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第二十四話 この世の頂点の一角

〜前回のあらすじ〜


ウリエルを倒しました。


◀ ◇ ▶


 今俺たちの目の前にいるのは、魔王ラファエル。

 元最強の勇者。“紅蓮の勇者”。

 情報はほとんどない。炎の攻撃を使うということのみ。


「カイル・ドラコニス。リオン・ウィルト。お前たちのことは知っている。

私を倒したいのなら、こちらも容赦はしない。」


 一言一言が重い。重圧。重く、苦しい。

 これが魔王。圧倒的な強さと存在感の、俺たちとは隔絶された存在。

 現に今まで存在を認知できていなかったのがその証拠だ。

 魔力感知のプロである魔法使い、カイルでさえ、魔王の存在を感知できなかった。


「一戦交えたいところだが、どうやらお前たち二人は休息中のようだな。

どうだ、そこの子供よ。私と戦ってみるか?」

「遠慮しておきます。」


 即答。迷う時間なんてなかった。迷う必要もなかった。

こいつと戦ったら死ぬ。一瞬で捻り潰される。

そんな予感を、全身の毛穴から感じていたのだ。


「断るか。私の誘い出を断るか。

まあ答えがどうであろうと結末は変わらんがな。」


 ラファエルは手のひらの上に明らかにヤバそうな赤紫色の火の玉を生成し、俺の方に発射してきた。

 隣にいたセトが結界を張ったため俺は助かったが、セトの結界とその周りの地面は溶解していく。


「ソラ、大丈夫か」

「ありがとうセト。」

「にしてもこの炎、危険だぞ。我でも一瞬で灰になりそうだ。」


 そうだ。だいたい赤紫なんて存在しちゃいけない色の炎なんだよ。一瞬でヤバい攻撃だってわかる。


「私の炎を防ぐ―――そこの男、神之権能(ゴッドスキル)持ちか。」


 ラファエルから放たれる強い殺気に、セトも身構える。

 重厚で、心が折れてしまいそうな殺気。

 そんなのにあてられて、神であるセトも警戒レベルをマックスに。


「―――ああ、そうだが。」

「そうか。見たところ闇系統のスキルだな。

お前の持つスキルはなんだ。」

「それを教えて何かいいことでもあるのか?

我はコイツラの味方だ。手の内は明かさん。」

「ならば私が教えればそちらも言うか?」

「それならば約束しよう。」


 セトとラファエルの駆け引き。お互いの神之権能(ゴッドスキル)を明かすことで合意した。

 これでラファエルのスキルがわかる。

 どんな手段を取ればいいかわかる。


「私の神之権能(ゴッドスキル)は、【業火之神(カグツチ)】。」

「カグツチ―――」

「して、そちらは?」

「我のスキルは【混沌之神(カオス)】だ。」

「カオス―――原初之権能(プリミティブスキル)か。」

「よく知ってるな。流石魔王だ。」


 【業火之神(カグツチ)】。名前は、日本神話の神。

 火に特化した神之権能(ゴッドスキル)

 ウリエルの火の玉―――火の玉から現れたラファエル―――

 ウリエル=ラファエル?

 いや違う。恐らくウリエルが【業火之神(カグツチ)】だったんだろう。

 【業火之神(カグツチ)】が実体化してウリエルとなり、ウリエルが死んだら【業火之神(カグツチ)】となってラファエルの元に戻って来る。

 そう考えると二人ともが炎系統の技を使い、ラファエルの方が威力が高いことも頷ける。

 要するに、今ラファエルが使っているのはさっきまでウリエルだったものだ。

 ただでさえウリエルは強かったのに、その力を魔王が使ったらどうなると思う?

 結論。皆殺し。

 この中で倒すことができるのはセトくらいだろう。


「男よ、そこの子供を戦わせるのだ。ウリエルの攻撃を弾いた子供の力、見てみたい。」

「ソラ、いけるか?」


 行けるわけがないだろ!行けるとでも?

 でも、そんなこと言ってたら何も始まらないので、相手の攻撃を見定めるため、俺は覚悟を決める。

 もうこうなったら暴れてやるよ。当たって砕けろの精神で。


「子供よ、名前はなんだ」

「ソラ。」

「ソラ……ふん。

―――良い名だな。

安心しろ。手加減はしてやろう。」


 ラファエルは前に出て、自らが持っていた鞘から剣を抜く。

 レイピア。細長い、刺突などに使われる剣。

 対して俺はシエラから日本刀を返してもらって、それを構える。

 ラファエルから放たれていた殺気は消えた。だが、その代わりに闘気が漏れ出してくる。

 怖い。緊張と恐怖が心を支配しようとする。

目の前にいるのは―――この世の頂点の一角だ。

これで怯まないほうがおかしい。


「恐怖を捨てろ。緊張する必要はない。

私に人を痛めつける趣味はないのでな。」


 信じられない。信用できない。イヴァナを捕らえていたのは何だったんだ。

幹部たちに街を襲わせていたのは何だったんだ。

 痛めつけない。それはすなわち、一撃。即死。瞬殺。


 「肩の力を抜け。」


 そんなこと言われても無理だろ!その闘気をなんとかしてからだよ!


「無理。」

「まあそうだろうな。それでも、これは命を懸けた戦いだ。

一瞬の油断が命取りになると思え。」


 その瞬間だった。ラファエルが持っていたレイピアの刀身が赤紫色の火に包まれる。

 あ、もうだめだ、死ぬわこれ。

手加減どこいったんだよ。

 あんなのかすっただけでも即お陀仏。

 俺とて死にたくはないので、精神を統一し、極限状態まで集中する。

 【千里眼】と【諸行無常】をフル稼働。だがしかし【諸行無常】は一切効果はない。

 【千里眼】によって見える、ラファエルの一挙手一投足。

 ところどころ隙はある。が、レイピアが怖すぎて踏み出す勇気が持てない。

 もういいや!その気持ちで斬りかかる。

 ラファエルの隙を突くように小柄な体を活かしてもぐり込み、脇腹への攻撃を試みる。

 でも俺の想像通り、その攻撃は大してダメージは入らなかった。

 当たったけど、服と皮膚を斬り裂いただけ。血が滲んだ程度。

 その時点で俺はラファエルのレイピアから逃げるように去り、戦線離脱。

 ラファエルは傷口の血を指につけて見て、鼻で笑う。


「一撃入ったか。いや、もう力は分かった。深追いはしない。

次は……そこの桃髪の女だ。前に出てこい。」

「わ、私ですか!?」


 指名されたのはシエラ。理由は言われなくともわかる。ウリエルを倒したからだろう。

 俺はシエラに日本刀を投げ渡す。

 シエラは戸惑いながらもアスカロンと日本刀を握りしめ、ラファエルと対峙する。

 シエラもどうやらラファエルの闘気にやられているようで、怯えた表情。

 だが、覚悟を決めた。

 【百花繚乱】で身体能力を引き上げ、周りを走ってラファエルを翻弄する。

 そしてラファエルの隙を突くように回りながら攻撃。

 そしてそれを楽々と躱すラファエル。

 シエラが何度攻撃しても、ラファエルに躱される。

それどころか手を叩かれて武器を落とされる始末。

 やっぱり俺が一撃入れられたのは偶然なんだな。

シエラの戦いぶりを見て、そうしみじみ思うのだった。

 日本刀の斬れ味も、アスカロンの硬さも、意味をなしていない。

どんなに強くて凄い攻撃でも当たらなければ大丈夫理論を使われてる。

 日本刀による刺突も試してみるが、それも軽々と避けられてレイピアで髪の先を焼き切られている。

 服はところどころ焼け焦げたり破れたりしていて、そこから覗く肌は普段の綺麗な肌ではなく、熱に当てられたせいか赤くなっていた。

 徐々にシエラの体力も限界を迎えてくる。

 速度は落ち、攻撃の精度も落ち始めた。


「はぁ、はぁ、」

「よくあれだけ攻撃を続けられたな。素直に敬意を評したいレベルの身体強化だ。」

「あなたに褒められても嬉しくないですよ……」

「じゃあソラに褒めてもらうといい。お前の妻なんだろう?」


 ラファエルはシエラを帰らせる。

 シエラは息切れしながらも俺の方に歩いてきて、俺の肩を掴んで膝を地面につき、寄りかかってくる。


「ソラさん……私頑張りましたよ」

「すごかったな。あれだけ諦めずに攻撃できるなんて。」

「頭撫でてください……」


 今俺の目の前にシエラの頭がある。シエラが膝をついているので、俺の身長よりシエラの高さが低いのだ。

 俺はシエラの桃髪の頭頂部に手を乗せ、優しく撫でる。

 シエラは至福そうにため息を吐き、その後満足したのか俺の隣に座り込んで休憩し始めた。


「さあ、次は誰だ」


 ラファエルがそういう。

 だが、誰も名乗り出ない。


「仕方ないな、じゃあ―――」


 とその時だった。


「ソラさん!大丈夫ですか!?」

「カズト君!助けに来たよ!」

「戦いはまだ終わってないのか!」


 部屋のドアが大きな音を立てて開き、そこから三人登場。

 ノアと、ミホと、マーク。

 おっと後ろにもう一人。カイルのローブを羽織って、身体を覆い隠しているイヴァナの姿が。

 流石にあんなボロキレみたいな服を着ているのは恥ずかしかったからだろう。

 それでも、こうして戦力は増えた。


「あれは――」

「あれが、東の魔王……?」

「体格はカズトと似てるな」

「あ、ソラさん!大丈夫ですか!?

それにシエラちゃんも!」

「カズト君!大丈夫だった?」

「あいつを倒せば良いんだな!よし!俺たちに任せてくれ!」


 ノアとミホ、マークの連合軍が結成。イヴァナの様子を見ている間に仲良くなったのだろうか。息ぴったりだ。


「三人一度にか。いいぞ。相手してやる。」


 ラファエルも乗り気。


 先手を打ったのはマーク。自らの大きな斧を振り上げ、ラファエルの頭上からの攻撃。

 一見無謀な攻撃だろう。しかしこれは随分と賢い立ち回りだった。

 大振りなので脇腹などに隙ができる。でもそこに攻撃を叩き込むと、斧を防げない。

 例えばレイピアで斧を受け止めようとしても、その炎で斧が溶ける前にレイピアが叩き折られるため、無意味。

 さっきからの戦いを見ていたのかは分からないが、対処としては正しい戦い方だった。

 ラファエルとしては、受け止めるか脇腹を攻撃か。

 だが、ラファエルは第三の手を使う。

 避けた。何もせず、横に避けた。

 標的を失ったマークの斧は勢いと重力のままに墜落し、轟音を立てて床にめり込む。

 マークの斧は抜けなくなった。マークは急いで引き抜こうとするが、それには時間がかかりそうだ。

 マークが動けなくなり、ラファエルはそこを攻撃しようとする。

 だが、そこを阻止したのがミホだ。

一般攻撃魔法を放ってラファエルに直撃させる。

 当たっても大したダメージはなさそうだっただが、ラファエルは直撃を食らって攻撃の手を止める。

 そこをノアの魔法が襲いかかる。

 いや、よく見ると隣にカイルがいた。カイルとノアの協力魔法で、大量の水を生成。その大量の水をラファエルに向かって発射する。

 ラファエルはその広範囲攻撃を避けきれずにもろに食らい、地面に投げ出される。

 その手のレイピアに纏っていた炎は、消えていた。


「ぐっ……【焔之隔壁(ファイアーウォール)】!」


 ラファエルの【業火之神(カグツチ)】の効果により、俺たちのいる方とラファエルの間に炎の壁が発生。

 ラファエルの姿は完全に見えなくなった。

 全員が不意打ちを警戒する中、炎の中から現れたのは―――黒色の炎を纏ったレイピアだった。

 まるで矢のようにマークに向かって飛んでいく。

 もう目の前。誰も間に合わない。

―――だが、そこをセトが救う。結界で時間を稼ぎ、結界が溶け切るまでの間にマークを避難させる。

 だが、依然としてラファエルの姿は見えない。

 そんな膠着状態に陥ると、ある人物が本気を出した。


「魔王……よくもやってくれたわね!」


 イヴァナだ。一本の矢を弓につがえ、炎の壁に向かって放つ。

 すると、その一本の矢は一瞬にして無数の矢に増殖。

隙間なき矢の雨となり、炎の壁を突き抜けていく。


「ぐっ」


 そんな小さなうめき声が聞こえた後、炎の壁が上から消失していく。

 向こう側には、肩口から血を流したラファエルが。

 だがラファエルはすぐにその傷を回復魔法で治療。

目にも止まらぬ速さで走り、壁に突き刺さったレイピアを回収して俺たちと距離を取る。


「なかなかやるな。

それでは、こちらも本気を出すとしようか。」


 ラファエルは両手を掲げる。

 ラファエルの周囲に現れたのは、数え切れないほどの黒い火の玉。

 赤、青、赤紫と来て黒。多分一番やばい火の色。


「【天災之暗黒業火アビス・ファイアー・ディザスター】っ!!!」


 無数の黒い火の玉は、俺たちに向かって発射される。

 セトやカイルがそれを防ごうとするが、何重に結界を張っても防ぎきれない。

 このままでは炎に蹂躙(じゅうりん)されて皆殺し。防ぐ以外に打つ手なし。

 ―――だが、そんな絶望的なこの攻撃の中、動いた者がいた。


 黒い火の玉の間をくぐり抜け、剣を握りながらラファエルの元へと走っていく一人の男。

 カズトだ。

 カズトはラファエルの前まで辿り着くと、叫んだ。


「頼む!【空々漠々】!!」


 すると、カズトとラファエルの姿が、その場から消え失せた。

 ラファエルが消えたことにより、俺たちを襲っていた黒い火の玉も全てが魔力の塵となり霧散。

 ―――カズトが、俺たちを救った。勇気を出して、危機から救った。

 後は、カズトがトドメを刺してくれ。

 俺は安堵しつつも、心の中でカズトの無事と勝利を祈るばかりだった。

ついに!ついにエピソード百到達しました!

ここまで続けられたのも皆さんのおかげです!ありがとうございます!

そして同時でなんですが、ついに四章も最終局に差し掛かってきました!

ですので、四話連続投稿にします!

次回第二十五話は、十一時です!

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