第十話 パーティメンバー
冒険者登録が完了し、これで俺は冒険者となった。
冒険といえばクエストとパーティ。
というわけで、クエストを受けよう!―――と思ったのだけれど、掲示板をみた限り一人でできそうな仕事は無かった。
いやあるにはあったけど、冒険者になりたての、剣なんて振ったこともない初心者の剣士にできる難易度じゃなかった。
だから、せめて仲間が欲しい。そう思って、パーティメンバーを集めることにしたのだ。
《僕が仲間になってあげてもいいけど。》
戦闘経験は?
《これでも何万年も生きてるんだから、そりゃあたくさんあるとも。》
スキルとしてじゃないぞ?
《じゃあゼロ。》
ほら、やっぱりゼロだった。
《やっぱりって言うな!》
まあこんなガイアは置いといて、現在俺は酒場のテーブルで勧誘のポスターを描いているところだった。
掲示用として受付のお姉さんにもらった羊皮紙と、一緒に貸してもらった羽ペン。
どんな内容にしようか。
えーと、
『パーティメンバー募集中!
強い弱い関係なしです。後衛でも前衛でも大丈夫。
楽しい冒険者生活を送りたいと思っている方大歓迎です。』
こんな感じかな。
一応俺は初心者なわけだし、俺より弱い人なんて居ないからこんな感じにした。
そして何より、仲間同士で仲良くしたいよね。仲の悪くて空気の重いパーティなんて嫌だからね。
書いたポスターを受付のお姉さんに渡し、掲示板に貼ってもらう。
申請者が来るまで待ってないと行けないらしい。
それまで、実体化したガイアとチェスをすることにした。
チェスはやったことあるけど、久しぶりすぎてルールを覚えていなかった。
―――そして、どれだけ白熱していただろう。
自分の黒の兵士たちはほとんど退場させられているにもかかわらず、クイーンだけでキングを守りきっていた。
だが、ガイアのまるでヘビのようなネチネチした攻撃によってクイーンの隙を突かれてしまう。
「ほい、チェックメイト。」
「うあー!」
詰んだ。キングがどう動いても、クイーンがどう動いても、逃げ切ることはできない。負けた。完膚なきまでに負けた。
でも、その悔しさを払拭する出来事が起こることとなったのだから、俺は負けたことなんて気にしなかった。
ガイアがキングにチェックメイトをかけて俺が負けた後、俺たちに話しかけてきた人物がいた。
「掲示板見て来たんだけど、パーティに入れてもらえ―――」
「「――――――」」
「「「あぁ!!」」」
そう。その話しかけてきた人物は、この街に入る直前に転んだ俺を助けてくれた女性だった。
水色―――というよりかは空色の長髪に、灰色の瞳、ダボダボの白いシャツに隠れた青の短パン、スラリとしたスタイルに、あらわとなっている美脚。
美人。クール系の美人。
また会えるかもとは言っていたが、まさかこんなに早い再会だったとは。
「君たちか!いや、なんかどっかで見たことあるなと思ったら!」
「また会いましたね。」
「いやぁ、運命って凄まじいね。
掲示板のやつ見たよ。パーティメンバー探してるんだってね。
実は私もひとりぼっちでさ、よかったらパーティ組んでくれないかな。
―――って、あれ?そっちの子は?」
女性はガイアのことを聞いているようだ。
「ガイアです。俺のスキル。」
「へえー。スキル……
…………え?スキルっていった?」
「はい。スキルの擬人化みたいなものですかね。
おい、ガイア、人見知りしてないでいい加減挨拶しろよ。」
さっきからガイアは自分で生成したタロットカードを眺めている。
「んえ!?ああ、挨拶?
はじめまして。僕はガイア。トモキ君の神之権能だよ。よろしく。」
「よろしく…………って、今神之権能っていった?」
「まあ正確に言えば原初之権能だけどね。」
「原初之権能かぁ…………いや、いつか見てみたいとは思っていたけど、こんなところでお目にかかれるとは。」
「ふふーん。そうでしょ。
ねぇトモキ君、パーティメンバーに入れてあげたらどう?」
「俺は賛成だぞ?」
「じゃあ、決定ということでいいかな?まだ名乗ってないから名乗るね。
私はソフォス。職業は賢者。主に後衛の扱いになると思うから、何卒よろしくね。」
賢者なんて職業があるんだ……
なんてことは今はどうでもよくて、こんなに早くメンバーが決まるとは思ってなかった。
賢者ソフォスが仲間になった!!
ゲーム風に言うとこんな感じ?
こうして、パーティは二人になったのだった。
ソフォスが仲間になったので、三人目を待たずしてクエストに行ってみることになった。
ソフォス、ガイア、俺。
前衛が俺で後衛がソフォスとガイアという感じだ。
賢者がどんな事ができるか分からないけど、聞いてみたら魔法使いのようなものらしい。
ガイアは前衛できるはずなのに、「男でしょ!」と俺に任せて後衛についてしまった。
不満は少々あるが、選んだクエストは討伐。
『封印の洞窟周辺に湧くモンスターを退治してください。
難易度★★★』
と書いてあった。難易度は星五が最大のようなので、これは中間くらいの難易度ということになる。
封印の洞窟に関してはどうやらソフォスが座標を知っているようだったので、テレポートの魔法でそこまで行くことに。
いや、サクサクすぎる。あまりにも早く進みすぎてる気がする。
そもそも俺は剣しかない状態で戦えと?
そう思ったが、俺の心を読んだのか分からないけどガイアが頼もしい提案をしてくれた。
「トモキ君、その剣だけじゃ心もとないでしょ。
だから私の力で権能を作ってあげようか。」
権能を作れるのかとも思ったけど、自分の権能を増やせるんだからそれくらい出来て当然だ。
勿論、答えはイエス。
「お言葉に甘えて。」
「じゃあ―――剣士にちょうどいい権能ね。」
そして、ガイアが俺に手のひらを向けたその時。
『―――あ、神之権能、【聖剣之神】を獲得しました!』
と、女性の声が頭に響いてきたのだ。
「どう?神之権能、【聖剣之神】。世界の声が聞こえてきたかな?」
「女の人の声か?」
「そうそう。」
「聞こえたぞ?」
「やった。大成功。じゃあ権能を教えるから、それ使って上手く戦ってね。」
ガイアから説明を受けた権能。
【刹那ノ見切リ】…………相手の予備動作を感知し、攻撃の予測ができる。
【一ツノ太刀】…………一日一回しか使えない技。相手を必ず倒せる。(なお、“倒せる”の定義は時と場合によって異なる。)
【戦乱ノ終ワリ】…………相手の戦意を喪失させる。
(これは格下の相手にのみ有効。)
【研鑽ノ成果】…………体力、身体能力が大幅に向上する。
主にこの四つ。
心配だったこの状況ではありがたいことだが、後ろでソフォスが呆然としていた。
「え?今神之権能を創ったの?」
「いや、ディボス様が管理してる神之権能をトモキ君にあげただけ。
ソフォスちゃんもいる?」
「いる!」
そして、ソフォスもガイアにスキルをもらう。
「どうかな。声は聞こえた?」
「【知恵之神】…………どんな能力なんだい?」
「情報の網羅だね。自分が認識できる範囲の情報、それの関連情報、隠蔽されている情報や隠滅された情報も丸わかり。
相手の強さとか、作戦とか、ほとんどわかるよ。」
「人の心を読むとか?」
「いや、それはまた違う権能になるからこのスキルじゃ使えないよ。」
「へぇ~。便利なスキルをもらったものだ。
それじゃあ二人とも、このスキルで出発しようか。」
いつの間にかソフォスが仕切っていたが、特に違和感はなく別に文句も無かったので、何かいうこともなく俺たちはクエストに出発した。