第十六話 旅行計画
「イグモニア連邦国に行こう!」
「…………急に何言ってんだ?」
「だーかーら、イグモニア連邦国に行こうって。」
「イグモニア連邦国?どこだよ。」
「すぐそこ。」
「そんなに近いの!?ってかこの国の名前って何だ?」
「トモキ、まさかそんなことも知らないのかい。
この国はプロタ王国。そしてここからほど近いのが、イグモニア連邦国だよ。」
とある日の朝食の席。急にガイアがそんなことを言い出した。
イグモニア連邦国。そんな国知らんが。というか今まで自分がいたこの国の名前も知らなかったが。
「で、そのイグモニア連邦国に行ってなにするんだ?」
「決まってるでしょ。観光だよ!」
「面白そうだ。トモキも行こう。」
「観光地とかあるの?」
「ない。」
「ないんかい!」
「いやあるだろうけど、調べないとわかんない。」
まああるだろうけどね。
というか、こういうときこそソフォスのスキルを使えばいいんじゃないか?
情報の網羅が権能なんだし。
「ソフォスの神之権能が使えないのか?」
「私のかい?分かった。試してみるとしよう。」
そしてむむむむむとソフォスが念じ始める。
「観光地観光地……たくさん都市があるようだけど、この国は魔王の庇護下にあるから中央都市が一番栄えているようだね。
食事の種類も豊富で、何やら大きなお風呂のような施設も見える。
それと……これは剣?あと泉と……模擬戦場のようなものもあるね。
面白そうだ。」
ソフォスが言っていることが一体何を指しているのか、この世界のことを全く知らない俺には何の見当もつかなかった。
だけどもなんだか面白そうなものがたくさんあるということは理解できる。
「じゃあ……行ってみるか?」
「よーし!旅行だ旅行だー!」
「私が情報をまとめておくから、二人は荷物の整理でもしてくるといいさ。」
「ありがとな、ソフォス。」
「お安い御用だよ。」
「ソフォスちゃんは荷物の準備しないの?」
「私は用意がいいんだ。これでも旅人だからね、いつでも旅に出られるように必需品はまとめてある。」
「凄いな。」
そんなわけでソフォスが情報をまとめてくれている間、俺とガイアは旅行の準備を始める。
ガイアが服やら何やらを作ってくれたので割と早く準備は終わった。
ちなみにこのカバンはガイア特製の四次元カバン。肩掛けカバンなのだが、伸縮性が桁違いの生地と四次元ポケットのような役割をする内部構造で、ある程度大きくてもすっぽりと入って全くかさばらないという優れもの。
これだけ聞いたら通販の売り文句みたいだけど、これ本当に凄い。
カバンの重さしかないし、もちろん四次元ポケット同様いくらでも入るのでめちゃくちゃ便利。
ガイアによればこのカバンはガイアの最初の主が考案したものなんだそう。
ガイアの【異次元創造】を上手く使った逸品だ。
この発想はなかなか賢いんではないかと尊敬。
そして俺たちは準備が終わり、三人でダンジョンを出る。
ガイアが事前に用意していた紙をふんだんに使ってソフォスが旅のガイドブックを作成。
イメージで言えばる○ぶみたいなものだ。
学校の修学旅行のようなちゃちい旅のしおりみたいな生半可なものではない。
ちなみにソフォスは紙を受け取った時その上質さに驚いていた。
まあガイアが俺の世界の紙をそのまんまコピーしただけだから、この文明未発達の世界と比べたら最上級になるだろう。
そんな紙で作ったガイドブックが三冊。それぞれの手元に渡る。
「荷物よし、ソフォスちゃんのガイドブックよし、忘れ物なし。
じゃあ、しゅっぱーつ!」
ダンジョンの外に出て、まずはイグモニア連邦国とは反対方向のアクロに向かう。
何故かって?答えは簡単。移動手段がないから。
乗り物作ればいいじゃんって?そんな簡単に言うなよ。そんな文明の利器があったら、どう考えたって問題ごとに発展するだろ?
テレポートすればいいじゃんって?お前座標の計算できるのか?
一度行った場所じゃあるまいし、行ったこともないところの座標なんて分かるわけ無いだろ。
まあそんなわけで、イグモニア連邦国の中央都市まで直通の馬車便があるのでそれを利用しようということだ。
ガイアによれば三日くらいで着くらしい。
三日。当然、途中は野営。キッツ。
現代っ子なめんなよ?野営なんて論外だぞ?
まあそんなことを喚いていたわけですよ。アクロの馬車乗り場で。
俺は馬車なんてそんなものかと諦めかけた。でも、救いの手が差し伸べられたのだ。いや、流石に言い過ぎか。
誇張しすぎた部分も多々あるが、なんと馬車には幾つかのプランが。
通常プラン、ツアープラン、お急ぎプラン、高速プラン。
日本の感覚に直してみました。
その中で俺が目をつけたのはお急ぎプラン。なんとこれは早朝に出発すれば深夜に街に着くというプランで、かつ安全性と快適性も確保されているらしい。
当然値は少々張るが、出せない額ではなかった。
だが残念。現在は早朝ではないので、今日の便はもうないそうだ。
ちなみに高速プランというのは、半日ほどで着くというプラン。だが安全性と快適性は確保されていない。諸刃の剣。
まあおまけと言っては何だがツアープランについても教えておこう。これは景色などを楽しみながら旅をするという、通常の二倍の遅さで運行するプランだ。
論外にもほどがあるだろう。
個人的にも高速プランが良かったので、二人には今日は我慢してもらおう。
俺たちは今日はひとまず帰って、また明日の早朝に出直すことにした。
ガイアは不満がっていたが、対してソフォスは
「まあ私も野宿はしたくはないから。
この場合は明日で直してきたほうがいいと思うが。」
と言っていた。
二人の意見に押され、ガイアが妥協。
「わかったよ。でも、明日の朝早くだからね。
叩き起こすからね。」
そんなことも言っていたが、俺とソフォスは気にせずテレポートで三人一緒にダンジョンの家に帰ってきたのだった。
―――翌朝―――
「トモキ、起きないと間に合わないぞ。」
そんな声と体を揺さぶられた衝撃で目が覚めた。
目の前には普段着のソフォスが。俺に馬乗りになっている。
何してんのこいつ。
「…………」
「ほら、今日は馬車に乗らないと。」
「馬車……ああ!そうだった!」
寝起きの動きにくい身体に鞭打って起き上がり、前日にベッドの横に置いていたカバンを取って立ち上がる。
「あれ、ガイアは?」
「今起こしに行くところ。」
まじかよ……
あいつ昨日「叩き起こす」とか言ってたくせに寝坊か?
いや、俺が言える立場じゃないんだけど。
とにかく、この場合はソフォスに感謝だ。
「私はガイアを起こしに行くから、トモキは先外に出といて。」
「分かった。」
一度トイレに行ってから軽く顔を洗い、外着に着替えて家を出る。
リビングのテーブルの上に多数おにぎりが用意してあった。おそらく、ソフォスが用意したものだろう。
心のなかでソフォスに感謝しながらおにぎりを全て四次元空間に放り込み、ワープポータルに乗ってダンジョンの外へとテレポート。
そこで数分待っていると、慌ててテレポートで出てきたガイアと、落ち着いた様子のソフォスが合流。
「トモキ、私が作っておいたおにぎりカバンの中に入れた?」
「うん。にしてもお前早起きだな。おにぎりまで作る余裕あるなんて。」
「まあ、旅人の癖というか……ついつい早く目が覚めてしまうんだ。」
「何時に起きた?」
「三時。」
「早えよ!」
そんな茶番をする余裕もあったのだが、まだ眠そうなガイアを連れてアクロにテレポート。
そして走って東門の馬車乗り場まで移動する。
お急ぎプラン―――いや、多分早朝便に改名したほうがいいと思う―――はもうすでに最終便だった。
俺たちはそれの切符を買い、馬車の用意が終わるのを待つ。
そして御者の「お乗りくださ〜い」という言葉と共に、俺たちは馬車に乗り込んだ。
「いや、なんとか間に合ったね。」
「ほんとに、誰?寝坊したの。」
「お前だよ。」
「え?誰、その尾前田―――」
「同じボケを使うなよ。」
「ケチ。」
そんな会話をしながら馬車は出発。
それからは―――まあ旅の道のりは割愛させてもらおう。
特に何かあったわけじゃないし、いつもどおりの会話とゲームをしただけだ。
強いて言えば将棋が白熱したことくらいだろうか。
あ、俺がいい勝負だったわけじゃないというのは先に断言させてもらおう。
いい勝負だったのはガイアとソフォスだ。お互いに膠着状態に陥るほどの。
まあオチとしてはその後馬車の揺れで駒が全部吹っ飛んで勝負は引き分けになったんだけど。
ガイアは御者のおじさんに向かって怒鳴ろうとしていたが、俺がガイアの口を塞いで阻止した。
御者のおじさんは悪くない。
そして都合上割愛された後のお話。
たまにおにぎりを食べながら一日中馬車に乗り続け、辿り着いたのは中央都市エイト。
名前の由来?そんなの知るか。
そのエイトに着いてからは宿をとり、もう夜遅かったので寝てから、三人での観光が始まるのだった。
今思ったけど四次元ポケットって便利ですよね。
ドラ○もんの道具の中で一番実用性高そう。
筆者も欲しいなぁ。
おっと失礼、関係なかったですね。