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第十一話 クエスト

 パーティにソフォスが加わって、ガイアを含む三人体勢でクエストに出かけることとなった。

 目的地である封印の洞窟の手前にテレポート。

 生い茂る森と、目の前には大きな岩―――否、まるで岩のような岩肌(少しおかしい気もするけど表現的にはこれで合っている)の、山だった。

 山といっても想像できるような山じゃない。富士山どころか、阿蘇山ほどもない。

丘のようでもあるけど、丘のイメージよりも高いのでとりあえず山と表現することになっている。

小山と言ったほうが正しいのか。

 まあその曖昧な定義についてはまた別のところで長々と話すとして、今はクエストに集中するとしようか。

 とにかく簡潔に言うと、洞窟の前の森の中にいる。


「ところで、この洞窟って何が封印されてるんだ?」

「この洞窟はね―――」

「確か何も封印されてないはず。」


 ?

 どういうことだ?

 封印されてないのに封印の洞窟?


「あ、やっぱりそこに引っかかるよね。実はこの洞窟は、七人の偉大な魔法使いが用意した牢獄なんだ。

いつか人類の手に負えなくなるような化け物が現れた時に封印するのが、この洞窟の役目。」

「この洞窟と同じ役割を果たす場所が世界各地に何箇所も有ってね。

私はそこを周るのも趣味にしていたから、この洞窟の座標も事前に調べてあったんだ。

まさか初めてのパーティで始めに来るのがここなんてね。」


 逆シェルターみたいなものか?

 要するに、何か起こった場合に、その元凶を閉じ込めるための牢屋みたいなものなんだろう。


「じゃあ今回の依頼内容は?」

「この洞窟の周辺のモンスター退治だったね。

実はね、私たちには感じ取ることはできないんだけども、この洞窟の結界はある種の波動を放っている。

だから、結界を破壊しようと本能を活性化させた魔物たちが多く集まるのさ。

で、あまり集まりすぎると結界が壊れかねないから、こうして定期的に冒険者たちに対して討伐依頼が出されているってわけさ。

この洞窟を管理している国―――というより、ここの領主からの報酬も出るからおいしい仕事ではある。」


 おいしい仕事ならば、また新たな疑問が生まれてくるだろう。

 どうにもソフォスはその質問を誘導しに来ているとしか思えないんだが、それは果たして気の所為なのか、それともただの承認欲求モンスターなのか、はたまた何か思惑があるのか。


「じゃあなんで誰も受けていなかったんだ?」

「そう。それなんだよ、この依頼の問題は。

さっきある種の波動といっただろう?この波動によって引き寄せられるモンスターがまた厄介なのさ。

ほら、いつの間にか取り囲まれてる。」


 ソフォスは緊張感も警戒心も焦りも慌ても全く感じられないような気軽な口調でそう言い放った。

 あまりにも突然の宣告だったので、能で処理するのに少々手間取ったが、辺りを見回してみると確かに俺たちは囲まれていた。

 木々の隙間からチラチラと覗く、白い毛並みの身体。

自分の腰ほどしかない高さ。だが、その目は獣だ。狩猟者だ。

 あの動物はどこかで見たことあるような気がする。

 ダンジョンに設置した魔物、銀風狼(フェンリル)とはちょっと違う、白い狼だった。

 その狼の集団は木陰から動かない。

どうやらこちらの動向を監視している―――様子を見ているよう。

 これが、波動につられてやってきた魔物。

 ソフォスが言う厄介さは見た目からは読み取れないけど、三百六十度囲まれているので油断はできない。

 が………どうすりゃええん?

 いや、お互いに睨み合っている状況だから、攻撃しようにもできないし何も行動できないし………

極論から言うと、何もできない。

 どうしたらいいんですかガイアさん。

 教えて!ガイア先生!


「トモキ―――だったっけ?あの狼はただのフェンリルじゃない。

攻撃を受けないようにね。」

「噛まれたら終わりだと思ってもいいよ?

だから、とにかくトモキ君は攻撃を受けないこと。

一ミリも油断しちゃ駄目だよ?」


 そんなこと言われるとますますあの狼が気になって気になって仕方なくなるからやめてくれないかな。

勿論俺だって攻撃は食らいたくないよ。噛まれたくないよ。

でもそこまで言われるとさ、ビビるじゃん。

 痛いのも嫌だからとりあえず【聖剣之神(タケミカヅチ)】を起動させておく。

突然攻撃が来た時のために。

 そんな感じで俺たちは周囲の狼たちを警戒し始めると―――突然、とある狼が遠吠えをした。

 ワオーンと。

 何があったのかと俺はその狼の方向を見る。


「トモキ!左!」


 はぁ!?

 左から狼が飛び出してきて、俺の身体スレスレを通過していった。

 俺が避けなかったら―――というより、ソフォスが叫んでくれなかったら絶対噛まれてた。

 危ねえ。


「トモキ!気を付けて!あの一回り大きいやつが大将!あいつの指示をよく聞いて、狼を避けて!

死ぬ気で躱してよ!」


 そんなこと言われても………といいたくなったけど、ソフォスが指した狼がまた遠吠えをする。

 ワオワオーンと。

 すると、四方八方から十数匹の狼たちが俺たちに向かって飛びかかってきた。

 俺は避けることもできずにがむしゃらに剣を振り回す。

 ただ、後になってその判断は正しかったと分かった。

 俺の剣によって、飛びかかってきた狼たちは斬り裂かれた。

 三体ほどの死体が、足元に転がっている。

 ちょっと気持ち悪いから詳細は描写したくないけれど、俺はあえて詳しく描写しようと思う。

 狼三体の死体。それは、何も五体満足というわけではない。

むしろ原型を留めている死体なんて俺の周りにはなかった。

 手足(狼だから足足?)はもげ、血は飛び散り、胴体はほとんど肉片と化して血溜まりの上に散らばっていた。

 首もグロい。そのまま首根っこから切断されている狼が一匹。顔の右半分がない狼が一匹。頭蓋骨と脳と筋肉と眼球と歯と血液と脂肪と皮膚と毛がぐちゃぐちゃに混ざった(と言ってもどの部位か判別できるほどには原型がある)肉と骨の塊。

 どうだ。アニメ化できないだろう。これほどまでに詳細を語られたら。

 まあアニメ化とグロの話はこの際置いておこう。重要なのは、この惨状は誰が引き起こしたか。

 うん。わかってるよ?さっきの状況でお前しかいないやろっていう奴がいるもんね?

 勿論、剣を振り回していた俺だ。

 だけど、いくらガイアの作った剣とはいえここまで切れ味がいいわけがない。

 【聖剣之神(タケミカヅチ)】の効果だろう。ガイアから聞いた中にそんな権能はなかったはずだけど……


「トモキ君!気を付けて!次が来るよ!」


 その言葉の直後、リーダー狼の三度目の遠吠えが響き渡った。

 ワオンワオーンと。

 すると、森の中で俺たちを囲んでいた狼たちが、円を描くように走り始めた。

 さながらメリーゴーラウンド。

 その高速の回転の中から、何匹かの狼が突撃してくる。

 あっという間に目が回っていた俺だが、何とかこちらに向かって飛びかかってくる狼一匹に剣を一振り。

 狼は首から血を噴出した後、頭と体がおさらばして絶命した。

 だが。


「うっ!」


 そんなソフォスのうめき声が。

 見ると、ソフォスの剥き出しの腕に狼が噛み付いていた。

 その鋭い牙は深々と皮膚を突き抜けて食い込み、傷口からは血が流れ出る。


「ソフォス!」

「ソフォスちゃん!大丈夫!?」


 噛み付いていた狼を俺の剣で始末し、ソフォスの腕から引き剥がす。


「うあぁ……しまった……」


 ―――何か、おかしかった。

 いや、その何かがその時点でわかってないといけないはずなのに、俺の目が、脳が、その認識を拒絶した。

 ソフォスの腕についた血が流れ出している痛々しい歯型の下で、皮膚の下で、何かが(うごめ)いている。

 その“何か”が蠢くたび、傷口から血が噴き出る。

 刹那、それは起こった。

 皮膚を突き破り、出てきた“それ”は―――

 木の根。血に塗れた、細い木の根だった。


「まずい、腕を切り落とさないと……」


 ソフォスは痛みを我慢しつつも、服に隠れた腰から短刀を抜いて腕に突き刺す。

 ガイアが止めようとしたが、短刀の刃はもう既にソフォスの腕に深々と刺さっていた。


「うぐっ、ぐあっ……」

「ちょっと待ってソフォスちゃん!その必要はないよ!」

「早く切断しないと……樹が……」

「この樹は私が取り除くから。」

「え……?でもそんなこと……?

ああ、そうだったね。あなたは、原初之権能(プリミティブスキル)。神みたいな………もんなんだもんね」


 そしてソフォスは腕をガイアの眼前に出した。

 噛まれた傷口からは、血と共に木の根がどんどんウネウネと出てきている。

 その傷口に、ガイアが右手をかざした。

 すると、傷口から伸びてきていた木の根はガイアの手のひらから出た淡い光りに包まれ、どんどん塵となって消滅していく。

 その光景は、初めてガイアが神なんだと思えた瞬間だった。

今までからも十分神の力なんだけれど、こんな神秘的なシーンを見せられると神だと思っちゃうよね(人が命の危機に瀕してるっていうのに不謹慎だろこいつ)。

 やがてガイアの治療は終了。もぞもぞと動いていた木の根はすっかりなくなり、噛まれたところと短刀による傷も完治。ソフォス完全復活。

 ちなみにその間俺は、飛びかかってくる狼たちをひたすら斬り捨てるという役割を担っていた。

これも、二人を守るための大切な役割だ。そのおかげで治療の邪魔をされることなく守り抜けた。

 ちなみに守っている時の後半の頃に見つけたのだが、【刹那ノ見切リ】を使ったら何処からどういう軌道で狼が飛び出してくるのか丸わかりだった。


 で、その後はブチギレソフォスによって森ごと狼の群れは葬り去られ、後には首領狼だけが残った。


「さあ、よくもやってくれたね。どう殺してあげようか。」


 一回殺されかけたのでソフォスはたいへんご立腹だ。

 狼はガルガルと威嚇の姿勢を保っているが、とてつもないオーラを放っているお怒りソフォスの強い視線を受けて逃げ出した。

 だが、それを逃すソフォスではない。

 指パッチンして小さな光の玉を発射。森の中に逃げようとした狼を爆破で消し飛ばした。

 賢者ソフォス、恐るべし。

 あの狼の二の舞にならないように、これからソフォスを怒らせないようにしようと心に誓った俺なのであった。


「ところで、一体あの狼は何だったんだ?」

「あれは吸血樹銀狼(ヴァンプ・フェンリル)って言う、銀風狼(フェンリル)の亜種さ。

噛まれたところから種が侵入して、人の体内に入った瞬間に発芽。血液と体液を吸いながら急速に成長していって、やがて寄生主の生気を吸い尽くして殺し、苗床にする植物の種を保有している狼。」

「噛まれたら死を待つか、根が広がる前に患部を切り落とすかしかないっていう危険な動物だから、ちまたでも駆除対象になってるんだよね。」


 なにそれ、めちゃくちゃ怖いじゃん!

 俺も噛まれたらあんなことになってたってこと!?


「近年確認されて、そこから南側を中心に増加している種類だよ。なんでか分からないけど、この封印の洞窟に集まりたがるんだ。なんでかな。」

「まあとにかく、こうしてやっつけたわけだし、みんなで帰ろう!あ、怪我は治療するけど、大丈夫?」


 俺は身体を見てみる。怪我はなかった。勿論、狼に噛まれた場所もなかった。


 その後はソフォスのテレポートで冒険者組合本部前に移動し、クエストの精算を行うことにした。

 吸血樹銀狼(ヴァンプ・フェンリル)の討伐達成の報酬は金貨六枚だそうだ。

 ちなみに金貨は地球換算で一枚一万円のようなので、今回一人二万円ということだ。

 命がけの戦闘にしては安いような………だがまあ、【聖剣之神(タケミカヅチ)】のおかげで苦戦しては居ないんだけどね。


 まあなんやかんやあったが、こうして無事に初クエストを終わらせることが出来たのだった。

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