第二十一話 リフォーム開始
あの後、他にも惨劇の跡を見学させてもらった。
俺がエイトから託された役目は、この惨劇の跡を跡形もなく消してリセットすることだ。
死者にとってそれはいいことなのか悪いことなのかは分からないが、魔王が打ち倒されたことで成仏していることを祈る。
たとえ成仏していなくとも、ソフォスかガイアが何とかしてくれるだろう。
他力本願。あんな生々しい光景を見た後でも、俺の本質は揺るがない。
俺とエイトは最初の部屋へと戻ってきた。
その部屋では、相変わらずガイアとソフォスは楽しそうに団らんをしていた。
二人の隣には、うず高く積まれた本が。
そして二人は本を読みながら楽しげに話をしている。
俺とエイトが見学に行く前から何やら楽しそうに話をしていたが、何をそんな話すことがあるのか……
あいにくだが、女子のことは男子である俺には分からない。
学校では女子は話の話題が絶えていなさそうな印象だったが、この二人もそうなのだろうか。
「ガイア、ソフォス、行くぞ」
「え?どこに?」
「なにしに?」
「お前ら話聞いてたか?」
何すっとぼけた顔してんだ。
「ああ、もう帰るのかい?」
「違うわ!今からこの城をリフォームするんだよ。」
「え!?なにそれ!急に決められても困るんだけど!」
「ちょっと前に話してたろ!」
どうやらこの二人は話をまったく聞いていなかったか、完全に脳みそからその記憶が消去されているようだ。
「とにかくそういうことだから、ガイア、仕事だぞ。」
「え〜。やだ~。働きたくな〜い。」
「もはやどっちが怠け者なのか分からないよ俺は。」
ダンジョンにいた頃は俺が怠けててガイアがしっかりしていたのに、今となっては立場逆転してしまってる。
「じゃあ私は除霊をすればいいのかな?」
「よくわかったな。」
「さっきから霊がそこら辺で団らんしてるからね。」
「まじかよ!」
「見てみるに、トモキが見てきたのは串刺しの現場とギロチン辺りだろうか。
胴体を貫通してる穴が空いた人もいるし、首がない人もいるからね。」
「大当たりだよ。」
「よし、トモキとガイアが創っている間に――まあ今から除霊してくるさ。
安心して建て替え頑張ってよ。」
「ありがとうな。」
何でもお見通しのようだったソフォスは、俺と喋り終わると椅子から立ち上がり、部屋から出ていった。
今考えてみれば、ソフォスの権能【知恵之神】で分かることだったのかもしれないな。
「さてガイア、行くぞ。」
「今本読んでるから、後でね。」
「ソフォスはもう行ったぞ?」
「え、本当!?どこに!?」
「知らんけど。」
「はぁ……わかったよ、まずはどこから?」
「やっとかよ―――まあ、まずは一階かな。」
「りょーかい。」
仕方なさそうに立ち上がるガイア。
仕方なくはないんだが……
そんなこともありつつも、俺たちは一階に移動した。
ちなみにエイトは他の仕事があったようで、どこかに行ってしまった。
なので入り組んだ廊下で迷ってしまったのだが、まあなんとか一階まで降りることに成功。
そしてここからリフォームに入る。
ガイアは俺の構想を現実とするために一度スキルの形態に戻った。
光の玉となって浮遊し、俺の胸に吸い込まれていく。
そして聞こえてきた、ガイアの声。
《この形態で喋るのも、なかなか久しぶりだよね。
一ヶ月ぶりくらいかな》
そうだな。ソフォスに会った時だから、だいたいそれくらいだと思う。
《で、まずはどこからやるの?》
まずは、この複雑な造りの部屋と廊下をぶっ壊す。
このままじゃあ不便で不便で仕方がないからな。
《それはいいんだけど、二階の支えはどうするの?
壁を全部取り払っちゃったら、柱だけじゃ重さに耐えられないけど。》
確かに壁も支えになっているから取り払うと危険なんだけど、いちいち壊してから置き直すっていう単純作業も嫌だし、そこら辺はガイアの権能でなんとかできないか?
《ちょっと待ってよ……?
えーとこれをこうして、あ、これだったらいけるかな。
だめだ。じゃあここを置き換えて……
よし、出来たよ、新しい権能。》
そんな気軽に作れるものなのか?しかも数秒って。
《いや、気軽ではないよ?結構演算処理とか面倒くさいし、複雑だし。
何より自分を改造しているみたいなものなんだから、数倍疲れるけどね。
トモキ君の要望に応えられるスキル、【撤廃置換】。
一度壊して、イメージしていたものを一瞬で構築するスキル。どうかな。》
いいと思う。要するに、その範囲を丸ごと置き換えるみたいな認識でいいのか?
《うん。それで大丈夫だよ。
あと、これを使うためには先に頭の中に図面を起こさないといけないから要注意ね。》
なるほど。じゃあどんなふうにするか、話し合うとするか。
《ちなみに地下室が一つあるから、そこに上手く出入り口を作れるようにね。》
その地下室って作り替えれたりするか?
《いや、何かのからくりみたいな仕掛けが張り巡らされているから、変えられるのは壁の素材だけになると思うけど。》
それでも御の字だ。じゃあ一階創った後に地下室もやろうか。
《そうだね、僕もそれに賛成だよ。
で、一階はどうするんだい?》
一階はできるだけ複雑ではない造りにしたいと思ってる。それと、中庭も無くしたい。
廊下は一周する感じで、その廊下に沿って部屋が設置されているイメージ。
《廊下の装飾とかは?》
そうだな、床はあのV字のやつで、壁は温かみのある木で頼む。
《V字のやつ……ああ、ヘリンボーンだね。おっけー、間取りはこっちで調整しておく方向性で大丈夫だよね。》
それで頼む。
《じゃあ少し待ってね、ちょっと複雑な作業になると思うから。あと、巻き込まれないように一度外に出ておいたほうがいいと思う。》
ガイアにそう忠告され、俺は早足で後ろにあった玄関から外に出る。
窓と、開いたドアから見えた景色は実に爽快なものだった。
壁が、というより天井に、間取りのように壁の上の一部が設置・置換されていく。
そして壁が上からブロックのように消えていくのと同時に、天井に張り付いた壁の一部からブロックで壁がどんどんと構成されていく。
それは柱に関しても同様なことが起こっていた。
そして床。薄灰色の正方形のタイルは、ガコンと少し浮かんだ後瞬きのうちにV字の木の板へと変化。
それが手前の床で一斉に起こり、まるで津波のように奥へとボコボコボコと浮き上がっていった。
その波が治まったところは、先ほどまであった薄灰色のタイルではなく綺麗なV字の木の板が隙間なく並べられている床になっていた。
そして絨毯。先ほどの現象中でも敷きっぱなしだった絨毯だが、先頭から波打つようにふわっと浮いたかと思いきや、そこからみるみるうちにピカピカになっていく。
赤黒かった絨毯は、まるで別物に変わったかのように鮮やかな赤に変色していく。
いや、実際変わっていたのかもしれない。絨毯に施された柄が、元の絨毯と違っていたからだ。
絨毯の他にも、ガイアによって趣味よく装飾されていったものは多数ある。
廊下にあるランプや、ドア、花瓶等だ。
窓も薄暗かったものが綺麗な窓に張り替えられ、カーテンも絨毯と同じような赤のカーテンに付け替えられた。
《どうかな、こんな感じ。》
最高だよ!正直こんなに綺麗に変わるとは思ってなかったし。イメージより数倍ほど綺麗になっていたこの廊下を見て、大歓喜の他ない。
エイトが見たら喜ぶだろうな。
《じゃあ次は部屋を作り込んでいくのかな?》
と、そこで新しくなった一階の廊下にとある人物が降りてきた。
「ここにおられましたか。
主様からの言伝です。一階と二階は人の生死に関係していなければ自由にやっていいとのことでしたので、こうしてお伝えしに来ました。」
その人物とは、涙を流した表情の仮面を被っている女性だった。ガイアとソフォスがお茶を飲んでいるときに配膳をしていた人だろう。
その人から、恐らくエイトからであろう言伝を伝えられた。
その女性はそれだけ言い終わると、若干辺りを見渡しながら再度階段を上っていって、俺の視界から姿を消した。
自由にやっていいと。エイトからの言伝で伝わるのはそこだろうか。
《せっかくきれいにしてくれるんだから、遊びゴコロは許してあげようってことなんじゃないかな。》
そっか。そういうことか。
じゃあお言葉に甘えて、自由にさせてもらうとしようか。
《何だか嫌な予感しかしないんだけど……》
―――数時間後―――
よし、これで完成でいいかな。
《やっぱり僕の予感は的中しちゃったみたいだね……》
悪い予感っていうやつか?まあ……ちょっと今回は調子に乗りすぎたかもしれない。
後でエイトに怒られないといいんだけど。
《ほんとだよ。いくらなんでもギリギリのラインじゃない?
いくら人が死んでないからって、あれは悪趣味だと思う。下手したらここを造ったっていう前の魔王よりもね。》
そんなに言う必要ないだろう?
《いや、これくらい言わないとだめ。》
そんなにか?
まあとりあえず紹介するか。
《紹介しなくていい!》
それでは一つ目をご紹介。まずは血まみれ人形部屋だ。
ぬいぐるみの首に縄をかけ、天井から幾つも吊るした部屋。
壁や床、天井やぬいぐるみに赤の塗料をかけて血痕を表しました。
何だか頭の何処かで『僕の話ガン無視!?』という声が聞こえた気もするけど、気の所為だよな。うん。それでは、続いてだ。
二つ目は注目部屋。壁一面に絵画を飾る。ただそれだけの部屋なのだが、その絵画は全部が誰かの肖像画。そしてその肖像画の目線は全て入り口を向いている。
部屋に入った瞬間に大量の人の視線にさらされることとなるのだ。恐怖間違いなし。
三つ目は漆黒の虚空部屋。地球でも何処かで売っているような、完全に光を吸収して真っ黒に見せるインク、あれを部屋中にばら撒いた。ちなみにその部屋の中に地下室への入り口があるのだが、そのインクに埋もれて全く気づけないようなことになってしまった。
紹介四つ目。恐怖の仮面の部屋だ。これは、ここの幹部が全員仮面を被っていることから閃いた。
あちこちに古今東西の仮面を張り付け、目や口を釘で刺していく。もちろん穴なので壁に釘を打っているだけなのだが、下地に赤いインクをぶちまけてあるのでかなり怖い。
そしてこの部屋の恐ろしさの極めつけが、部屋中央にある椅子。
この椅子にはとある仕掛けを施すつもりだ。
ちなみにこの作業をするのに丸一日かかってしまったので、地下室からの作業はまた明日やろうと思う。
この話で百二十五エピソード目です。
百番台ももうすでに四分の一に到達しました。
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