第十八話 遭遇
旅行三日目(馬車の時間も含めて)。今日はソフォスが立ててくれた計画を元に食べ歩きをしようと思う。
ここイグモニア連邦国及びその中央都市エイトは、なんと言っても珍しい食べ物がたくさんあることで有名だ。
今日は、俺たち全員が興味を持っているその珍しい食べ物とやらを食べに行こうというわけだ。
と、いうわけでやってきましたこちら。
何故か和風建築のお店。
パッと見てはぁ!?と思うくらいの、本当に本格的な和風建築。
このお店は敷居をまたいで門をくぐり、飛び石が示す道を進んでいってその先に入り口があった。
もうこれ料亭か何かだろ。
入り口で靴を脱いで、廊下を歩いていく。
途中で店員らしき人に出会い、隣の部屋へと案内された。
座卓。座布団。まじかよ。
元――というか今も日本人である俺にとって、大興奮間違いなしの店だ。
ただ、ソフォスはこのスタイルが不思議なようで、戸惑いながらも興味深そうに見つめていた。
俺たちは案内されるがままに座布団に座ると、店員が一度店の奥へと戻っていった。
そしてしばらく待つと、何かの紙を持ってきて、俺たちの机の上に置く。
「こちら、メニューになります。
お決まりになりましたらお呼びください。」
と言って、忙しそうにまた戻っていった。
店内を見渡してみると、意外と客は多いようで席は大半が埋まっていた。
店内をぐるりと一周見渡した後、俺は現在二人が嬉々として見ているメニューの紙に目をやる。
そこには何種類もの料理の名前と、飲み物、サイドメニュー、デザートの名前が、値段付きで並べられている。名前こそ違ったが、イメージから俺が知っている料理もありそうだった。
『味噌鍋麺』や『焼きサーモンセット』、それに『家族丼』。
恐らく元ネタは『味噌煮込みうどん』、『焼き鮭定食』、『親子丼』だと思われる。
ここまで来たら間違いないだろう。日本人ならバカでも分かるはずだ。
どう考えても日本人が一枚噛んでいる。いや、近頃の世の中だったら、和食に詳しい外国人かもしれないけど。
それでも地球の知識だ。
いや、ありがたい。いくら物質創造の権能 (ガイア)があったって、自分がよく知っているもの、もしくは作れるものしか創れないので、ここでこんな料理が食べられるなんて感謝以外の何物でもない。
「聞いたことない料理名だね……」
「これってもしかして、トモキ君の国の食べ物じゃない?日本食……和食っていうんだっけ。」
「そうなのかい?」
「そうだな。まさかこんなところでお目にかかれるとは。もう二度と食べられないと思ってたから。」
「頼んでくれたら僕が創ってあげたのに。」
「お前、料理のバリエーションは?」
「チャーハンのみ。」
「じゃあ駄目じゃねえか。」
そんないつもの茶番はさておき。
各々食べたいものは決まったので、店員を呼んで注文を。
「店員さーん!」
「少々お待ち下さい!」
そして慌てて来た店員。
「ご注文をお伺いします。」
「僕はこの『肉ジャブ』っていうやつを。」
「私は『生魚丼』で。」
「じゃあ俺は親子――じゃなかった、『家族丼』でお願いします。」
「はい、ご注文繰り返します。
『肉ジャブ』がお一つ、『生魚丼』がお一つ、『家族丼』がお一つでよろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします。」
「かしこまりました。もう少々、お待ち下さい。」
注文を取り終わった店員は、メモした木の板を店の奥へと持っていく。
まあ二人が注文した料理の元ネタはなんとなく分かる。
『しゃぶしゃぶ』と『海鮮丼』ってところだろう。
俺たちは、料理が来るまで雑談をしながら待つ。
雑談は、主に今日どこを巡るかということだった。
今日の目的は食べ歩きだったので、ソフォスがまとめた飲食店を、「ここがいいんじゃない」「いや、そこも美味しそうだけど」とどこを巡るか決めていく。
まあ結局決まらなかったのだが。
そしてなんだかんだでまず最初に来た料理。それは―――どんぶりに盛られた、黄色の半熟プルプル卵と鶏肉、そして黄色が映えるようにトッピングされたネギ。
もうわかるだろう。俺の頼んだ親子丼だ。
「こちら、家族丼でございます。」
そして俺の前にそのどんぶりが置かれる。いや、正確に言うとどんぶりではない。丼とレンゲと、付け合わせの漬物入り小鉢が載ったプレートだ。
そのプレートも、外側が漆黒で内側が深紅という漆の様な質感と色合い。オシャレ。
二人には悪いが、俺が先に食べ始めるとしよう。
「わぁ!トモキの美味しそう!」
「よし、覚えた。これで作れるようになったよ!
また食べたくなったらいつでも頼んでよ!」
などと美味しそうに見つめてくるソフォスと、見ただけで完コピできるという飲食店殺しのチートぶりを発揮するガイア。
まあガイアは気にしないことにする。
「いただきまーす!」
レンゲを手に取り、親子丼をひとすくい。
タレが染みたご飯と、卵と、鶏肉がレンゲに載った状態でそのまま口に運ぶ。
パクッ。
「うーん!うま!」
口に入った瞬間に広がる、仄かな甘みとジューシーさ。
卵は白身と黄身が混ざりきっておらず、そこがまたいい食感を出している。鶏肉は硬くない。ご飯はもちもち。
最高。それ以外にあるだろうか。俺のお母さんが作った親子丼より美味しい。
この親子丼をゆっくりと味わっている間に、ソフォスとガイアの料理が運ばれてきた。
ソフォスの前に置かれたのは、俺の予想通り海鮮丼。赤、オレンジ、白等、新鮮そうな何種類もの魚の刺身と、小ぶりのエビ。そしてネギトロ。刻み海苔とワサビ、そして頂上でツヤツヤと輝く卵黄。
やばい、美味しそう。また今度来る機会があったらそれ頼んでみようかな。
一方ガイアの方は―――俺の予想は外れて肉じゃがが出てきた。
肉じゃが定食。家庭の味第二位、肉じゃが。ちなみに一位はカレーである。
あ、どうでもいい?
“ジャブ”だからしゃぶしゃぶかなぁと思ったんだが……
ガイアは美味しそうに肉じゃがを見て、すぐに箸を持ってジャガイモを口に入れる。
そしてよほど美味しいのかジタバタ。
ソフォスの方は、見たこともない料理に驚きつつも食べ方を考えながら箸を入れた。
そして刺身を一口。「ん!?」と目を見開いてその美味しさに驚愕したようだ。
「んー!美味しい!!」
「魚を生で食べたのは初めてだけど……え、美味しすぎない!?」
などと大歓喜。
その後は夢中になったように黙々と食べ続け、あっという間に完食して満腹になった。
大満足。二人も至福の表情だ。
そして会計を済ませ、店の外に出る。
満腹になったので食べ歩き続行不可能―――かと思いきや、まだ選択肢はあるということにそこの女子二人が気がついた。
そう。スイーツ。スイーツは別腹的なノリで、スイーツの店を見つけたのだ。
クレープ店だった。さっきから和食店といいクレープ店といい、無駄に地球の文化取り入れ過ぎじゃないという印象。
それでも文句はないので、三人でクレープを買って食べた。
俺のはホイップイチゴ。ガイアは季節のホイップフルーツ。ソフォスはチョコバナナ。
それぞれクレープを買い、ベンチに座ってもぐもぐと食べている時だった。
「あれ?君たち……」
大通りの雑踏の中、そんな声がふと耳に入ってきた。
誰かの話し声だろうと気に留めることはなかったが、続いて発された言葉に俺が反応したのだった。
「―――君たち……というかそこの黒髪の人、もしかして日本人か?」
声のする方を見てみると、そこには奇妙な――いやこの世界では当然なのかもしれないが――男性が立っていた。
白色に黄色が混ざったような髪色で、レモン色の澄んだ瞳。身長はやや高め。髪と目の色からかもしれないが、爽やかなイメージが強い。
「俺がどうかしたんですか?」
「その髪と目、日本人か?」
「そうですけど。」
「やっぱりか!
あ、いや、急にすまない。俺は伏見影人。東の魔王だ。」
「ふしみ…えいと?それに東の魔王って……ええ!?」
こんな見た目で日本人!?しかも魔王だって!?
さっきの和食屋の比ではない驚き。
「まあ、そんな反応するよな。仕方ないだろ、死んで目覚めたらこんな姿だったんだから。
今風に言ったら転生。今から三…四百年前くらいかな。この世界に来たんだ。
今は東の魔王なんてやってるが、正直荷が重くて……
日本人に会えてよかった。この街に来る異世界人ってだいたい外国の人が多いから。」
「そうなんすか。」
「敬語は使わなくて大丈夫だぞ?せっかく同郷なんだし、いっそ魔王城に招待してもいいくらいだ。
来る?もちろんそこの二人も一緒に。」
「どうする?ガイア、ソフォス。」
俺は二人に聞く。二人は俄然せずの態度だったが、俺にそう質問されて若干だが戸惑っていた。
「え、なんだって?」
「魔王城。来てみるかって。」
「行く行く!興味あるよね、ソフォスちゃん!」
「魔王城かぁ……一生目にできないものだとも思ってたけど、いや持つべきは友だね!」
話聞いてなかった割にはノリノリ。
そんな流れなのだが、俺たちは興味本位で魔王の案内により魔王城に行くことになった。
伏見君、再登場です。
まだ二回しか出てきていませんが、作者的には結構お気に入りのキャラです。