第十話 ルミアの真実
今年は暑いですね。
皆さん、熱中症にお気をつけて。
〜前回のあらすじ〜
メイド三人組の仕事を手伝いました。
◀ ◇ ▶
俺が屋敷の庭に着くと、そこには軽装に着替えたルミアがいた。メイド服から、あの時の戦闘で使っていた男物の服に。流石に胸元に余裕はもたせているようだ。
「来ましたか。ソラ様。
スキルの練習のことですが、敷地内に訓練場があります。
今回はそこで、ソラ様の訓練を行おうと思っているのですが、どうでしょう。」
屋敷の敷地内にそんなところがあるんだ。流石は領主邸。
「そこにしよう。
ところで、ルミアはどうして俺の訓練に付き合おうと思ったの?」
今回の件で一番気になったところだ。
ルミアは過去の事で他人に対する不信感のようなものを持っていると聞いた。
今回、たった一日仕事をしただけの俺についてくるということが謎。
心を開くには早すぎると思うのだが……
「そ、それは……
ソラ様が、何か私と共通点があるような気がしたからです。
詳しくは後でお話しますが、ソラ様、ユニークスキル持ってますよね。」
ルミアはなぜ俺がユニークスキル持ちだとわかるのだろう。
ルミアがわかるなら俺にもわかるんじゃないか?
「ま、まあとにかく、訓練場に行きましょう。
ユニークスキルについては現地でお話します。」
◀ ◇ ▶
屋敷の正面の庭から少し歩いて、それらしき建物にたどり着いた。
見た目は普通の一軒家のようだ。
「ここが訓練場です。
ここには色々な道具が置いてあるので、様々な訓練が可能なんです。」
中に入ってみると、まるで武道館のような雰囲気があった。
壁には剣や斧、槍等が掛けてある。
「それでは、これから訓練を始めましょう。
まず最初にスキルについて話しましょうか。」
ルミアはそう言うと、近くにあった長椅子に座る。
俺もとりあえず彼女の隣に座った。
「私のユニークスキルは、【武芸百般】です。
自分の想像した武器を創り、戦うことができます。
でも、私のユニークスキルは、呪いであり、救いでもありまして。
身勝手ですが、ソラさんに、私の過去をお話したくてこの練習に付き合うことにしました。
私と同様にユニークスキルを持つあなたになら。」
そう言ってルミアは、自分の過去の事について話し始めた。
◀ ◇ ▶
私は、ユニークスキルを持ってこの世に生まれてきました。
他の人から見れば、ユニークスキルなど喉から手が出るほど欲しいものです。実際、この世の中ではユニークスキルを持つものが強く、優遇されます。
しかし、私の故郷では違いました。
私の故郷、及び私の両親が信仰していた宗教では、
『スキルを使ってはならない。ユニークスキルなどもってのほか。』
という教義がありました。意味がわかりませんよね、私も何故こんな教義があるのか理解できません。ですが、当時ユニークスキルを持って産まれた私は、村で呪い子として忌み嫌われました。
私は、理不尽だと思いました。
ユニークスキルを持って誕生しただけ。抗いようもない、ただそれだけのことで、周りからも両親からも避けられ、嘲られる。
毎日毎日、罵声と石の雨。地元の子供たちに蹴られ、殴られ、ひどいときには腕を折られた事もありました。
まだ小さかった私には、そんな毎日は耐えきれませんでした。
私は隠れて自身のユニークスキルを練習しました。
私を見下した大人たちに、私を嘲笑った子供たちに、復讐してやろうと。
でも、所詮は子供。
どんなにスキルが強かろうと、村の大人たちには勝てなかった。
忌み子として、私は暗く狭く、カビ臭い地下牢に閉じ込められました。
それでも、スキルの練習だけはやめませんでした。
復讐が無理だろうと、いつかこの村から脱出してやる。そう思っていました。
そして、その願いは叶いました。
ある夜、村で火事が起きたのです。
その混乱に乗じて私は地下牢から脱出し、ちょうど近くにあった草むらに隠れました。
火は家屋にどんどん燃え移り、あっという間に村は大混乱に陥ります。
思わぬ火事で大人の注意が散漫になっているその隙に、私は村を囲む柵を乗り越え、暗い森の中を死にもの狂いで走りました。
途中でざまあみろと思いつつも、走り続け、ついに森の外にたどり着きました。
遠くには大きな建物が見えます。これが、私が勤務しているお屋敷です。
今思えば、夜の森を駆け抜けるなど、命を危険にさらすような行為でした。夜の森にはアンデッドや魔物がうろついてます。幸運にも出くわしませんでしたが、子供でなくともとても危険な行いです。それでも、私は助かるために走りました。
やがて、屋敷が見えてきた頃、屋敷の塀の周りを歩いていた衛兵が私を見つけ、保護してくれました。
その後、ロムバート様が治療を施してくださったのです。
暫く屋敷で安静にしていたのですが、
突然屋敷に魔王軍が攻めてきました。
あっという間に屋敷の中まで攻め入られ、ロムバート様が捕まりました。でも、子供である私はそれを見ているだけ。幸いにも捕まりませんでしたが、村の大人にも勝てなかった私が魔王軍の兵士に勝てるはずもありません。
私は自分の非力さを理解していたので、命の恩人を助けるため、私はそれまで封印していたユニークスキルを使いました。
屋敷に来て色々な武器をみたからか、前よりも様々な武器を創れるようになっていました。
私はこっそりと衛兵に自分の武器を渡し、「魔王軍と戦って。」と言いました。
武器を破壊され奪われた衛兵達は、私のスキルを見て希望を取り戻し、魔王軍を追い払いました。
私は、このスキルで人の命を救ったのです。
それから私は屋敷で使用人として働き、武術を学んで男性の戦士にも負けない強さを手に入れました。
呪いのスキルでしたが、私にとって唯一無二の力。今もこのスキルを役に立てています。
◀ ◇ ▶
という、悲しくも感動するお話だった。
こんな過去があったから、ルミアは人に心を開かなくなったのだと理解できた。
「というのが私の過去です。
ユニークスキルを持つ人は珍しく、今でも魔王討伐軍等に誘われたりします。
でも、私はそれを全て断り、街と人の命を守ることに頑張ってきました。」
「ルミアにそんな過去があったなんて……」
でも何か違和感がある。
「ミカエル戦で武器を変えながら戦ってたけど、あれはどういう原理?」
そう。あの時彼女は、手に持った武器を次々変化させながら戦っていた。
「ああ、見てましたか。
あれは、【武芸百般】の効果です。
武器を仕舞ったり取り出したり出来るので、上手く使えばあんなふうに変えながら戦えるんです。」
なるほど。そうすれば、戦況によって変えられるし、
実物だから確実に攻撃が入る。隙も減らせるという訳だ。
「次はソラさんの番ですよ。
ソラさんのスキルはなんですか?」
そんな事を言われても、俺のスキルのことはどこまで話したらいいのだろう。
転生の事から?それとも効果だけ?
まあとりあえず効果だけ話すか。
「俺のユニークスキルは【諸行無常】。
スキルと魔法を無効化出来るスキルだ。」
「へぇー。」
と、とりあえずは言ったものの、ルミアが期待の瞳をこちらに向けてくる。
「過去も?」
「当たり前ですよ。
私も話したんですから。」
それはそうだけど……
うん、まあルミアになら話してもいいか。
「俺は転生者なんだ。
こことは違う世界で死んで、何者かの思惑でこっちに来たんだ。
その際獲得したのがこのスキル。
正直勝手がわからないから今回練習することにしたんだけど、このスキルは今までとても役に立っているんだ。」
こんな突拍子もない話、信じてくれないだろう。
そう思っていたが、
「そうなんですか。異世界からの転生者とは珍しいですね。
確か、界渡りするときに獲得するスキルは、記憶の中で自分が強く願ったことが反映されると聞きました。
何か心当たりとかは?」
思ったよりあっさりと信じてもらえて、若干びっくり。というか、ルミアの知識が凄すぎる。
心当たり……
【諸行無常】は『学校で習うことなんて殆ど意味ない』と思ったことかな?
【千里眼】はわからん。
「まあ……あるにはある。」
「じゃあ多分それだと思います。」
今更だが、ルミアが饒舌になっている気がする。以前の冷たい雰囲気が消えて、すごく話しやすい。
「ん?どうかしました?」
「いや、なんでもない。ただ、なんか前より話しやすいなと思って。」
「それは……自分の過去を話して、スッキリしたといいますか、なんかソラさんといると安心するんですよね。」
前世ではこんな事を言ってくれる人はいなかった。だからか、余計に嬉しい。
「少し話しすぎましたね。訓練を始めましょうか。」
◀ ◇ ▶
ルミアは素手、俺はスキルと木刀で向き合っている。
「私も使うのは安全な武器でいきます。
ソラさんも、遠慮せずにかかってきていいですよ。」
そう言うと、ルミアが木刀を生成し始める。
俺はすぐさまそれを【諸行無常】で消す。
すると、若干だが視界が暗くなった。
やはりスキル範囲を操作できていない。
その刹那の隙を逃さず、ルミアが俺の脇腹に手刀を叩き込む。
「ぐはっ」
手刀なのに威力が高く、滅茶苦茶痛い。
「まだまだですね。スキルの調節ができてない。
スキルはイメージですよ。自分がスキルを使う範囲を定めるイメージをすれば、上手く使えると思います。」
ルミアが的確な指示をする。
そうだ。洞窟でセトに教えてもらった通り、イメージを構築すれば使える。それをすっかり忘れていた。
「では、もう一度やりますよ。」
そう言って、ルミアはさっきの場所に戻る。
俺も、さっきの場所へ。
再びルミアが木刀を生成し始める。
俺は意識を集中し、木刀だけを消すイメージをする。
だが、気づいたらルミアはそこにいなかった。
その瞬間、俺の首後ろに強烈な痛みが来る。
「イメージが長いですよ。もっと短く、簡潔に、正確に。」
もっともだ。
「さあ、もう一度。」
その後も、俺とルミアの特訓が続いた。
ルミアが強すぎて話にならなかったが、それでもコツは掴めてきた。
「最初に比べれば上出来だと思いますよ。
もう暗くなってきましたし、続きはまた別の機会にしましょう。
さあ、立って。帰りますよ。」
今日一日手合わせを何度もして、俺とルミアの仲も深まってきた。
本当にあの冷たいメイドかと思うまでに。
◀ ◇ ▶
屋敷の自分の部屋に帰ってきて、まず最初に耳に飛び込んできた声があった。
「ソラくーーーん!遅いよー!
待ちくたびれたよー!
どこで誰と何してたんだよー!」
訓練に出かける前と同じく、相変わらずベッドの上でローリングしているリュナの姿。
「待ちくたびれたってなんだよ。お前が勝手にここで待ってただけだろ。
俺は温泉に入ってくるから、いい加減自分の部屋帰れよ。」
「こんな遅くまで何してたの?」
「ルミアと訓練。」
「ルミア……って、あの冷たいメイドさん?訓練って何の?」
「出かける前に言っただろ。スキルの練習だって。」
「あー、そんな事もあったっけ。」
嘘だろ。昼過ぎの話なのに覚えてないのかよ。
というか、リュナはそれまでずっとここにいたのか?暇なの?
流石にセトはいないようだし、本当に暇人なのかも。
「ねぇ、今失礼な事考えてなかった?」
「いいや?気のせいじゃあないかな?」
誤魔化すが、リュナが疑い満点の目で睨みつけてくる。
でも、これ以上居座られても困るので、さっさと追い出したい。
「とりあえず、今日は自分の部屋に帰ってくれ。
また明日話を聞くから。」
「はぁーい。」
といいながら、リュナは自分の部屋に帰っていった。
後は温泉入って寝るだけ。
明日は何しようかな。
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