9話 幻聴
斥候を先に行かせ、その背後に続く。内部には地下があり、意外に広い。
『……た…………っ……き……』
「ん? モニカ。なにか言ったか?」
「ううん。なにも言ってないけど」
「そ、そうかそれならいいんだ」
狼や猪に似た魔物、フォレスガルムやスレイボアが現れる。ガルムは狼よりも一回り大きく、スレイボアは足が六本ある。真ん中の二本は移動にあまり使われてない。冒険者は違和感を覚えた。
「なんだとっ。入口から!!」
「数が多いな……」
(危ないっ)
その時、魔導師に襲いかかる魔物を撃破する。
「あ、ありがとっ」
「ひゅぅ、やるぅー。これで文句ないよな?」
「ああ。問題ない」
「お前等、この奥の方が戦いやすい」
「分かった」
少し細めの通路を通る。矢や魔法を放ちながら奥へ進む。
しばらくすると広間に出た。祭壇のような場所だった。建物の壁が崩れている。そこで通路を走る魔物を待ち構える。
「後ろだ!!」
広間には魔人族がいた。狼と猪に似ている。しかし、二足歩行をしており、その立ち振る舞いから知性を感じられる。
数人が追ってくる魔物を、残りが魔人族を見る。
「ようこそ、愚かな人族諸君!!」
「探し物はこれかな?」
遭難した冒険者が縛られて倒れていた。
「なにをした!!」
「安心しろ。まだ生かしてある」
「死んだら臭くてかなわねぇからなァ!!」
倒れている者たちから僅かに声がもれる。明らかに弱っている。
「ッ……その人たちを解放してすぐに離れろ!!」
「いいぜ……俺たちを倒せればな!!」
猪の魔人は武具を身に着けている。狼の方は動きやすそうな布装備。
その時、狼の魔人は女性の背中を素手で貫いた。
「貴様!!」
「何人か回復を使えるみたいだしな。
ゴミが増えると面倒だからな。ククク」
俺ともう一人の剣を持った男が魔人に突撃する。モニカが身体強化の魔法を使用した。その他も遠距離攻撃で援護する。
猪の魔人は盾を使い、剣を止めた。
(なんてパワーだ……)
盾に力を込めてこちらを崩そうとしてきたので、一旦離れた。
もう一人は攻撃と回避を繰り返していた。お互いに一発も当たってない。とはいえ、こちらは援護をしてもらっている。互角ではない。
猪の魔人が接近する。俺はそれを回避する。その時、また声が聞こえた。
『て……き…………こっ……に』
「だ、誰だ!!」
敵はその言葉を疑問に思いながら剣を振り上げる。
「バカめ」
「くっ……しまった!!」
時間を止める。腹部に一撃を入れた。
「硬い!!」
停止の残りがないので、一旦後ろに下がる。俺は負荷により膝をついた。敵は驚く。避けられたばかりか、腹部に激痛が走ったからだ。
「ぐっ……なにが……」
後衛が矢を放つ。それを盾で見事に防いだ。そこで敵はニヤリとした。
周囲に水の槍が現れた。
「魔法!!」
「アルベール!!」
避けきれず、左腕にそれが刺さる。敵は不機嫌になった。
「ちっ。思ったより硬いな……もう少し強い魔法にすれば良かったな」
ヒールが短い間かけられた。それにより多少左腕が楽になった。通路の魔物を抑える者、狼の魔人と戦う男。忙しく、回復が間に合わない。息を整えていると、敵は言う。
「へへへ。だが、片手じゃもう俺は倒せないぜ?」
「ッ……」
また声が頭に響いた。
『を……追って……』
「!?」
周辺を見ると、壊れた祭壇奥に、輝いているものが見えた。背後にいた男に言う。
「皆……少し離れても……」
「なにか策があるのか?」
「分からない……」
「行け……俺は鉄等級だぜ。石に助けてもらってばっかりじゃ恰好がつかねネェ」
その言葉を受け、俺は走った。
「ん~。そっちに出口はないぜ。人族は知能が低すぎる。奴は後回しでいいか……」
彼は矢を放ち、魔人をけん制する。盾で全て受け止め、歩いて近寄る。
水の槍が弓の男を襲う。彼は避けたが、接近を許してしまう。次の瞬間、太腿を刺される。
「くっ……」
壊れかけの壁に衝撃を与える。老朽化していた壁が壊れた。冒険者が言った。
「あの壁……あんなに脆いはずは……」
中には黒ずんだ剣があった。それを手に取る。
「……なんだそれは?」
「さぁな……」
「何故それに気が付いた?」
「……光が見えたからだ」
猪の魔人は訝しげに見る。その剣は黒ずんでいて光を放っていなかった。敵は警戒態勢に入った。
「お前は、早く殺した方が良い……そんな予感がする……」
片手で力が出せない。覚悟を決め、加速する。魔人に飛びかかる。敵は盾を前に出した。同時に体を捻り、剣に力を込めた。
「馬鹿が!! くし刺しにしてやる!!」
渾身の一撃を放つ。それは盾ごと魔人を切り裂いた。
(なんて切れ味だっ)
「なっ……に……ぃ」
血が噴きでて魔物は膝から崩れ落ち、片腕になった地面に倒れた。念のため心臓を突き刺す。
そこで終わらずに走る。時間を止め、狼の魔人の腹部を繰り裂いた。同時に俺は吐血する。頭がクラクラするが、それに堪える。魔人を倒した事を確認すると魔物を掃討する。
モニカが走って来た。
「アルベール!!」
戦闘中だったので流していた事を誰かが言った。
「……あいつ。急に加速したよな……」
「ああ……何したのかまるで見えなかった……」
「おいぼさっとするな!! 負傷している者たちの治療を!!」
「悪い!!」
一人は助けられなかったが、残りの者たちは生還する事ができた。