第三話 ダンジョン制作開始!
なんかオーガたちはいなくなっていたので、特に気にすることもなくダンジョン制作に取り掛かることにする。
まずは住居の階層を下げ、五階層ほどのスペースを作る。
と考えていたのだが、人型になってからまたスキルに戻ったガイアから提案があった。
何だっけ?
《一階から先は異空間に繋げてしまえばいいんじゃない?って言ったんだけど。》
ああそうそう。で、すっかり忘れていたけど異空間の権能があったことを思い出したのだ。
《まああのときは一気に説明したからね、また今度にでもゆっくり説明してあげようか。》
ぜひお願いするよ。
で、異空間ってどうやって作るんだい?
《異空間はこっちで作れるからトモキ君はいつもどおりイメージを固めてくれればいいよ。》
了解。
どんなのにしようかな〜。
最初は一〜五階層。一階層は地上らしいので、当初ガイアが提案してきた五百×五百を存分に使える階層にしたい。
そうだな……普通の階層作ってもいいけど、どうせなら最初からインパクトのある仕組みにしたい。
攻略する時に嫌になるような。
…………迷路だ!
迷路にしよう!それも飛び切り難しくて性格の悪い迷路!
隠し扉、動く壁、実は最初にショートカットありました的な隠し通路、落とし穴、ミミック等など。
俺の性格が悪いのかなんだか分からないが、どんどんアイデアが湧いてくる。
と言っても迷路なんてイメージするものじゃないから、ここはガイアに任せよう。他力本願。面倒くさいことは人に押し付けるのが俺流さ。
なんてクズ発言は置いといて、迷路作りはガイアの手が空いてからとなる。
それまで少し待つか―――
《僕がどうかしたの?》
うわっ―――
いきなり来るのやめてくれないか?心臓に悪いから。
《そんなこと言われてもね……
それより、異空間出来たけどその迷路作り始める?》
もうできたのか?てっきり作るの複雑でめちゃくちゃ難しいと思っていたんだけど。
《僕にとってはそんなに負担でもないよ?
で、迷路作る?》
お願い。イメージは難しいからいい感じに作ってくれ。
《おっけー!多分三十分も経たずに終わるから、少し待っていてくれるかな》
わかった。
後の作業は全部ガイアに任せるという仕事の放棄ぶりを存分に発揮し、俺は部屋に行ってベッドに入り、仮眠をとることにした。
―――多分三十分後……
《おーい、トモキくーん?起きてー》
……ん?あ、ああ、朝か
《昼前だけどね。》
え、昼前!?そんなに寝てた!?
《覚えてないの!?さっきまで一緒にダンジョン作ってたじゃん!》
…………そんなこともあったような……
《あった!》
ああ、そうだそうだ。迷路だっけ?
《そう。もう迷路作り終わったから、後は存分にトラップを設置するだけだよ?》
相変わらずガイアは仕事が早いな。
とりあえずベッドから起き上がり、その迷路の方―――つまり玄関へと向かう。
玄関のドアを開けると、そこに広がっていたのは迷路だった。
いや、迷路であって迷路でない。どこか恐怖すら感じられる作り。
―――壁の色をカスタムできたりする?
《一応できるよ?》
床も天井も壁も黄色にしてみて。
《?わかった。》
そうしてガイアの権能によって一面が黄色に塗り替えられていく。
うわ、これキツイやつだ。わかる人はわかると思う。
某海外の空想の都市伝説。黄色の壁が乱雑に置かれた空間が永遠に続く、リミナルスペースと呼ばれている恐怖空間。
ちょ、ちょっとさっきの土壁に戻してみて。
《うん。》
そして土のレンガの壁に戻る。
これでひとまず安心だろう。
いやでも、玄関から出る時にこの光景を見る―――
ん?これ外に出る時どうするんだ?まさか迷路クリアしないと出れないのか!?
《家の中にワープポータル設置しといたから、トモキ君と僕だけ外と家の中を行き来できるよ?》
なんだ。それは良かった。流石ガイアだ。
《へへん。》
そして俺たちはトラップの設置に着手した。
ガイアに脳内マップを出してもらい、場所を指定しながらガイアにトラップを設置してもらう。
あちこちに落とし穴を設置。落とし穴の底に溜まっているのは、ガイアの特製調合の超強酸性の液体。触れたらそこから肉が溶け始めるという胃酸にも似た酸だ。
そして出現モンスターは異世界と言ったら定番のスライムたち。俺がこの世界に来て第一に出会った魔物だが、召喚して手懐けたら意外と可愛かった。
プニプニしてて、抱きしめたらクッションよりも心地よい。
なんて素晴らしいのだろう、スライム。
まあでもガイアによればスライムって結構厄介らしいけどな。
トラップは他に天井落下や矢の発射、部屋に閉じ込めたり床からトゲが出てきたり、大岩が転がってきたりとわりかし定番なものばかり。
だがしかし定番だからといって侮ってはいけない。
天井落下は広い部屋でやればほぼ回避不可能の確殺トラップ。矢を発射するのは死角が多いダンジョン内でとても効果的。
床からのトゲは侵入者の足を怪我させ、移動を強制的に遅くさせるという利点が。部屋に閉じ込めるなら毒ガスや窒素ガス、火を燃やして酸素枯渇などいろいろな使い道があるので、トラップとしての危険性も汎用性も高い。
大岩なんて転がってくる速度を上回る速さで走らないとお陀仏。何が性格が悪いかって、それを脇道のない一本道に設置したことだよね。しかもわずかに傾斜もついているので、転がっていくうちに速度を増していく。
定番でもこんなに恐ろしいのだ。ゲームだからと油断することなかれ。
俺が今いるのは現実なのだから、これくらいのやり過ぎはやりすぎじゃないのだ。
《一階層からこれはやりすぎだよね。》
まあ確かに。ガイアの意見にも一理あるけど、これは防犯対策。セキュリティのために作っているダンジョンなので、そもそも攻略させる気なんて毛頭ない。
まあ攻略できたら面白いけどな。
そんなことはありえないと思いながらも、トラップたちを次々と仕掛けていく。
やがてだいたいトラップを仕掛け終え、いつの間にか命がけの鬼畜巨大恐怖迷路が完成した。
ガイアは呆れてた。曰くガイアの権能をこんなことに使ったのは初めてなんだそう。
《ホントだよ。今までいろんな人のところにいたけど、ダンジョンを作ったのはトモキ君が初めて。
それまでは強力な軍を創ったり、金を造ったり、豪邸を造ったり、基本的には人間の欲と見栄に関わるものばっかり作ってきたからね、まあトモキ君のが一番危険だけど今までで一番安心できる主様だよ。》
え、あ、ありがとう。
それは褒めてるということでいいのか?
《それはもう!ほんとに安心したからね、主様がトモキ君で。
こんなに僕が協力的になってるのも、トモキ君を信じてるからなんだよ?》
嬉しい―――ということにしておこう。“一番危険”が気になるけど聞かなかったことにしておこう。
まあこんな物作ってたら国の軍隊よりも危険だわな。下手したらこの仕掛けで軍隊滅ぼせそうだもん。
《まだ一階層だからね、まだまだ作るよ!》
こうして、俺とガイアのダンジョン制作物語が始まったのだった。