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第十二話 招待

 クエスト完了。怒ったソフォスが吸血樹銀狼(ヴァンプ・フェンリル)の群れを殲滅し、俺たちは街に戻ってきた。

 ちなみにその街はアクロというらしい。

 冒険者組合本部にてクエスト達成報告をする。

 俺たちの前には、相変わらず気だるそうな受付のお姉さんがいた。


「んー、どんなご要件でしょう」

「クエスト達成したんですけど」

「何のクエストですか?」

「封印の洞窟周辺のモンスター討伐です。」

「あー、じゃ今確認しますんで、少々お待ちくださーい。」


 さっきまで何かの本を読んでいたお姉さんは雑に本を椅子に置いて受付の奥へと消えていった。

 そしてしばらく経ったあと……


「達成されてるみたいですね。じゃあこの書類に今回報酬を受け取る同伴者全員の名前を書いてください」


 一枚の羊皮紙と羽ペンを渡された。

 とりあえず俺はその場で自分の名前を書いて、ガイアに回す。

 いや、ガイアは別に冒険者じゃないからいいのか。

 じゃあソフォスだな。

 ソフォスに紙を渡すとスラスラと達筆な字で名前を書いた。

その名前は当然この世界の文字なので俺は全く読めなかった。達筆と言ったのもなんとなくだ。

 紙を渡すと、受付のお姉さんは不思議そうな顔をしてガイアをちらりと見たが、すぐに紙に視線を戻した。


「トモキさんとソフォスさんの二名―――ですね。

報酬の精算をするのでお待ちください。」


 そう言ってお姉さんはまた受付の奥へと消えていった。

 二度目の待ち時間。

 またしばらくして、革で作られたトレーを持って戻ってきた。

 そのトレーの上には、金色に光るコインが六枚。

 このクエストの報酬である、金貨六枚だ。


「こちらが報酬でーす。どうぞ。」


 トレーを差し出してくるお姉さん。

 俺はとりあえず上に乗っているコインを取り、三枚をソフォスに渡す。


「ありがとうございましたー」


 お姉さんに気だるそうにそう言われて、俺たちは受付から離れて酒場の席に座る。

 そして初クエスト達成の打ち上げ。


「やったね!トモキ君!ソフォスちゃん!」

「俺というよりほとんどソフォスだけどな。」

「一時は本当に死んだかと思ったさ。だけどガイアのお陰で助かった。もう感謝してもしきれないよ。」

「いやいや、それほどでもないよ。お安い御用!」


 そうして雑談をしているうちに、酒場の店員が注文を取りに来た。


「ご注文どうされますか?」

「そうだなぁ……二人は何にするの?」

「俺はこのなんたら牛のステーキで。」

「群突牛かい?じゃあ私は野菜炒め。」

「あ、僕は大丈夫だよ。」

「群突牛のステーキと、野菜炒め。以上でよろしいですか?」

「それでお願いしまーす。」


 注文を受けた店員は酒場の厨房の方へと戻っていった。

 そしてしばらく待つと、先程の店員がトレーに料理を乗せて戻ってきた。


「おまたせしました、群突牛のステーキと野菜炒めになります。」


 俺の前にステーキが、向かいのソフォスの前に野菜炒めが置かれる。


「わぁー、おいしそう!」

「「いただきます!」」


 ステーキをナイフで切って、フォークで食べる。

いや、わざわざ過程を説明しなくてもいいか。まさかステーキの食べ方が分からないなんて人は居ないだろうし。

 一言でいえばジューシー。

 え?もうちょっと食レポが欲しいって?仕方ないなぁ。

肉を切った瞬間に肉汁が溢れ出してきて、歯応えはあるものの口に入った瞬間にとろっと溶け始めるとても上品なお肉。脂ももちろんあるけど全然くどくないし、火加減も丁度よい。

米が欲しくなるな。この世界に米なんてないだろうけど。

 ステーキ一切れで十分に堪能して飲み込む。飲み込むのも勿体なく思える。さらにこのステーキ、値段が銀貨十五枚。

銀貨一枚は日本円で百円なので、千五百円ほどだ。

 少々お高いけど、この美味しさでこれなら大満足だ。


「それも美味しそうだね。いや、私もそれにすればよかったかな。」

「ところで……むぐ…その野菜炒めって…ムグムグ……どんな味なの?」

「トモキ君、口に含んだまましゃべらないの。」

「うーん、何ていうんだろ。結構胡椒強め。

まあ疲れた後にはいい味付けだよね。」


 だそうだ。見た感じはニンジンとキャベツ、豚肉、もやし、その他野菜が炒めてあるだけに見えるが……


「うん。トモキが想像してる通りただの野菜炒めだよ?」

「何の謎要素もないんかい。」

「フフ。いや~、何もなかったね。野菜はただの野菜だよ。味付けが濃いだけ。」

「どれくらい?」

「一口食べてみる?

はい、あーん。」


 ソフォスがフォークにニンジンとキャベツを刺して俺の顔の前に持ってくる。

 俺は促されるままにそれを食べてみる。


「うわ辛っ!?」

「そう?まだ足りないかな……」


 といいながら机に備え付けられている塩をふって、胡椒をゴリゴリ。

 マジかこいつ。塩分摂取過多で病気になるぞ。

 というかこの野菜炒めの塩辛さって、こいつのせいじゃないか?

 塩辛いし胡椒で辛いし、舌も喉も痛くなる。

 すぐさま水を飲んで、一口ステーキを。

 うん。やっぱりステーキが一番うまいよ。野菜炒めも元の味だったら問題ないんだろうけど。


「あーんなんて僕一度もトモキ君にしたことないんだけど!?」


 そこ?


「ところでソフォス、お前どこに住んでるんだ?」

「え、僕の話全無視!?酷い!」

「私は旅人だからね、定住することはないのさ。」

「ねぇ無視しないで!」

「そういうトモキは家は持ってるのかい?」

「うん。」

「どんな家?普通の?それとも豪邸とか?」

「ダンジョン。」

「…………はあ?」

「ダンジョンを自分で作って、その最下層が俺の家。」

「ガイアのお陰かな?」

「え、僕の話がやっと出てきた?」

「ガイアがほとんど作ったけど、考えたのは俺。」

「へぇ~。凄いじゃん。行ってみたいな。」

「今日連れて行ってあげよう。いいだろ?ガイア。」

「いいけど……ワープポータルの設定変えないと。」

「すぐできるか?」

「僕の力を舐めないでもらいたいね。そんな些事、三日あれば余裕さ。」

「めちゃくちゃかかってんじゃねえか。」

「ウソウソ、冗談。そんなの一秒で終わるよ。」


 その冗談は何なのだろうか。その時たま挟む大して面白くない冗談は何なのだろうか。


「今失礼なことを考えなかった?」

「別に、面白くない冗談を挟むのはなんなんだろうなんて思ってないよ?」

「思ってるじゃん!自白してるじゃん!」


 まあそんな茶番はさておきにしておこう。

 俺たちは談笑しつつも食事を食べ終えた。打ち上げというほどの盛り上がり方じゃなかったかもしれない。なにせ人数三人だから盛り上がらないのも当然だろうけど、楽しく話はできたのでそれでよし。

 食事が終わった後はもう日が暮れてきたので、ガイアの【空間移動】という権能でダンジョン前までひとっ飛び。

 入り口はまだ加工していないのでただの岩肌に空いた洞窟のようにも見えるが、中を覗いてもらえればそこが人工物だとわかるだろう。

正確には人工ではなく神工なんだけど。

 そんなことはどうでもいい?当たり前だ。そんな注釈なんてつけなくてよかった。不要不要。でもこれがユーモアを出すんだから、時々だったら大丈夫。 

 ダンジョンを目の当たりにしたソフォスは驚いていたが、彼女が一番驚いていたのはその後だった。

 ワープポータルにて最下層まで到達。そこには俺の贅沢な暮らしがあった。

 ここでソフォスはその建築様式に驚いたのだ。

 何かと何かを組み合わせた建築様式だと、ガイアが言っていた気がする。

 和とモダンだっけ。それがいい味を出しているのだ。


「何ここ!オシャレ!え、ここがトモキの家!?」

「そうそう。私がトモキ君用に作った家なんだ。」

「私もこういう家に住んでみたいなぁ……」


 といいながら俺の方に視線を向けてくるソフォス。

 その視線の意味。その表情で完全に理解できる。

要するにここに住まわせろってことだろう。


「ガイア、空いてる部屋あるか?」

「客室が一つ空いてるよ。そこの廊下の先。」

「ソフォス、あっちに客室があるからこれからあそこで寝泊まりしていいぞ。」

「え、ほんとに!?やった!」

「トモキ君、美少女二人と同じ屋根の下なんて、ハーレムでも目指すつもりなの?」

「目指さねえよ。そんなことしたら面白くないだろ?

俺TUEEEEEで無双してハーレムなんてさ。」

「確かにそれは共感できる。じゃあトモキ君は現時点でどっちを選ぶ?」

「究極の二択かぁ……うーん、非常に迷うがガイアかな。」

「え、ちなみになんで?」

「どっちかでいったらガイアだった。」

「もっと具体的に!」

「これが精一杯。」


 すぐに茶番が始まってしまう俺とガイアなのだが、その間に外で異変が起きているなんて、その時点では知る由もなかったのだ。

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