第二話 ダンジョン制作開始!の前に
《おーい!トモキくーん!寝坊だよー!起きろー?》
―――ん、あと五分……
《そんなお決まりの寝坊の仕方しなくていいから、早く起きてー。》
…………
《おーい》
………………
《おーい?》
……………………
《聞こえてるかーい?》
…………………………
《じゃあ今のうちにトモキ君の顔に絶対落ちないインクで落書きしちゃおうかな》
おいちょっと待て。
《あ、起きた。おはよ。》
おはようの前に聞き捨てならない企みが聞こえたんだが。
《―――気の所為じゃあないかな?》
ちょっと棒読みなのやめろ。というか、今思ったけどお前俺の顔に落書きできないだろ。所詮はスキルなんだから。
《いや、スキルと言っても僕は実体化出来るよ?》
え!?
実体化ということは……
《うんそう。人型になってトモキ君と楽しくイチャイチャしてもいいし、犬とか猫になってトモキ君のペットになってもいいよ?》
なんでイチャイチャしたりペットになることが前提なんだ。
それにガイアは一体何歳だ?
《おっと、レディーに年齢を聞くなんて失礼な坊やだね、天罰でも下そうか?》
そんなに気軽に天罰を下そうとするなよ。
……確か創世の時にいたんだっけ?
《そうそう。》
じゃあこの世界が作られたのはいつだ?
《えーと……二万と三千七百と九十五年と八カ月と十三日かな?》
つまりお前は二万三千七百九十五歳って言うわけだ。
桁違いのババ―――
《いまなんて言ったの?ねえ、いまなんて言おうとしたの?》
―――すみません。
《質問に答えようよ。いまなんて言おうとしたの?
正直に言おうよ。》
―――ババアって言おうとしました。
《いくら主様でもそれを言われると傷ついちゃうんだよ。僕も心を持ってるんだからさ、楽しく会話しようね?》
―――はい、すいませんでした。
《わかればよろしい。》
―――というように迎えた二日目の朝。
本当に調子が狂う。あの一分ほどの間に色々わかったけど、毎朝あれをやられると思うとキツイ。
絶対落ちないインクとか、実際に作ってしまいそうで怖いのだ。
まあ、そんな朝に起こった茶番についての話はさておき、俺は引き続き家の制作に取り掛かるのだった。
我が家。かなり広めの平屋だが、家具がほとんどないので殺伐とした風景となっている。
これからダンジョンを作っていくにあたって、拠点は大事だ。
ということで、まずはこの家の内装を作っていくことにする。
どんな感じがいいかな………モダン?和風?高級ホテル?ブルックリンスタイル?
《ミッドセンチュリーとかヴィンテージ、北欧、西海岸風、インダストリアル、フレンチカントリー、アジアンとかもあるよ?》
何一つ分からないのだが。何インダストリアルって。ミッドセンチュリー……?北欧とアジアンはなんとなく想像つくけど。
《まあ説明するのも面倒くさいからここに合いそうなの見繕ってあげるよ。》
え、あ、まあありがとう。
何もわからないままガイアに仕事を任せる。
スキルってそんなものか。
とりあえずガイアが内装を作っている様子をただただ眺めているだけだった。
土壁は白く塗り上げられていき、床はフローリングに張り替えられる。
ドアがなかったドア枠にも木でできたオシャレなドアが付き、若草色のカーペットが敷かれていく。
照明はボール型のライト。
白い壁に木が映えて、めちゃくちゃオシャレ。カーペットと照明も上手く溶け込んで、色が混ざったことによる違和感が全くない。
リビングらしきところに置かれたのは、こたつと座椅子。その正面には大型テレビ。
キッチンは温かみのある木にセラミックの天板。
寝室は大きな本棚とベッド、ゲーミングチェアと壁についた机。
風呂は完全に地球の風呂。トイレの水洗設備もバッチリ。
って、なんで異世界に来て二日目でこんな地球よりもいい暮らしが出来るんだよ!
《あれ、不満だった?一応ここに合いそうな和モダンで仕上げたんだけど。》
いや、文句がなさすぎて逆に悲しくなってくるよ。
地球での生活よりも優雅な暮らしができそうだし、こんな家に暮らしてたら異世界転移系のお約束が全部吹き飛ぶだろうが。
《なんか怒ってるみたいだけど内装に問題はないんだよね?》
無いよ!逆にこれである方がおかしいよ。
《なら良かった。あ、ちなみに照明は外の大気中の魔力を吸収して点灯する仕組みで、そこのテレビは後々つけるカメラの映像を映し出すことが出来るよ。
どれもこれも全部トモキ君の知識から拾ってきたんだ。》
俺の知識からって……全然テレビとかカメラの仕組みってわからないんだけど……
《仕組みがわからなくても、その見た目から大体のことは割り出せるよ?電子回路とかはよくわからなかったから再現できなかったけど、魔力回路を組み込んだから大丈夫。》
つまりなんだ、監視カメラみたいなことができるってことか?
というか、見た目でだいたい構造がわかるってめちゃくちゃすごいことじゃねえのか。もしかしてガイアって頭良かったりする?
《神の力だから、人智を超えてるのさ。人の頭脳と比べちゃ駄目だよ?
―――まあ、解析能力だけだけど……》
解析だけかよ。
《ま、まあそれは置いといてだよトモキ君。
これでトモキ君の知識の監視カメラが再現できたって寸法さ。
後はダンジョンを作っていくのみ!
―――と言いたいところなんだけど……》
ん?何か問題でもあるのか?
《い、いやそれがね、大した問題って言うわけでもないんだけど……いや大したことなんだけど大したことじゃないっていうか、ダンジョンを作り始めるトモキ君には関係ないことかなーなんて思ってたりもしなかったり……》
もったいぶらずにさっさと教えろよ。誤魔化しが過ぎるぞ。
《え、ええとね……
ちょっとそのテレビつけてみて……》
俺はこたつに置いてあったテレビのリモコンを手に取り、電源ボタンを押してテレビの電源を入れる。
するとテレビには六つの枠が表示され、“第一カメラ”と他の五つは“接続がありません”となっていた。
これどうしたらいいんだ?ガイア。
《十字ボタンでカメラを移動して、第一カメラのところを押してみて。》
ガイアの説明通りにカーソルを移動させ、第一カメラを決定して表示させる。
数秒のローディングの後、画面に少々荒い映像が映し出された。
そこにいたのは、数匹の武器を持ったオーガらしきモンスター。
三人は棍棒、三人は肉切り包丁、二人は鉄球付きの金棒、一人は大剣、その他は素手。
何やらカメラが置いてある方角を見ている。
カメラはこいつらの頭上からのアングルなのでバレることはないが、このカメラが写している場所、見たことがある気がする。
《それがね……そこ家の出入り口なんだ……》
はあ!?
じゃあこの家の唯一の出入り口の前にこいつらが出待ちしてるってこと!?
《いや、怪しんでるだけみたいなんだけど、どうにも動いてくれなくてね……》
じゃあ倒さないといけないのか?
《まあそうなるよね。武器は作ってあげるから、ささっと倒しに行こう。》
そんな軽く言われても……
この世界に来て初めての戦闘が、まさかこんな形になってしまうとは思わなかった。もう少しかっこいい形でやりたかったな。
《そんなわがまま言わないの!
はい、この剣使って。軽量化してあるからトモキ君でも使いやすいよ。
あと僕も実体化して戦うから、うまく協力してね。》
実体化して?まあ一人で戦うより安心だけど……
《何、なんか問題でもあるの?》
―――いや、ない。ないよ?
《怪しい。》
ガイアに怪しまれつつも、俺の目の前に美少女が現れた。
純白のローブを羽織った、綺麗な金髪と透き通るような水色の華奢な少女。
手には魔法の杖を持っている。よくあるやつ。
そして―――
「胸ばっか見るのやめてもらえないかな。調整忘れちゃったの!」
―――そして二人で玄関のところまで行って、ドアノブに手をかける。
ガイアの方を見て合図を出し、警戒しながら扉を開ける。
すると―――玄関の前には誰もいなかった。
何故?映像がおかしいのか?とも思ったけど、多分俺たちの茶番が長すぎて帰ってしまったのだろう。
まあ戦わないに越したことはない。
ただ警戒しただけで終わってしまったのだ。