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第十七話 観光

 夜十一時頃。俺たちはイグモニア連邦国の中央都市エイトに到着。

宿をとってそこで寝ることにした。

 宿は、普通。普通としか形容し難い。

 ベッドが三つと、机と椅子、最低限の照明のみ。

 もう眠たすぎて早く寝たかったので、特に何も考えずに一番安い一泊の部屋をとったのだ。

 それでも家具が粗末なわけじゃなく、別に普通の家具じゃないかと思うくらい。

 長旅で疲れていたのか、部屋に入るなりベッドに倒れ込み、俺たちはすぐに眠ってしまった。








 そして翌朝。


「トモキー?そろそろ起きないと昼になるよー?」


 体を揺さぶられて起こされた。

 もちろん起こしたのはソフォス。


「今何時……?」

「八時。」


 昨日は十一時とはいえ、九時間も寝てしまっていたらしい。

旅先でそれは流石に寝過ぎだ。


「おーい、ガイアー?起きないと置いてくよー。」

「ん……後三年……」

「分かった。置いていこう。」

「やだ……起きる……起きるから……」


 もはやガイアさえも尻に敷くソフォス。

 早起きというのは恐ろしいな。

 そんなことを思いつつ、俺は寝起きの気だるい身体でのそのそと起き上がる。

 そしてベッドから立ち上がり、洗面台へ。

 顔を洗って眠気をリセットし、シャキッとしてから準備を始める。


「今日はどこ行くんだ?」

「勇者の剣と呼ばれる名所と、生命の泉に行こうと思っているんだよ。」

「勇者の剣?生命の泉?」


 そんなのRPGゲームでしか聞いたことないよ。

 え、じゃあこの世界にも勇者とかいるんだろうか。魔王がいるくらいだし。


「面白そうだな。行ってみようか。」


 そう言いながらカバンの準備。荷物確認を済ませてから着替え洗面所の前で着替えをする。

女子二人に見られないように。

 着替え終わって、何気なくガイアの方を見ると、まだソフォスに揺さぶられていた。

 やっと起き上がって眠たそうにベッドから立ち上がる。

 そしてソフォスが手を引っ張って洗面所に連れていき、ついでにガイアの着替えも持っていってドアを閉める。

 やがて、眠そうながらもバッチリ準備が整ったガイアと、仕事終わった感出しているソフォスが洗面所から出てきた。


「なんかソフォスってお母さんみたいだよな。」

「そうかい?」


 絶対そうだよ。朝起こしてくるし、準備はいいし、朝ごはん作ってるし。

 イメージだけど、俺のお母さんはだいたいそんな感じだった。

 あー、戻りたいなぁ……戻れないけど……


「ん……まだ眠いけど……出発だよね……」

「そうだな。えーとまずは勇者の剣だっけ。」

「もう場所は調べてあるから、後は移動だけさ。」


 なんて手際の良さだと思いながら、準備も終わったので俺たち三人は宿を出る。

 もちろん荷物は全て持ち、チェックアウトして。

 今日からはもっと良さそうな宿に泊まるつもりだ。

 頑張ってクエストを受け続けて、貯金はそれなりにある。この旅行で多少ハチャメチャしても大丈夫だろう。

 荷物が邪魔にならないか?大丈夫。カバンが四次元だから。

 それでも大きなものは入らないだろって?ガイアが持っているカバンはリュックサックなので俺よりも大きなものは入る。

 なんならソフォスのカバンはキャリーケースみたいな感じのカバンなので、大きなものは大抵入るのだ。

 なので、荷物がどれだけあろうとも俺たちが持てばいいのはカバンだけ。なんて便利なのだろうと改めて思う。

 そして四次元カバンを持ちながら、俺たちは宿を出て大通りに辿り着いた。

 流石は中央都市と呼ばれるだけあって、人も多いし馬車も多い。

 飲食店のような店も、服店やお土産店や雑貨店等もたくさんある。

 一本の大きな道の両側に店が建ち並んでいると言ったら想像がつくだろうか。

 そんな感じの大通り。果たしてどこに勇者の剣があるというのか。


「えーと……こっちだよ、二人とも」


 ソフォスが左の方向を指差す。

 とりあえずそっちの方向に進んでいくと、大きな門があった。まるでフランスの凱旋門のような。(いや、にしてはそっくりすぎるような……)

といっても、その奥はどうやら街の外ではないらしい。

 その門を区切りにするようにその奥には緑が豊かな街が広がっていた。

 ソフォスが案内している方向だとあの門の奥ということになるので、大きな門だなぁと思いながらくぐっていく。

 緑を基調とした街。至る所――いや、門から出てすぐに芝生が広がる広場が両脇にあった。

 その広場では子供連れの家族やご老人たちが楽しそうに朝のひとときを過ごしていた。

 と、その広場を見渡していた俺の目に飛び込んできたものがあった。それは―――


「………まさかあれじゃないだろうな」

「………そのまさかじゃない?」

「そのまさかだね。

あれがお目当ての勇者の剣さ。」


 広場のちょっと小高くなっている場所の頂上に、大きな岩が置いてあった。

 そして、その岩に突き刺さっているきらびやかな剣。

 周りには観光客と思われる人たちが集まって人だかりを形成している。

どうやら抜こうと挑戦しているようだ。

 袖をまくったたくましい男たちが我先にと挑戦していく。

岩の上に乗り、柄を握って思いっきり引っ張る。だがその剣はびくともしない。


「……行ってみる?」

「……行ってみるかぁ。」


 俺とガイアが興味を持って観光客の人だかりに飛び込む。

 なんとか入っていくと、まだ人が挑戦している最中だった。だが、どうやらその人も抜けなかった模様。

 そんな光景を見ていると、岩の横にいた係員らしき人が俺に話しかけてくる。

 ちなみにその係員は人混みに隠れて全く見えなかったのだ。気づかないのも無理はない。


「やってみますか?」

「僕やりたい!」

「じゃあガイアが無理だったら。」

「ふふーん、神の力を舐めないでよ〜。

ふんっ!あれ?えいっ!はぁっ!」


 自信満々に腕まくりしながら岩の上に登っていって、柄を握って思いっきり引っ張るも、何度挑戦してもその剣はびくともしなかった。

 そして周りから笑いが起こる。


「ははは!嬢ちゃん、惜しかったな!」

「神の力は働かなかったようだね」

「また挑戦しな!」


 そしてガイアがいじられながら半泣きで岩から降りてくる。

 次は俺の番だ。岩に登り、剣の柄を握り、思いっきり後ろに体重をかけて引き抜く。

 ―――だが、奇跡は起こらない。

 当然と言ったら当然なんだろうけど、勇者の剣は抜けない。


「兄ちゃんでも無理だったかぁー」

「これ本当に抜けるの?」

「まあきれいな剣だけどね」


 そんな声が観光客から挙がる。

 その質問の答えは、割とすぐ近くから聞こえてきたのだった。


「これは観光用なので本来抜けるようになっていたんですが、一度剣の盗難に遭いましてね……

それからは抜けないようにしてあるんですよ。」

「なるほど。」

「盗難ねー。」

「勇者の剣だからかな。」


 各々納得したように独り言を呟き始める。

 だが俺はその係員の答えに疑問を持った。というか、期待をした。


 “観光用”ということは、本物はどこかにあるということ?


 まあそんなこと知ったところでどうなんだっていう感じだけどね。

 今目の前のレプリカで十分。






 そして続いての観光地。

 “生命(いのち)の泉”。

 これはどうやらもっと先にあるらしく、この緑だらけの街を突っ切って俺たちは進む。

 勇者の剣と生命の泉が目当てなのか、この大通りにも観光客らしき人たちはたくさんいた。

 そして街の緑を眺めながら人混みの中をどんどん進んでいき、辿り着いたのは城壁の手前。

 そこには、いかにもな泉があった。

 地面に埋まっていて、真ん中からは白い大理石でできた噴水のようなものが。

 地面と水の間にはちゃんと大理石で円形に囲まれているようだった。

 要は、半分埋め込まれた噴水だと思ってもらえればそれでいい。

 ちなみに水の色はきれいなピンク。いや、桜色と言ったほうがいいだろうか。

 そばに立ててあった看板に書いてあったのだが、どうやらそのまま飲めるらしい。

 衛生面とかも気になるけれど、そこは魔法でどうにかしているのだろう。ソフォスの鑑定結果も問題なしだった。

 係員からコップをもらい、吹き出す水をコップの中に上手く注いで飲んでみる。

 うん。普通の水―――ではないか。美味しい水だこれ。

 桜色は雰囲気なのだろう。それっぽい味はしない。ただの冷たくて美味しい水だ。


「どうでしょうか。こちらの泉は地下から汲み上げた天然水を使用しておりますので、とても美味しいでしょう。」


 そんな、観光客に説明する係員の声が聞こえてきた。

 なるほど。地下水か。意外にイメージと違って地下水って美味しいらしく、どこかの会社が飲料水として販売していると聞いたことがある。

 そりゃ美味しいわけだ。透き通る味と、爽やかな喉越し。水に喉越しどうこうも大事な要素なのだ。

 硬水?軟水?あいにくだが、俺はその二つの違いが分からないので説明のしようがない。

ただこれだけは言っておこう。美味しい。

 ソフォスとガイアがずっと飲み続けるほどだからな。









 そんな感じで思ったよりもスムーズにお目当ての場所の観光が終わり、後は各自で自由行動―――というわけにもいかなかったのが現状だ。

 いろいろと揉め事があったのだが、その末に三人での行動となり、その後はカフェで昼食を食べたり珍しいお店を巡ってみたりと、その日一日三人での観光を満喫した。

 そして日が暮れ始めると、なんと町中の並木や建物などにライトアップが。

 幻想的な、それでいてきらびやかな光景を目にしつつ、俺たちは宿を探すことに。

 幸いにもすぐに宿は見つかった。昨日よりも質は良く、朝食付き。

 まあ多少の値は張ったがこれも必要経費だ。

 部屋に着いてからは荷物を床に投げ出し、ベッドにダイブ。

 一日中歩きまわっていたので流石に足が悲鳴をあげている。こんなのユニバ以来だ。

 そして女性陣が風呂に入り、俺はその間に明日の準備。

女性陣が風呂からあがってくると、今度は俺も風呂に入って身体の汚れを洗い流す。

 そして三人ともさっぱりし、俺はベッドに潜ってから持ってきた本(ガイアが復元してくれた小説)を読んでから、眠りについた。

生命の泉は、筆者がいつか出しいと考えていたネタです。

なかなか普段のお話だと流れ的に出しにくい感じあるんですけど、この章で出すことができました。

 ……ええと、天然水が好きな筆者のただの裏話です。お気になさらず。


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