第十九話 魔王城
なんかその場のノリで魔王城に行くことになった。
字面からしたらもうイカれてるやつにしか見えないけど、前話を見ているなら分かると思う。
軽くおさらいしておくと、食べ歩きしてたら伏見エイトと出会って、でそこから―――え?必要ない?
わかったよ。
話を現在に戻そう。魔王城に招かれた。
現在俺たちは街から離れ、東の方向へと進んでいってとある街に着いた。
かなり広そうな街で、視覚的に何か変な感じがする。
というのも、白黒の街なのだ。石や木で造られた家々が立ち並んでいるのだが、どうにもモノクロに見える。
そして更に異変があった。
エイトが街に足を踏み入れた瞬間。家々のドアが一斉に開き、“それら”は出てきた。
ゴブリン、コボルト、オーガ、オーク。
体躯が小さいゴブリンやコボルトはちょこちょこと。大きなオーガやオークは、若干しゃがみながら壁に当たらないように玄関から出てきた。
そして、何の意思疎通もなしに道の両脇に整列。中央に大きな道ができた。
「「「エイト様!お帰りなさいませ!!!」」」
「おお、みんなありがとう。というかこんなことしなくとも……」
エイトはこんな出迎えは初めてだったかのように戸惑いながらも、若干嬉しそうに中央を歩き始める。
そんなエイトに俺たちはついていく。
何人か(何体か?)が不思議そうにこちらの方向を見ていたが、気にはしなかった。
そのまま進んでいくと、目の前に魔王城が見えてくる。
よくアニメとかマンガとかで見る、禍々しい感じのいかにもな城。
あちらこちらに尖塔が立ち並び、欧風というのだろうか、そんな装飾が城本体にも通路にも尖塔にも余すことなく施されている。
黒や灰色を基調とした、見た目重視の城のようだった。
いかにも住みにくそうな、そんな城。きっと魔王としての威厳を見せつけるためにこんな城にしたのだろうけど、にしてもじゃないか。
そんなことを心のなかで思いつつも、俺たちはずんずんと歩いていき、やがて城の目の前まで来た。
針金で造ったような、細い金属パーツが折り曲げられて土台に付けられた、お化け屋敷のような雰囲気の大きな門の前には二人の衛兵(恐らく人外)が立っていたが、エイトの姿を見るなり一礼して門を開けた。
その門の奥からは、一人の男が走ってくる。
「魔王様、ご命令をいただければ使いの者を出しましたのに。」
「いや、たまには一人で散策したかったんだよ。
なにせ俺が設計した街だし。」
「そう言われましても、護衛も何もつけずに行かれるのはこちらとしても困ります。」
「お忍びだよ、お忍び。
わかったよ。これからはお前に一言かけてから出るとしよう。」
「まあ、魔王様がそれでよろしいのであれば結構なのですが……」
「俺がそこら辺の生半可な奴らに負けると思うか?」
「そんなことは微塵も。」
「だろ?安心しろって。」
エイトとその男はしばらく会話を交わした。
その男。見覚えがあった。厳密に言うとその男自体に既視感を覚えた訳では無いが、その男が被っている“仮面”に見覚えがあった。
そう。以前ダンジョンを襲撃した男、ミカエルと同じような仮面を被っているのだ。
ミカエルの仮面は何だか下劣そうな表情――欲にまみれた顔、自分の欲求のために何か企んでいる悪い顔といったほうが多少はわかりやすくなるだろうか――の仮面を被っていたのだが、この男は嬉々とした表情。喜びを模しているのだろうか。そんな表情の仮面だった。
服装や立ち振舞などもあの男とは違うので、同一人物ではないだろう。
その男は道の脇に移動。俺たちを仮面の嬉しそうな表情で出迎えてくれる。
本心はどう思っているのかは仮面に隠れて分からないが。
その後も俺たちはとりあえずエイトについていく。一瞬で迷ってしまいそうな廊下も、埃や何かの染みがついた絨毯が広げられている廊下も、怪しげな部屋に繋がる扉がたくさんある廊下も。
廊下しかないって?仕方ないだろう、廊下しか歩いてないのだから。
強いて言えば階段もだろうか。まあそれでも廊下と何ら変わりない。
廊下廊下廊下。入り組んだ廊下を、エイトはまるで何回目かのゲームのようにスラスラと進んでいく。
俺たちははぐれないようにエイトの後ろをついていく。まるでアヒルの雛のように。
やがて着いたのは、とある部屋だった。構造的に最上階の、大きな部屋。
その扉をエイトが開けると、中には奥に玉座が一つ、そしてその手前に玉座と入り口を繋ぐようにして設置されている長机。
長机の横には何脚もの高級感あふれる細工が施された椅子が、等間隔で乱れもなく綺麗に並べられていた。
「適当に座ってくれ。」
エイトにそう言われ、俺たち三人は初めての魔王城に尻込みしながらもぱっと目についた席に座る。
エイトは一番奥の席に座り、長机の端からまっすぐにこちらを見れる状態だ。
こういう長机って表現が少し難しいのだけれど……入り口の正面。長机の長方形の天板の短い面の方に座ったと言えば分かりやすいかな。
「初対面にも関わらず、ここまで来てくれたことにまず感謝しようと思う。
で早速本題なんだけど、失礼は承知で質問させてもらう。まず君たちのことを聞きたい。」
「俺たちの?」
「そう。俺と同じ故郷ということは、お前も何かしらの権能は持っているんだろう。
俺は異世界人、特に日本人を保護したいと考えていてね。そのために協力してほしい。
まず、三人の名前と所持しているスキル、職業の三つを教えてほしい。」
どこか怪しい感じもするけど、別に答えてもいいだろう。
「俺は常磐知樹。職業は剣士で、スキルは【聖剣之神】と【創造之神】。」
「神之権能持ちなのか。
で、そっちの金髪の娘は?」
「僕はガイア。トモキ君のスキルだよ。」
「スキル……ああ、【創造之神】が具現化したのがそれなのか。」
「じゃあ次は私かな?私はソフォス。職業は賢者。スキルは【山紫水明】と【知恵之神】さ。」
俺たち三人の話を聞き終えたエイトは一つ深呼吸をして言った。
「全員が神之権能所持者―――まあ一人は厳密に言うと違うけど、かなり強いメ、ン、バー……
あれ?ちょっと待てよ、【聖剣之神】と【知恵之神】って言ったか?」
「うん。そうだけど。」
「おい!ミカエル!ちょっと入ってこい!」
エイトが突然、入り口に向かって大声でそう叫ぶ。
誰かに呼びかけているような声に釣られて部屋に入ってきたのは―――
「あっ!お前―――!!」
「あんた、もしや……」
「え、そうなの!?」
そう。皆さんご存知ミカエルである。
前回の戦いで負った怪我、主にやけど等はすっかり完治しているようだった。
「ミカエル!お前この前はよくもやってくれたなぁ!」
「そうだよね!あいつだよね!」
「おい二人とも、ちょっと落ち着け。ミカエル、お前がボロ負けしたのってこの人たちで合ってるか?」
失礼。少し興奮してしまったようだ。
興奮した俺とガイアをなだめながら、エイトはミカエルにそう聞いた。
ミカエルは答えづらそうな反応を見せるも、しぶしぶ受け答えをする。
「………はい、そうです。」
「三人とも、うちのミカエルが本当にごめんな。
あいつああいうやつだから、許してやってくれ。
何か被害が出たようならば弁償くらいはできる。」
「いや、別に被害はなかったし、倒したから別に怒っては……ないが?」
「なんだよその間は。それにさっきあれほど興奮しておいて、本当に怒ってないのか?」
「嘘。」
「即答にもほどがあるだろ。」
いつもツッコミ役だった俺がボケ役に回るという超貴重体験。ボケ役も楽しい。
そんなことはどうでもいいとして。本題はなんなんだよ。
「本題?ああ、特に考えてなかった。」
「どういうこと?」
「いやただ単に聞きたかっただけだから。
強いて言うならば、トモキに…というかガイアにも、一つ仕事を頼みたい。」
若干だが先ほどよりも重みと緊張感のある言葉だった。
「その仕事とは?」
「この城を、改築してほしいんだ。」
まさかのミカエル、この章で二度目の登場。
一章で出番終了かと思いきや、ちゃんと出番はありましたね。