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第二十話 改築計画

 「この城を、改築してほしいんだ。」


 という頼みごとを魔王からされた。

 その理由は痛いほど分かる。原因はこの魔王城だ。

 禍々しくていかにも魔王城という見た目だが、あまりに入り組んだ廊下と幾つもの尖塔、不気味な庭などのおかげですこぶる暮らしにくそうであるから。

 そう思ったこともあり、俺は快くこの依頼を引き受けることに決めたのだった。

 まあ実際に作業するのはガイアだけど。






 「それで、どんな感じにリフォームすればいいんだ?」

「それなんだが……多分一度見てきたほうがいいと思うんだ。

正直前の魔王が悪趣味すぎて困ってるんだよ……

もうここに住み始めてかれこれ四百年になるんだが、いかんせん処分しにくくて……」


 四百年も処分できていないものなんてどんな悪趣味なのだろう……

そんな疑問も浮かんできつつ、俺は席から立ち上がったエイトの横をついていくことにした。

 ちなみにガイアとソフォスは、話の途中で部屋に入ってきた仮面を被った女性が配膳した紅茶とお菓子類を味わいながら、話に花を咲かせている。

 二人を置いて部屋を出て、俺とエイトは相変わらずな暗黒チックの廊下を歩いていく。

 こうしてよく眺めていると、黒い木と金色の装飾で造られた壁と柱、そして薄灰色のツルツルのタイルでできた床に、廊下をまっすぐに彩る真紅の絨毯。

 ここからでも悪趣味だって実感できるよね。

 たださっきのエイトの言いようによると、どうやらエイトの前のやつの仕業のようだ。

 前の魔王って言っていたっけ。魔王って世代交代とか襲名とかあるのか?

あるのかな。そう仮定したらエイトが困っている理由もわかりそうだし。

 そんな考察をしながらも、俺達二人は悪趣味の塊と言ってもいいような廊下を歩いていく。

 そしてその途中で、エイトが足を止めた。


「まあ例えばなんだが……この部屋とか」


 そう言って、重厚な木と掛金の扉を開ける。

 その部屋の中にあったのは―――

ギロチンだった。

 その四文字を聞けば誰もが形を想像できる、あの南蛮の打ち首の処刑器具だ。

 解釈の違いがあっては話が通らないので一応だが説明しておいた。

 そのギロチン。斬られた首が落ちるであろう場所には赤黒い麦わらの小さな籠が置いてある。

 その籠がなぜ赤黒いのか。読者の皆なら当然のようにわかるだろう。

 俺も、ギロチンと同時に付近の床や壁に飛び散った“それ”の惨状を見て、部屋の中を見た一瞬でそこで何があったのか理解した。


「おいまじかよ……」

「エグいだろ……?こんなのが城を引き継いだ時にあったんだが……

こんな有様だからなかなか処分しにくくて」


 なるほど。現状。そしてエイトがそんなにも処分しにくいと言う理由が目の前に広がっているというのだろう。

 現にそうだ。目の前に血まみれのギロチンがあるんだから。

 滴下血痕、流下血痕、飛沫血痕。流石に籠の中には首―――というか、人の頭蓋骨らしきものは無さそうだ。


「これだけじゃないんだよ……次行ってみるか。」


 そしてエイトはその部屋の扉をゆっくりと閉め、廊下の別の方向へと進む。

 目的地に着くと、明らかにそこで“何か”があったであろう景色が広がっていた。

 否、エイトが次に紹介したかったであろう場所は、恐らくだけど今俺が目にしている場所ではない。

 俺が目にしたのはドア。ひび割れて、それでも原型を保っている木の重厚なドア。

 エイトはやや乱暴にそのドアノブに手をかける。


「ああ、このひび割れ?大丈夫。魔法か何かで固定されてるようだから、崩れる心配はな―――」


 そう言いながらドアノブを引いた。

 そして、今の言葉は何だったのかという感じに一瞬でドアは木片と化した。

 残ったのは、錆びた鉄で形作られているドアの装飾と、エイトが握っているドアノブ及びその周辺の木片だけだ。


「おっと。まあいいか。どうせ作り変えるんだし。」


 まあここで崩れようが崩れまいが、結果はどのみち取り壊しだったのだから、この際手間が省けたと考えるほうが前向きでいいのかもしれない。

 そしてドアだったものをまたぎながら、俺たちはその部屋に足を踏み入れた。

 その部屋は、先ほどのギロチンより刺激は低いのかもしれない。

 が、惨状であることには変わりなかった。

 部屋一面に広がった、クモの巣状の亀裂。ひび割れ。

壁、天井、床。とにかく一面に、瓦礫が散らばっていた。


「なんでこの部屋こんなにひび割れてるんだ?

かなり広いし。」


 そう。ただの一室ではなく、まるで広間のように広い空間だった。


「ジャディス―――前の魔王の日記によるとだが、ここで働かせていた奴隷たちが反抗したときに牢屋に閉じ込めてたみたいなんだ。

で、その囚人奴隷がある程度たまったときには、全員をここにつれてきて、殺し合いと称した格闘をさせていたようでね。

まあこの世界じゃ、地球よりもデスゲームなんて簡単なんだろうな。

部屋に結界はって、その中に対象者たちを閉じ込めて、数個の武器を渡せば人間心理が働いて勝手に殺し合ってくれるんだから。

生き残ったものは奴隷生活から解放してやるなんて言えば効果てきめんだろうし。」

「なんでそんなに考察できるんだよ。」

「日記読んだから。」

「そう」


 デスゲーム。地球でそういう系の作品は今でも人気だ。

賞金を賭けたデスゲームや、生存を賭けた人狼ゲーム、脱出を賭けた殺し合いゲーム。

 ああいう作品はフィクションだからいいんだけど、こうしてその現場を見てしまうと、たとえ四百年五百年前の話でもその現場を目の当たりにしてしまうと、人間どうしても萎縮してしまうものなのだ。

 よほどのサイコパスじゃないと怯えないだろう。

 いや、サイコパスじゃなくても、血痕の残っていないこのヒビだらけの部屋なんて見ても恐怖に戦慄はしないだろう。

 俺は裏話を知ってしまった。本当に、これがフィクションであってよかったと心の底から思う。

 というと俺という存在がフィクションのようにも聞こえてしまうのでそこは訂正したいが、少なくともこんな世界はフィクション以外の何物でもないだろう。

 相変わらずメタ的なことをいうけども。きっとアニメだったら過去の殺し合いの回想シーンなどが挿入されているんだろうなぁと思う。


 「この部屋あまり長くいると頭痛くなってくるからな。トモキは体調大丈夫か?」

「まあ今のところは。」

「症状が出てくる前に他のところも見に行くか。」


 部屋を出て、廊下を歩いていく。

 次はどうやら下の階のようで、階段を降りていった。

 その部屋、いやこれは部屋とは言えない。

 天井がない。ぶち抜かれているとかではない。中庭なのだ。

 そりゃ中庭なら部屋ではない。と思うじゃん?

俺はこの光景を目の当たりにした時一瞬また拷問部屋かと錯覚した。

 中庭。中央に枯れた噴水があって、その周りには枯れた木が立ち並んでいる。

 その芝生も枯れ、一面茶色――枯れ草色というのだろうか。その色が部屋の床に見えたのだ。

 そしてひときわ目を引く建造物が、中庭にいくつもあった。

 枯れ木に似たそれは、かつてどんな役割を果たしていたのかが見ただけで分かる。

 中庭に無数に建てられていたそれは、尖った鉄棒だった。五階から一階を覗いているようなもので、それでも見えるのだから恐らくかなりの太さの。

 鉄棒の根元付近にはまるで足場とでもいうように十字に棒が取り付けてあった。


「―――まさか、串刺しなんて言うんじゃないだろうな。」

「よくわかったな、そのとおりだ。」


 当たってしまった。恐ろしくもどこかで確信を持っていた、俺の予想が、半分これじゃないであってほしいという妄想みたいなものが、エイトのさらりとした受け答えによって肯定されてしまった。


「いくらなんでもこれはやりすぎだろ……」


 俺が言いたいのは串刺しの刑自体のグロさではない。問題は、その刑が実行された痕跡がある鉄棒がいくつ地面から生えているか。

 そう。本来鉄とは、銀色か錆の茶色なのだ。赤茶けた色ならまだ許していたかもしれない。

 だが、そこから伸びていた全ての鉄棒が、赤黒く染まっていたのだ。


「この鉄棒で一体何人の人を……?」

「一本一回ずつ。それが、この景色から分かる最低限の被害者の少なさ。

だけどな、それじゃ終わらなかったんだよ。これも日記の情報なんだが、鉄棒に串刺しにしたやつは、しばらく放置して虫と微生物にその血肉を喰らわせた後、残骸を取り外していたそうだ。

つまり何が言いたいか分かるか?」

「鉄棒の使い回しってことか。」

「そういうことだ。」


 何にしてもこの悪趣味―――というか許されざる殺人趣味によって何人の生命が絶たれてきたと思っているんだ。

 許す許さないの話ではない。


「分かる。気持ちは分かる。俺もこれを初めてみたときは、怒りに震えたよ。それでもこの残虐非道な行いをしたやつは俺が殺したんだ。死者の魂が成仏していることを祈るばかりだよ。」

よければ、ブクマや評価お願いします!

この章に入ってから何だかブクマや評価が増えたような気もするのですが、それほどこういう展開が人気なのでしょうか?

筆者はそういうのはわからないですが、これからも楽しみながら読んでいただけると幸いです!

筆者としても、皆さんに楽しみながら読んでもらえる内容を、面白い内容を書けるように頑張ります!

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