第十四話 招かれざる来客
ダンジョン―――俺の家に突然襲撃してきた、オーガやゴブリンの大群。
俺の仕掛けたトラップで二階層で食い止め、進ませなかった。
ダンジョンの外にいた、大群のリーダー、今回の襲撃の首謀者であろう人物。
一発、殴り込みにいってきます。
◀ ◇ ▶
俺とガイアは、必要な情報を回収して五十六階に戻ってきた。
「ガイア、あの男見たか?」
「あの羽が生えた人でしょ。見たよ。」
「どう考えてもあいつだよな。」
「うん。そうだよね。」
どうやらガイアもその存在は認知していたようだ。
さらにあいつが首謀者であるという推測もガイアの意見と一致。
「倒さないといけないよな。」
「倒すんだったら、遠慮なく力を貸すよ。」
「ソフォスも呼んで行くか。」
そして俺は客室の方へと向かい、客室の前に着いてドアノブに手をかける。
そのまま押し込んでドアを開き、部屋の中に向かってソフォスを呼んだ。
「おーい、ソフォ―――」
「ん?」
呼ぼうとした。
だが、ソフォスはまだ機械の前でポーションを作っていたようで、入り口の直ぐ側の戸棚の前にいた。
その両手には怪しげな液体が入ったビンが握られている。
「―――お前、まだやってたのか?」
「まだとは失礼だね、私にとってポーションづくりというのは至高の時間なんだ。邪魔しないでほしいのだけれど。」
「今ダンジョンの入り口の方を見てきたんだけど、首謀者がいてな。そいつを倒さなきゃいけないんだ。」
「私のポーションの効果で見えたやつか。」
「そう。ソフォスも一緒に来てくれ。」
「ポーションを紹介させてくれたらね。
もしくは私のポーションたちを上手く使うか。」
「―――ポーション使ってやるから、早く来てくれ。」
「喜んで。」
半ば強引にソフォスを連れ出し、玄関前で集合する。
装備確認。
まず俺は剣。
そしてガイアは剣。
ソフォスは魔法の杖と、大量のポーション。
わざわざ確認する必要はなかったかもしれない。
「それじゃあ、行くぞ。」
「うん。」「ああ。」
俺たちはガイアの権能によって迷宮の外へとテレポート。
そこは、ダンジョンの入り口がある岩肌の上、崖の上だった。
ここならば全容を把握できるし、オーガたちの攻撃も当たらない。
「おや、ここの住民ですかね。」
そんな声がした。ガイアでもソフォスでもない、男の声。
気がついたら、もうすぐ近くに男が浮遊していた。
背中に漆黒の翼を生やした、男が。
見てみると何かの仮面をかぶっている。
「ごきげんよう、御三方。我は東の魔王軍幹部、“煩悩の仮面”のミカエル。
早速でなんですが、このダンジョンを明け渡していただきたいのです。
こちらとしても武力行使はしたくないですからね。」
「却下。」
「お早いご返事、ありがとうございます。
ご理解いただけないのであれば―――殺すしかないですかね。」
ミカエルと名乗った男は、両手を天に掲げた。
その手の間にはいくつもの火の玉が生成されていく。
「爆撃魔法、【炎華之霧雨】」
その瞬間。ミカエルの手に乗せられていたいくつもの火の玉はだんだんと上空に昇っていき、やがて爆散。
辺りには火の粉が大量に飛び散ってくる。
でも、俺たちは無事だった。何故かって?意外にもソフォスのお陰だ。
ミカエルが火の玉を生成しているうちに俺とガイアに何かのポーションを押し付けてきた。
「飲んで」と。
こんなところで変なポーションなんて渡すわけないと俺はソフォスを信じ、ポーションを一気に飲んだのだ。
すると、耐火の効果がついたのか火の粉の雨を浴びても何も感じなかった。
綺麗だなぁくらい。
まるでゲームのような効果の現れ方だ。いや、この世界はほぼゲームみたいなものだったな。
火の粉の雨を浴びても何もならない俺たちを目の当たりにしたミカエルは、戸惑い焦った。
「何故動じない?これほど高温の火の粉を浴びたら普通は耐えられないはず……
ええい、次の手です!【炎熱火球】!」
「【知恵之神】。」
ヤバそうな名前の魔法と共に巨大な火球を作り始めたミカエルに対して、ソフォスは至って冷静に彼女の神之権能を発動させた。
情報の網羅だったはずだが、果たしてこの魔法に対して有効打を打てるのか。
「うん、このポーションとこのポーションか。」
ソフォスはカバンの中から二つのポーションを取り出し、その二つをミカエルに向かって投げた。
二つのポーションはどんどんと肥大化していく火球に触れた。
その瞬間。
ビンは急激な熱変動に耐えられずパリンと割れ、中の液体が炎とともに混じり合う。
そして起こった現象。
「二人とも伏せて!」
大爆発。
何かの化学反応を利用したのか、はたまたあれが液体火薬だったのかはわからないけれど、液体が触れ合った瞬間にそれは起こった。
強い光。そして猛烈な爆風と熱。あとから来る黒煙と炎。
ミカエルが作り上げてきた火球にも反応したのか、ミカエルも真上で二つの大爆発が起こった。
俺とガイアはとっさにしゃがんで助かったが、当然何の防御もなしに二つの大爆発を食らったミカエルは無事じゃいられない。
天に掲げていた二本の腕は焼けただれ、黒焦げに。
髪の毛もほとんど燃えてしまった。
服も肩部分は燃え尽きている。
「よくもやってくれたなぁ!この我を怒らせるとは!
業火に焼かれて苦しめ!【死を呼ぶ黒炎】ぉぉ!!」
ミカエルがそんな技を叫ぶ。するとミカエルの周囲に十数本の黒い大きな火の玉が生成され、俺たちに向かって移動し始めた。
黒い炎なんて見るからにヤバそうな魔法だ。何度くらいなんだろうか。
いや、命懸けの時にはそんなこと言ってる場合か。
とにかくここはソフォスのポーションで―――
「最適解が見つからないなぁ…」
え、じゃあガイア!
「まずいね、これは溶けてしまう。」
え、じゃあ何もできないってこと!?
どうすればいいんだよ!
「落ち着こうトモキ君、まだ【聖剣之神】なら何とかなるはず。」
「あれ切れるのか?」
「多分無理。」
「無理なんかい。意味ないよ。」
「だとしたら……」
四面楚歌。絶体絶命。起死回生。諸行無常。焼肉定食。
とりあえず思いついた四字熟語を並べてみた。
この状況、焼肉定食。間違えた。絶体絶命。
どうしろっていうんだよ!
「そうだガイア、水生成できないか」
「あれで水かけちゃうと爆発起こるんじゃなかったっけ?」
「水蒸気爆発か?」
「あ、いや、大丈夫!魔法だったら酸素を燃焼しないからそのすいじょうきばくはつってやつは起こらないよ!」
「ならそれだ!今すぐ水をかけるんだ!」
「いや、水をかけて消すのって結局酸素を無くすためだから、多分意味ないと思う……」
「なんだよそれ!」
もう終わりだよ!死ぬ!
『【峻厳之神】。』
突然、そんな声がした。聞いたことある。この声。
その声がした後、目の前まで迫っていた黒い火球は消え去り、ミカエルは絶望していた。
「はぁ……?何故、何故?
こいつらは何もしていないはずなのに!何故消える!
仲間がいるのか!?きっとそうだ!」
『主、ご無事ですか。』
その謎の声の正体がやっと分かった。
目の前に現れたのは、長髪の男。ゲブラーだ。
「ゲブラー!」「ゲブラー君!」
「主が託してくれた迷宮を脅かすのはこやつですか。」
「あ、ああ。」
「ならば」
ゲブラーは激怒しているミカエルの方を静かに向く。
そして、右手の指を鳴らした。
パチン。そんな音とともに、ミカエルの周囲に先程の黒い火の玉が現れた。
「おい!お前!まさか我の火球を!?」
そして、ゲブラーはもう一度指を鳴らす。
再度響いたパチンという音とともに、ミカエルの周囲に現れた無数の火の玉は一斉にミカエルへと発射された。
「ぐあああああああ!あぐっ!ああああああ!」
黒い業火に身を焼かれるミカエル。
だが、火に耐えながらミカエルは右手のひらに何かを生成。
手のひらサイズの小さな魔法陣だ。
ミカエルは力を振り絞って右手を天に掲げ、手のひらの魔法陣を展開した。
その魔法陣は肥大化し、ミカエルの頭上に浮かぶ。
「なにするつもりだ?」
俺たちは次なる攻撃に警戒するが、その魔法陣はミカエルの頭上から身体をすり抜けて足元まで下がっていく。
そして光が放たれ、ミカエルは強くなる光に包まれてその場から消え去った。
「テレポートの魔法だったとはね。まあ倒すより逃がしたほうがよかった気もするから、この場合は良いのかもね。」
「あいつなんて名乗ってたっけ。」
「東の魔王軍幹部。」
「魔王軍か……え、幹部?
あれが?」
「イマイチ幹部っぽくないけどね……」
「というか弱すぎないか?すぐキレるし。」
「まあそれは……僕たちが神之権能持ちだからだよ。そのへんの街からしたら災害レベルだからね。」
「だからか……って、あれ?ゲブラーって神之権能持ってたっけ。」
「【峻厳之神】のことでしょうか。」
「そうそう。それ。」
「ゲブラー君の神之権能は私があげといたよ。どうやら峻厳を司っているみたいだったからね。」
「そうなのか。いや、今回ファインプレーだったよ。ありがとう。」
「ありがたきお言葉です。」
ミカエルがテレポートでその場を去って、後には指揮系統が崩壊したオーガの大軍が残された。
オーガたちは命令をするものがいなくなり、我先にとダンジョンに詰めかけていく。
だが、それでも十階層まで到達しないだろう。
俺が異世界に来て初めてエンカウントしたボスイベント。特に被害もなく終結したのだった。
この章もついに五万文字を突破しました!
いつものシリアスな展開は一ミリもないですが、まあなんとか書き続けてます。
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