要望の部屋を作ってくれないか。」

「別にいいけども。」


 そして、三階を作るにあたっての要望を全て聞いた。

正直全部は覚えていないけど、ガイアなら覚えているだろう。


《言っておくけど僕は記録媒体じゃないからね?》


 覚えてるんだろ?


《………覚えてるけど。》


 ほら。

 さて、ガイアが覚えてくれていることだし、次に取り掛かるとするか。


《僕が自我持ちのスキルだってことに感謝してよ?まったく。》


 というわけでガイアに感謝しつつも、三階の制作開始。

 ガイアが記憶したエイトからの要望を満たすために、考えながら創っていく。

 まずは三階の闘技場っぽい部屋。ここにて侵入者を撃退するようなので、結構広めの空間を城の中で創った。

 万が一崩壊しても、一時間ほどで自己修復する機能付き。

床には、二階層との間に絶対に壊れない様に創ったコンクリの板を敷いておいた。

 ガイアの権能にて不可壊にしているので、どんな攻撃でも、原初之権能(プリミティブスキル)の攻撃でも防げる物質を創り出せるのだ。

 たとえそれが豆腐でも、設定さえ変えれば不可壊になるのである。

今更だけどなんて権能だ。

 まあそんなチート具合にはもう慣れきってるので、それについて触れることは無かった。

 この闘技部屋に関してのエイトのもう一つの要望が、小さな玉座を部屋の奥に設置してほしいとのことだった。

なんでも、演出用に必要なんだそう。どんな演出なのかは分からない。

 というわけで普通の椅子より少し大きめの玉座を設計。形や装飾などは完全に俺のイメージだ。少し不格好になったかもしれないけど、この部屋に照明はないので気にならないだろう。

なんで照明がないのかというと、これも雰囲気づくりのためだ。と、いう要望もあったというだけのこと。

 なんというか、実用性というよりは演出にこだわった部屋となった。

 まあ普段使うことなんてないんだし、それこそ侵入者と戦うためだけの部屋なんだから。

 確かに魔王としては演出は大事なのかもしれない。


 三階の他の部屋は、倉庫とか生活感のない部屋とかにしてくれという要望もあり、とりあえず倉庫から手を付けている。

 まず戸棚を、そして樽や木箱、花瓶とか何やらのガラクタをひたすら置いていく作業。

 埃やクモの巣は時間が立つにつれて溜まってくと思う。

 そしてここから俺の遊び心だ。床に無造作に置いた木箱を、びっくり箱のような仕掛けにする。

飛び出してくるものはお楽しみだ。

 人形かもしれないし、爆弾かもしれないし、生首かもしれないし、血液スプラッシュかもしれないし。

 誰かが開けたらさぞびっくりすることだろう。


《雰囲気づくりの倉庫とはいえ、そこまで遊び心を付け加える必要あった?》


 ある。雰囲気でもグロさは大事。


《そ、そうなんだ……》


 そんな調子で次々と仕掛けを施していく。

 おもちゃのゴキブリを大量に詰めた木箱や、切り取られた耳の偽物が詰め込まれている木箱、血液が溜まっている花瓶、スライムが潜んでいる樽。

 倉庫の中はこんなものだろうか。


《まさか外にも……?》


 いやいや、さすがにそんなことはないよ。迷惑をかけるのは部屋の中だけだ。


《よかったんだか……よくないんだか……》


 微妙そうだな。

 まあ気にしないよ?俺はそんなこと。

 で、次の要望なんだっけ。


《ええと、なんだっけ。ああそうだそうだ、普通の部屋だけど、まるで生活感のないテンプレみたいな部屋って。》


 テンプレ、ねぇ……

 要するに、ショールームみたいな感じにしろってことだろ?意外と難しくないか?それって。

まあ人が住まないから生活感なんて出さなくていいってことなんだろうけど。

あるいは、ただ不気味にするだけ?


《そうだなぁ……とりあえず家具を置いて、きっちりと揃えてみたら?

不満なら幾らでも変えられるし。》


 まあひとまずはそうしようか。

 試しに一つ創ってみる。

 ベッドと本棚、机、椅子、絨毯やカーテンなどの小物類。

 ベッドはクッションとシーツをしっかり敷いて、使用の痕跡はない。

本棚は辞書やら俺が知ってる地球の小説やらを詰めておいたが、もちろんそれらにも読んだ形跡はない。

机や椅子なども、きっちりかっちりと揃えられて置いてあるので、使用感はない。

小物類も同様だ。

 何だか、実際に作ってみると結構不気味だった。

 誰かいるようで、誰もいない。気配は微妙にあるのに、当然いるはずもない。

気配がどうのこうのって言ってたけど、これは勿論ガイアの権能―――ではなかった。

 は!?気配!?なんで!?

 いや、そんな設定をした覚えはない。なのになぜか気配がする。何故……?


『イイヘヤダ、アリガトウ』


 突然そんな声がした。

 おいガイア、なんかしたか?今の声は?


《ん?僕?いや、何もやってないけど。

声って?》


 なるほどガイアはやってない。となると―――幽霊!?


『オキャクヨ、ヘヤヲモットツクッテクレ』


 部屋を作れ?まあいいけど……


 幽霊らしき声に促され、俺はその部屋を元に幾つも部屋を作り始めた。

 調節して客室のような感じにして、四階に作る。

 なんで三階に作らないかって?まあ三階はあの倉庫をコピーしてたくさん置いちゃったから、部屋を作るスペースがないんだよ。

それに、エイトからは四階もこの条件で作ってくれとも言われてるので、四階にこの部屋を増やしてもいいと思ったからだ。

 そうしてコピー&ペーストを繰り返し、生活感のないとても不気味な客室階層が完成した。

 これでどうだろうか。


『ヨキカナヨキカナ』

『イイナイイナコレイイナ』

『アリガト』

『カンシャ』

『ヤサシイニイチャンアリガトウ』

『ヤッター』

『キレイナヘヤダ』

『シアワセダナァ』


 増えた!?何人もの声が聞こえてくる。頭の中ではなく、普通に音としてだ。空気の振動としてだ。

 かすれたような、サワサワという声。何人もの、十何人もの、何十人もの人が喋っている。

 内容的にはとても喜んでいるようだ。

 そんな幽霊の声の中に、肉声が一つあった。


「トモキ!何この幽霊の数は!?」


 廊下に立っていた人物。除霊をしていたはずのソフォスだ。


『アノオンナダ!』

『ミナニゲロ!』

『ケサレル!ジョウカサレル!』


 ソフォスが来た瞬間に、幽霊たちの声が一斉に遠ざかっていった。


「ああ、向こうに行ってしまった……」

「やっぱりこれって幽霊なのか?」

「あ、驚いていないところを見ると、声が聞こえていたのかい?」

「うん。」

「あの幽霊たちは、この城に張り付いていた悪霊たちとはまた違う幽霊たちさ。

恐らくこの城の使用人をやっていたんだろうね。

見た目はあまりグロテスクではないが、何らかの要因で死んだみたいだ。」

「つまり、悪霊ではないと?」

「そんな感じかな。それでここに集まっていた原因は……部屋を与えたのか。」

「除霊的に駄目だったとか?」

「いや、別にそんなことはないけど、できれば成仏させてあげたいなと。

まあ気にせずに続けてくれ。私はちょっと他の悪霊を退治してくるから。」


 そんなふうに俺と会話した後、ソフォスは杖を持って廊下を走っていった。

 風のように現れ、風のように去る女、ソフォス。

 そして先ほどの幽霊たちはどうやら悪い霊ではなかったようだ。

そんな幽霊たちも、自分の部屋が欲しかったんだろう。

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